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ついに中国人の「共産党離れ」が始まった…「コロナ以上の死者を出した」と報じられる習近平の大失策

プレジデントオンライン / 2022年12月6日 15時15分

中国の習近平国家主席(=2022年11月19日、タイ・バンコク) - 写真=EPA/時事通信フォト

■中国の副首相が「ゼロコロナ政策の緩和」を示唆

ついに民衆の怒りが、悪名高い中国のゼロコロナ政策に変革をもたらすことになりそうだ。

中国でコロナ対策の指揮を執る孫春蘭副首相は11月30日、北京で開かれた国家衛生健康委員会で、中国のパンデミック対策が「新たな段階と使命」を迎えたとの認識を示した。

孫氏はオミクロン株の弱毒性を認める一方、従来繰り返してきたゼロコロナ政策に関しては一切言及しなかった。この前日には保健当局トップが、コロナ規制の部分的な軌道修正を約束している。

これを受けて主要海外メディアは、中国のゼロコロナ政策が今後大きな転換点を迎えるとの観測を示している。米CNNは12月2日、副首相の発言を「これまでで最も重要なシグナル」だとして報じた。

市民には吉報となりそうだ。中国の徹底的なゼロコロナ政策は、これまでロックダウン(都市封鎖)などで人々の暮らしや経済に多大な負担を強いてきた。英BBCは、中国国営紙『環球時報』の元編集長である胡錫進(こ・しゃくしん)氏の発言を引き、副首相の姿勢は「大規模なロックダウン(都市封鎖)の撤廃を急いでいる」兆候だと伝えている。

パンデミック以来、民衆は中国政府とのあいだで長い戦いを繰り広げてきた。無理なゼロコロナ政策で人命が奪われるたびに、市民はデモで蜂起している。対する政権は厳しい検閲を導入し、情報の隠蔽(いんぺい)によって反政府のうねりを抑え込もうと躍起になってきた。

デモに気圧されるかのように緩和をほのめかした中国政府だが、中国産ワクチンの有効率を鑑みれば、規制解除は非現実的だとの指摘も出ている。ここまで長期化したゼロコロナ政策は、堅持にせよ緩和にせよ厳しい局面に立たされそうだ。

■封鎖された高層マンション火災で少なくとも10人死亡

きっかけは1件の火災だった。

新疆ウイグル自治区・ウルムチ市で11月24日、高層住宅の15階から出火。瞬く間に延焼し、当局の公式発表によると少なくとも10人が死亡した。

この悲惨な火災に関し、ゼロコロナ政策による厳重な建物封鎖が消火活動を妨げ、犠牲者を増やしたのではないかとして問題になっている。

ドイツ国営放送のドイチェ・ヴェレは、複数の映像や専門家の見解を基に、事件を独自に分析している。それによると、建物封鎖のバリケードが障害となり、消防車が現場に近づくことは困難であったという。消防士らは遠方から放水を試みたものの、高層マンションの15階以上という火災現場に水は届かなかった。

また、非常階段は南京錠で施錠されており、住民の避難を妨げたおそれがあると指摘されている。残された避難手段は、火災時には使用すべきでないとされるエレベーター2基のみだ。

ところが電気火災を恐れたためか、駆けつけた当局職員は建物への電力供給を遮断した。こうして最後の望みであったエレベーターも停止し、住民たちは燃えさかる建物内に閉じ込められることとなった。

■通院できず流産、リストラ、飛び降り…

中国政府は、ゼロコロナが犠牲者を増加させたとの見方を否定している。また、あろうことか消防当局は、非難の遅れは犠牲者たちの責任だとの見解を示した。米ワシントン・ポスト紙によるとウルムチ市の消防団長は、「一部住人の自己避難能力はあまりにも低かった……そのため避難に失敗した」と発言している。

この経緯が報じられると、中国の民衆の不満はついにピークに達した。同紙は、「当局による回答は、ネット上の怒りに拍車をかけるのみであった」と報じている。事件の動画は広く拡散され、かねてゼロコロナに苦しめられていた国民は、中国全土で蜂起することとなる。

ウルムチでの火災以前にも、ゼロコロナに関する事故や抗議はたびたび発生している。中国共産党はその都度、徹底した検閲体制を敷いて民意を抑圧してきた。

上海・徐匯市のロックダウン
写真=iStock.com/Graeme Kennedy
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Graeme Kennedy

ニューヨーク・タイムズ紙は、中国各地で大規模なロックダウン(都市封鎖)が相次いでおり、今年だけでも2億から4億人の中国市民が何らかの形で影響を受けたと報じている。

4月からは上海で、2カ月間にわたる長期のロックダウンが上海で実施された。住民たちは食料の入手もままならないなど、想像を絶する不自由を迫られている。同紙は、通院が不可能となり流産した妊婦や、職を失った人々、精神的問題を抱えてマンションから飛び降りた幾人もの人々など、悲惨な事例を取り上げている。

■英紙「犠牲者の数はコロナ関連死をしのぐものだ」

人々の命を守るはずの検疫が悲劇を招いたこともあった。南部貴州では9月、市民47人を隔離施設へと連行していたバスが道中で激しく横転した。中国共産党の機関紙である人民日報は、27人の死亡を認めている。残る20人も重軽傷を負った。

CNNは、中国のソーシャルメディア「Weibo」で共有された事故車両の写真を掲載している。バスは上半分がほぼ完全につぶれ、屋根はまるでアルミ箔(はく)を握りつぶしたかのようなクシャクシャの状態だ。

記事は、終わらないゼロコロナ政策にある怯(おび)えるユーザーのコメントを取り上げている。「私たちはみなこのバスに乗っている。まだ衝突していないだけだ」

英ガーディアン紙は、27人の命を奪ったこの事故が死者数の面で皮肉な状況を招いたと見る。

「犠牲者の数は、パンデミックが始まってから同州で報告されているコロナ関連死の数である2件をしのぐものだ」と同紙は述べている。

香港では外出時も常にマスクが必要だ
写真=iStock.com/Derek Yung
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Derek Yung

■広がるデモ…iPhone工場では100人規模の労働者が蜂起

国民を疫病から守るためのロックダウンや検疫だが、行き過ぎたことでかえって人命を奪っている。この異常なゼロコロナの実態を受け、中国各地においてデモや暴動が相次いでいる。

10月13日の朝には、北京市内の大通りをまたぐ陸橋に、ゼロコロナ政策と習近平国家主席の独裁政治を批判する横断幕が掲げられた。民衆への抑圧が徹底する中国において、異例の行為だとして広く報じられている。男性はすぐに当局に拘束されており、その後の行方はわかっていない。

捨て身の抗議に出た男性は、天安門事件の「タンクマン」ならぬ「ブリッジマン」として人々の敬意を集めた。男性に触発され、ゼロコロナ批判のビラやステッカーを密かに展開する草の根運動が勃発。中国全土はもとより、イギリスなど国外でも中国人留学生などにより運動が続いた。

11月に入ると、より熾烈(しれつ)な騒動へと発展する。中国フォックスコン社(鴻海科技集団)が運営する世界最大のiPhone組立工場では、100人規模の暴動が発生した。多数の労働者たちが警官隊と衝突している。

CNNによると、工場内で感染者が発生したことから工場が封鎖。ところが敷地内の衛生管理がずさんであり、健康だった従業員にも感染のおそれが広がった。さらには給料面での不満も重なり、一部従業員が封鎖を破って脱走する騒ぎとなった。

年末商戦に向けiPhoneの生産ペースを維持したいフォックスコンは、破格のボーナスを提示して引き留め工作に出た。しかし、この約束が反故(ほご)にされているとして暴動に至ったという。

■市民の不満は頂点に達している

同じく11月、南部の工業都市・広州では、ゼロコロナ政策の余波で食料を買えなくなった人々が抗議運動を繰り広げている。住民たちはコロナ検査に用いられる仮設テントを破壊し、また、沈静化に駆けつけた機動隊に対して瓶を投げつけ抵抗した。

米ABCニュースが報じた動画によると、ゼロコロナ政策への不満が鬱積(うっせき)した民衆が、夜の市街に集結。声高に不満を叫びながら当局が設置したバリケードを越え、破壊行為に及んだ。

BBCが掲載した現場写真によると、警察車両が横転し破壊されるほどの騒動になったようだ。少し前から保健当局関係者と市民のあいだで小競り合いが続くようになり、14日になると「広州の大通りに突如として怒りが噴出し、反抗的行動が多発した」という。

地区には給与水準の低い労働者たちが多く住む。勤務先工場がゼロコロナで閉鎖されたことで給料が支給されず、人々は収入源を失った。さらに封鎖によって地区内では食料価格が高騰しており、二重苦にあえいでいた。

米ジョンズ・ホプキンス大学のホファン・ハン博士(社会学)はBBCの取材に対し、ゼロコロナ政策は明らかな失策だとして警鐘を鳴らしている。「この2年間で習氏は、ゼロコロナ政策の実施によって自身を窮地に追い込んだのです」と博士は述べる。

■習政権が頼る「世界で最も洗練された」検閲システム

政策が生んだ不都合な実態を隠したい習近平政権は、このようなデモが発生するたび、動画の拡散を必死に食い止めてきた。

中国国内からインターネットに接続する場合、グレート・ファイアウォールと呼ばれる政府の中継装置を経由する必要がある。中国共産党にとって都合の悪いサイトは、この段階でアクセスが遮断される。

こうして世界から切り離された国内ですら、自由な議論ができるわけではない。自動化された監視ソフトと人手を投じた検閲が実施され、政策の失敗やデモの発生に関する動画と書き込みが投稿されるや否や、わずか数分のうちに削除される。

ニューヨーク・タイムズ紙は皮肉交じりに、中国では「世界でも最も洗練された類いの」検閲装置が稼働していると報じている。

北京に設置された監視カメラ
写真=iStock.com/kool99
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kool99

効果はてきめんだ。北京で発生したデモの動画を拡散しようとした26歳女性は、投稿が瞬く間に削除されてしまったと悔しがる。AP通信に対し、「多くの友人たちが上海でのデモの動画をシェアしていました。私もシェアしたのですが、あっという間に削除されてしまったのです」

当然、TV放送も検閲の対象となっている。米ワシントン・ポスト紙は、中国で放送されるサッカー・ワールドカップの映像において、スタンドのサポーターたちを捉えた映像が不自然に少ないと指摘している。

マスクをせずに密集している観客を映すと、なぜ中国ではマスクが必要なのかという疑問が生じるおそれがある。民衆の意識を刺激しないよう、観客席の映像を避けているとみられる。

■規制をかいくぐる市民たちの知恵

こうした検閲は、政権の失敗を隠すうえで一定の効果を発揮してきた。

だが、ウイグルで起きた不幸な高層マンション火災をきっかけに、人々の怒りは燃え上がった。いまでは自動化された検閲システムでさえ追いつかないほどの速度で、デモの動画が続々と再投稿されている。

AP通信は、ジョージア大学国際学部のハン・ロンビン准教授のコメントを基に、「とてつもない数の中国ユーザーらが不満をあらわにし、インターネット上で不満を爆発させている」ため、「一時的に政府の検閲の処理能力を超える状態になっている」と報じている。

主な拡散の舞台は、中国の主要ソーシャルメディアであるWeChatだ。アップロードされた動画を見たユーザーたちは、テレビや新聞で報道されていない事実に衝撃を受ける。この類いの動画はすぐに消されることを彼らは熟知しているため、素早く保存して別のチャットスレッドにアップロードしているのだという。

怒りに燃える多くのユーザーがこれを繰り返すことで、自動化された検閲ソフトといえど手が回らないほどの速度でデモの真実が拡散している。また、機械による自動判定の目をかいくぐるべく、動画を左右反転させるなどの技法が用いられるようになった。

多数の人々がデモを撮影したことも、中国政府にとっては痛手だ。ある動画を検閲対象に指定しソフトに覚え込ませても、ソフトが認識できない別角度からの動画が山のようにアップロードされる。

■白紙を掲げ「言いたいが口にできないことのすべて」を示す

カリフォルニア大学バークレー校でネット上の言論の自由を研究するシャオ・チアン氏は、ニューヨーク・タイムズ紙に対し、別々の位置や角度から撮影された動画が少しずつ多数拡散している場合、単一の著名な動画のみが広く拡散している場合よりも、アルゴリズム上はるかに検閲が難しいと指摘している。

中国の民衆はまた、デモ実施の時点から活用できる検閲回避法を編み出した。白紙の抗議だ。A4サイズの白紙を掲げて集い、無言で抗議の意志を示す抗議運動となっている。

真っ白なプラカードを掲げるデモ隊
写真=iStock.com/shaunl
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/shaunl

米タイム誌はこの白紙が、「彼らが言いたいが口にできないことのすべて」を表していると解説している。こうした白紙は具体的な抗議内容を何も明示していないことから、当局に拘束されにくい利点がある。

また、抗議の光景は一見してそれとわかるが、自動検閲ソフトにとってはありふれた白紙との区別が難しく、抗議の様子を収めた動画は削除対象となりづらい。

■習近平政権の威信を守るため、撤廃はできない…

権威主義が生んだゼロコロナ政策は、目的と手段の入れ替わりという典型的な不合理を生んだ。

ゼロコロナ政策の維持自体が目的へとすげ替えられ、ウイルスが弱毒化した今となっても柔軟な制度変更を難しくしてきた。方針を転換すればあたかも、習近平政権の威信が損なわれるかのような誤謬がそこには存在する。

指導部が必死になって守ろうとする威厳の陰で、経済苦や妊婦の流産、精神疾患などを生じ、人々の命が犠牲となってきた。南京錠に閉ざされた非常扉の向こうで多くの命が失われた、ウイグルでのマンション火災も例外ではない。

収拾がつかなくなったデモに押される形で、政策の一部緩和を打ち出した中国共産党指導部。だが、世界の歩調からはすでに数歩遅れている状況だ。加えて、ゼロコロナ頼りの中国ではもはや、同政策の撤廃は不可能だとの見解も出ている。

BBCは緩和の発表に先立ち、ゼロコロナの緩和は難しいとの立場を示していた。高齢化のワクチン接種率が低く、外国産ワクチンの使用を拒否し続けているうえ、国産ワクチンの有効率が低いという現状があると記事は指摘する。

さらにニューヨーク・タイムズ紙は12月2日、北京で1日あたりの新規感染者数が過去最多となっていると同時に、ワクチンの接種ペースは過去最低を記録しているとの厳しい現実を提示している。

■進むも地獄、退くも地獄のゼロコロナ

ゼロコロナ政策をパンデミック対策の柱として長期間掲げてしまった以上、堅持するにせよ大幅に緩和するにせよ、習政権にとって大きなリスクが伴う状況となっている。

政策の破綻を認識しつつある党指導部だが、ここまでデモが広まった状況で政策を翻す場合、デモが効果的だと民衆に学習させる結果ともなりかねない。

国の威信をかけたゼロコロナ政策は、公衆衛生と民衆のコントロールの両面において、進むも地獄、退くも地獄の厳しい局面を迎えている。

上海のロックダウン
写真=iStock.com/Adrian Hodge
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Adrian Hodge

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青葉 やまと(あおば・やまと)
フリーライター・翻訳者
1982年生まれ。関西学院大学を卒業後、都内IT企業でエンジニアとして活動。6年間の業界経験ののち、2010年から文筆業に転身。技術知識を生かした技術翻訳ほか、IT・国際情勢などニュース記事の執筆を手がける。ウェブサイト『ニューズウィーク日本版』などで執筆中。

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(フリーライター・翻訳者 青葉 やまと)

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