なぜ学力トップ層がランク下の学校を志望するようになったか【3】

プレジデントオンライン / 2012年6月17日 15時0分

すべてが適度――ファンが絶えない芝学園。

■偏差値度外視

開成や渋幕よりも入試倍率が高い「なごみ系進学校」

私立中高一貫校の人気は、基本的に大学進学実績で決まる。さらに言えば、最近は東大・一橋・東工大への合格者数しか、受験生や親の評価の対象にならないという。東大への合格者が増えたとたん急激に偏差値が上昇したり、逆に合格者が減るとてきめんに人気が急降下するケースもよく見かける。

だが一方で、東大合格者数や偏差値などの数字にほとんど関係なく、安定した人気を保ち続ける学校もある。

東京都港区にある芝中学・高等学校は、その代表例のひとつだ。戦前から多数の優れた人材を輩出してきた伝統ある進学校だが、一方で最近の東大合格者は毎年5人程度と、同じような入試偏差値(四谷大塚の80偏差値で58)の他の一貫校に比べやや物足りない。だがここ数年の実質倍率は常に3倍以上で、開成や渋谷学園幕張といった超人気校の倍率を上回っている。

人気の秘密はどこにあるのか。長男を芝に通わせている山本佳子さん(仮名)は言う。「同じような偏差値で、より進学実績の高い学校も見学したのですが、規則が厳しかったり、夏休みもずっと勉強だったりで、息子の性格から考えるとややハードすぎるのではと感じました。

それに比べると、芝は校風が伸びやかで、学校説明会や文化祭を見ても、先生方が生徒を大切にしていらっしゃるように思えました。規則がゆるやかなのに、生徒さんが皆きちんとしていたのも好印象でしたね」

「じつは、男子校の校風や雰囲気が苦手というお母さん方が案外多いんですが、芝の校風はお母さん方にも受け入れやすいんです」と言うのは、森上教育研究所の森上氏だ。

「過度に勉強を強いることもなければ、部活に力を入れすぎて勉強がおろそかになることもない。一方で、成績のフォローはしっかりしているし、人間性教育のような部分を含めた生徒一人一人への目配りも行き届いている。偏差値55~60ぐらいのボリュームゾーンの成績で、ある程度自由にのびのびやりたいという男子には、安心してお薦めできる学校です」

同じようなパターンで人気を集めている学校はほかにもある。「玉川学園や鎌倉学園、横浜雙葉といった学校も、目の前の数字をぎすぎす追わない層の間で静かな人気を集めています」と言うのは、VAMOSの富永氏。いずれの学校も、交通の便が悪いこともあって外部からの受験者が増えず、偏差値は手頃だが、周辺地域からはコンスタントに生徒を集めている。

「とにかく地域と学校の関係がよく、生徒の質がいい。感じのいいお兄さん、お嬢さんというイメージです。勉強はきちんとさせているんですが、数字でぎちぎち締め上げるような教育はしていません」

中学受験をさせる層の中で新たな二極化が進行

中学受験をする層の中で新たな二極化が起きていると、富永氏は語る。

「昔は偏差値上位と下位による二極化がよく言われていましたが、今起きているのは『成績はいいが数字にそれほどこだわらない層』と、『成績が飛び抜けていいとは限らないが数字にこだわる層』の二極化です」。

前者は後者に比べ少数派だが、偏差値ランキングや東大に何人合格したかなどの見えやすいリターンではなく、コミュニケーション能力や慣れない環境でのタフさのような、見えにくいリターンを重視する。それが、将来のわが子のサバイバル能力に直結すると考えているからだ。

「私たち親の世代からみると、今の子の就職は本当に大変。大学もほとんど就職予備校みたいで、子供が自分自身をじっくり見つめられるのは、この6年間ぐらいしかないのではと思ったりします」と山本さん。「生徒自身の考えや判断が尊重される芝という環境で、学力以外の力もしっかり身につけてほしいですね」

数字にこだわる派とこだわらない派、将来振り返って実りの多い6年間を送るのは、果たしてどちらか。

(プレジデントFamily編集部 宇佐見利明=写真)

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