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「世界初・業界初」の商品を作るにはどうすればいいのか…キーエンスがヒット商品を連発できる本当の理由

プレジデントオンライン / 2022年12月15日 13時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Olivier Le Moal

「世界初・業界初」の商品を作るにはどうすればいいのか。キーエンス出身の戦略コンサルタントである田尻望さんは「お客様自身も気づいていないニーズに応える商品には付加価値があり、競合他社品との差別化も図れる。この潜在ニーズを把握するためには、現場に足を運んで調査・観察する必要がある」という――。(第2回/全3回)

※本稿は田尻望『付加価値のつくりかた 一番大切なのに誰も教えてくれなかった仕事の本質』(かんき出版)の一部を再編集したものです。

■「実は欲しかった」が付加価値をつくる

付加価値とは、商品・サービスがもともと有している価値に「付加できた価値の量」です。ですから、原価(もともとの価値)に上乗せされた部分、かつお客様のニーズを叶えた部分に出てくるものです。

お客様のニーズを超えた部分は、付加価値ではなく、ムダになります。

この、付加価値の源泉である「ニーズ」には「顕在ニーズ」と「潜在ニーズ」があります。

顕在ニーズとは、お客様が頭の中で期待していること、つまりお客様自身が欲しているものを、自分で明確に意識しているニーズです。

表面化、表層化しているニーズと言っていいかもしれません。

例えば、新しいパソコンが欲しい、牛丼が食べたい、おしゃれしたい、旅行に行きたい、などが顕在ニーズです。

一方、潜在ニーズとは、自分でははっきりと気づいていないニーズです。

普段は意識していないけれど、他人からの質問や体験をきっかけに、「実は欲しかった」「こんなことがしたかった」と感じるのが潜在ニーズです。

■顕在ニーズより潜在ニーズのほうが重要

例えば、もっと痩せてスリムになりたいという思いがあるとします。それは自分でも意識している顕在ニーズですが、「ではなぜ痩せたいと思っているのか?」という点が重要です。潜在ニーズはそこに潜んでいるからです。

痩せることによって、モテるようになりたいのか、周囲から褒められたいのか、それとも健康になりたいのか。

そのあたりは潜在化していることが多く、実は「痩せたい」と言っている本人さえも、なぜ自分は痩せたいのか、本当の理由に気づいていなかったりするのです。

顕在ニーズよりも潜在ニーズのほうが重要です。

顕在ニーズはわかりやすいニーズなので、企業側もそのニーズに応える付加価値をつくって提供することは比較的容易ですが、潜在ニーズは、お客様も気づいていないので、それを叶えるためには、より深い付加価値を探り出す必要があるからです。

より細分化した付加価値の全体像を見てみましょう。

図表1を見てください。

【図表1】付加価値の全体像
出典=『付加価値のつくりかた』(P.66)

原価のすぐ上の部分にあるのは、顕在ニーズに支えられている付加価値です。

そしてさらにその上に、顕在ニーズを超えて、お客様も気づいていない潜在ニーズを叶える、「より深い付加価値」の領域があります。

■「まだ誰も叶えたことのない価値」をどう探すか

私が以前、在籍していたキーエンスでは、この「お客様も気づいていない潜在ニーズ」を、徹底的かつ的確に探り出し、そのニーズをもとに開発・設計した製品によって、お客様に付加価値を提供し続けています。

さらに、「お客様のニーズ」のラインと「より深い付加価値」の間には、「まだつくられていない付加価値(新創造価値)」と言うべき領域があります。「まだ誰も叶えたことのない価値」が生まれる可能性のある、未知の領域です。

この領域を、徹底したコンサルティングセールスによって探り、新たな付加価値を備えた製品を生み出す。

それがキーエンスの作り出す「世界初・業界初」の商品です。

この「より深い付加価値」と「まだつくられていない付加価値(新創造価値)」を生み出すための、潜在ニーズを的確に引き出していく方法は、第3回で詳しく説明します。

■潜在ニーズをつかみ、ヒットを重ねるあの商品

ここからは、潜在ニーズと付加価値の関係にフォーカスしてお話ししますが、最初に、顧客の潜在ニーズをつかんで成功した具体例を紹介しておきます。

生活者、とくに主婦の潜在ニーズをつかんでヒットを重ねてきた商品に、食器用洗剤のボトルがあります。

食器用洗剤のボトルがどんどん変わっていっているのはご存知でしょうか?

ひと昔前であれば、手で開けなければならないボトルが多かったと思います。

今ではプッシュ型や、上から押すと上方に洗剤が出る型も増えてきました。これは洗剤を選ぶ基準が、「洗浄力」というニーズから、「使いやすさ」に変わってきており、そのような潜在化したニーズに応えているのです。

■「エコバッグを持ち歩くのは面倒」に応えた商品

最近、私が個人的に、これはすごい! まさに生活者の潜在ニーズに応える画期的な商品だ、と感動したのは「シュパット」という買い物用の大型エコバッグです。

コンパクトに折りたたんであるバッグの両端を持って一瞬でシュパッと広げられます。収納時はバッグの両端をつかんでシュパッと引っ張ると、簡単にたためるという優れものです。

スーパーなどでの買い物のとき、レジ袋をもらわずにマイバッグを使うのが当たり前という風潮の中、「レジ袋をもらうのはちょっと恥ずかしい。でもバッグを持ち歩くのはかさばるし面倒。何かいい方法はないかな?」と思っていたが、具体的な要望として口には出せなかった人が多いはずです。

これはそんな潜在ニーズを捉えた画期的な商品です。

ここで学んでほしいことは、私たちの潜在ニーズに応える製品は身近にたくさんあるということです。

「目の前の商品がどんな潜在ニーズを捉えて企画されているのか」を考えることを積み重ねていけば、その含蓄が仕事で活かされる場面がいつかやってくるでしょう。

みなさんも身の回りにあるものをよく観察してみてください。

■まずは現場に「潜在ニーズ」を探しに行く

次に、ビジネスの場に目を向けて、潜在ニーズについて考えてみましょう。

例えば、「全社員にタブレットを導入したい」という会社があるとします。

その場合「タブレットを導入したい」というのは表層的なニーズ、つまりその会社の顕在ニーズです。

「なぜタブレットを導入したいのか?」という本質的な部分が重要です。

そこを追求していくと、その会社の潜在ニーズが明らかになってきます。

潜在ニーズは実際にタブレットを使うシーン=現場に存在することが多いので、あなたがタブレットの導入をサポートする会社の営業であれば、まずタブレットを実際に使っている現場を見に行く必要があります。

現場に足を運んでよく調べてみれば、実はお客様自身でも気づいていない問題や課題がたくさんあります。

お客様が「もっと現場の生産性を上げたいんだよ」と言った場合、キーエンスであれば、「実際に現場を見せてもらってもいいですか?」と言って、セールス担当者はまず現場に足を運びます。

潜在ニーズはお客様との会話だけでは探り当てられないことがほとんどです。

現場を調査・観察して初めて潜在ニーズが見えてくるのです。

■「ペルソナ設定会議」ではニーズをつかみにくい

お客様の顕在ニーズしかわかっていない場合は、競合他社が提供する製品・サービスとの差別化が難しくなります。

他社も同じような製品・サービスを提供できるからです。

田尻望『付加価値のつくりかた 一番大切なのに誰も教えてくれなかった仕事の本質』(かんき出版)
田尻望『付加価値のつくりかた 一番大切なのに誰も教えてくれなかった仕事の本質』(かんき出版)

しかし他社に先駆けていち早くお客様の潜在ニーズがわかれば、他社製品・サービスとの差別化ができます。

顧客の潜在ニーズを的確に捉えられたら、企業としてこれほど強味になることはありません。「付加価値の提供」と「差別化」を同時に達成できるからです。

よく「ペルソナ設定をしてユーザーのニーズを知る」というような会話がマーケティング会議などで交わされますが、実際に会ったこともない人のことを論じていても、お客様のニーズは見えてきません。

どんな製品・サービスでも、ヒット商品を生み出すためには、お客様に直接会って話を聞き、現場の様子をよく観察して潜在ニーズを把握する必要があるのです。

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田尻 望(たじり・のぞむ)
カクシンCEO、戦略コンサルタント
京都府京都市生まれ。大阪大学基礎工学部情報科学科にて、情報工学、プログラミング言語、統計学を学ぶ。2008年卒業後、キーエンスにてコンサルティングエンジニアとして、技術支援、重要顧客を担当。大手システム会社の業務システム構築支援をはじめ、年30社に及ぶシステム制作サポートを手掛ける。その後、企業向け研修会社の立ち上げに参画し、独立。年商10億円~2000億円規模の経営戦略コンサルティングなどを行い、月1億円、年10億円超の利益改善企業を次々と輩出。企業が社会変化に適応し、中長期発展するための仕組みを提供している。著書に『付加価値のつくりかた』(かんき出版)など。

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(カクシンCEO、戦略コンサルタント 田尻 望)

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