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入社2年目で年収1000万円…キーエンスの社員が「世界初・業界初」を連発できるカラクリ

プレジデントオンライン / 2022年12月22日 10時15分

キーエンスのロゴマーク=2020年6月17日、大阪市東淀川区 - 写真=時事通信フォト

2022年6月の有価証券報告書によると、キーエンスの平均年収は2183万円だった。このため、入社2年目には年収1000万円を超えると言われている。キーエンス出身の戦略コンサルタントである田尻望さんは「営業や商品開発、マーケティングといった社内の構造がお客様に付加価値を提供するためになっており、社員全員が成果を上げられるようになっている」という――。(第3回/全3回)

※本稿は田尻望『付加価値のつくりかた 一番大切なのに誰も教えてくれなかった仕事の本質』(かんき出版)の一部を再編集したものです。

■組織の構造によって社員全員が成果を上げられる

キーエンスの社員は、入社2年で年収1000万円を超えると言われます(時期にもよりますが)。同社の社員たち全員に、その年収をもらうだけの能力やスキルがあるのかというと、私自身も所属していたからこそ言えるのですが、答えは「ノー」だと思います。

では、なぜキーエンスはそれだけの給与を支払う成果が出せるのか?

その答えが、この「構造が成果を創る」という考え方の中にあります。

つまり、営業の構造、商品企画・開発の構造、マーケティング・販売促進の構造、人事の構造など、キーエンス組織内における構造のすべてが、「お客様に付加価値を提供するための構造」になっており、社員の個人的な能力や努力だけではなく、構造によって社員全員が成果を上げられるようになっているのです。

キーエンスの本質を理解するためには、キーエンスが創業期から重要視してきた変わらない経営理論とぶれない構造構築について、その背景も含め、組織全体の構造を紐解くこと。それが実は最も重要なカギとなります。

■マーケットイン型企業「キーエンス」の思考

キーエンスを読み解く3つのキーワードを解説していきましょう。

1.マーケットイン型

キーエンスでは、マーケットイン型の新商品企画がなされています。なぜお客様が買うのか? 本当にその商品・機能は使われるのか? 使われたら本当に役に立つ(困り事・課題を解決する)のか? どんな役に立つのか? について商品の開発前に突き詰めることが徹底されています。もしかすると、「自社でもそれはやっている」と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、追求度が他社とは異なります。

2.高付加価値状態での商品の標準化

キーエンスでは、特注品ではなく「標準品」を作っています。にもかかわらず、作る前に現場に足を運んで直接お客様の潜在ニーズを見つけ出すという市場調査を行っています。この仕組みがあるため、最大公約数の仕様・機能を備えた高付加価値状態の標準品での対応を可能にしています。

3.世界初・業界初の商品

キーエンスでは、「お客様も気づいていない潜在ニーズ」を、徹底したコンサルティングセールスによって探り出し、「まだつくられていない付加価値(新創造価値)」を備えた商品=「世界初・業界初の商品」を生み出しています。

この世界初・業界初という商品は、お客様でも気づいていなかったような、潜在ニーズの問題解決手段を実現しています。

ここで興味深いのが、キーエンスではその実現のために、「世界一の高度な技術が使われている」ことが重視されているわけではないことです。

商品がどのようにお客様に使われるのか、その「『使われ方』までを追求した商品である」ことが重視されているのです。

■プロダクトアウト型は企業の思いを優先

では、一つひとつ順番に見ていきましょう。

まずは①「マーケットイン型」についてです。

マーケットインとは、「市場・顧客のニーズ」を優先して企画・開発・生産することですが、その逆がプロダクトアウトです。プロダクトアウトとは、企業が「自分たちは何を作りたいのか」「自社の特性を活かしてどんなものを作れるのか」を考えて企画・開発・生産することです。

プロダクトアウトの発想で作られた商品は、生活者のニーズよりも、メーカー側の「我が社の技術力を駆使して、こんなプロダクトを作ったら売れるに違いない」という思いを優先して作られた商品です。

■キーエンスの起点は「お客様が困っていること」

プロダクトアウトには、企業の強みを活かしてこれまでなかった画期的な商品が生まれる可能性がある、というメリットがあります。また、プロダクトアウトの発想で商品を作る場合でも、当然、企業はさまざまな市場調査をしているはずです。

しかし、顧客に高い付加価値を提供するという面では、プロダクトアウトよりもマーケットインのほうが有利だと言えます。

マーケットインのほうが、付加価値の源泉であるニーズを捉えやすいからです。

キーエンスでは、徹底して顧客のニーズにフォーカスしたマーケットイン型の新商品企画・開発を行っています。

彼らは、ニーズ=「お客様が困っていること」を起点として商品を作っており、「商品の強み」を起点にしていないのです。

■お客様のニーズを本人よりも詳しく知っている

また、開発前にお客様のニーズがどこにあるのかを徹底的に突き詰めていくため、彼らは、お客様のニーズについて、お客様よりも詳しく知っています。

なぜお客様よりもお客様のニーズに詳しくなれるのか? それは、彼らは顧客の工場(海外も含む)で働く現場のスタッフが実際に困っていることを、貪欲に見つけに行くからです。ただし、それだけでは今のように大きな企業になることはできません。

彼らはお客様のニーズを捉えたら、商品企画に入る前に、社会全体の潮流や業界全体のトレンドを視野に入れ、現在自社が持っている技術的な強みを活かして、どんな商品を作れるのかという分析をし、さらに、同じような商品を作っている競合他社の調査・分析をします。

それらの綿密な分析を交えながら、それまでに掴んだお客様のニーズをベースに、「こういう商品を作ったらいいのでは」と仮説を立てて商品企画を行うのです。

【図表1】キーエンスの商品化決定までのプロセス
出所=『付加価値のつくりかた 一番大切なのに誰も教えてくれなかった仕事の本質』P.101

ですが、この時点ではまだ、プロダクトアウトの域を脱していません。

キーエンスが日本有数のマーケットイン型企業と言われる理由は、仮説を立てた後、商品開発する前に「その仮説が本当に合っているかを、さらに検証する」点にあります。

つまり、「こんなものを作ったとしたら、買っていただけますか?」「御社のこの問題を解決するために役に立つと思うんですが、いかがでしょうか?」と、自分たちが作ろうとしているものが、本当にお客様にとって役に立つのか、お客様が困っていることを解決できるのかを、あらためてお客様に直接聞きに行くのです。

キーエンスでは、このように自分たちの仮説が間違っていないことを確認したうえで、ようやく本格的に商品開発に入っていきます。これが、マーケットイン型企業キーエンスの考え方、やり方であり、他企業がなかなか真似できない点なのです。

■「市場原理」と「経済原則」とは何か

次は、②「高付加価値状態での商品の標準化」についてです。

キーエンスにおける「高付加価値状態での商品の標準化」について言及する前に、理解しておいてほしい大切な考え方があります。

それは、「市場原理、経済原則で考えることが大切である」という考え方です。

これもキーエンスの経営理念の主軸として位置づけられている重要な考え方の一つです。

「市場原理で考える」とは、「市場=お客様が何を買い、何をどう使って、いつ、どんなときに価値を感じるのか? その原理はどのようなことか? をしっかりと考えましょう」という意味です。

そして、「経済原則で考える」とは、「どうすると一番利益が出るのか? で、意思決定しましょう」という意味です。

■特注品だけを作り続けるのには限界がある

個人の判断や解釈ではなく、市場原理・経済原則に基づいて考えよう、という非常にシンプルな考え方ですが、とても深い意味を持っています。

なぜなら、企業側の個人の判断や解釈は、常に市場とずれているからです。

だからこそ、市場=お客様の原理を知り続けなければならないのです。

「経済原則で考える」だけを重視し、ただ利益を上げたい、という発想だけでビジネス展開していると、市場を敵に回してしまうこともあります。

逆に、市場原理だけに沿って、お客様が求める特注品を作ったとします。

特注品はマーケットイン型の商品に近いと言えます。

しかし、膨大な時間とお金をかけて、その会社でしか使えない特注品を作っても他では売れない、つまり儲からないので経済原則には沿っていません。

特注品ばかりを作り続けて、ある程度の利益が出て会社の規模を大きくできたとしても、やはり限界があります。

そうではなく、市場原理、経済原則を両輪で考え、お客様を味方につけながら利益を出す。

人々のうわさやコミュニケーションのイメージ
写真=iStock.com/Andrii Yalanskyi
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Andrii Yalanskyi

企業にはこの方向を目指してほしいですし、実現できたならこんなに素晴らしいことはありません。

キーエンスでは、この市場原理と経済原則の両方をうまく合致させたやり方で商品を作っています。

彼らは特定企業のニーズに応える商品を作るのですが、その企業でしか使えない特注品を作るわけではありません。

その企業が困っていることを解決し、なおかつ他企業でも使える「標準品」を作るのです。

他のメーカーなら特注品レベルの商品になってしまうものを、キーエンスは標準品として作ってしまうのです。

■「標準品」でコストダウンし、利益を上げる

なぜそんなことが可能なのか?

キーエンスの人たちは、どの競合他社よりも多くの事例を知っていて、多くの企業が困っていることを熟知しているからです。

そのため、「あれ? このお客様が困っていることは、他の会社でも困っていることだぞ」ということに気づき、お客様のニーズに応えつつ、標準化して展開できる商品を企画、開発できるのです。

この仕様・機能をまとめて、標準型の商品にすることが、キーエンスにおける潜在ニーズの実現です。

その結果、お客様が困っていることを解決でき、しかも特注品を作るほどのコストがかからず、たくさん売れて利益が上がる、という市場原理と経済原則の両方に合致した展開ができるのです。

■キーエンスの付加価値創造戦略の肝

ちなみに、つい特注品ばかりを作ってしまう企業にありがちなのは、お客様に「うちの業界って特殊でね。だから、こんなことに困っているのはうちだけだと思うんだけど……」と言われたとき、「なるほど、確かに特殊ですよね」とお客様の言葉を真に受けて、本当に特殊な商品を作ってしまうことです。

「特注品=お客様のかゆい所に手が届く商品=お客様ニーズを叶える」と、一見、お客様の満足度を高めているように見えますが、特注品は他社への販売が難しく、生産数量も限定されてしまうために製造コストや管理コストがかさみ、価格が高くなってしまいます。

キーエンスでは汎用性のある機能か、他の機能で集約または分散できないかを考え、基幹となるニーズを重視し、できるだけ標準化を狙うことで商品のコストダウンを図ります。その結果、お客様にとっては、価格面、納期面、修理品の入手性などのメリットを享受できるようになります。

キーエンスではニーズから逆算して商品を作り、お客様に対する付加価値の提供と同時に、生産性と利益を上げることに成功しています。

それがキーエンスの付加価値創造戦略の肝になっているのです。

■新商品の7割が世界初もしくは業界初

最後のキーワードは③「世界初・業界初の商品」です。

キーエンスでは、「顧客の潜在ニーズ」を探り出し、「まだつくられていない付加価値(新創造価値)」を備えた商品=「世界初・業界初の商品」を生み出しています。

驚くべきは、キーエンスの新商品の70%が世界初もしくは業界初であるということです。キーエンスにとって世界初・業界初は当たり前なのです。

今もなお、毎年、世界初・業界初の新商品を世に出し続けており、そこにすごみがあるのです。

世界初・業界初というと、今までにない特許技術を駆使したような難しい商品と思われるかもしれませんが、世界一、業界一といった性能面(技術面)で高性能を備えたものではありません。

お客様の使い方を知り尽くし、課題や問題点を深掘りすることで、今までになかった機能や仕様を実現し、未解決の課題を解決しているのです。

トップ技術を使うというよりは、アイデアや機能の組み合わせなどを駆使し、お客様のアプリケーションに対してのソリューションを提供しているということです。

顧客の潜在ニーズの中にある、まだ誰も叶えたことのないニーズを叶えるのが「世界初・業界初の商品」です。

まだ誰も叶えたことのない未知の顧客ニーズを満たす、他社でも自社でも実現したことがない商品であれば、それは世界初・業界初となります。

キーエンスは、お客様の潜在ニーズを知るため、この未知の部分にまで踏み込み、徹底的に探索します。

このような努力を続けているからこそ、キーエンスは常に、高付加価値の商品を生み出すことができるのです。

■「他とは違います戦略」も両立する

世界初・業界初の商品を生み出す意義は、お客様に高付加価値を提供できるだけではありません。

同時に、他社商品との差別化を図ることができるのです。世界初・業界初の商品であれば、他社との比較のしようがないので、相見積もりをとられることは基本的にありません。

つまり、キーエンスは世界初・業界初の商品を作り出すことによって、「付加価値戦略」と「差別化戦略」を両立しているのです。

わかりやすく表現すると、付加価値戦略=「あなたの役に立ちます戦略」であり、差別化戦略=「他とは違います戦略」です。

この2つを両立させることを目指していきましょう。

実際にビジネスがうまくいっていない人(または会社)の多くは、この2つのうち、どちらか一つだけしか考えていません。

付加価値戦略だけの場合、つまり「この商品はあなたの役に立ちますよ」とだけお客様に伝えたらどうなるでしょうか?

お客様は、「ありがとう! 役に立つんだね。でも、他社も『うちの商品は役に立ちますよ』と言っているから、もう少し値引きしてもらえないかな?」と反応するでしょう。

また、差別化戦略だけの場合、つまり「この商品は、他社商品とは違います」とだけお客様に伝えたらどうなるでしょうか?

お客様は、「ありがとう、他とは違うんだね。でも、その違いは我々にとって役に立つわけではないから、他社の商品でもいいな」と反応されてしまうかもしれません。

■キーエンス社員がお客様に必ず伝えること

大切なことは、「この商品はあなたの役に立ちます。そして、それはこの商品にしかできません!」と伝えられることです。そう伝えるとお客様は「これ、いくら?」と反応し、ここで初めて独自の価格がつくのです。

田尻望『付加価値のつくりかた 一番大切なのに誰も教えてくれなかった仕事の本質』(かんき出版)
田尻望『付加価値のつくりかた 一番大切なのに誰も教えてくれなかった仕事の本質』(かんき出版)

キーエンスの営業だけでなく、トップセールス、トップマーケターたちは、この付加価値戦略と差別化戦略の両立が重要だということを認識し、お客様に提案するときは、この点を必ず伝えてアプローチしています。

そうすることにより、「相見積もり」をとられにくくし、価格競争に巻き込まれることを抑制しているのです。

世界初・業界初の商品を作ることによって、付加価値戦略と差別化戦略の両方を展開している。それが構造=仕組みとして確立されていて、ずっと変わることなく継続し続けている。

それがキーエンスなのです。

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田尻 望(たじり・のぞむ)
カクシンCEO、戦略コンサルタント
京都府京都市生まれ。大阪大学基礎工学部情報科学科にて、情報工学、プログラミング言語、統計学を学ぶ。2008年卒業後、キーエンスにてコンサルティングエンジニアとして、技術支援、重要顧客を担当。大手システム会社の業務システム構築支援をはじめ、年30社に及ぶシステム制作サポートを手掛ける。その後、企業向け研修会社の立ち上げに参画し、独立。年商10億円~2000億円規模の経営戦略コンサルティングなどを行い、月1億円、年10億円超の利益改善企業を次々と輩出。企業が社会変化に適応し、中長期発展するための仕組みを提供している。著書に『付加価値のつくりかた』(かんき出版)など。

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(カクシンCEO、戦略コンサルタント 田尻 望)

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