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橋下徹「なぜリーダーは安全地帯ではなく一番危険なところへ身を置いて判断すべきか」

プレジデントオンライン / 2022年12月9日 9時15分

早稲田大学政治経済学部卒業。弁護士。2008年から大阪府知事、大阪市長として府市政の改革に尽力。15年12月、政界引退。最新の著作は『最強の思考法 フェアに考えればあらゆる問題は解決する』(朝日新書)。 - 撮影=的野弘路

元大阪市長・大阪府知事で弁護士の橋下徹さんであれば、ビジネスパーソンの「お悩み」にどう応えるか。連載「橋下徹のビジネスリーダー問題解決ゼミナール」。今回のお題は「後継者としての心構え」です――。

※本稿は、雑誌「プレジデント」(2022年12月16日号)の掲載記事を再編集したものです。

■Question

偉大な政治家や財界人の逝去が続いていますが

2022年を振り返ると、政治家では2月に石原慎太郎元東京都知事が亡くなり、7月には安倍晋三元首相がテロ事件で命を落とし、京セラ創業者の稲盛和夫さんら経済界のリーダーたちも相次いで鬼籍に入りました。ロシアによるウクライナ侵攻や世界的なインフレ、エネルギー危機が起きているなかで、カリスマたちの「次」を担う世代はどういう心構えを持ったらいいでしょうか。

■Answer

複数のリーダーがタスキをつないでいくのが民主主義

石原慎太郎さんも安倍晋三さんも多大な功績を残されたリーダーだということは間違いありません。しかし、石原さんであれ安倍さんであれ、特定の個人が亡くなったからといって、政府なり社会なりが立ち行かなくなるようでは、成熟した民主主義国家とはいえないでしょう。どれだけ功績を残した偉大なリーダーでも、その「替わり」は必ずいるというのが成熟した民主主義国家の大前提です。首相であれ知事や国会議員であれ、ある役割を担う人に対して「余人をもって代え難い」などと言っているようではダメなんです。

だから僕は、国政政党・日本維新の会の代表だった頃に「日本が自衛権の行使として武力行使に踏み切る際には、国会議員などの政治家が最前線に赴いて自らの命を危険に晒しながら、政治判断すべきだ」と訴えました。

人々はリーダーに従います
写真=iStock.com/NiseriN
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/NiseriN

今、ロシア軍の最高司令官としてウクライナ侵攻を指揮しているのはロシアのプーチン大統領ですが、プーチン氏のような戦争指導者は「余人をもって代え難い」とされ、常に後方の安全地帯に身を置きます。命を張って戦うのは軍人、兵士で、場合によっては一般市民にも戦火が及び犠牲者が出ます。ところがそんな事態になっても、指導者などの政治家たちは自らの命の安全が保障されるかぎり「市民にある程度の犠牲が出るのはやむをえない」と言うのです。

僕はそういう考え方が大嫌いです。安全地帯から判断を行っていると、面子を気にしたり格好をつけたり、とにかく威勢のイイことを言いたくなります。しかし、勇ましいことを言うなら安全地帯からではなく、前線に出たうえで言うべきです。前線に出て自らの命が奪われる危険に晒されれば、戦闘を中止する判断に変わるかもしれません。いずれにせよ、「一番危険なところに政治家は出るべきだ」というのが僕の発想の根幹です。

そんなことを言ったら、当の国会議員たちから猛反発を受けました。首相や防衛相や国会議員が前線に出て、もしものことがあったら、誰が国を指導するのかと言うんです。

でも、そんな心配はいりません。日本は成熟した民主主義国家ですから、もし国会議員が欠員しても、いくらでも国民によって替えは利くのです。

有権者の側も今の首相、今の大臣、今の国会議員しか頼れる人はいないと思い込むのではなく、替わりになる人はちゃんと出てくると考えるべきです。特に有事の際は、国のために立つ人は必ず現れます。その人に国のかじ取りを託してもいいし、自分で立ってもいいじゃないですか。

といっても、国や巨大なグローバル企業ならともかく、民間や小さな組織では「次のリーダー」にふさわしい人が必ずしも見つかるとは限りません。中小企業や小さな組織では、功績のあるリーダーが急にいなくなったら組織の存続自体が危ぶまれるでしょう。

■リーダーは常に後継者づくりを意識するべき

そんなことがないように、リーダーは常に後継者づくりを意識するべきです。これこそリーダーの仕事として一番大切なことだと思います。

ところが現実には、有力な後継者を育てようとするリーダーは稀で、特に政界ではそれが顕著です。このほど中国の習近平国家主席は異例の長期政権体制を築きましたが、自分の地位を脅かしそうな有力者や後継者を政権内からことごとく排除しました。同じようなことは、民間企業でもよく見られますよね。

それはリーダーとして無責任です。

僕が大阪府知事や大阪市長、日本維新の会の代表に就任していたときには、「このポジションは期間限定のもの」ということを常に強く意識していました。1人の人間が未来永劫、1つの組織の長を続けられるわけがありません。実現するまでに時間のかかる大きな構想にチャレンジするには、次のリーダー、次の次のリーダーが誕生する環境づくりをしなくてはいけないのです。僕と一緒に日本維新の会をつくった松井一郎さん(大阪市長)や僕の後を継いでくれた吉村洋文さん(大阪府知事)も全く同じ考え方です。

つい先日、自動車の交通量が多かった大阪・なんばの駅前広場が車両通行止めになりました。1年後には、歩行者がゆったり休憩したり食事やイベントを楽しんだりできる広場に整備される予定です。大阪中心部の御堂筋を緑化し歩行者優先にしていくという構想の一部で、僕が大阪府知事だった2010年頃から進めてきた計画です。それを松井さん、吉村さんが継続して実行してくれて、12年経った今、実現しようとしています。

大きなことを成し遂げようとしたら、長い時間がかかるんです。自分の任期中に必ず実現するような小さなビジョンではなく、大きなビジョンを掲げ、複数のリーダーがタスキをつないで10年、20年、ことによると30年かけて実現していく。それが大阪都構想を中心とする僕たちが構想した大阪大改革でした。

そこで必要になるのが、僕の次や、次の次を継いでくれるリーダーです。維新には幸い、吉村さんをはじめとする次の世代のリーダー候補が何人も存在します。

僕は維新の代表時代、大阪都構想戦略チームという特命チームをつくって、そのリーダーに当時大阪市議会議員だった吉村さんを指名しました。そこに吉村さん世代の有能なメンバーを集めて、思い切り働いてもらいました。その中から頭角を現したのが吉村さんで、僕の後の大阪市長、そして19年のダブル・クロス選挙を経て大阪府知事を務めています。今では全国的に知られた政治リーダーになっています。ほかにも吉村さん世代の有能なメンバーたちは、大阪の地方議員や国会議員として大活躍しています。

複数のリーダーがタスキをつないで、大きなビジョンを実現する。これは民間企業にもあてはまる考え方だと思います。今のリーダーには、その発想をもって、後継者を見出したり育てたりしてもらいたいですね。

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橋下 徹(はしもと・とおる)
元大阪市長・元大阪府知事
1969年生まれ。大阪府立北野高校、早稲田大学政治経済学部卒業。弁護士。2008年から大阪府知事、大阪市長として府市政の改革に尽力。15年12月、政界引退。北野高校時代はラグビー部に所属し、3年生のとき全国大会(花園)に出場。『実行力』『異端のすすめ』『交渉力』『大阪都構想&万博の表とウラ全部話そう』など著書多数。最新の著書に『最強の思考法 フェアに考えればあらゆる問題は解決する』(朝日新書)がある。

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(元大阪市長・元大阪府知事 橋下 徹 構成=プレジデント編集部 撮影=的野弘路)

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