専門スキルもないし、給料が下がるのはイヤ…転職に怖気づく「おじさん社員」の3つの誤解
プレジデントオンライン / 2022年12月12日 9時15分
※本稿は、河合薫『50歳の壁』(MdN新書)の一部を再編集したものです。
■「こんなはずじゃなかった」50代の嘆き
退職金が割増しされるうちに、会社に見切りをつけるべきか?
はたまた70歳雇用義務化で揺れ動く人事部の動向を見極め、留まるべきか?
50歳の会社員にとって、転職は最大の悩みごとと言っても過言ではありません。
しかし、周りを見渡してみると50代の転職は……かなり微妙。特に、社会的地位の高い会社に勤めていたり、そこそこ出世したエリートほど、「こんなはずじゃなかった」と嘆いているという“噂”が聞こえてくる。そこでよく聞かれるのが、「転職はするも地獄、しないも地獄と聞きますが、どっちが得なんでしょうか?」というお悩みです。
「どちらでもお好きに。あなたの人生なんですから」とは、さすがに言えません。なにせみんな本当に悩んでいるのです。一方で、人は首尾一貫性を好む傾向があるため、多くの人が「できることなら現状を変えたくない」というのは、ある意味、自然の摂理です。だって、楽ですから。変えないのがいちばん楽。
かといって会社に残るという選択をして、「働かないおじさん」扱いされたり、会社にしがみつく老害社員と揶揄されたくない。転職はするも地獄、しないも地獄……。「私」はどうすればいいの? と、禅問答が続いていくのでしょう。
■転職者と非転職者とを比較した調査
そこで、ここでは「悩めるおじさん子羊たち」をがんじがらめにする噂に、答えてくれそうな調査結果を紹介します。
報告書のタイトルは「ミドルエイジ層の転職と能力開発・キャリア形成~転職者アンケート調査結果~」。政府が「骨太方針2019」(「経済財政運営と改革の基本方針2019~『令和』新時代:『Society 5.0』への挑戦~」)でうたっている、中途採用・経験者採用の促進を実現するための資料として企画・実施された調査です。
この調査の最大の“ウリ”は、年齢別の分析に加え、転職者と非転職者とを比較した点です(※)。(以下は主に男性の結果)
※転職経験者―4205人。調査開始(2020年12月)までの3年間に、転職の経験がある30歳以上55歳未満の男女。フルタイムで働く、正社員および非正社員。かつ従業員数50人以上の企業に勤める人
転職未経験者―2498人。転職の経験がない30歳以上55歳未満の男女。フルタイムで働き、従業員数50人以上の企業に勤める人
■50代の35.4%が「転職で賃金が上がった」
〈答え〉NO! 会社は案外、本気です。
・転職先での雇用形態を聞いたところ、30~40代前半では9割以上が「正社員」。40代後半から若干下がるが、40代後半で88.9%、50代前半は86.1%。50代でも9割近くが正社員!
![【図表1】現在の勤務先企業・組織における雇用・就業形態](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/a/e/1200wm/img_aea851c6673e2393a69880f4c9d9929f395857.jpg)
〈答え〉NO! 会社側は案外、期待しています。
・35歳以上の65%が、「同業種間転職」。
・「大規模転職」(転職前より従業員数が多い)は、40代後半では43%前後と多かった。一方、「小規模転職」(転職前より従業員数が少ない)は、50代が他の年齢層より多かった(34.2%)。
![【図表2】転職先の従業員規模~転職直前勤務先との比](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/f/8/1200wm/img_f8eb325e44140b886518ecc21faea518407247.jpg)
・月収は、45歳以上で「20%超低下」が多くなり、30~40代前半が6%前後低下だったのに対し、50代では15%に達していた。
・月収が下がった人(20%超低下と5~20%低下)は、40代後半は29%、50代は34.9%。
・一方、50代でも前職より高くなった(5~20%以上)人が35.4%で、4割弱もの人が「賃金は上がった」としている。
![【図表3】転職前後の処遇(月給)の変化](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/0/0/1200wm/img_00d1655230f8fb4973821e134f2ce938407792.jpg)
■資格や専門スキルよりも「実務実績」
〈答え〉NO! 資格や専門的なスキルは、いわば「足の裏の米粒」のようなもの。取らないと気になるけど、取ったからといって腹を満たすものではない。
・「転職先にアピールした点」を聞いたところ、もっとも多かったのは「これまでの実績」で、年齢が高いほどその傾向が強かった。
![【図表4】現在の勤務先における採用選考でアピールした点①(複数回答)](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/5/c/1200wm/img_5c408bb8dc4bd2f102f86f0265c734ac407958.jpg)
・一方、「採用選考でもっとも評価されたと思う点」を挙げてもらったところ、40代後半~50代の半数近くが「これまでの実務実績」を挙げ、「資格」(50代4.6%)、「専門的なスキル」(50代12.2%)を大きく上回った。
![【図表5】採用選考でもっとも評価されたと思う点](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/3/3/1200wm/img_33ec751793285dfeeedc3dd9e2399f47403936.jpg)
・自己アピールする際に「前職の勤務先」を挙げた人が、30代では5%だったのに対し、40歳以上では10%を超え、50代は13.8%ともっとも多かった。ところが、「採用選考で評価された」としたのは、たった1.3%しかいなかった。
![【図表6】現在の勤務先における採用選考でアピールした点②(複数回答)](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/8/5/1200wm/img_85855244d3dd91eed6dc6ed7059ef7c4407825.jpg)
■転職した人のほうが仕事への熱意が高い
さて、いかがでしょうか? みなさんが耳にする噂は、ただの噂に過ぎなかったことがおわかりいただけたと思います。
転職しようと転職しまいとキャリアはつながっています。「今までの働きぶり」が次につながっていくのであり、「今この瞬間」にどれだけ正しい行いをするかで、「この先」が決まります。過去があるから、「今」があり、その繰り返しが「未来」を輝かせます。
さらに注目していただきたいのが、このあとです。ワーク・エンゲージメント(活力・熱意・没頭)に関する質問への回答を、転職者と非転職者で比較したところ、40歳以上では、転職者の方が、より高いワーク・エンゲージメントを示し、その差は、年齢の高い層ほど広がっていたのです(図表7)。
![【図表7】ワーク・エンゲージメント](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/e/9/1200wm/img_e9337f1399f9cc7b7db190e834b942fd408388.jpg)
■給料と幸福感は必ずしも比例しない
「仕事をしていると、力がみなぎるように感じる」「職場では、元気が出て精力的になるように感じる」といった質問項目については、40歳以上では5〜11ポイント程度転職者のほうが高く、「仕事に熱心である」「仕事をしていると、つい夢中になってしまう」についても、6〜11ポイント程度、転職者の方が高いことがわかりました。
45歳以上で特に差が大きかったのが、「仕事は私に活力を与えてくれる」「朝、目が覚めると『さぁ仕事に行こう』という気持ちになる」「仕事に没頭しているとき幸せだと感じる」「私は仕事にのめり込んでいる」などで、転職者の方が5~13ポイント程度非転職者を上回っていました。
調査では、転職をしていない人の方が月収も高く、その差は30~34歳で4万円弱、50代では7万円まで広がっていました。なのに、その50代で、たくさんもらっていない人の方が元気だったのです。
■重要なのは「自分で選択したかどうか」
この結果を、単に「そっか、やっぱり転職した方がモチベーションあがるのか」と解釈するのはいささか乱暴です。転職という行為そのものに価値があるのではなく、「自分で選択する」ことにこそ意義がある。自分がおかれた状況を受け入れ“会社に残る”か、状況を変えるために“会社を出る”か。どちらかに決める勇気です。
実際、件の調査では、会社との関係に関する質問で、「私は選択肢がほとんどないため、この会社を離れることができない」と回答した人が、30代後半以上の非転職者で高まり、40代後半では36.5%で、転職者との差が10ポイント近くありました。
「転職はしない=今の状況を受け入れる」ことも選択なのに、あたかもそこに「選択肢」がないように考えていたのです。
■「選択の自由」を放棄しなければ、自由はある
人生は選択であふれています。
![河合薫『50歳の壁』(MdN新書)](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/8/d/1200wm/img_8d12714b90d27359c77c019ce459ce85244067.jpg)
朝、何時に起きるか?
何を食べるか?
何時に会社に行くか?
選択は常に自由です。
自由というのは0か100かというものじゃない。どんな厳しい条件の中でも「選択の自由」を放棄しなければ、自由はあります。囚われの身となって強制労働をさせられているわけじゃないのです。その自由を放棄した時、「言われたことだけをやっていた方が楽」なんて言葉で自分を納得させようとするのです。
「たとえ険しい道のりであろうと、新天地でもっと自分の力を発揮したい」という、きっぱりした意志があれば、転職はうまくいきます。逆に、“会社に残る”選択をした場合でも、それが自分のおかれた状況を受け入れた上での決断なら、何も恐れることはありません。
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健康社会学者(Ph.D.)、気象予報士
東京大学大学院医学系研究科博士課程修了(Ph.D.)。千葉大学教育学部を卒業後、全日本空輸に入社。気象予報士としてテレビ朝日系「ニュースステーション」などに出演。その後、東京大学大学院医学系研究科に進学し、現在に至る。産業ストレスやポジティブ心理学など、健康生成論の視点から調査研究を進めている。著書に『残念な職場』(PHP新書)、『他人の足を引っぱる男たち』『コロナショックと昭和おじさん社会』(日経プレミアシリーズ)、『定年後からの孤独入門』(SB新書)、『THE HOPE 50歳はどこへ消えた?』(プレジデント社)などがある。
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(健康社会学者(Ph.D.)、気象予報士 河合 薫)
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