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記憶力や体力よりも先にガタが来る…40代から始まる「脳の老化」が進行している人の"残念な特徴"

プレジデントオンライン / 2022年12月15日 15時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/wildpixel

「年齢を重ねれば性格が穏やかになる」というのは本当なのか。医師の和田秀樹さんは「40代を超えると脳の前頭葉が萎縮し老化が始まる。脳が老化するとむしろ些細な出来事でキレやすくなり、感情のコントロールが効かなくなる」という――。

※本稿は、和田秀樹『70歳80歳を笑顔で超える生き方』(さくら舎)の一部を再編集したものです。

■「キレやすい」のは若者だけでない

「キレやすい」といえば、「ムカつく」とともに、若者の特権であるかのように思われている。最近ではむしろ高齢者に多い。

ところが、その一方で、そういう若者を見て、マジ切れし、ムカついている中高年が少なからずいる、ということも事実なのだ。なにも若者だけの現象ではあるまい。

問題なのは、それなりに人生経験を重ねてきて、分別をそなえているはずの人が、自分の感情をコントロールできなくなって、いつまでも怒りつづけているという点だ。若者たちは、次の瞬間にはもう忘れて、べつのところに興味を移してしまっているというのに。

中高年になって、とくに脳に動脈硬化や小さな脳梗塞をいくつも起こしている人は、キレやすく、いったん怒りだすと、怒りがなかなかおさまらなくなることが多くなる。こうした現象を、精神医学では「感情失禁」という。感情が漏れ出てきて、それを抑える術がない状態だ。

■記憶力や体力より先に衰える「感情」

よく昔から、「人間、年をとればとるほど丸くなる」とか、「角がとれる」とかいわれ、そうした状態を表現する「好々爺(こうこうや)」なる言葉もあるほどである。

だから、一般的にはそうしたイメージが強いと思われがちだが、「頑固ジジイ」の言葉どおり、年をとったらむしろキレやすく、怒りっぽくなるという事例は、世間一般にもかなり広く見られる現象なのである。

みずからを振り返ったとき、「最近、些細なことでむしょうに腹が立つようになった」と感じることはないだろうか。

40代後半から50代あたりで管理職になると、「部下の些細なミスが許せない」「若いやつらの言葉遣いが気に食わない」など、それまでは許容できたことが、やたらと癇にさわるようになってきたとは思わないだろうか。

もし思い当たることがあるなら、感情のコントロールができにくくなっている証拠だ。老化が進んでいることに思いいたるべきだろう。

老化といえば、記憶力の衰えが最初にくると思われがちだが、それは実感しやすいからそう思うだけで、じつは記憶力よりも、さらには体力よりも、もっとも先に衰えてくるのが、感情なのである。

■感情や思考を司る前頭葉が老化すると…

大脳は、前頭葉、側頭葉、頭頂葉、後頭葉の四つの部分からなっていて、研究によって、それぞれの機能がかなりの精度で明らかになってきている。

側頭葉は言語機能や形態の認知、後頭葉は視覚情報の処理、頭頂葉は空間認識、数字の操作などをつかさどっている。

それに対し、前頭葉は人間の知的機能の中枢で、感情、自発性、意欲、理性、創造性など、人間のもっとも人間的側面に関与している。その機能は、意欲や感情のコントロール能力、思考の切り換え能力、創造力の源泉の三つに大別される。

大脳はまだ母親の胎内にいるころから側頭葉、頭頂葉が発達をはじめ、最後に前頭葉がふくらんでくる。しかも、前頭葉は知識社会に重要な部位であることから、脳の中でももっとも遅く成熟し、そして、もっとも早く老化する。

前頭葉が老化すれば、当然、自発性、意欲、創造力、判断力などが低下し、抑制がはずれて性格が先鋭化する。さらには、知的活動に支障をきたし、感情のコントロールが困難になる。前述の感情のコントロールの悪さはこの影響も大きいのだ。

少なくとも脳の機能だけで考えれば、年をとるごとに脳の前頭葉が縮んでくるため、感情の抑制がききにくくなったり、自発性の低下や、ものごとを深く考えなくなったりしがちである。

脳の萎縮といっても、脳全体が均等に萎縮するわけではない。私はかつて老人医療の現場で、高齢者の脳の画像を大量に観察してきた経験がある。その結果、前頭葉がもっとも早く萎縮することがわかってきた。

高齢になれば、体力、知力が衰えるのはわかるが、医学的にみると、感情のほうが先に衰えるのである。つまり、前頭葉の萎縮によって感情が衰えるから、老け込んでしまうのである。

早ければ、老化は40代からはじまる。これが人間の摂理なのだ。

■脳の老化が進む人は「いつも不機嫌」そうに映る

なにが不満なのかわからないのに、いつも仏頂面をしていて、なにごとにつけ、不満を口にしたり、突っかかってきたりする。いつもイラついていて、周囲と打ち解けようともしない。

自分のなかに、そういうところはないだろうか。

中年サラリーマンの真剣に考えて
写真=iStock.com/Kazzpix
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Kazzpix

会社で部下のちょっとしたミスも許せなくなり、ガミガミと怒鳴りつけ、そのことによって、自分の権威を守ろうとするところもある。また、自分に自信がないと、それを隠そうとして、不機嫌そうに振る舞うこともある。ある種の自己防衛だ。

また、若い部下からなにかを聞かれても、「そんなことも知らないのか」とか、「自分で考えろ」といった態度をとったり、いかにもめんどうくさそうに突き放したりする。

こういう人と積極的に友だちになりたいと思う人は、あまりいないだろう。その結果、孤独感にさいなまれるようになると、ますます意固地になる。とくに、会社を定年でやめたあとに、そうした状態がひどくなることが多い。

感情の衰えから、表情がとぼしくなり、まわりの人にはそれが不機嫌そうに見えることもある。実際、表情豊かな人は、あまり不機嫌になったりはしない。

感情のコントロールがうまくできなくなり、いろいろな場面に応じた表情がとれなくなる。それが周囲にどのように映っているかを、推し量ることもできにくくなる。

こうしたことも、前頭葉の老化と無関係ではない。

■思考が短絡的になって詐欺にも引っ掛かる

高齢者がお世辞をわりと真に受けてしまうのも、前頭葉が萎縮し、疑う能力が落ちてきたことを示している。

前述のように、前頭葉には思考、意欲、感情、理性、性格など、人間が人間らしく生きていくための要素が詰まっている。いろいろな可能性を考える部位でもあるので、そこが萎縮してくると、どうしても思考が短絡的になり、ものごとを疑うことができにくくなる。

だから、いとも簡単に振り込め詐欺などにひっかかったりもする。

困ったことに、自分がだまされていることに気づかず、またそれを認めようとしなくなる。だから、同じことを何度もくり返してしまう。

若い人の場合、前頭葉の機能が活発だから、一つの問題に対しても、すぐにいくつもソリューション、つまり解決方法を思いつくことができる。

■『リア王』に見る脳機能の衰え

シェークスピアの『リア王』の物語は、前頭葉の機能が落ちた老人の典型例だ。

気まぐれでものごとを深く考えられない。いろいろな角度から見られない。癇癪持ちで怒りだしたら止まらない。そのくせ、信頼すべきところで猜疑心が強くなったり、周囲から自分を立ててもらわないと不機嫌になったりする。

このドラマには、前頭葉の機能が衰えた老人の特徴を示すエピソードがいたるところに登場する。

リア王は年老いて、3人の娘に国を分け与えて退位しようとした。その条件として出したのが、自分に対する愛情を示すことだった。

末娘は父親への真の愛情から、姉たちのような甘言を弄することができなかったため、激怒したリア王は、彼女を勘当し、彼女をかばった忠臣まで追放してしまう。

完全にものごとを客観的に見られなくなり、感情の抑制がきかなくなった状態だが、本人にその自覚がなく、自分が絶対に正しいと思い込んでいる。

ところが、上の2人の娘たちは、領土をもらったとたん父親をないがしろにし、追放してしまう。結局、自分をもっとも愛していたのは末娘だったと悟るが、上の娘たちとの戦いに破れて、末娘は殺され、とらわれの身となったリア王も、失意のなかで悶死する。

まったく救いのないドラマだが、現実の世界でも、年をとってくると、チヤホヤされなかったり、自分を立ててもらえなかったりすることを嫌がるようになるという、いわゆる「リア王現象」が顕著になってきている。

若いころはもとより、30代、40代ぐらいまでは、まわりからなれなれしい言葉、いわゆるタメ口をきかれても平気だったのに、脳が老化してくると、自分を立ててもらえないと感じて、カッとなる傾向が出てくる。

キレやすくなるだけでなく、序列にこだわるようになるのも、前頭葉老化の特徴なのだ。

■「年を取れば丸くなる」は間違い

脳の摂理からいっても、好々爺イメージより、キレやすくなるほうが常態に近いということがわかるだろう。「年をとれば、人間が丸くなり、穏やかになる」というのは、間違った思い込みだ。

まずは、こうした「円熟幻想」から考えなおす必要がありそうである。

和田秀樹『70歳80歳を笑顔で超える生き方』(さくら舎)
和田秀樹『70歳80歳を笑顔で超える生き方』(さくら舎)

好々爺というのは、もともと老人が怒りやすい存在であるため、周囲が気をつかって年配者を立てたり、あがめたり、いたわったりする風潮からつくられた概念で、いわば人間の知恵ではないかと思う。

好々爺のイメージにも三つのパターンがあって、一つは、年をとって、世の中を達観した状態の人。いわゆる哲人タイプで、なにごとにも悟りきったかのように自分なりの解決法で対処していく。宗教者のごとき諦観の念に到達して、あきらめもよくなる。

これは、いわゆる「考え無精」だ。前頭葉が萎縮してくると、あれこれ考えるのがめんどうになるが、その一つのあらわれである。

あるいは、社会における人間の知恵で、周囲からいたわられたり、あがめられたりしていると、つねに自己愛が満たされた環境にひたることができ、いわゆる「衣食足りて礼節を知る」状態を享受して、あまりイライラしなくてもすむタイプ。

人生のなかでずっと成功者でいたような人は、実際に年をとってから角がとれて丸くなる傾向がある。

■認知症の人がいつもニコニコしている理由

好々爺の三つ目のタイプは、赤瀬川原平さんが提唱した「老人力」の境地。これは、前頭葉だけではなく、脳全体の機能がすっかり衰えてきたケースである。

たとえば、認知症のおじいさんがいつもニコニコしているのは、嫌なことを忘れてしまっているからで、イライラしたり、怒ったりする必要もなくなった結果、好々爺になる。

認知症までいかなくても、本格的に老いて、怒る元気もなくなったり、物忘れがひどくなったりするレベルでも、好々爺イメージに重なってくる。

さて、好々爺を自任するあなたは、どのタイプだろうか。

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和田 秀樹(わだ・ひでき)
精神科医
1960年、大阪市生まれ。精神科医。東京大学医学部卒。ルネクリニック東京院院長、一橋大学経済学部・東京医科歯科大学非常勤講師。2022年3月発売の『80歳の壁』が2022年トーハン・日販年間総合ベストセラー1位に。メルマガ 和田秀樹の「テレビでもラジオでも言えないわたしの本音」

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(精神科医 和田 秀樹)

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