1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. 経済
  4. ビジネス

なぜ勝手に内見を断っていたのか…不動産会社の「値下げしないと売れない」を信じてはいけないワケ

プレジデントオンライン / 2022年12月14日 9時15分

国土交通省・不動産価格指数「不動産価格指数(住宅)(令和4年7月分・季節調整値)」より

不動産を売却するときには、何に気をつけるべきか。『悩める売主を救う 不動産エージェントという選択』(幻冬舎メディアコンサルティング)を書いた不動産コンサルタントの長嶋修さんは「日本ではアメリカでは禁止されている『両手取引』という商慣行が続いている。不動産会社の『値下げしないと売れない』という言葉を信じてはいけない」という――。

■不動産の需要が供給を上回っている

不動産価格の高騰が続いています。国土交通省が公表した2022年7月の不動産価格指数は、戸建て住宅が116.2、マンションが183.4と、2010年にくらべてそれぞれ1.16倍、1.83倍となっています。

価格が高騰する理由としては、コロナ禍やウクライナ戦争による資源高・建築費の上昇がありますが、それだけではありません。

物の値段は需要と供給によって決まります。日本で不動産価格が高騰しているのは、不動産を買う「需要」に対して、「供給」が少ないということを表しています。

つまり「売り手市場」だということです。

■「売り手市場」がもたらす歪み

こうした状況はなにもいまになって始まったわけではありません。

日本の不動産価格は、戦後の住宅難の時代やバブル期を通じて、右肩上がりで推移してきました。

人口の増加や経済成長にともない、住宅の「供給」を、「需要」が上回ってきたということです。

その後バブル崩壊後に「需要」が落ち込み、不動産価格は下落しましたが、「失われた30年」を振り返ると、不動産業界の状況はあまり変わっていないと言えるでしょう。

そうした「売り手市場」が、日本の不動産業界に、顧客の利益を一段下に見るような文化をもたらしたのかもしれません。

私たちが不動産を買いたい/売りたいと思えば、まず不動産会社に相談することになります。顧客である私たちは、できるだけ安く不動産を買いたい、あるいはできるだけ高く不動産を売りたい、というニーズを持っています。

当然、不動産会社には、私たちのニーズをかなえてくれることを期待します。

しかし、不動産会社が最重要視しているのは、顧客の利益ではありません。

日本の不動産業界には、自分たちの利益を優先し、顧客の利益をないがしろにするような慣行がはびこっています。

そのため、不動産を売買しようとしても「割高な価格で買わされる」「本当は高く売れるのに、割安な価格で売られてしまう」というケースが後を絶たないのです。

顧客の利益をないがしろにする慣行がはびこっている
写真=iStock.com/SPmemory
顧客の利益をないがしろにする慣行がはびこっている(※写真はイメージです) - 写真=iStock.com/SPmemory

■5000万円で売却のはずが、4700万円に値下げ…

実際にあったケースをご紹介しましょう。

Aさんは東京都台東区に築20年のマンションを持っていました。間取りは3LDKです。

子どもの独立をきっかけに、このマンションを売却して、夫婦2人向けのマンションに住み替えようと考えました。

大手不動産仲介会社に依頼したところ、担当者から5000万円という売却価格の提示を受けました。

Aさん自身で調べたところ、周辺の相場と比べても妥当な金額だと思ったので、販売を開始してもらうことにしました。

しかし、内見がまったくない状況がしばらく続きました。

販売開始から1カ月後、この不動産会社の担当者から、「価格を4700万円に下げれば、リフォーム前提ですぐに買うという業者がいる」と提案を受けます。

Aさんは、急いで売却する必要はないと思い、またこの不動産会社から売却を急かすような発言があったことから不信感を抱き、不動産エージェントに相談することにしました。

■値下げどころか、5300万円でも売却可能

不動産エージェントの調査結果は、驚くべきものでした。

まず、過去3年間の売買記録を調べたところ、Aさんの物件と築年数・間取りが同程度で、かつ東京都台東区周辺の物件は、すべて販売開始後1カ月程度で売れていました。

このエリアはファミリー層のニーズが強く、Aさんの物件であればおそらく5300万円でも売却可能だということがわかりました。

不動産会社が提案した売却価格5000万円より300万円も高く売れるのです。

■不動産会社が勝手に内見を断っていた

次に、エージェントは不動産会社を通じてAさんの物件に内見の申し込みをしてみました。不動産会社がどのような対応をするのか、探ってみたのです。

すると、案の定、不動産会社から「売主が引っ越し準備中で、すぐには内見できない」という返事がありました。

Aさんは不動産会社に、「いつでも内見可能」と伝えていたにもかかわらず、不動産会社が勝手に内見を断っていたのです。

おまけに、内見の申し込みがあったこと自体も、Aさんに報告していませんでした。

不動産会社が勝手に内見を断っていた
写真=iStock.com/Andrii Yalanskyi
不動産会社が勝手に内見を断っていた(※写真はイメージです) - 写真=iStock.com/Andrii Yalanskyi

■不動産会社にとっておいしい「両手取引」

なぜこの不動産会社はこうした対応をしていたのでしょうか。

その答えは、「両手取引」を狙っていたからです。

不動産の取引では、売主と買主の間に不動産会社が入り、取引を仲介する代わりに、手数料を得ます。

この際、売主側からも、買主側からも手数料を得ることを両手取引と言います。

1つの売買で手数料を2度得るのですから、不動産会社にとっては「おいしい」取引となります。

不動産会社は「両手取引」を狙っていた
写真=iStock.com/venuestock
不動産会社は「両手取引」を狙っていた(※写真はイメージです) - 写真=iStock.com/venuestock

■「売主が700万円損する」のは承知の上だった

先ほどのケースでは、不動産会社は、Aさんのマンションを、相場より安い4700万円でリフォーム前提の買取業者に売却しようとしていました。

4700万円で売却すれば、不動産会社には手数料として、不動産価格の3%、141万円が入ります。

その後、この買取業者がリフォームしたAさんのマンションを6000万円で再度販売すれば、不動産会社は再び手数料3%、180万円を得られるというわけです。

この取引を実現するため、不動産会社はAさんが損をする取引なのは承知の上で、他の申し込みをすべて断っていたのです。

エージェントの調査結果を受けて、Aさんがあらためて5300万円で販売開始したところ、無事希望価格で売却できました。

当初の不動産会社の言う通りにしていたら、Aさんは700万円も損していたことになります。

■日本の不動産が抱える「歪み」

日本の不動産市場は歪んでいます。国土交通省が2020年に発表した「既存住宅市場の活性化について」という資料では、新築住宅と中古住宅の取引数の比率は、新築85.5%に対し中古14.5%と、8割以上が新築住宅となっています。

一方、アメリカでは中古が81%、イギリス(イングランドのみ)では85.9%、フランスは69.8%が中古取引です。海外の成熟した市場では中古住宅の割合が多いのが一般的なのです。

日本で中古不動産の流通性が低い理由の一つが、先に触れた不動産会社による「両手取引」が常態化していることにあります。

不動産会社が物件情報を囲い込んで、両手取引を狙うため、中古不動産の流通が阻害されてしまうのです。

■「両手取引」「囲い込み」アメリカでは禁止

日本では「両手取引」が当たり前のように行われていますが、海外は違います。

アメリカでは不動産取引を個人の不動産エージェントに依頼するのが一般的です。不動産エージェントは州に認定された資格で、個人事業主です。

両手取引は禁止されていて、一つの取引に、売主側と買主側で別のエージェントがつくのが常識です。

また、エージェントには厳しい審査があり、高い倫理性が担保されています。

アメリカでは不動産の囲い込み自体も禁じられています。

日本では不動産データベースとして「レインズ」が有名ですが、アメリカには「MLS(Multiple Listing Service)」というものがあります。

MLSの規模はレインズの比ではなく、物件そのものの情報にくわえて、登記状況や過去の取引履歴など、不動産にひも付くデータが網羅されています。

また、その情報の利用に制限はありません。

■「レインズ」の仕組みが両手取引を可能にしている

一方、レインズ情報の利用には制限がかけられます。

不動産情報を登録した不動産仲介会社が「広告掲載不可」に設定すると、他の不動産仲介会社はこの不動産を広告することができません。

不動産情報を登録しながら、広告掲載は拒否するのは、つまり不動産会社が物件を囲い込んで、両手取引を狙っているからです。

レインズはその仕組み上、物件の囲い込みと両手取引を可能にしているのです。

■「日本の透明度」は世界12位

この事実は、日本の不動産市場が非常にアンバランスで、闇に包まれていることを示しています。

その結果、中古不動産の流通が抑えられ、新築だけが売れる、いびつな市場となっているのです。

欧米諸国に比べて、日本の不動産業界の透明性が低いという調査結果もあります。

世界中の不動産情報を収集するJLL(Jones Lang LaSalle)が2年ごとに発表する「グローバル不動産透明度インデックス」の2022年度の結果によると、日本の不動産業界の透明度は12位でした。

日本は近年順位を上げてきているものの、欧米諸国と比べるとまだまだ「不透明な不動産業界」と評価されているのです。

こうした問題が長年放置されているせいで、新築中心の業界構造が是正されず、不動産が思ったように売れずに悩む売主が後を絶たないのです。

----------

長嶋 修(ながしま・おさむ)
不動産コンサルタント
さくら事務所会長。1967年生まれ。業界初の個人向け不動産コンサルティング会社「さくら事務所」を設立し、現在に至る。著書・メディア出演多数。YouTubeでも情報発信中。

----------

(不動産コンサルタント 長嶋 修)

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

デイリー: 参加する
ウィークリー: 参加する
マンスリー: 参加する
10秒滞在

記事にリアクションする

次の記事を探す

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください