経験者は「こんなに安くていいのか」と心配になる…医療費がタダ同然になる「自己負担区分」の仕組み
プレジデントオンライン / 2022年12月26日 9時15分
※本稿は、中町敏矢『月14万円の年金で夫婦が生活している術』(ぱる出版)の一部を再編集したものです。
■無料・格安で治療を受けられる「無料低額診療事業」
「おカネがないから病院には行けない」と諦めることはない。
おカネがなくてもOKという病院がある。それは「無料低額診療事業」という制度にかかわる医療機関だ。
生活保護を受けていれば、自治体に指定された医療機関でかかる医療費は無料になる。
一方、無料低額診療事業は、生活保護を受けていないが、経済的に立ち往生している人が、無料または格安で治療が受けられるという、法で規定された制度である。
ただし、どの病院でもやっているわけではない。厚生労働省が2021年にまとめたデータでは、全国732カ所の医療機関が実施している。
収入が生活保護基準の120%以下なら無料、140%以下なら安くする、という基準を設けている病院が多い。
〈無料低額診療施設の探し方〉
・インターネットで「無料低額診療 病院 住んでいる地域」で検索する。
・全日本民医連のサイトがくわしい。
・自治体の社会福祉担当の部署や、社会福祉協議会でも紹介してくれる。
〈無料低額診療を受ける手続き〉
1.病院に駐在する医療ソーシャルワーカーと面談する。無料低額診療を行っている病院には、必ず医療ソーシャルワーカーがいる。
2.面談では収入、生活状況、健康状態についての確認がある。
3.収入の説明のため、年金通知書、給与明細、預金通帳などを持参する。
診察が受けられる期間として、3カ月、6カ月などの期限を設けているところがほとんどだが、生活困窮状態が改善しなければ、再度申請して延長することができる。
また、薬代も無料にできる。病院外の調剤薬局で薬を買うと自己負担になるが、病院内で薬を渡せるようにし、薬代を無料にしている病院もある。
■「リフィル処方箋」なら診察費が不要
医師が1度に出せるクスリは、最長2週間分という制約があった。
だが、20年前に原則として「無制限」に変更になった。
ただし、発売から1年未満の新薬は14日まで、向精神薬・睡眠導入剤・抗不安薬などはそれぞれ14日まで、30日まで、90日までという制限がある。
2022年4月から「リフィル処方箋」という新制度が導入された。症状が安定している場合に3回まで診察なしで、薬局で処方箋を書いてもらえる。
■2カ月分の薬をまとめて「高額療養費制度」を適用
1カ月の医療費の自己負担には上限があり、それを超えた分は払わなくていい。これを高額療養費制度という。また、治療薬にも高額療養費制度が適用される。
![【図表1】高額療養費制度とは](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/d/2/1200wm/img_d22a6f0c6d1fe5d6744d4aed43d0cc3f194476.jpg)
肝臓病患者のAさんの場合、1カ月の薬代は5万円だ。ただAさんは住民税非課税者だったので、自己負担限度額は1カ月あたり3万5400円。
Aさんは、あることに気づいた。2カ月分の薬をまとめてもらえば、高額療養費制度が適用されて、10万円(月5万円×2)の薬代が、3万5400円の負担ですむのではないか。
医師に相談してみると、OKがでた。病状が安定しているからだ。
このやり方でAさんは、金銭的負担を半減しただけでなく、通院時間を節約し、むだな体力の消耗を回避できた。
■入院時の「差額ベッド代」実は拒否できる場合も
入院時の個室料金を「差額ベッド代」と言う。大部屋に入院した場合の費用との差額のことだ。
差額ベッド代は、病院ごとに料金が決まっている。1日10万円という病院もある。
差額ベッド代の正式名称は「特別療養環境室料」という。
差額ベッド代は、「個室を利用した時だけ」ではない。次の病室は個室ではないが、「特別療養環境室」とみなされ、差額ベッド代が発生する。
・病室の病床数(ベッド数)が4床以下
・病室の1人あたり面積が6.4平方メートル以上
・各病床にプライバシーを確保する設備がある
・特別の療養環境として適切な設備を有する
この「差額ベッド代」の請求だが、実は次の3つの場合は支払いを拒否できる。
![「差額ベッド代」の支払いを拒否できることも](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/d/d/1200wm/img_dd4bcb794ede57bd45e0f77122aba4c6406238.jpg)
1.病院から同意書による確認がないのに、個室に入院した場合
同意書は必須で、これなしでは個室に同意したことにならない。したがって、個室料金の請求はできない。
また、同意書にサインしていても、説明が不十分だった場合も、支払いは不要。
2.治療上、個室への入院が必須だった場合
たとえば「救急または手術後の患者で、病状が重く、常に監視が必要」「免疫力低下により感染症にかかるおそれがある」――これらの理由がある場合は、個室代を支払う必要はない。
3.病院側の都合により個室に入院した場合
「院内感染を避けるために個室に隔離」など、病院側の都合で個室に入院した場合も支払いは不要。注文していないのに高い料理を出されて、高い料金を請求されても、普通は払う必要はないのと同じことだ。
万一、病院が執拗(しつよう)に請求してきても、あわててはいけない。請求を引っ込めない場合は、都道府県の相談窓口に連絡する、と伝えよう。行政に決着をつけてもらうしかない。
■低所得者ほど得な「高額療養費制度」
高額療養費制度の自己負担の上限額は、70歳未満と70歳以上でまず2分し、それぞれを所得によって5ゾーン(アからオ)に区分している。
![【図表2】高額療養費制度の自己負担の所得区分](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/f/8/1200wm/img_f8a942261e10a6c9c8d28f853c3b803b400891.jpg)
区分エ(年収約370万円以下)では5万7600円、区分オ(住民税非課税者)は3万5400円が上限である。
同じ治療を受けても、所得ゾーンが異なると、支払額に数倍の差が生じる。
高額療養費制度はまさに低所得者への優遇措置で、社会保障制度の神髄といえる。
同じ医師から同じ手術を受けても、区分によって自己負担が違う。
区分ウ(年収約370万円~770万円)に属するサラリーマンが、手術費として約10万円支払った場合、住民税非課税者の70歳の高齢者なら、8000円で済む。
「こんなに安くていいのか」と老人はつぶやくであろう。
70歳を超えると、病気がちになり、医療費が心配になる。
だが、住民税非課税者の場合、医療費の心配はいらない。69歳以下の上限は3万5400円で、70歳以上では、外来のみ8000円、入院・外来で1万5000円になる。
ちなみに、急がない手術(白内障など)なら、70歳になってから受ければ医療費を節約できる。
■窓口で支払うのは自己負担限度額のみ
以前の高額療養費制度は、窓口で3割の自己負担を全額支払い、多く払い過ぎた分は数カ月後に戻ってくる仕組みだった。
これだと、一旦ある程度のお金を用意しなくてはならない。
いまはこの仕組みが改められている。「限度額適用認定証」を保険者に発行してもらい、それを医療機関に提出すれば、窓口では自己負担限度額だけ支払えばいい。
![【図表3】限度額適用認定証申請](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/e/a/1200wm/img_ea8bb1cb81056c178bef8579b275a3d5231111.jpg)
「限度額適用認定証」を提出しなかった場合は、窓口で3割の自己負担を支払い、後日払い戻しを受ける。
その際も、いまはこちらから請求しなくても、保険者(市町村や健保組合など)が超えた分(高額療養費)を口座に振り込んでくれる。
もっとも、保険者によっては、請求するよう通知を出すだけのところもある。
制度を知らなかった等の理由で、高額療養費の払い戻しを受けていない場合、診察日の翌月1日から2年以内の分については、領収書等の証明書類があれば請求可能だ。
■「1年間で4回目以降」は自己負担限度額が下がる
治療の長期化などで、直近1年間で3回、高額療養費の支給対象となった場合、4回目以降は、自己負担限度額がさらに下がる。
4回目以降は定額となり、区分ウ(年収約370万円~約770万円)、区分エ(年収約370万円以下)のゾーンの人は、月4万4000円、住民税非課税者は2万4600円となる。
なお、保険者が変わると(たとえば、健康保険組合から国民健康保険に変わるなど)、前の保険者の分は、月数に通算されない。
■「年金があと数万円安ければ入院できた」ケースも
定年退職者Bさん(69)は、心臓手術をした。560万円の医療費に対し、支払った額は約133万円だった。Bさんには区分ウ(年収約370~770万円)に該当する収入があったからだ。
![中町敏矢『月14万円の年金で夫婦が生活している術』(ぱる出版)](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/d/f/1200wm/img_dff37b2de1713a6e667b5fa7c92db01e295475.jpg)
この場合、70歳を超えても「高齢者優遇」は受けられない。同じ手術を受けても、最低ゾーンの非課税者なら3.5万円ですむ。
肝臓病の独身男性Cさん(64歳)の年金は月約13万円。病院から入院をすすめられ、月約8万円を提示された。「高すぎて払えない」とCさんは入院しなかった。
ただ、Cさんの年収は、区分エ(年収370万円以下)に属していたので、月の自己負担限度額は5万7600円。これに諸経費を足し、月約8万円になる計算だった。
年金があと数万円少なければ、Cさんは非課税者となり、入院できたのである。
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元経理マン
1948年大阪府生まれ。大阪と京都で小企業を2回転職、経理マンとして定年まで勤め上げる。サラリーマン時代に培った経理の知識を武器に、少額年金でラクに快適に過ごす方法を実践、発信している。著書に、『あんしん・お気楽! 年金15万円のゴージャス生活』(ぱる出版)がある。
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(元経理マン 中町 敏矢)
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