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「セブンのマネでは選ばれない」年間9億品目、売上の半分以上…北海道発コンビニチェーンの"スゴいPB商品"

プレジデントオンライン / 2022年12月13日 13時15分

セイコーマートの看板 - 撮影=本田匡

選ばれる企業は何が違うのか。日本経済新聞記者の白鳥和生さんは「北海道のコンビニチェーン、セイコーマートにヒントがある。多くのコンビニがセブン‐イレブンの模倣と言われる中、製造、運搬、販売に至るまで、独自の路線を開拓してきた。こうして蓄積されたノウハウが、他とは一線を画す店舗を作り出している」という――。

※本稿は、白鳥和生『不況に強いビジネスは北海道の「小売」に学べ』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。

■「夜回りには欠かせない神商品」

「冬の寒い日は、セコマのホットシェフのカツ丼が身体に沁みるんです。夜回りには欠かせない神商品。お世話になっていない記者はいないと思います」

こう話すのは、札幌で警察取材を担当していた女性記者(28)。朝夜警察幹部を個別に回る「サツ回り」では、氷点下の寒空で数時間待つこともザラだったという。

北海道の冬は長くて寒い。そんな北の大地で生きる人々を支えるコンビニがある。

コンビニエンスストアは米国で生まれた業態だが、1970年代以降、日本では独自の成長を遂げた。商品ではおにぎりをはじめとした惣菜・弁当、各種公共料金の収納代行サービス、共同配送システムなど米国にはない品ぞろえやサービスで「社会のインフラ」と言われるまでになった。

日本にコンビニを定着させた鈴木敏文氏は、コンビニの元祖であるサウスランド社からセブン‐イレブンのマニュアルを手に入れたものの、特別なノウハウがまったく書かれていないことに愕然としたと述懐している。

日本式コンビニが米国のレベルをしのぎ、アジアで広がっている伏線になっているが、それとは一線を画して「欧米に学ぶ」姿勢を明確にしているのが北海道のセイコーマート(社名はセコマ)だ。

■他コンビニに先駆けて“会員カード”を導入したワケ

コンビニでは一般的になった会員カード。この取り組みを最初に始めたのが北海道のセイコーマートだというのはあまり知られていない。

セコマの「クラブカード」は2000年6月にスタートした。背景にはPOS(販売時点情報管理)データの限界にあった。多様化する顧客のニーズには誰が買っているという情報がなければ対応できない。そう考えたセコマはいち早く顧客一人ひとりの購買行動を把握するID-POS(顧客属性が紐付いた購買データ)により品ぞろえを決定し、顧客からデータをもらう代わりに割引になるポイントで還元するという仕組みを考えた。

「常連のお客様の反応が薄い。この商品は外そう」――。セコマでは商品の改廃時にこのような会話がなされる。同じ売れ行きの弁当が2つあれば買った客が誰かを判断して継続・廃止を決めているのだ。会員を毎月の購入金額ごとに10段階に区分し、買い上げ上位の得意客が多く支持する商品を優先的に残す。

同じ商品を繰り返し買うリピート客がいるかどうかも重要な判断材料。例えば同じ店で月に1000個売れた商品でも、200人が5個ずつ買っていればリピート客がついていると判断する。1000人が一つずつ買っていた場合はリピート客がいないと判断し、選択を迫られた場合後者の商品を外すといった具合だ。

■1号店オープンはセブン‐イレブンより2年も早い

導入にあたっては英国の大手小売業に学んだ。

1999~2000年に複数の社員を英国に派遣してテスコやセインズベリーのカード戦略を研究。顧客管理とデータ分析を専門に手がけるロイヤリティマーケティング部を設置し、顧客の変化に対応した販売戦略を展開してきた。現在は企画本部が分析を担当する。

コンビニ業界はセブン‐イレブン・ジャパンの模倣が多いと言われる。だが、セコマには海外に学ぶ遺伝子がある。付け加えるならセイコーマートの1号店は1971年でセブン‐イレブンより2年早い。1976年に全米コンビニエンスストア協会(NACS)、翌77年にはオランダの国際SPAR(スパー)本部に加盟。店づくりや商品開発で海外の先進情報をフル活用してきた。

SPAR本部はもともとオランダの中小の小売店が食料品や雑貨などを共同で仕入れるために設立され,欧州を中心に世界展開するボランタリーチェーン。セイコーマートが地区本部「北海道スパー」を1979年に設立し,加盟店の募集と店舗の運営指導を始めた。この関係は2016年に終わるものの、プライベートブランド(PB、セコマでは「リテールブランド」と呼ぶ)に力を入れる必要性も学んだ。

■「ワイン年間400万本」PBにかけるこだわりがある

リテールブランド商品は1000SKU(商品の最小管理単位=品目)ほどあり、年間9億品目を売っている。これは店舗売り上げの5割以上(タバコを除く)になる。

セイコーマートの売り場は大手に比べると酒類の扱いも多い。特にワインが目を引く。1986年に直輸入を開始して以来、テレビCMやポスターなどを自ら制作して年間400万本のワインを売る。中でも一番の売れ筋がチリワインの「G7」。2009年から販売量を増やし続け累計1200万本を突破している。

ワインの種類が豊富な酒類コーナー
撮影=本田匡
ワインの種類が豊富な酒類コーナー - 撮影=本田匡

当初は売れなくてもじっくり育てていくのがセコマ流だ。

丸谷智保会長は「『あの店は牛乳がおいしいから買いに行きたい』とか『お手頃な価格でおいしいワインが買える』とはっきりした商品に対する意識を持ってセイコーマートの店へ足を運んでくれる。行く途中にほかのコンビニがあっても、そこを通り越して行かないと買えない商品がブランド。これを長く育てるという意味ではリテーラーが自ら開発していくべきだ。だからPBは安くて売れるから出したいとか、ナショナルブランド(NB)商品をコピーして少しでも安く出したいといった考え方ではなく、リテーラー自身が育成して企業の顔になっていく商品だ」と話す。

■「ホットシェフ」は欧米ミニスーパーから始まった

創業時は1店のコンビニエンスストアから始まったセイコーマートも、現在では道内175市町村に1000以上の店舗網を有する。

「農業生産・製造」「物流・卸」「小売」を担う28社によるサプライチェーンも築いた。北海道に集中し、製造と物流を自前で手掛け、店舗も直営が8割。セブン‐イレブンやファミリーマート、ローソンの大手3社が志向する高効率システムの逆を行く。

製造から物流、販売にいたる一貫したシステム、それを支える情報システムも同様だ。1979年にはグループ内に食品会社を立ち上げて、惣菜の製造を開始した。その後も水産加工会社や乳業会社などを傘下に収めて、原材料の確保、および商品の製造に注力した。

物流網整備にも早くから着手し、1990年代初めにはすでに全道内の配送体制を築き上げている。

セコマはSPAとしての事業モデルを追求し、道内に原料を求め、製造も手掛けることで地域の雇用創出・維持にも貢献する。「店舗は商品販売チャネルの一つ」と位置づけ、外販にも積極的に取り組む。自社で製造すればコスト管理がしやすくなり、メーカーとしても利益を稼げる。店舗からのロイヤルティー収入に頼るのではなく、サプライチェーン全体で収益を確保する。

また、店内調理の弁当・惣菜メニュー「ホットシェフ」に使うレストラン仕様の調理機などは欧州の展示会をきっかけに調達したものだ。欧米市場で共同仕入れをする現地企業の一つとして調達ルートを開拓し、現地情報に裏打ちされた姿勢が独自性を育んだ。

■「製・配・販」ノウハウは自社でないと蓄積できない

セコマは欧米のチェーンをベンチマークし、独自のコンビニチェーンを築き上げた。

酒類卸の丸ヨ西尾の社員だった赤尾昭彦氏(故人、社長・会長を歴任)は、「取引先の近代化を図らないと、卸は駄目になってしまう」という危機感から、既にコンビニチェーンが確立していた米国に渡り、通訳を雇ってオーナーや店長の話を聞くなどして、チェーン理論の研究を重ねた。そして「米国のコンビニのレイアウトを手描きで写し取るなどして1号店を開設した」(丸谷会長)という。

白鳥和生『不況に強いビジネスは北海道の「小売」に学べ』(プレジデント社)
白鳥和生『不況に強いビジネスは北海道の「小売」に学べ』(プレジデント社)

ホットシェフや、他のコンビニよりも手掛けるのが早かったイートインも米国にヒントがあった。赤尾氏が1980年代にフィラデルフィアのミニスーパーを視察した際、店の真ん中に小さなテーブルが置いてあり、そこで若者たちが店内で購入したパンを食べ、牛乳を飲んでいる光景が赤尾の目にとまったのがきっけだった。

情報システムについては、店舗にストア・オートメーション・システムをいち早く導入。発注から製造、仕入れ、配送、納品までの流れを管理、加盟店が販売に専念できる体制を整え、チェーン本部としてマーチャンダイジングの精度向上に努める。

物流・卸のセイコーフレッシュフーズのほか、食材の生産・加工などを手掛ける工場は道内21カ所に点在する。丸谷会長は「製・配・販それぞれの細かなノウハウは自社でやっていないと蓄積できない。コストをトータルで考えられる強みがある」と語る。

こうした仕組みを社内では「持つ経営」と呼んでいる。

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白鳥 和生(しろとり・かずお)
日本経済新聞社 編集 総合編集センター 調査グループ調査担当部長
明治学院大学国際学部卒業後、1990年に日本経済新聞社に入社。編集局記者として小売り、卸・物流、外食、食品メーカー、流通政策の取材を長く担当した。『日経MJ』デスクを経て、2014年調査部次長、2021年から現職。著書(いずれも共著)に『ようこそ小売業の世界へ』(商業界)、『2050年 超高齢社会のコミュニティ構想』(岩波書店)、『流通と小売経営』(創成社)、新刊『不況に強いビジネスは北海道の「小売」に学べ』(プレジデント社)などがある。消費生活アドバイザー資格を持つほか、國學院大学経済学部非常勤講師(現代ビジネス、マーケティング)、日本フードサービス学会理事なども務める。

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(日本経済新聞社 編集 総合編集センター 調査グループ調査担当部長 白鳥 和生)

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