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65歳を過ぎたらダイエットはしなくていい…リハビリ専門医が「とにかく食べることが大切」と訴えるワケ

プレジデントオンライン / 2022年12月16日 11時15分

フレイルの評価(出所=『「80歳の壁」を超える食事術』)

健康長寿のためには何をするべきか。リハビリテーション科指導医・専門医の吉村芳弘さんは「年をとると食事量が減ってしまう。65歳を過ぎたらメタボ対策よりもフレイル対策を重視して、とにかく食べることを心がけてほしい」という――。(第2回)

※本稿は、吉村芳弘『「80歳の壁」を超える食事術』(幻冬舎新書)の一部を再編集したものです。

■階段の上り下りがつらくなったら要注意

介護は必要としないけれども、日常生活動作や認知機能に衰えが見られる状態である「フレイル」になると肉体的、身体的な衰えにより日常生活に支障が出ます。

健康寿命に関わる恐ろしい症状ですが、脳卒中のように突然生活が中断されるわけではありません。また、がんのように画像診断などでわかるわけでもありません。しかも、加齢とともに悪化するので「年だから」と見過ごされがちです。

フレイルには、身体的フレイル、精神・心理的フレイル、社会的フレイルの3種類があります。身体的フレイルは筋肉や筋力、体力が衰えた状態、精神・心理的フレイルは、意欲低下やうつ病、認知症などが生じる状態、社会的フレイルは社会的な交流が脆弱(ぜいじゃく)になっている状態です。

ひとり暮らしでこもりがちで孤立していたり、近くにスーパーやショッピングモールなどがなく食事の環境が整っていなかったり、ひとりで食事する食生活(孤食)が続くと起こりやすいと言われています。フレイルかどうかを診断するには、簡易的な評価基準が用いられます(図表1)。

体重減少、筋力低下、疲労感、歩行速度、身体活動のうち1〜2項目が当てはまる人はフレイル予備軍(前フレイル・プレフレイル)、3項目以上当てはまればフレイルと診断されます。急に体重が減ったり、階段の上り下りがいつもよりつらいと感じられたりするようになったら注意が必要です。

■いつの間にか握力が弱くなっている人が多い

歩行速度の目安は、横断歩道を渡る速さでチェックすることができます。信号が青になって横断歩道を渡り始め、赤に変わるまでに渡り切れなかったら要注意です。

筋力低下はおもに握力で判断します。家事をしていると鍋やフライパンを持ったり掃除機をかけたりするときに握力を使います。家族が減ると家事の負担も軽くなります。いつの間にか握力が弱くなっている人は多いものです。同居する家族から「ほうれん草のお浸しが水っぽい」とか、「布巾がしぼれていない」などと指摘されたら注意してください。

自分でも確認できるのが、ペットボトルの蓋です。あなたはペットボトルの蓋を自分で開けられますか? 「蓋がやけに固いな」と感じたり、子どもや孫に蓋を開けてもらったりしていたら、それはペットボトルのせいではなくフレイルの危険信号です。

ペットボトルを持つ手
写真=iStock.com/Cavan Images
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Cavan Images

日本では40歳になると、いわゆる「メタボ健診」の対象になります。健診のたびにおへそまわりを測定されるのが憂うつという人もいるでしょう。でも、75歳になるとメタボ健診の対象者でなくなることはご存じでしょうか。じつは2020年から「フレイル健診」が導入され、75歳以降はメタボ健診の代わりにフレイル健診を受けることになったのです。

■注意すべきはメタボ対策よりも「低栄養対策」

フレイル健診では、きちんと食事をとっているか、体重が減少していないか、運動をしているか、などをチェックします。後期高齢者になったからといって生活習慣病のリスクがなくなるわけではありませんが、年を重ねるにつれてフレイルのリスクのほうが高くなり、危険だからです。

とにかくやせすぎている人はちょっとしたけがや病気に耐えられません。また、筋肉が弱るとサルコペニアやフレイルになり、その結果、要介護や寝たきりのリスクが高まります。そのため「これからはしっかり食べて体重を増やし、筋肉をつけましょう」という意識の転換が必要となるのです。

いわば、メタボの「過栄養対策」からフレイルの「低栄養対策」へのギアチェンジです。ただし、75歳という年齢はギアチェンジにはギリギリのタイミングだと私は考えています。人によってはすでに手遅れの年齢かもしれません。できればもっと早く、65歳頃から始めるべきだと思っています。

いつからギアチェンジするかについては医学的にも議論の分かれるところです。個人的な差異が大きいのではっきりと境界線を引くことはできませんが、65歳から75歳まではグレーゾーンです。私の経験から言えば、65歳以上、遅くとも70歳を超えたら、メタボ対策よりもフレイル対策を重視するべきです。そのほうが健康的に長く生きる確率が高まります。

■「とにかく食べること」が大切

ひとりでも多くの人が質の高い人生を長く生きられるようにするには、地域の医療者のサポートが欠かせません。プロの視点で患者さんに向き合い、自治体とともにきめ細かなフレイルのスクリーニングシステムを構築していくことが社会的使命だと考えています。

私が勤務している熊本リハビリテーション病院でも、2022年8月より「フレイル健診」というプロジェクトを立ち上げました。いまは65歳と言っても若いので「フレイル対策」と言われてもピンと来ないかもしれませんが、体づくりは一朝一夕にできるものではありません。しかも80歳をすぎると体力はガクンと落ちます。それから筋肉をつけたり体の機能を強化したりするのは至難の業です。

80歳の壁を超えたら、それまで蓄えてきた健康貯金を使って生きていかなければなりません。60代から70代は、健康貯金を増やすことのできる最後の年代です。早めにギアチェンジして、健康貯金をコツコツ積み上げていきましょう。

健康でいるためにいちばん大切なのは食事です。健康に対する意識とともに、食生活もギアチェンジしましょう。基本的には、とにかく食べることです。

自宅で食べる食事
写真=iStock.com/kazoka30
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kazoka30

■糖質とたんぱく質をしっかり取るべき

年をとると、ほとんどの人は食事の量が減っていきます。店で以前と同じメニューを注文したのに食べ切れず残してしまったという経験はないでしょうか。若い頃より活動量が減ることや、身体的な機能が低下することなどさまざまな理由から、食べる量は減少するのが普通です。このため、いつまでも「太らないように」「これは体に悪いから」など、若い頃の考え方にとらわれているとますます体重が減ってしまいます。

そこで、65歳ぐらいからは好きなものをどんどん食べるようにしてください。ギアチェンジのポイントのひとつは、カロリーをとることです。いままでは「太ってはいけない」と思ってカロリー(エネルギー)制限を気にしていたかもしれませんが、高齢者は食事量が減っていくので、食べたつもりになっても意外に必要なエネルギー量に達していません。

そこで、なんでもいいから食べたいものを食べ、体重を減らさないように注意します。とくに糖質制限をしていた人は食生活のバランスが崩れがちなので、糖質とたんぱく質をしっかりとり、体重を維持または増加させることを優先しましょう。

ファストフードやスナック菓子などは体に悪い代名詞のように言われていますが、適度に脂肪も入っていて少量でカロリーが摂取できるので食べてもかまいません。また、ひとりでいるとつい食事を抜いてしまいがちなので、なるべくほかの人と一緒に食事をする機会をつくりたいものです。

高齢の患者さんを診ていると、ひとり暮らしでも社交的で誰かと食事をする習慣がある人のほうが健康的に長生きする印象があります。

■手軽に筋肉量をチェックできる「指輪っかテスト」

もうひとつのポイントはたんぱく質です。これはあとで詳しく説明しますが、筋肉を増やすために欠かせない栄養素です。食事量を減らさず、カロリーとたんぱく質をしっかりとること。これを60代から70代のうちに始めることができれば、筋肉を増やすことができます。じつはこの筋肉こそ、健康貯金(≒貯筋)の最重要項目なのです。

同じ体重でも筋肉量は人によって異なります。最近では筋肉が多い人のほうが長生きする可能性が高いと考えられるようになってきました。いずれ肥満に関する研究のなかで正確な統計データが明らかにされると思います。

手足に比べて体が太い人を中心性肥満と言います。このタイプの人は太って見えても筋肉量が少ないのが特徴です。一方、手足がしっかり太い人は筋肉がついていてより健康的とされています。ここで、簡単に筋肉量がチェックできる方法をお教えしましょう。サルコペニアの検診で用いられる「指輪っかテスト」というものです(図表2)。

【図表2】指輪っかテスト(サルコペニアの簡易指標)
指輪っかテスト(サルコペニアの簡易指標)(出所=『「80歳の壁」を超える食事術』)

まず、親指と人差し指で輪っかをつくってください。その輪っかで利き足ではない側のふくらはぎのいちばん太いところを囲みます。輪っかに隙間ができてスルッと通せる人は筋肉量が少ない人です。輪っかで囲めない人やちょうど囲める人は、しっかり筋肉がついています。

■ふくらはぎが細い人は健康リスクが高い

考案した東京大学の田中友規先生によれば、指輪っかで囲めないぐらいふくらはぎが太い人と隙間ができるぐらい細い人を比べると、ふくらはぎが細い人はサルコペニアの発症リスクが3倍も高かったと言います。

BMIを計算しなくても、これだけで要介護度や死亡リスクがわかるとされています。私の勤務する病院でも健康教室を開催していますが、参加している70代から80代の方にこのテストをやってもらうと、ほぼ半数は輪っかに隙間ができてしまいます。つまり筋肉量が不足しているわけです。健康教室に参加する方は健康意識が高い方が多いので、高齢者全体で見れば半数以上の方が筋肉不足ということになるのではないでしょうか。

自分の栄養が足りているかどうかは、血液中のアルブミンの数値でわかります。アルブミンとは、血液中に存在する蛋白(たんぱく)質(医学用語では漢字を使います)のうち約6割を占める重要な蛋白質で、通常3.9g/dlが基準値。3.6g/dl以下だと低栄養が疑われます。

また、日常生活のなかで低栄養をチェックするには、最近米国栄養士会と米国静脈経腸栄養学会が示した判断基準が参考になります。

①エネルギー摂取量の低下
②低体重
③体重減少
④浮腫(むくみ)
⑤握力低下

この5項目のうち、2項目以上該当する場合には低栄養の疑いがあります。

■半年で体重が10%減少していたら赤信号

たとえば、急に食事の量が減ったりやせたりしたときは要注意です。とくに6カ月ぐらいのあいだに体重が10%も減少していたら赤信号です。また、低栄養になると筋肉が減るので、握力の低下も重要な指標となります。ここで注意したいのは④浮腫、つまりむくみです。

吉村芳弘『「80歳の壁」を超える食事術』(幻冬舎新書)
吉村芳弘『「80歳の壁」を超える食事術』(幻冬舎新書)

日中立ち仕事をしていると夕方になって足がむくむことはよくあります。これは体の水分(リンパ液や静脈血)や老廃物が下半身に滞留してしまうからです。心臓から送り出された血液は動脈を通って全身に行き渡り、静脈を通って心臓に戻ります。下半身の静脈は重力に逆らって血液を下から上に送らないといけないのですが、このときポンプの役割を担っているのがふくらはぎの筋肉です。

ふくらはぎが「第二の心臓」と言われるのはこのためです。ところが筋肉が減るとポンプ機能がしっかり働かず、心臓に戻れない水分や老廃物が皮膚の下に溜まってむくみの原因となります。指で押してみて、指の跡がいつまでもへこんでいる場合にはむくんでいる恐れがあります。また、目に見える浮腫がある人はたいていお腹にも浮腫があります。腸管に浮腫があると消化吸収力が落ちてしっかり栄養がとれず低栄養になってしまいます。

■健康に長生きするためには筋肉が不可欠

「低栄養」については、近年医学界で国際的に注目すべき動きが見られます。じつはこれまで低栄養には統一された基準がなく、各国や地域、病院などがアルブミン値や体重などをもとに各自で診断を行っていました。そこで世界中の医学者が「世界規模で低栄養の診断基準をつくろう」と議論を重ね、2018年に初めて低栄養に関する統一した基準が作成されたのです。これをGLIM(Global Leadership Initiative on Malnutrition)基準と言います(図表3)。

【図表3】GLIM基準の低栄養診断(アジア人版)
GLIM基準の低栄養診断(アジア人版)(出所=『「80歳の壁」を超える食事術』)

GLIM基準には、人種ごとに異なった基準値が示されています。たとえば日本では従来、BMI18.5kg/m2未満を一律に低体重(やせ)としてきましたが、GLIM基準によるとアジア人のBMIは、70歳未満では18.5kg/m2未満、70歳以上では20.0kg/m2未満とされています。つまり70歳を超えたらBMI20kg/m2よりも低いと低栄養状態で危険ということになります。

また、GLIM基準では筋肉量が初めて栄養診断の指標に採用されました。これは、筋肉の重要性を世界が初めて認めたエポックメイキングな事象だと評価されています。世界的に高齢化が進んでデータが蓄積された結果、健康に長生きするには筋肉が不可欠だという事実が共有されるようになったのです。

人々の意識が「長く生きる」から「よりよく生きる」ことにシフトしていることの現れとも言えます。日本でも高齢者の低栄養判定にGLIM基準を用いることで、サルコペニアやフレイルの早期発見・治療につながると期待しています。

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吉村 芳弘(よしむら・よしひろ)
リハビリテーション科指導医・専門医
1975年、熊本県生まれ。熊本大学医学部卒業。医師、医学博士。東京女子医大心臓血管外科レジデント時代に、やせ細っていく高齢の入院患者の実情を知り、栄養管理とリハビリの重要性を痛感。外科医からリハビリテーション科の専門医に転身。国際的な臨床栄養の専門資格European ESPEN Diplomaを取得した数少ない日本人医師のひとり。熊本リハビリテーション病院でサルコペニア・低栄養研究センター長を務めながら、多くの高齢患者の診療に当たる。著書に『「80歳の壁」を超える食事術』(幻冬舎新書)がある。

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(リハビリテーション科指導医・専門医 吉村 芳弘)

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