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65歳からは朝食ステーキがおすすめ…リハビリ専門医が「健康長寿のためには肉を食べよ」と説くワケ

プレジデントオンライン / 2022年12月17日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/sakai000

健康長寿にはなにを食べるべきか。リハビリテーション科指導医・専門医の吉村芳弘さんは「意識してたんぱく質を摂取したほうがいい。50代までは『太らない=健康』でいいが、65歳以上はやせているほうが健康リスクが高まる。だから私は朝からステーキを食べることを勧めている」という――。(第3回)

※本稿は、吉村芳弘『「80歳の壁」を超える食事術』(幻冬舎新書)の一部を再編集したものです。

■年を取ったら塩分とカロリーは気にしなくていい

筋肉不足でサルコペニアやフレイルになるのがいかに危険で命の問題に直結するか、ここまででおわかりいただけたでしょうか。メタボ予防の「過栄養対策」からフレイル予防の「低栄養対策」へのギアチェンジを図で表したものをご覧ください(図表1)。

【図表1】メタボからフレイル対策のギアチェンジ
メタボからフレイル対策のギアチェンジ(出所=『「80歳の壁」を超える食事術』)

いままで食事のときに「カロリーオーバーにならないように」「塩分は控えめに」と、あれこれがまんしてきたと思います。65歳をすぎたら、健康を維持するのにがまんすることはありません。なんでも好きなものをしっかり食べてください。

大事なのは、体重と筋肉の維持、または増加です。50代までは、「太らない=健康」という考え方でかまいません。でも、65歳以上は真逆です。やせていることは健康リスクそのものです。やせているとちょっとしたけがや病気が原因でフレイルやサルコペニアにおちいりやすく、いったんフレイルサイクルにはまると悪循環から抜け出せません。認知症や寝たきりになるリスクも一気に高まります。とり返しがつかない状況になる前に、食生活を根本的に見直す必要があるのです。

まず、体重を増やすためにカロリーをしっかりとる。スナックでも揚げ物でもいいのです。あっさりよりもこってり、食べたもの勝ちだと思ってください。そして筋肉をつけるためにたんぱく質の摂取量を増やします。野菜より肉や魚ファースト。朝からステーキ大歓迎です。

肥満や血糖値を気にして糖質制限してきた人は、まず制限を解除します。高齢者の糖質は高めでいいというデータもあります。もう厳格な血糖管理は不要な時期なのではないか、と自分の健康状態をふり返ることが大事です。

■血糖値を乱高下させると認知症リスクが高まる

また、塩気が少ないと食欲がわかない人は、これまでより少し多めに塩も醬油も使ってください。みなさんの敵は低栄養です。低栄養は認知症の進行を促すとされています。絶食はもってのほか。食べないよりは食べたほうが断然いいのです。

何を食べてもかまいません。ただ、血糖が乱高下しないように食べ方には気をつけましょう。血糖の乱高下も認知症リスクを高めることがわかっています。食べ始めに甘いものを食べると血糖値が急上昇してしまいます。サラダや副菜などから食べましょう。

野菜は血糖値コントロールのために食べると思ったほうがいいかもしれません。繊維質のものをよく噛んでゆっくり食べると、血糖値の上昇を抑えることができます。ただし、いわゆる「ベジタブルファースト」にすると「サラダだけでお腹いっぱいになっておかずが食べられない」という方もいます。肉や魚などのたんぱく質を優先的に食べてください。

また、食事が不規則になったり、長時間絶食したあといきなりたくさん食べたりすると、血糖値が乱高下してしまいます。食事の内容だけでなく、食習慣で、健康でいられるかどうかが左右されます。ギアチェンジは65歳ぐらいから行うのがベストと申し上げましたが、突然変化させるのではなく、少しずつ体を慣らしていきましょう。

いままで厳しく制限していた食生活を、ある日を境にガラリと変えると体に負担がかかります。糖質制限をしていた人も、糖質を少しずつ元に戻していきます。ポンとカロリーを増やすよりも、たんぱく質を足していくことから考えるとよいでしょう。

■野菜のみそ汁よりも豚汁がオススメ

まずたんぱく質。そして主食と副菜というバランスが食事のとり方の基本です。

よく「30品目以上とりましょう」などと言われますが、どんなにたくさん食べてもたんぱく質がなければ筋肉はつくられません。たんぱく質を摂取することが何より重要なのです。自分の食事を見直し、たんぱく質が含まれているかどうかをチェックしてください。

「年をとったら一汁一菜でじゅうぶん」とか「粗食こそ美食」という考えは捨てましょう。人生50年の時代ならともかく、いまは100歳を超えて生きる時代です。日本人の食への考え方も時代に合わせて変えていかなくてはなりません。

ごはんと野菜の味噌汁だけでは、たんぱく質は絶対的に足りません。どうしても食欲が出なくて一汁一菜でじゅうぶんというときにも、味噌汁の具に豆腐や肉、魚などのたんぱく質を必ず入れてください。豚汁なら文句なし。調理が面倒なら、味噌汁に鯖缶を丸ごと入れた鯖の味噌汁なんて簡単でいいでしょう。栄養価がグンと上がります。

豚肉と野菜のみそ汁
写真=iStock.com/flyingv43
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/flyingv43

「たんぱく質、たんぱく質と言うけれど、ミネラルやビタミンだって不足したらいけないでしょう」などと栄養について細かく心配する方もいますが、たんぱく質と主食と副菜という基本の三本柱がしっかりしていれば、ミネラルやビタミンはあとから自然とついてくるものです。患者さんやご家族にも「あれこれ細かく悩む暇があったら、なんでもいいからたんぱく質をとってください」と伝えています。

■持病がある人は積極的にたんぱく質を摂るべき

60歳をすぎると、持病がゼロの人はほとんどいないでしょう。高血圧とか糖尿病、COPD、がんなどいくつか健康問題を抱えている人のほうが多いはずです。こういう状態をマルチモビディティ(多疾患併存)と言います。私たち医師は「マルモ」と呼んでいます。

高齢化が進むとともにマルモの人は増加しており、日本でも高齢者の6割以上がマルモとされています。マルモになると診療科が複数になったり薬剤治療が難しくなったりするなどさまざまな問題が生じるため、近年世界的に医療上の課題となっています。

慢性疾患がある患者さんは全身に弱い炎症反応が起きていますが、マルモになるとさらに炎症が進みます。このため、持病のない人に比べてたんぱく質の消費が高まり、通常より多くのたんぱく質摂取が必要となります。がんなどの悪液質の患者さんならなおさらです。

また慢性腎臓病の患者さんについては、たんぱく質摂取が腎機能の低下を促進させる恐れがあるとして、長らくたんぱく質制限が行われてきました。けれども最近では「低たんぱく食が腎臓病の進行を遅らせる証拠はない」という研究も出ています。一方で、低たんぱく食によるサルコペニアやフレイル発症などのリスクについて関心が集まっています。

このため、低たんぱく食が腎臓病に与えるメリットと、サルコペニアやフレイルを生じるデメリットを天秤にかけたとき、高齢者ではデメリットのほうが大きいと考える専門家が増えつつあります。いまだ結論は得られていませんが、腎臓病患者さんのたんぱく質制限については全体的に緩和方向にあります。

■努力しないと必要なたんぱく質を摂取できない

たんぱく質は魚か肉、大豆食品や乳製品から、3食毎食とってください。体重1kgあたり1日1gのたんぱく質が最低でも必要です。体重60kgの人なら1日60gとらないとなりません。これを1食あたりに換算すると20gになります。20gのたんぱく質とは、どの程度だと思いますか?

納豆1パックだとせいぜい7g弱しかたんぱく質は含まれていません。ごはんに納豆だけでは不足してしまいます。そこに鮭を一切れ食べたとしてもプラス15gぐらいのものです。さらに豆腐の味噌汁などをつけて、ようやく20gをクリアできます。結構がんばらないと1日60gには達しないのです(図表2)。

【図表2】1日にたんぱく質60gをとるためには?
1日にたんぱく質60gをとるためには?(出所=『「80歳の壁」を超える食事術』)

■たんぱく質の摂取量と健康には因果関係がある

「朝からそんなには食べられない」などと言わず、朝も昼も晩も、3食きちんととってほしいのです。とくに朝食は最重要です。多くの人が、前日の夕食から朝食まで夜間の10〜12時間程度絶食していることになります。そのため朝は低血糖になりがちです。

朝の低血糖を、昼や夜に補おうとすると、血糖のバランスが崩れ、1日の血糖値が乱高下することになってしまいます。80歳をすぎても体がしっかりしていて顔の色つやもよく、声にもはりがある方は、朝食をきちんととっています。しかも「朝からステーキを食べています」という人も珍しくありません。朝からたんぱく質をとると、1日の活力源になります。食べれば元気が出て、動くことができ、その結果として筋肉がつくのです。

牛乳や乳製品はたんぱく質強化に有効です。たとえば汁物やおかずにスキムミルク大さじ1杯(10g)を混ぜる方法もあります。それだけでたんぱく質3g増になります。

2020年に発表された厚生労働省の「日本人の食事摂取基準」では、初めて高齢者のサルコペニア・フレイル予防とたんぱく質摂取の重要性を明確に指摘しました。それによるとアメリカの研究では、たんぱく質の摂取量を20%増やすとフレイル発症率が30%下がることが予想されると言います。また、日本の65歳以上の女性を対象とした研究では、たんぱく質摂取量が1日70g以上のグループは、1日63g未満のグループと比べてフレイル発症率が有意に低かったとしています。

こうしたことからサルコペニアを予防するにはたんぱく質の摂取が重要であり、高齢者ほどたんぱく質必要摂取量が多くなることがわかります。

■サラダチキンや魚などがオススメ

健康な高齢者に推奨される体重1kgあたりのたんぱく質摂取量は、ヨーロッパでは1.0〜1.2g、アメリカでは1.0〜1.5gです。体重1kgあたり1日1.5gのたんぱく質を摂取した高齢者は、0.8gを摂取したグループと比べて下肢身体能力が有意に高いという報告もあります。

こうしたことを考えると、65歳以上のギアチェンジ期に入ったら、たんぱく質は少なくとも体重1kgあたり1.0g。できれば1.5gを目安に摂取することが望ましいと言えます。とはいえ、誰もが朝からステーキをぺろりといけるわけではありません。高齢になるほど、消化力が落ち「肉なんて胃もたれして食べられない」と言う人もいるでしょう。

牛肉で胃もたれするなら魚や鶏のささ身、胸肉など脂肪分が少ないたんぱく質食材がお勧めです。スーパーやコンビニで売っているサラダチキンも低脂肪高たんぱくの代表的な食材です。

蒸し鶏
写真=iStock.com/runin
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/runin

■食べられる人は霜降り肉を食べたほうがいい

吉村芳弘『「80歳の壁」を超える食事術』(幻冬舎新書)
吉村芳弘『「80歳の壁」を超える食事術』(幻冬舎新書)

また、ちくわやはんぺん、かまぼこなどの練り製品はおもに白身魚が原料です。魚のように調理する手間がいらず、手軽に良質なたんぱく質が摂取できます。最近では豆腐のたんぱく質を使ったバーや焼き肉風味の豆腐のお肉などの食材をスーパーでも見かけるようになりました。

ひとパックで「たんぱく質10g」などと明記してあるので重宝です。このような食材を冷蔵庫に常備しておき、「今日はたんぱく質が足りないな」と思ったときに、一皿加えるとよいかもしれません。毎日ステーキとはいかなくても、ときにはすき焼きなどで脂の乗った霜降り肉を食べてほしいものです。

赤身肉にはロイシンという必須アミノ酸が含まれ、筋肉の合成を高めてくれます。サルコペニアを予防するにはもってこいの食材です。赤身肉は、若いときは食べすぎるとがん発症リスクが高まると言われていますが、65歳をすぎた人には関係ありません。食べられる人は思う存分食べてください。

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吉村 芳弘(よしむら・よしひろ)
リハビリテーション科指導医・専門医
1975年、熊本県生まれ。熊本大学医学部卒業。医師、医学博士。東京女子医大心臓血管外科レジデント時代に、やせ細っていく高齢の入院患者の実情を知り、栄養管理とリハビリの重要性を痛感。外科医からリハビリテーション科の専門医に転身。国際的な臨床栄養の専門資格European ESPEN Diplomaを取得した数少ない日本人医師のひとり。熊本リハビリテーション病院でサルコペニア・低栄養研究センター長を務めながら、多くの高齢患者の診療に当たる。著書に『「80歳の壁」を超える食事術』(幻冬舎新書)がある。

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(リハビリテーション科指導医・専門医 吉村 芳弘)

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