悪質な投稿は「著作権侵害」の罪になる…ネット上で「許されるネタバレ」と「ダメなネタバレ」の境界線
プレジデントオンライン / 2022年12月18日 13時15分
※本稿は、小林航太『オタク六法』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。
1 この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
⑦の2(公衆送信) 公衆によって直接受信されることを目的として無線通信または有線電気通信の送信を行うことをいう。
■なぜ写真やイラストの「無断転載」をしてはいけないのか
「自分がSNSに投稿した写真をbotアカウントに勝手に再投稿された」「海外のサイトに自分の作品が勝手に掲載されていた」……これらは一般に「無断転載」と呼ばれますが、著作権者の許諾を得ずに複製した著作物を、さらに著作権者の許諾を得ずに発信する行為であり、複製権および公衆送信権の侵害にあたります。
公衆送信権とは、テレビ放送やラジオ放送、有線放送、インターネットなど、有線・無線のあらゆる通信手段によって、著作物を公衆に伝達(送信)する権利のことを言います。ここでいう「公衆」は、不特定または多数人のことを指します。たとえば、マンションの住人のみに配信するような場合も公衆にあたります。
テレビ放送などのように、同時に公衆に向けて送信するのが通常の公衆送信ですが、公衆からの求めに応じて自動的に行われる送信も、公衆送信(自動公衆送信)にあたります。たとえば、パソコンのウェブブラウザでサイト上の画像(著作物)を見る場合、サイトにアクセスをすると、サーバー上に保存されている画像のデータが自動的にアクセスしたパソコンに送信されて、ウェブブラウザに表示されるというしくみになっています。このようなしくみにより送信することも、公衆送信に含まれます。
またこの場合、公衆送信を可能にするためには、サーバーに著作物をアップロードしておく必要がありますが、このようにアップロードをして送信を可能にすること(送信可能化)じたいも、公衆送信権として保護されています。
■「無断リツイート禁止」は無断転載にはならない
無断転載についてよくある質問をご紹介しましょう。
【Q1】Twitterのプロフィールに「無断リツイート禁止」と書いてある人のツイートを無断でリツイートすることは無断転載になりますか?
【A1】Twitterの利用規約上、ユーザーは、Twitterで提供されている機能や手順に従う限りは、Twitter上のコンテンツを自由に利用することが許されています。逆に言えば、Twitter上の機能や手順に従った利用をされることを、各ユーザーは受け入れる必要があります。これには当然リツイートも含まれますから、「無断リツイート禁止」などと書かれていても、無断転載にはなりません。しかし、以下のような場合は、Twitter上の機能や手順に従った利用ではないため、無断転載にあたります。
・ツイートに添付されたイラストをダウンロードし、それを自身のツイートに添付して投稿する
以下の場合は、著作権者の許諾なく転載しても、無断転載にあたりません。
・ルールに従って引用した場合
・一定の公的な情報を転載した場合
■限定コンテンツを無断アップロードするのはもちろんダメ
【Q2】迷惑な人が、私の投稿したイラストを片っ端から自分のアカウントで転載してきます。
【A2】複製権、公衆送信権の侵害にあたります。また、もともとついていたクレジット表記を外している場合には、氏名表示権の侵害にもなります。さらに、無断転載をしているアカウントが、単にイラストを無断転載するにとどまらず、そのイラストレーターのアカウントであるかのようになりすましまでしていて、イラストレーターの業務に支障が出ている場合は、偽計業務妨害罪が成立する可能性もあります。
【Q3】アイドルのファンアカウントを運営しています。フォロワーからリクエストのあったテレビ番組の切り抜きやファンクラブ限定動画、ラジオ音源などをアップロードしているのですが、布教になるからいいですよね?
【A3】もちろんダメです! 他人のコンテンツ(著作物)を許諾なくアップロードする行為は、複製権、公衆送信権の侵害にあたるのが原則です。
■悪質な無断転載やネタバレは刑事責任も追及される
マンガを買わなくても、あらすじだけわかればいい……そう考える人が残念ながら多いのでしょう。セリフをまるまる書き写し、あらすじを書き添えるいわゆる「ネタバレサイト」が後を絶ちません。
2021年、マンガ『ケンガンオメガ』(小学館)の作者と出版元である小学館が、ほぼすべてのセリフをネタバレサイトに掲載されたことを受け、発信者情報開示請求を行いました。裁判所は、セリフの掲載が複製権、公衆送信権の侵害にあたるとして、発信者情報の開示を命じる判決を出しており、ネタバレサイトの運営者は、その後、刑事責任も追及されています(東京地判令和3年3月26日裁判所ウェブサイト掲載判例)。
またマンガ以外にも、書籍の内容を図にまとめて要約する「図解化コンテンツ」や、映画を無断で10分ほどにまとめて結末を明かす「ファスト映画」も近年急増しており、逮捕、起訴され、有罪判決まで受ける投稿者が出ています。
![フードをかぶり、暗い部屋でインターネットを使用する人](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/e/6/1200wm/img_e68ca5aa2d57a846844d924c60c93280124027.jpg)
テレビの番組をライブ配信したり、画面内で装飾だけして番組をアップロードする動画も後を絶ちませんが、これらも複製権、公衆送信権等の侵害にあたります。
なお、セリフの書き起こしは行わない、文章によるネタバレの場合には、具体的にどのような表現をしているかによって、著作権侵害にあたるかが左右されます。ざっくりとしたあらすじ紹介や要約などの場合は、著作権侵害にはならない一方で、詳細にストーリー展開を説明しているような場合には、翻案権の侵害にあたると考えられます。
■無断転載に対抗するには専門的な知見が必要
【Q4】小説投稿サイトに作品を投稿しています。挿絵として、SNSで見つけた「フリー素材」「ご自由にお使いください」と書かれている画像を使っています。しかし後日、その画像の作者を名乗る人から、「無断転載です。取り下げてください」と連絡がありました。どうやら第三者が無断でフリー素材として配布していたようです。画像を無断転載してしまったことで、私はなにか法的なペナルティを受けるのでしょうか?
【A4】「フリー素材」「ご自由にお使いください」という虚偽の説明を信じたことに過失がないのであれば、著作権(複製権、公衆送信権)侵害について過失がないと言え、損害賠償責任を負うことはありません。他方で、著作権の侵害行為に対する差止請求は故意・過失を要件としていませんから、虚偽の説明を信じていたのだとしても、著作権者による差止請求は認められます。著作権者から取り下げを求められたら、大人しく応じましょう。
【Q5】海外の海賊版サイトに無断転載されました。英語もわかりませんし、泣き寝入りするしかないでしょうか?
【A5】必ずしも泣き寝入りをする必要はありませんが、対抗手段をとるには、専門的な知見に頼らざるをえません。
「漫画村」も、ウクライナの企業が提供するサーバーを利用して運営されているサイトであったため、日本国内のサイト運営者や投稿者を特定するような、通常の方法での運営者特定は困難でした。しかし、「漫画村」に自身の作品を無断で掲載されていたマンガ家の代理人弁護士が、アメリカの民事訴訟手続を利用して、「漫画村」運営者の特定にこぎつけました。
そもそも特定が可能なのかも含めて、どのような手法で特定できるかはケース・バイ・ケースですが、海外のサーバーを経由している場合、一筋縄ではいかないのは間違いありません。
■業務妨害罪に問われることも
業務妨害罪は、文字どおり人の業務を妨害する犯罪で、①偽計業務妨害罪、②威力業務妨害罪、③電子計算機損壊等業務妨害罪の3種類があります。
業務を妨害する手段が「虚偽の風説の流布」や「偽計」の場合が①偽計業務妨害罪、「威力」の場合が②威力業務妨害罪です。
「虚偽の風説の流布」とは事実と異なる噂を広めることを言い、「偽計」とは人を欺罔、誘惑し、あるいは他人の錯誤または不知を利用する行為のことを言います。
「威力」とは、人の意思を制圧するに足りる勢力を示すことです。
ただし、「偽計」と「威力」の区別は微妙なことも多いです。
「業務」とは、人がその社会生活上の地位に基づいて反復継続して従事する仕事や事務や活動のことを言い、収入を得るもの(仕事)に限られません。
「妨害」は、業務を妨害するに足りる行為(偽計・威力)がなされていればよく、現実に業務が妨害されたかどうかまでは問われません。
③電子計算機損壊等業務妨害罪は、簡単に言えば、コンピュータによって遂行される業務を妨害した場合に成立する犯罪です。
■無断転載を防ぐことは難しい
インターネット上でイラストや漫画を投稿している人の中には、個人による無断転載はもちろんのこと、無断転載サイトなどによる相次ぐ無断転載に頭を悩まされている人も少なくないでしょう。本などの物理的な媒体と異なり、デジタルデータはコピーをして拡散することが簡単で、無断転載に歯止めをかけるのは難しいという問題があります。
![小林航太『オタク六法』(KADOKAWA)](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/3/0/1200wm/img_30840bdc9b8cc49573284639c9bb0a9a107493.jpg)
ネット上に拡散されてしまって消せなくなってしまった個人情報、写真や文章などを「デジタルタトゥー」などと言うこともありますが、イラストなどの著作物についても、一度インターネット上に投稿したものは、残念ながら、知らぬ間に誰かに無断転載をされることは覚悟しなければならないのが現状です。
最近では、無断転載された場合にそのことがすぐわかるように、イラストに気づかれないように“透かし”を入れるなどして、無断転載を抑止する試みも見られます。無断転載に対する技術的な解決策が見つかるまでは、無断転載の予防としてはこのような地道な手段に頼らざるをえないでしょう。
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弁護士(神奈川県弁護士会所属)
2012年東京大学法学部卒業。2016年首都大学東京法科大学院修了(首席)。2016年司法試験合格。2017年弁護士登録(第70期)。2019年法律事務所ストレングス設立。趣味はコスプレとボディメイキング。
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(弁護士(神奈川県弁護士会所属) 小林 航太)
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