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オタクなら「突然死」に備えてやっておきたい…パソコンの「秘密のデータ」を家族に知られずに処分する方法

プレジデントオンライン / 2023年1月18日 10時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/takasuu

自分が死んだら、パソコンやスマホはどうなるのか。弁護士の小林航太さんは「遺産として相続の対象になる。家族に中身を見られたくない場合は、信頼できる人と『死後事務委任契約』を結んでおいたほうがいい」という――。(第5回)

※本稿は、小林航太『オタク六法』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。

●民法 第960条(遺言の方式)
1 遺言は、この法律に定める方式に従わなければ、することができない。

■遺言には3種類存在する

「死ぬ前にあのデータだけは消しておかないと」「部屋に隠したアレをそのままにしておいては、死んでも死にきれない」と考えるオタクもいるでしょう。万が一に備えて、恥ずかしい同人誌やグッズ、データの処分について指定しておくことはできるのでしょうか。

遺言では、亡くなったときの財産を、どういうふうに処分し、分けてほしいかを定めておくことができます。法的に有効な遺言を書けるのは15歳からです。遺言には自筆証書、公正証書、または秘密証書の3種類があります。

自筆証書遺言

自筆証書遺言は、文字どおり、遺言者自らの直筆で作成された遺言です。内容全文を自分で書く必要があり、日付と署名、捺印も欠かせません。要件を満たしてさえいれば、語尾が「ぴょん」になっていてもかまいません。

なお、財産目録については、印刷したものでもかまいません。この場合、目録の各ページに署名捺印が必要です。

公正証書遺言

公正証書遺言は、公証役場で、公証人という特別な資格を持っている人に依頼して作成してもらうものです。その際は2人の証人が立ち会う必要があります。作成した公正証書遺言の原本は公証役場で保管されます。

遺言書の保管

通常は、遺言を残していることを相続人に伝えておく場合が多いですが、誰にも遺言の存在を伝えておらず、自宅のどこかにこっそりと自筆証書遺言を保管していた……などという場合には、相続人に遺言書を見つけてもらえないということも起こります。

公正証書遺言に関しては、遺言者が亡くなった後であれば、相続人は公証役場(遺言書を作成した公証役場でなくてもかまいません)において遺言書の有無を照会することができ、遺言書の写しを取得することもできます。自筆証書遺言に関しては近年、法務局に管理・保管をお願いできる遺言書保管制度が創設されました。

■遺言を勝手に開封すると罰せられる

サスペンスドラマで見かける、遺言者から預かっていた遺言書を弁護士が持ってきて、親族一同が集う中それを読みあげる……というような儀式は必要ありません。

自筆証書遺言の場合、遺言書の保管者または発見者は、家庭裁判所において「検認」という手続をする必要があります。封がしてある場合、検認の手続をしないで開封することはできません。これらに反した場合、5万円以下の過料が科されます。検認では相続人が呼び出され、筆跡などから「確かにこの人の遺言書だ」という確認をします。なお、公正証書遺言や、遺言書保管制度で保管された自筆証書遺言については、検認の必要はありません。

■遺言能力のないときに書かれた遺言は無効

ここからは、遺言にまつわるよくある質問をご紹介しましょう。

【Q1】筆跡をまねして、遺言書を偽造したらどうなりますか?

【A1】作成名義を偽り、さらに判もついていれば、有印私文書偽造となります。

【Q2】認知症を長く患い施設に入所していた父が、施設に入っているときに、財産を慈善団体に寄付する内容の遺言書を遺していた。本当にそんな遺言書を作ったとは思えないので、なんとかしたいのですが……。

【A2】遺言作成時には、遺言者に遺言書を書けるだけの判断能力(遺言能力)が必要です。これが欠けるにもかかわらず作成された遺言書は無効です。

公正証書遺言の場合、公証人という公の立場の第三者が、遺言者の遺言能力の有無を確認したうえで作成します。さらに、2人の証人が立ち会います。そのため、遺言が無効と判断されることはまれです。

一方、自筆証書遺言の場合、作成時の遺言能力を担保するものはありません。たとえば、遺言作成時前後の遺言者の入居施設の日報に書かれている遺言者の様子を見ると、他人とコミュニケーションを取るのもままならないくらい認知症が進行している様子だ……といった場合には、遺言能力がなかった、つまり作成した遺言書は無効と判断される可能性があります。

【Q3】ミステリー作品でよくあるような「このクイズを最初に解いた者に財産をすべて譲る」という内容の遺言は実際に可能ですか?

【A3】遺言によって特定の相手に財産を譲ることを「遺贈」と言いますが、遺贈には条件をつけることが可能です。たとえば『HUNTER×HUNTER』(集英社)のジンなら、「孫Aがハンター試験に合格した場合には、グリードアイランドを遺贈する」という内容の遺言も有効です。ただし設問のように、受遺者(遺贈を受ける者)を特定していない条件付遺贈は、無効とされる可能性は否定できないでしょう。

【Q4】貴重なフィギュアがあるが、この価値をわかる人が相続人にいません。実は5000万円の価値があるすごいコレクションです。だからこの価値がわかる友人に渡したい。

【A4】遺言で、その友人にフィギュアを譲る旨を定めることができます(遺贈)。ただし、財産全体におけるフィギュアの金額しだいでは、後述の遺留分の問題が生じます。

■遺言の内容にかかわらず「遺留分」という最低保障がある

兄弟姉妹(または甥・姪)以外の相続人には、どのような遺言などがあろうが、必ず一定割合の財産を取得できる権利が保障されています。この制度のことを「遺留分」と言います。たとえば、二男に全財産を相続させる旨の遺言を遺して父親が亡くなり、長男・二男の2人が相続人だとします(兄より優れた弟なのでしょうか)。

特定の相続人に全財産を相続させる旨の遺言も有効ですが、このままだと、長男はなにも取得できません。このような場合に、長男を保護するのが遺留分です。

長男の法定相続分は2分の1ですから、その2分の1である4分の1の割合の財産を取得できる権利が長男には保障されています。

【図表1】相続人のパターンごとの遺留分割合と法定相続分
出典=『オタク六法』

二男が取得した財産額が1億円だとすれば、長男は、自身の遺留分が侵害を受けているとして、その4分の1である2500万円を支払うよう、二男に対して請求できます。このような請求のことを「遺留分侵害額請求」と言います。

なお、あくまで侵害を受けている遺留分相当額の金銭を請求することしかできないので、特定の財産を引渡すよう請求することはできません。

遺留分侵害額請求は、相続の開始および自分の遺留分を侵害するような贈与・遺贈がなされたことを知ってから1年以内に行う必要があります。また、相続開始から10年経過しても行使できなくなります。

1年以内に「遺留分侵害額請求権を行使する」という意思表示さえすればよく、具体的な金額まで提示する必要はありません。そのため、遺留分の侵害が疑われる場合には、まずはこの意思表示だけはしておいて、後々、財産調査等をしたうえで具体的な金額の請求を行う、ということも一般的に行われます。

【Q5】亡くなった父のフィギュアコレクションに、100万円の価値があると判明しました。しかし父はそのコレクションを友人に遺贈してしまいました。どうにか取り返して現金化したいです。

【A5】まず、コレクションそのものを取り返すことはできません。しかし、コレクションの遺贈により、相続人(兄弟姉妹、甥・姪を除く)に遺留分の侵害が生じている場合には、相続人は、コレクションの受遺者に対して遺留分侵害額請求をすることが可能です。

たとえば、コレクションが故人の全財産であった場合には、各相続人の遺留分が侵害を受けていることは明白ですから、自身の法定相続分の2分の1の割合の金銭を、コレクションの受遺者に対して請求できます。

他方、コレクション以外にも財産が十分にあり、相続人が自身の遺留分割合を超える財産を取得できている場合には、コレクションの受遺者に対しては、残念ながらなにも請求できません。

■「秘密の趣味」を知られずに処分する方法

自分のオタクグッズの処分について遺言で細かく指定したい場合、目録の作成には注意が必要です。具体的にどのグッズを指しているのかがきちんと特定できるように記載して、遺言を読んだ人が解釈に困らないようにしましょう。特定さえ可能であれば、記載の方法はなんでもかまいません。

小林航太『オタク六法』(KADOKAWA)
小林航太『オタク六法』(KADOKAWA)

たとえば、アニメグッズの場合、グッズの種類、作品名、キャラクター名、(フィギュア等の場合)キャラクターの衣装、メーカー名、発売年、保管方法(●●のケースに保管してある等)などで特定することが考えられます。誰が読んでもどういうものか、確かにこれだとわかれば問題ありません。

ハードディスクやパソコンは、それじたいが(物理的な単位で)相続財産になります。中身のデータも付随して相続されますので、見られたくないデータが入っている場合には注意が必要です。

家族に知られたくないような趣味に関するグッズなどを信頼できる友人に託すということももちろんできますが、生前に託しておかない限り、家族に一切知られずに実現することは現実には難しいでしょう。

■生前に「死後事務委任契約」を結んでおく

生前に被相続人が会員として登録・利用していたウェブサイトやSNSなどのサービスがあった場合、そのサービス利用者としての地位も、相続人が引き継ぐのが原則です。

しかし実際には、多くのサービスの利用規約上で、相続人がサービス利用者としての地位を引き継げないよう定められています。

ハードディスク上のデータの削除や、SNS等の退会やアカウントの削除を依頼するには、死後事務委任契約を結んでおくという手段もあります。

パソコンのDeleteキーを押そうとする指
写真=iStock.com/Diy13
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Diy13

これは読んで字のごとく、死後の事務を委任する契約です。本当にその契約の内容どおりにやってくれるかどうか確かめようがない……というのはありますが、信頼できる人とこの契約を結んでおき、ほかの人には見られたくないデータの削除を依頼したり、死後にSNSで死亡した旨の告知をお願いしておいたりしておけば、一片の悔いもなく……というのは難しいかもしれませんが、少しは安心して旅立てるでしょう。

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小林 航太(こばやし・こうた)
弁護士(神奈川県弁護士会所属)
2012年東京大学法学部卒業。2016年首都大学東京法科大学院修了(首席)。2016年司法試験合格。2017年弁護士登録(第70期)。2019年法律事務所ストレングス設立。趣味はコスプレとボディメイキング。

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(弁護士(神奈川県弁護士会所属) 小林 航太)

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