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誹謗中傷が氾濫し、海外からの情報工作も…ヤフーがどれだけ批判されてもコメント欄を維持する理由

プレジデントオンライン / 2022年12月14日 14時15分

写真=Yahoo!ニュース・コメント欄より(一部をプレジデントオンライン編集部で加工)

ヤフーはコメント欄の健全化のため、11月から携帯電話番号の登録を義務化した。桜美林大学の平和博教授は「ヤフーはこれまでも毎年のように対策を重ねてきたが効果は不十分だったようだ。ヤフコメが一因となった事件も起きており、今回の踏み込んだ対策も必然と言える」という――。

■ヤフコメ投稿の際の「携帯電話番号の登録」義務化

ヤフーは11月15日から、Yahoo!ニュースのコメント欄への投稿に、携帯電話番号の登録を義務化した。

「ユーザーがニュースに関する多様な意見を共有しあい、新たな視点を得るきっかけを創出する」ことを掲げるコメント欄は、これまで誹謗(ひぼう)中傷やヘイトスピーチなどの「温床」として批判を浴び続けてきた。

秋篠宮家の長女・小室眞子さんの結婚をめぐる誹謗中傷が問題視される中、過熱化したコメント欄を自動的に非表示にするという対策をとってから1年。その効果はなお十分とは言えなかったことになる。

今年8月に「京都ウトロ地区放火事件」で有罪判決を受けた男性は、Yahoo!ニュースのコメント欄が犯行のきっかけの一つだったとメディアに語った。

さらにコメント欄が海外からの情報工作に利用される、という状況もなお続く。

携帯電話番号義務化は、コメント欄が抱えるこれらの課題に、どれだけの効果が見込めるか。

■ヤフコメはヘイト・有害情報の温床と批判されていた

コメントの「投稿停止措置」を受けたユーザーにおいては、携帯電話番号の設定がないIDの割合が5割以上と高水準になっており、その背景として、「投稿停止措置」を受けたユーザーが別のIDを利用して不適切な利用を繰り返すケースが一因となっています。

ヤフーは10月18日に発表したプレスリリースの中で、Yahoo!ニュースのコメント欄投稿に携帯電話番号の登録を義務化した背景について、こう説明している。

ヤフーはコメント欄を「ニュースや世の中の出来事に関連する多様な意見や考え、感想が集まる場所」としている。だが一方で、コメント欄は誹謗中傷やヘイトスピーチなどの有害情報氾濫の舞台とも見られてきた。

ヤフーはこれまでにも、不適切なコメントを繰り返したアカウントへの「投稿停止措置」(2018年6月)、「投稿停止措置」を受けたユーザーが同じ携帯電話番号で新たなIDを取得した場合も投稿制限(2020年10月)、などの対策を取ってきた。だが誹謗中傷などはやまなかった。

SNSに書き込みをしている手元
写真=iStock.com/asiandelight
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/asiandelight

■小室眞子さんのニュースの渦中に「自動非表示機能」を実装

特にネット上の誹謗中傷に大きな注目が集まったのは、プロレスラーの木村花さんの死亡事件(2020年5月)と、小室眞子さんの「複雑性PTSD(心的外傷後ストレス障害)」の公表(2021年10月)だった。同年11月には秋篠宮さまが記者会見で、雑誌、ネットの誹謗中傷について「許容できない」と発言している。

ヤフーはこの間の2021年10月19日には、一定以上の投稿数のある記事のコメント欄を対象に、AIが判定した違反コメント数などの基準に従って「コメント欄を自動的に非表示」にするとの新たな対策を打ち出した。

個別のユーザーアカウントや投稿への対処ではなく、コメント欄そのものを閉じるという一段踏み込んだ対策だった。

※参照:「コメント欄閉鎖も初めて導入」ヤフーは誹謗中傷コメントを排除できるのか(2021年10月21日付 プレジデントオンライン)

その結果検証を2022年1月20日に公開している。導入開始からの2カ月間で、コメント欄が非表示となった記事数は216件、1日平均3.5件、1日あたりの配信記事数の0.05%程度だという。

また、同年12月6日には有害情報対策についての「透明性レポート」2021年度版を公開した。それによると、Yahoo!ニュースのコメント欄は、新型コロナの緊急事態宣言や東京オリンピック・パラリンピックがあった2021年7~9月は投稿数4847万8000件で、削除数は184万8000件(削除割合3.8%)。

これに対し、コメント欄自動非表示化を導入した同年10~12月は投稿数3786万件で削除数は117万1000件(同3.1%)、2022年1~3月は投稿数3324万8000件のうち削除数86万9000件(同2.6%)と、投稿数、削除数、削除割合とも減少傾向がみられる。

今回の携帯電話番号の義務化は、コメント欄自動非表示化から1年後の、さらに踏み込んだ追加対策ということになる。

この間の今年5月と6月の共同通信の報道によると、ヤフーはNEWSポストセブン、週刊女性PRIME、東スポWebの3サイトが提供する「エンタメ」記事についてコメント欄を閉鎖したという。そしてそのきっかけは、なお続く小室眞子さんの結婚をめぐる誹謗中傷の深刻化だったとしている。

■ヤフコメが一因となった「ウトロ地区」への放火事件

さらに、コメント欄の自動非表示措置以降に、もう一つ注目を集めた事件がある。京都府宇治市の在日コリアンが多く住む「ウトロ地区」への放火事件だ。

放火事件は昨年8月に起き、今年8月末に被告の男性に懲役4年の有罪判決(確定)が出ている。男性は判決に先立ち、バズフィードや京都新聞の取材に、Yahoo!ニュースのコメント欄で目にした書き込みが、事件の動機の一つになった、と語っている。

放火事件の背後には民族差別的なヘイトがあり、その起点がヤフーのコメント欄だった、ということになる。

ネットの違法・有害情報は、リアルの事件のきっかけになり、社会を揺るがす危険性を持つ。このような事態が広がると、何が起こるのか。その先例は米国にある。

■ネットの有害情報は実社会をも揺るがす

2016年12月、大統領選が終わったばかりの首都ワシントンのピザ店内で銃撃事件が発生した。この店は、ネットで拡散していた陰謀論「ピザゲート」の舞台とされ、「ヒラリー・クリントン氏がかかわる児童虐待の地下組織の拠点」と喧伝されていた。事件は、この陰謀論を信じた当時28歳の男性が、自動小銃などを手に同店に押し入り、店内で発砲したというものだった。

陰謀論はネット掲示板から右派サイト、ツイッター、ユーチューブなどへと拡散し、男性はそれらを次々に目にして、のめり込んでいった。

この陰謀論のストーリーはその後、陰謀論グループ「Qアノン」で急速に拡大。2020年の米大統領選に「不正があった」との根拠のない主張とともに増幅される。そして2021年1月には、5人の死者、140人以上の負傷者を出し、約900人が逮捕された米国史上空前の連邦議会議事堂乱入事件へとつながった。

違法・有害情報の排除に向けた、プラットフォームに対する社会の要請も強まっている。

総務省の有識者会議「プラットフォームサービスに関する研究会」が、8月25日に公開した報告書の中で、違法・有害情報へのプラットフォームの取り組みの透明性・アカウンタビリティを確保する上で、「行動規範の策定及び遵守の求めや法的枠組みの導入等の行政からの一定の関与について、速やかに具体化することが必要である」と法規制を含む検討を提言している。

ヤフー広報室は「人権侵害や差別に当たる投稿、犯罪行為を一切許容しておりません」と言う。ただ、今回の携帯電話番号義務化の措置については、「特定の事象がきっかけとなっているものではありません」としている。

だが「ウトロ地区放火事件」を受けてなお、ヤフーがさらに踏み込んだ対応を取らずにいるという選択肢はなかっただろう。

■ヤフコメはロシアの「情報工作」として利用されてきた

Yahoo!ニュースのコメント欄は、海外からの情報工作の舞台としても指摘を受けてきた。

英カーディフ大学の研究チームは昨年9月に公表した報告書で、欧米や日本の大手メディアサイトのコメント欄を標的に、親ロシアの「読者コメント」を書き込む情報工作が行われている、と指摘。さらにロシアの政府系メディアが「読者コメント」を含んだ形で「記事転載」を行い、プロパガンダとして拡散される実態を明らかにした。日本でその主な舞台とされたのが、Yahoo!ニュースのコメント欄だった。

※参照:メディアの「コメント欄」が情報工作の標的になる(09/27/2021 Yahoo!ニュース個人・平和博)

カーディフ大の研究チームが指摘したような、Yahoo!ニュースへの掲載ニュースとロシア政府の立場と親和性のあるコメントがセットで、同じロシア政府系メディアに転載される状況は、本稿執筆時点でもなお確認できた。

サイバーセキュリティの概念
写真=iStock.com/metamorworks
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/metamorworks

■重要度が高まる「サイバー安全保障」

今年2月に始まったロシアによるウクライナ侵攻では、武力攻撃に加えてサイバー攻撃、情報戦を連携させたハイブリッド戦に注目が集まっている。

国内では、防衛力強化に向けた政府の「安保3文書」改定のために、年初から行われた「有識者との意見交換」においても情報戦はテーマの一つとなっており、筆者も7月にこの意見交換に参加した。その後、政府に設置された「国力としての防衛力を総合的に考える有識者会議」が11月22日に公表した報告書でも、サイバー安全保障は主要論点の一つだ。

防衛省は3月に「サイバー防衛隊」を発足させ、4月には情報戦の担当官「グローバル戦略情報官」を新設した。また、政府はサイバー攻撃への防御を強化するため、国家安全保障局(NSS)の下に内閣サイバーセキュリティセンター(NISC)を取り込んだ司令塔組織設置を検討している、とも報道されている。

ヤフー広報室は情報工作の指摘について、「安全保障問題に発展するケースもあり得るという問題意識」をもち、投稿に関する分析調査を実施しているとした上で、「少なくとも現時点の分析結果としては、Yahoo!ニュースのコメント欄において組織的なプロパガンダ工作であることが疑われるような事象は確認されていません」としている。

■「登録義務化」直後はコメント数の鈍化傾向も

今回の携帯電話番号登録の義務化は、発信者のリアルなひも付けを強化する対策だ。

違法・有害情報、さらに情報工作にも一定の効果は期待できるだろう。ただ、実名が原則のフェイスブックでも違法・有害情報や情報戦は、なお大きな課題となっている。組織的な情報工作であれば、複数の携帯電話を使うことは容易だ。

今回の措置は、どの程度の効果があったのか。ヤフーは「運用を開始したばかりで十分な数値が出そろっていない」(広報室)という。即席の手がかりとして、Yahoo!ニュースの1時間あたりのコメント数でランキングした「コメントランキング」を見てみる。

携帯電話番号の義務化が導入されてから3日後の11月18日(金曜日、15:24現在)では、トップは「北朝鮮ミサイル発射」(721件/時)、2位は「ゆたぼんパパ激怒」(674件/時)、3位「中日・DeNAの交換トレード成立」(551件/時)だった。

前年の2021年。コメント欄の自動非表示機能を実施してからほぼ1カ月後の11月18日(木曜日、18:45現在)では、トップが「小室圭さん、解決金振り込み」(855件/時)、以下は「新庄剛志監督に清原和博氏が不快感」(795件/時)、「児童手当、世帯合算に否定的 公明幹部」(736件/時)。

さらにその前年の2020年。「投稿停止措置」ユーザーのID再取得による投稿制限措置から約1カ月後の11月18日(水曜日、23:49現在)では、トップは「コロナ急増、Gotoトラベルが『きっかけ』 日本医師会長」(2183件/時)、「豚解体容疑の技能実習生、全員を不起訴処分に 前橋地検」(1281件/時)、「全国で2100人超の感染確認、過去最多」(1203件/時)となっていた。

社会状況や時間帯、ニュースのインパクトもまちまちのサンプルで、あくまで雑駁(ざっぱく)な一応の目安でしかないが、ランキング上位の時間当たり投稿件数には、減少傾向らしきものもうかがえる。

ツイッター投稿の検索機能を提供するヤフーリアルタイム検索で「ヤフコメ」を検索すると、ユーザーが「ヤフコメ」とともに頻繁に検索するキーワードとして表示された候補には、「電話番号」「変わった」「減った」なども目につく。

■コメント欄維持のためには対策が必須

ヤフーは、1996年から続くポータルサイトだ。その基本的なつくりは、大量の情報を整理して発信する「ウェブ1.0」といえる。2000年代半ばに登場したユーザー参加型の双方向サービスの潮流「ウェブ2.0」の中で、ネットは一気にソーシャルメディアへシフトした。その中でソーシャル機能を埋め込むように作り込んだのがYahoo!ニュースのコメント欄だった。

Yahoo!ニュースの「コメント 取り組みまとめ」というページには、2015年以来、ほぼ毎年のように打ち出されてきた対策の経緯が列挙されている。それでも、今回の新たな対策が必要だった。

ヤフーにはこのほかに、「知恵袋」「ファイナンス 掲示板」などの双方向サービスがあり、持ち株会社のZホールディングス傘下にはメッセージサービスのLINEもある。ただ、Yahoo!ニュースのコメント欄を閉じれば、「ウェブ1.0」の骨格が目立つことにはなるだろう。コメント欄を維持するために、ヤフーは次にどんな対策を打ち出すのか。

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平 和博(たいら・かずひろ)
桜美林大学リベラルアーツ学群 教授、ジャーナリスト
早稲田大学卒業後、1986年、朝日新聞社入社。社会部、シリコンバレー(サンノゼ)駐在、科学グループデスク、編集委員、IT専門記者(デジタルウオッチャー)などを担当。2019年4月から桜美林大学リベラルアーツ学群 教授(メディア・ジャーナリズム)。主な著書に『悪のAI論 あなたはここまで支配されている』『信じてはいけない 民主主義を壊すフェイクニュースの正体』(いずれも朝日新書)などがある。

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(桜美林大学リベラルアーツ学群 教授、ジャーナリスト 平 和博)

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