「親子・夫婦関係をズタズタに切り裂く」中学受験で絶対やってはいけない! "最悪のラストスパート"
プレジデントオンライン / 2022年12月12日 11時15分
■受験をきっかけに親子関係が悪化するケースも
首都圏の中学受験者数は、8年連続で増加傾向が続いており23年度入学の試験も史上最高の受験者数になるのは間違いないといわれています。受験生にとっては例年以上に厳しい受験になりそうですが、最後に笑うか泣くか、合否を分けるのは何でしょうか。
私はこれまで中学受験に関する書籍執筆のため、多くの受験生の子とその親を取材しました。私自身も、2人の子供が中学受験をしており、中学受験という世界に足を踏み入れて翻弄(ほんろう)される当事者の気持ちがよく分かります。学校の授業より難易度の高い勉強に取り組む子供はもちろん大変ですが、子に伴走する親も偏差値という数字と向き合い、子供がレースを完走できるよう環境を整える役割は責任重大です。
目標に向かって努力する経験は、子供にも親にもまたとない成長のチャンスにもなります。
しかし中には、受験をきっかけに親子関係が険悪化し、その後、ギクシャクが長く尾を引く例もありました。子供のために善かれと思って始めた受験で、結果的に子供の自己肯定感が下がったり、親子関係が悪くなったりするのは残念なことです。
そこで、「幸せな受験」になるよう、受験世帯向けに応援記事を書いたり、模試会場で保護者向けに講演を行ったり、ポジティブ心理学をベースにしたコーチングセッションを開くようになりました。
■ポジティブ心理学で中学受験の悩みも解決
保護者向けの講演などでよく聞く、受験に関する悩みは以下の3つです。
1.子供のやる気がない
2.思ったように成績が伸びない
3.塾に行くのを嫌がる
![勉強をさぼる娘を見つめる両親](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/d/3/1200wm/img_d3ff5b9a4c84b85c4d7ba55ccec7074f374085.jpg)
圧倒的に多いのは、1の子供のやる気が出ない問題です。ある母親は「小5の時に娘がやりたいというから、塾に通い受験をすることにしたのに、勉強しなくて困っています」とこぼしました。娘の希望を叶えるべく応援しているが、「このままでは間に合わない」と焦っている様子でした。親が焦って力んでいるのに、当の本人は危機感を持っていない。そのギャップにイライラして小言を言ってしまい、娘との関係が悪くなっているとのことでした。
こうした子供のやる気に悩む親のほとんどは、実は、わが子の立場になって、その理由を考えてみたことがないケースが多いです。
聞けばこのケースでは、娘が塾通いを始めたのは小5の途中。多くの子は小3年の2月ごろ(もしくは小4春)からなのでやや遅い。おまけに塾の勉強の難易度が高まるのが小5から。そのため、特に算数の授業についていくのが大変で成績が上がらない。母親が叱咤(しった)すればするほどやる気がなくなるという悪循環が起きていたのです。
私は、「できるところから少しずつ積み上げていってはどうか」とアドバイスしました。
実は、国語と社会は好きで塾のテストでも高得点をあげていました。まずそこにフォーカスして、娘に自信をつくよう働きかけることを勧めました。
すると、得意な科目について母親から褒められるようになって娘も自信を取り戻し、苦手な算数については塾の先生に相談して、基本問題を中心に取り組むことにしたところ、少しずつ成績も上がっていったそうです。
私のアドバイスはポジティブ心理学のエビデンスに則ったものでした。
■得意を伸ばせば苦手も伸び、全体の能力は伸びる
皆さんは、勉強ができていないところをできるようにする方が人は伸びると思っていないでしょうか? しかし、実は得意なこと、できることに注目して、そこを伸ばした方が、全体的に能力は伸びるという研究結果が出ています。これをポジティブアプローチといいます。
しかし、これは言うは易く行うは難し。なぜなら、人はできていないところに注目してしまう習性があるからです。これをネガティビティバイアスといいます。そのため、親はあえてできているところを見つけようという目を持たないと見つけられないのです。
このケースでも母親は娘が得意な国語や社会はできているからスルーしてしまい、できない算数の点数にばかり目がいってしまい、弱点克服にエネルギーを注いでいました。しかし、できないところを指摘されればされるほど、やる気をなくすという悪循環になっていたのです。
そもそも「子供のやる気問題」は、受験に限らず子育ての悩み相談で必ず出てくるテーマです。受験生の場合、やる気が出ない理由として、次のようなことが考えられます。
A.学力と課題のレベルがあっていない。
B.エネルギーが消耗している。
C.本人は、なぜ受験するのかがわからず、言われたからやっている。
Aの学力と課題のレベルがあっていないというのは、前述のケースです。人は、与えられた課題が難しすぎてもやる気はなくなるし、反対にやさしすぎても退屈になってやる気は起きません。やる気が起きるのは、ちょっと頑張ったらできそうと思えるレベルの課題に取り組んでいる時。「今できることの10%上を目標にするといい」といわれています。
例えば、サッカーボールのリフティングができるようになりたいという場合、10回できるようになると「次は20回だね!」と言ってしまいがちですが、それだとなかなか達成できなくてやる気が落ちてしまう。だから、10%上の11回を目標にするのです。
![サッカーのリフティング練習](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/3/6/1200wm/img_3629d05d3af77224f1b5720c909d39eb383066.jpg)
そんなスモールステップと思うかもしれませんが、ちょっと頑張ればできそうと思えて、実際にすぐに達成できる目標を立てることで自己肯定感も上がり、やる気もキープできます。勉強も同じで、前回のテストが50点なら55点。そのためにどんな勉強が必要かを考えて計画を立て勉強することで、結果的に60点、70点と取れるようにしていくのが遠回りのようで近道です。今、子供がこなしている課題が、難しすぎるなら、塾に課題の見直しを相談してみるといいかもしれません。
Bのエネルギーが消耗しているのが理由なら、身体をうんと労ってあげることです。睡眠は取れているか。休息は取れているか。栄養摂取しているか。子供の様子をよく観察して、無理をしているようなら、生活を見直す。調子が悪い時には、思い切って塾をお休みするのもありです。
■受験をきっかけに夫婦仲が悪くなってしまうことも
Cの「親に言われて仕方なく」とか、「やらないと叱られるから」勉強している場合も本来のやる気ではありません。心理学では、「叱られるからやる」形を外発的動機といいます。自分の外側に理由があるので、途中でちょっと大変なことが起きると、途端に自信をなくしたり、おもしろくなくなってやめてしまったりします。
反対に最もやる気が出るのは、「勉強が好きだから。楽しいから。やりたいと思っているから」。これを内発的動機といいます。つまり、自分で中学受験をしたいと思っている。それが最強の理由になります。
ただ、たいていの場合、12歳以下の子供にそうした大人のようなモチベーションはありません。よって、中学受験をする理由は親が用意するのは仕方ないのですが、始まりはそれであっても、できるだけ子供にも受験を“自分ごと”にしてほしい。だから、うまくいってないと思う時には、受験する意味や目標を、もう一度、親子間でよく話し合うといいです。
「なんのために中学受験を選ぶのか。やってみて、今の状況はどうなのか?」。事実を洗い出してみると、きっと気づきや発見があるはずです。
その次にしてほしいのが、ゴール設定です。何事もどこに向かっているのか分からないままでは、そのために何をするかも定まりません。これは夫婦間での確認作業も必須です。
子供のサポートをする夫婦間で認識のずれがあることに気づくこともあるのです。
例えば、父はできるだけ偏差値の高い学校に行かないと受験をする意味はないと思っていて、そのためには多少の無理も必要だと考えている。結果的に、志望校を実力より高く設定して、そこに向けて頑張らせようとしているけれど、なかなか成績は届かず、子供が疲弊している。
そんな様子を見て母親は、偏差値より入ってから子供が伸びる環境を重視し、無理を強いない受験をさせたいと思っている。どちらも子供の幸せを願っているのですが、方向が違うので、それが原因で夫婦喧嘩に発展していたのです。
極端な場合、価値観の違いが露呈して、子の中学受験をきっかけに夫婦仲が悪くなって、のちに離婚に至るケースさえあります。これでは、子供があまりにかわいそうです。
もし、そんな価値観の違いが明らかになったら、お互いに相手の気持ちは尊重しつつ、そもそもこの中学受験はなんのためにするのかを今一度、夫婦で話し合ってみることです。
結局、親子関係(夫婦関係も)をよくすることが、遠回りのようでわが子の受験を成功に導く近道になるのです。
![勉強で喜ぶ娘と一緒に喜ぶ両親](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/2/3/1200wm/img_238cd5700a425938d7a25f6f1fd527b8392904.jpg)
子供に対しては、もし、何かうまくいってない時には、現状をよく観察してどこに問題があるか事実を確認すること。その上で、うまくいっているところに注目して自信を持たせ、スモールステップで成功体験を重ねていくのがコツです。
そして最後に伝えたいのは、ダメな学校はないということです。第一志望校に受からないケースもあります。しかし、子供がそこまで蓄積した力を出し切ることが大事です。その結果、ご縁のあった学校が子供にとってベスト。親ができるのは、どんな学校に行っても、その学校やわが子の良いところを見つけていく、そういう姿勢がより良い結果を引き寄せていくはずです。良い親子関係を築くことは、遠回りのようで、幸せな中学受験への近道なのです。
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教育ジャーナリスト
マザークエスト代表。出版社勤務後、女性のネットワークを活かして取材・編集を行う、編集企画会社を発足、代表に。「お母さんと子どもたちの笑顔のために」をコンセプトに、数多くの書籍をプロデュースした。その後、教育ジャーナリストとして、紙媒体からWEB連載まで幅広く執筆する傍ら、海外の教育視察も行う。ポジティブ心理学コンサルタントも取得し、最近は子育て教育探究ナビゲーターとして、親に寄り添った発信をしている。最新刊『成功する子は「やりたいこと」を見つけている 子どもの探究力の育て方』(青春出版社)他著書多数。
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(教育ジャーナリスト 中曽根 陽子)
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