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命令を拒否すれば銃殺刑になる…たった1日の訓練で戦場に送られたロシア動員兵の本音

プレジデントオンライン / 2022年12月11日 15時15分

2022年9月27日、ロシアの部分動員令で招集され、クリミア半島での出発式に臨む予備役(ウクライナ・セバストポリ) - 写真=AFP/時事通信フォト

■秋の徴兵におびえるロシア人たち

ロシアで秋の徴兵が始まった。ウクライナ情勢を念頭に、市民には不安が広がる。

独立系メディアのモスクワ・タイムズ紙は、「軍当局は新兵がウクライナに送られることはないと公約しているが、この発言に対しては懐疑的な見方が広がっている」と指摘する。

秋の徴兵は12月31日までの予定で実施され、春の徴兵とあわせて毎年恒例となっている。18歳から27歳までの男性から選抜を行い、今年は秋だけで12万人が1年間の兵役に就く予定だ。

カタールの衛星放送局アルジャジーラによるとロシアの徴兵制には、非常時に召集可能な兵士である予備役を育成するねらいがある。

彼らは最長で8カ月間にわたる訓練を受け、各部隊に配属されたのち、徴兵から1年後には兵役解除となる。だが、その後は予備役として新たに登録され、戦争など国家に非常事態が発生した場合に急遽駆り出されることになる。ロシアは現在、200万人の予備役を擁する。

秋の徴兵以前には今年9月末、第二次世界大戦以来初となる「部分的動員令」をプーチン大統領が発令した。わずか2カ月ほどのあいだに、確認されているだけでも326人の動員兵が死亡している。オープンソースの情報をもとに、独立系ロシア紙のノーヴァヤ・ガゼータなどが報じた。

ロシアには現在、およそ200万人の予備役が存在する。いつ号令がかかり動員されるとも知れない予備役とその家族らは、眠れぬ夜を過ごしている。
 

■「3分で別れを済ませろ」

米メディアのヴァイスは召集された若い予備役への取材を通じ、強引な徴兵の実態を明かしている。

27歳のある兵は取材に対し、徴用の報せから24時間以内に戦地へ赴く身支度を済ませなければならなかったと明かした。別の街に住む父親に、せめて別れの挨拶をしたかったと悔やむ。

「当然のことだけれど、せめて2日くらいは別れを告げる時間がほしい。そんなことが可能かはわからないけれど。父にさよならを言えなかったことが、心の重荷になっているんです」

徴兵のバスが出発する間際、駆けつけた父親がなんとか間に合った。再会を喜ぶ兵に対し徴兵官は、「3分で別れを済ませ、荷物をバスに積むように」と冷たく告げたという。父親はかろうじて用意した水とヨーグルトを手渡すと、息子を戦地へと送るバスを見送った。

ウクライナの前線での激しい人員喪失を補うべく、徴兵により慌ただしく頭数の確保を試みている状態だ。こうして兵が集められるモスクワの徴兵センターに同メディアが潜入すると、その内部は陰鬱(いんうつ)とした空気が満ちていたという。

■警官隊がなだれ込み、対象者を連行していくケースも

予備役は召集がかかると直ちに出頭しなければならないが、なかには事情ですぐに徴兵センターへ赴けない者もいる。また、ウクライナ情勢を受け、出頭に二の足を踏む人々も多い。こうした人々は兵役逃れと見なされ、徹底的に所在地を追跡され連行されていく。

英デイリー・メール紙は、顔認識を使って入隊拒否者を探し出したり、徴兵班が家庭や会社に押しかけて身柄を確保したりといった恐ろしい事例が起きていると報じている。

同紙が現地メディアの情報をもとに伝えたところでは、警官隊がオフィスのフロアに突入し、徴兵対象の年齢の男性を片っ端から連行しているという。目撃者は現地メディアに対し、連行の様子を語っている。

「午前中に1台の護送車が到着し、満員になりました。そして2台目がやってきました。私たちの会社の経営者や、そのほか1階にいた男性社員たちが連れ去られました。廊下にいたところを取り押さえられたのです」

ほか、駅構内を歩いているところ、急遽徴兵の対象になったというケースも出ている。同紙によると、警官から個人情報を聞かれて回答したところその場で召集令状を発行され、パトカーで連れ去られる事例が増えているという。

パレードでのロシア軍
写真=iStock.com/Valery Nutovtsev
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Valery Nutovtsev

■相次いだ徴兵事務所への襲撃事件

デイリー・メール紙はさらに、ロシアの空港で起きた珍事を紹介している。早朝5時、ロシア航空会社のアズールエア便は、トルコのアンタルヤに向けて出発しようとしていた。

ところが朝早くから搭乗を済ませていた乗客たちは、耳を疑うようなアナウンスを機内で耳にする。

「副操縦士が動員対象となり、これに伴い国境を越えることが禁止となりました。離陸は中止となりましたので、降機をお願いいたします」

同便は出発が9時間遅れ、やっと空港を発ったのは同日午後2時のことだったという。プーチン氏が署名した動員令は、対ウクライナではなく自国民に大きな不便を強いているようだ。

こうした強引な徴兵に、市民感情は悪化の一途を辿る。英スカイ・ニュースは、市民が徴兵に反発しており、徴兵センターの襲撃事件が発生していると報じた。

予備役30万人の動員をプーチン大統領が発表すると、ある入隊センターでは25歳の男が押しかけて発砲。軍の採用担当者が重傷を負っている。この現場を収めた動画には、採用担当者が倒れるとともに女性の悲鳴が反響し、他の職員らがいっせいに出口へ押しかけるというショッキングな一幕が記録されている。

別の入隊センターは火炎瓶による襲撃を受けた。

■戦いを拒否した動員兵は、2週間地下室に監禁された

動員された予備役らはすでに前線に送り出されており、そこでは悲惨な光景が広がる。

新兵の宣誓
写真=iStock.com/DIMUSE
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/DIMUSE

欧州政策分析センター(CEPA)は12月6日、「動員された部隊らは、怒りに満ちた動画を録画している。そこには、いかにして彼らが準備もなしに前線へと放り出されたか、そして適切な装備もない惨めな状態にあるかが映し出されている」と報じた。

記事はまた、ウクライナ東部ルハンシク州において、指揮官による横暴が蔓延しているとも報じている。「戦うことを拒否した一部の者たちは、寝ることもできず、食料も持たされないまま、ルハンシク近くの地下室に2週間にわたり監禁された」と記事は述べる。

米CNNは、ロシアの独立系ジャーナリズム「アストラ」が運用するTelegramチャンネルの情報を引用している。

それによると、こうして監禁されている兵士の数は、同州ザイツェボの町だけで300人にのぼるという。監禁された兵士らの一部が、隠し持った携帯電話を通じて親族に生々しい現状を伝えている模様だ。

当局はこの手の話のもみ消しに躍起だが、CEPAは混乱する前線を念頭に、「こうした類いの報告は今後ますます増加するだろう」と分析している。

■「妻よ、私は味方に処刑されるかもしれない」

ザイツェボから車を3時間少々走らせると、ドネツク郊外のザビトン・バズハニャーの村に出る。この地でも11月、数十人のロシア人動員兵らが地下に監禁されていた。ラトビアからロシア関連のニュースを配信している独立系メディア「メデューサ」は、彼らの家族による情報をもとに監禁の実態を報じている。

記事によると多くは鉱山から連行された労働者たちであり、本来は法の下に動員が免除される国防産業の従事者だったという。にもかかわらず強制的に兵士訓練施設へと送り込まれ、十分な修練も受けることができないまま戦地へと移送された模様だ。

ほか、さまざまな産業の従事者が連行されている。車の修理工である夫を連れ去られたというロシア人女性のエレナ・カシナ氏は、メデューサに対し、「訓練施設では、機関銃の掃射訓練が1日だけ設けられていたようです」と、粗末な訓練プログラムの実態を明かしている。

当初は塹壕を掘らされていた夫だが、戦闘への参加を上官から命じられると良心の呵責(かしゃく)に苛まれ、これを拒否した。すると上官から、拒否した者は銃殺刑に処すと告げられたという。

エレナ氏のもとにかかってきた電話で、夫は静かにこう告げた。「レナ(エレナ)、僕は今日、仲間に処刑されるかもしれない」

夫は現時点で処刑されてはいない模様だが、地下室に監禁されたようだ。メデューサによると戦闘をためらった21人が監禁され、「食料も(着替えや石けんなど)衛生用品も与えられていない」と報じている。

■動員令から2カ月で「多大な犠牲」が発生

前線は混乱状態にあり、ロシア軍は「多大な犠牲者」を生じているとの指摘が出ている。

ハフポスト英国版はイギリス国防省による分析リポートをもとに、「ロシア大統領が『部分的動員令』を発令してからわずか2カ月で、動員された予備役らが『訓練不足』のまま召集されたことが明らかになった」と報じている。

英国防省によると動員された予備役は、全員ではないにしろその多くが以前兵役に就いていた経験を持つ。大半は何かしらの「深刻かつ慢性的な健康上の問題」を抱えながら前線に送り出されており、事前のメディカルチェックも形骸化している模様だ。

メデューサは、予備役のなかから召集される順序について、「公式に定められた召集の優先順はないものの、最も必要とされる軍事スキルを備えた人材が優先される」と解説している。

自然と戦地で戦闘を経験した人物に召集命令がかかる形となっており、前線に配置されてから不調や古傷に苛まれるケースが増えているようだ。

■無謀な動員が示す「プーチンの戦争」の限界

プーチン大統領が仕掛けたウクライナ侵攻は、ロシア側にさえ不利益をもたらしている。国際社会からの信用を毀損(きそん)しただけでなく、国民のあいだには戦地へと送られる不安が広がっている。

息子や夫がいつ徴兵されるか知れず、仮にそうなれば24時間以内に連れ去られるのだというストレスは、市民にとって多大な心的負担を生じている模様だ。

現時点で前線に送られたことが判明しているのは予備役が中心だが、秋の徴兵で入隊が決まった新兵も気が気ではないことだろう。制度上、徴兵から1年後には予備役として登録されることが確定している。侵攻が長期化すれば、来年の今頃には戦地に送られているおそれも皆無ではない。

そのほか一般国民の生活においても、国内産業の弱体化がいずれ影を落とすことだろう。鉱業や自動車産業、ひいては航空業界からも技術者が引き抜かれ、戦場で慣れない銃を握らされている。

こうして、産業に従事してきた優秀な技術者たちが社会の中心から消えていっている。国際的な経済制裁によりロシアの自動車産業はすでに風前の灯火ともいわれるが、他の産業においても人材の質と量はいずれ顕著に低下することだろう。

ウクライナへの長引く軍事力行使はもはや10カ月目に突入しており、年単位での長期化も現実味を帯びてきた。生活を破壊されたウクライナ国民の苦しみはもちろんのこと、ロシア国民にとっても害をもたらすばかりの無益な武力行使となっている。

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青葉 やまと(あおば・やまと)
フリーライター・翻訳者
1982年生まれ。関西学院大学を卒業後、都内IT企業でエンジニアとして活動。6年間の業界経験ののち、2010年から文筆業に転身。技術知識を生かした技術翻訳ほか、IT・国際情勢などニュース記事の執筆を手がける。ウェブサイト『ニューズウィーク日本版』などで執筆中。

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(フリーライター・翻訳者 青葉 やまと)

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