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命が助かるという保証はどこにもない…現役医師が「がん検診は受けるだけムダ」と考えるワケ

プレジデントオンライン / 2022年12月19日 13時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/tsalko

がん検診は受けたほうがいいのだろうか。医師で作家の久坂部羊さんは「受けたからといって命が助かるわけでもない。がん検診にあるメリットとデメリットをもっと知るべきだ」という――。(第2回)

※本稿は、久坂部羊『寿命が尽きる2年前』(幻冬舎新書)の一部を再編集したものです。

■厚労省が推進するがん検診は受けるべきか

現在、厚労省が推進しているがん検診は、肺がん、胃がん、大腸がん、乳がん、子宮頸(けい)がんの5種類です(男性は3種類)。

厚労省のHPには次のようにあります。

『国民の2人に1人が“がん”になり、3人に1人が“がん”で亡くなっています。しかし、皆様ががん検診を受けることで、がんによる死亡を今よりも減らすことができます。厚生労働省では、がん検診の受診率を50%以上とすることを目標に、がん検診を推進しています』(2022年「政策について」より)

実施母体は市町村で、ほとんどのところで費用の多くを公費で負担しています。根拠となる法律は、「健康増進法」(2003年施行)です。

余談ですが、この法律は、健康の維持増進を国民の義務と定めています。一方、憲法では、健康な生活は国民の権利としています。健康は義務なのか権利なのか、どっちやねんと法律の専門家に聞きたくなります。

■「異常なし」に安心してはいけない

何事にもよい面と悪い面があるように、がん検診にもメリットとデメリットがあります。

メリットは、がんの早期発見で命が助かる人がいるということです。

デメリットは、がんではないのに、「疑い」を指摘され、不必要な検査で時間とお金と体力を無駄にさせられ、無用のストレスを受けることです。公費の無駄もあります。検査被曝による発がんの危険性もあります。

また、検診で異常なしという結果が出たため、安心してしまって、症状があるのに病院を受診せず、手遅れになる危険性もあります。

もちろん、検診での見落としもあり、逆に放っておいても命に関わらないがんを見つけて、手術せざるを得なくなる過剰診断の危険もあります。

また、細胞レベルでがんが発生していても、最低でも5mmくらいの大きさにならないと発見されないので、検診で見つからなかったからといって、がんがないとは言い切れないこともあります。

■検診に否定的な人がいないワケ

上記の通り、メリットに1行、デメリットに8行を費やしても、がん検診に否定的になる人は少ないでしょう。なぜなら、メリットに「命が助かる」という決定的な一文があるからです。

がん検診で一人でも助かる人がいるのなら、行うべきだという意見です。しかし、検査被曝による発がんの危険を考えるなら、一人でも検査でがんになる人がいるなら、やめるべきだとも言えるのではないでしょうか。

前にも書きましたが、日本は検査被曝によるがん患者が、世界の中でダントツに多い(全がん患者の約3.2%。アメリカやイギリスの約3倍から5倍)というのは、医療界ではよく知られた事実です。

厚生労働省が勧めている5つのがん検診(厚生労働省ホームページより)

■5種類に対する物足りなさ

がん検診も健康診断同様、心配を減らすために行うものですが、上の5種の検診だけ受けていれば安心なのでしょうか。がんはほかにもたくさんあります。

特に、5年生存率の低いすい臓がんや食道がん、胆のう・胆道がん、肝臓がん、卵巣がん、腎盂(じんう)尿管がん、甲状腺未分化がんなどは、調べなくてもいいのでしょうか。ほかにも、腎臓がん、膀胱がん、肛門がん、喉頭がんに咽頭がん、舌がん、前立腺がん、白血病に悪性リンパ腫、悪性黒色腫、多発性骨髄腫、横紋筋肉腫、骨肉腫、子宮肉腫、網膜芽細胞腫、脳腫瘍に脊髄腫瘍、縦隔腫瘍などもあります。

それらをいっさい無視して、厚労省が推進する5種のがん検診は、なんだか調べやすいものだけ調べるつまみ食いのようにも思えます。つまみ食いでは、もちろんお腹を満たすこと(がんに対する安心)はできません。

厚労省や医師会などは、がん検診を行うことで、確実にがんによる死亡者数が減ると言いますが、死亡者を減らすことだけを目的とするなら、5種類だけでなくすべてのがんについて、検診をすれば確実に減るでしょう。

しかし、それはあまりに手間と経費がかかりすぎ、受診者の負担も大きくなります。つまりは費用対効果を考慮して、右の5種類(しつこいようですが男性は3種類)に決めたのでしょう。

■私ががん検診を受けない理由

私はがん検診を一度も受けたことがありませんが、その理由はいくつかあります。

まず、面倒臭いこと。命がかかっているのに、面倒臭いなんて、バカじゃないのかと思う人もいるかもしれませんが、検診を受けて、異常なしなら受ける必要はなかったということですし、異常ありで要精密検査などという結果が返ってきたら、面倒な上に心理的にも悪影響があります。

でも、それで命が助かるかもしれないじゃないかと言う人もいるでしょうが、ほんとうにそうでしょうか。

日本対がん協会の資料によれば、大腸がん検診では、1万人のうち異常を指摘されたのが607人で、がんは17人。乳がん検診では、異常を指摘されたのが447人で、がんは24人だったそうです(2017年)。

マンモグラフィーで乳がん検診を受ける女性
写真=iStock.com/gorodenkoff
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/gorodenkoff

判定する医者は見落としを恐れますから、どうしても「要精密検査」の判定が増えてしまいます。そうなると、改めて病院に行かねばならず、行ってもすぐに検査はしてもらえず、まず予約を取って、検査を受けても結果は後日と言われ、毎回、長時間待たされ、検査でシロとわかるまで、あれこれ悩み、日常生活が乱されることになります。

それでも、無症状のがんが早期発見されて、命が助かるのならいいと言う人もいるでしょう。ですが、検診で助かった人は、検診を受けなかったらみんな亡くなったのでしょうか。症状が出てから治療を受けても、助かる人もいるはずです。

だったら、ほんとうに検診を受けたおかげで命拾いしたと言える人は、ごくわずかになるのではないでしょうか。そんな検査のために、時間とお金と体力を浪費する気にはなりません。検査被曝でがんになる危険性を考えればなおさらです。

■医者の本音

それでは、医者はどれくらいがん検診を受けているのでしょう。具体的な資料がないので、以前、同級生の医者にアンケートをしてみました。「この10年間に何回、がん検診を受けましたか」という質問に、36人が回答してくれ、ゼロ回が20人と、多数派を占めていました(毎年受けているのは7人)。

医者は専門知識があるので割り引かなければなりませんが、患者さんに勧めながら、自分は受けない者が多いようです。

■受けていれば助かったという保証はない

厚労省が言うように、日本人は二人に一人ががんになるというのであれば、逆に二人に一人はがんにならないということです。

久坂部羊『寿命が尽きる2年前』(幻冬舎新書)
久坂部羊『寿命が尽きる2年前』(幻冬舎新書)

一生、がんにならない人には、何度も受けるがん検診がすべて無駄ということになります。医者仲間の集まりで、私ががん検診を受けないことを公言すると、「そんなことを言うてて、いざがんになったら、検診を受けといたらよかったと思うのちゃうか」と、突っ込まれますが、それはなんとも言えません。

ただ、がん検診を受けなかったおかげで、それまでに時間的、経済的、労力的な不利益を免れ、その分、好きなように生きた事実がありますから、先にいいとこ取りをしたのも同然です。

それに、がんで命を落とすことになっても、検診を受けていれば助かったという保証はないですし、ましてや、毎年、厚労省の推奨するがん検診をまじめに受けていたのに、別の臓器のがんになどなったりしたら、悔やんでも悔やみきれません。

それならはじめからがん検診など受けず、自由気ままに生きるほうがいいと、私は思うのですが、それでもやっぱり検診を受けたほうがいいと思う人が多いのであれば、それすなわち心配を好む文化でしょう。

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久坂部 羊(くさかべ・よう)
作家・医師
1955年、大阪府生まれ。大阪大学医学部卒業。在外公館の医務官や高齢者を対象とする在宅医療に従事。2003年、小説『廃用身』でデビュー。小説ではほかに『破裂』『無痛』『虚栄』などの作品がある。『大学病院のウラは墓場』『日本人の死に時』『医療幻想』など医療の裏側を描いた一般向けの啓発書も多数著している。

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(作家・医師 久坂部 羊)

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