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水を温めなおしても"天然温泉"になる…ほとんどの人が知らない「温泉の3つの条件」をご存じか

プレジデントオンライン / 2022年12月17日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/rrodrickbeiler

科学には、さまざまなオモテとウラがある。何の関連もなさそうな2つの事柄が、実は背中合わせだったりする。左巻健男編『科学オモテウラ大事典』(東洋館出版社)より、「ノーベル賞」と「イグ・ノーベル賞」、「温泉」と「炭酸泉」についてお届けしよう――。

■ダイナマイトの発明で巨万の富を築いたノーベル

オモテ
ノーベル賞設置の遺言の真意

毎年ノーベルの命日である12月10日に、ストックホルムとオスロ(平和賞)で、ノーベル賞の授賞式が行われる。

1800年代半ば、ノーベルは父や兄弟たちと一緒に爆薬ニトログリセリンの工場をつくった。ニトログリセリンは強い爆発力があるのに、運搬や保存が難しい物質だった。彼の工場でも大変な爆発事故が起こり、工場はもちろん、働いていた人たちも5人が死亡した。そのなかには末の弟もいた。そこで残った兄弟たちと協力して、この爆薬を安全なものにしようと研究に打ち込んだ。

まもなくニトログリセリンはケイソウ土(藻類のケイソウの遺骸からなる堆積物)にしみ込ませると安定性が増して扱いやすくなることを発見した。これがダイナマイトの誕生である。そしてダイナマイトとセットで雷管(起爆薬などを詰めたもの)も発明した。さらに無煙火薬バリスタイトを開発。世界各地に約15の爆薬工場を経営し、またロシアではバクー油田を開発して、巨万の富を築いたのである。

■驚異的な抑止力をもった武器を求めていたが…

ノーベルは、ダイナマイトを発明する前のことであるが、親交のあった作家で平和運動家のズットナーに次のように語っていた。

「永遠に戦争が起きないようにするために、驚異的な抑止力をもった物質か機械を発明したいと思っています」、「敵と味方が、たった1秒間で、完全に相手を破壊できるような時代が到来すれば……」、「すべての文明国は、脅威のあまり戦争を放棄し、軍隊を解散させるでしょう」。

このような考えは、ノーベル賞設置の遺言にある「国家間の友好関係を促進し、平和会議の設立や普及をつくし、軍備の廃止や縮小に最も大きな努力をした者」に授与するという平和賞の趣旨と矛盾するように思える。

ノーベルが平和賞を思い立った時期は、ズットナーの戦争反対をテーマにした小説『武器を捨てて』が欧米で話題になっていた。ノーベルはその小説に感激して平和賞を思い立ったのでないかとも伝えられている。

■パロディーとして創設された「イグ・ノーベル賞」

ウラ
イグ・ノーベル賞
日本は受賞大国!

イグ・ノーベル賞は、ノーベル賞のパロディーで、1991年に創設された。「下品な」を意味する英語イグノーブルと、ノーベル賞のノーベルをかけた名前の賞である。「人々を笑わせ、そして考えさせてくれる研究」や、「真似ができない、真似してはいけない」業績に対して与えられている。

本家ノーベル賞とは違い、故人も対象となる。科学的な研究が多いが、それだけではなく、科学としては一笑に付されるようなニセ科学的なものも受賞することがある。イグ・ノーベル賞は、毎年10人程度に授与されている。受賞者は10月にハーバード大学講堂で行われる授賞式に招待され、会場を埋めた1200人の聴衆から、盛大な拍手と紙飛行機による温かい歓迎を受ける。

ハーバード大学のサンダーズ・シアター
イグ・ノーベル賞の授賞式が行われる、ハーバード大学のサンダーズシアター(写真=Bestbudbrian/CC-BY-SA-4.0/Wikimedia Commons)

受賞者を選考しているのはイグ・ノーベル賞委員会で、委員会のメンバーには、『ユーモア科学研究ジャーナル』誌の編集者たちをはじめ、多数の科学者、ジャーナリスト、そのほか国籍も分野も経歴も多岐にわたる専門家がいるが、メンバーが一同に会することはない。イグ・ノーベル賞は誰でも申請が可能で、委員会は毎年、数千の推薦状を受け取るのだ。

■スピーチの制限時間を過ぎると…

受賞者には科学者が多く、受賞の辞退もできるが、辞退した人は数少ない。授賞式のスピーチでは、1999年から60秒の制限時間が過ぎると、ミス・スウィーティー・プーと呼ばれる進行役のかわいらしい8歳の少女が登場して、「もうやめて、飽きちゃった。もうやめて、飽きちゃった。もうやめて、飽きちゃった。」と連呼するようになった。この効果は抜群で、式の時間が40%も短縮された。

受賞者の所属国は英国が多いが、日本も受賞大国である。ウィキペディアに「イグ・ノーベル賞日本人受賞者の一覧」がまとめられている。

■「温泉」は3つの条件で定義されている

日本は世界でも有数の温泉大国である。北海道から沖縄まで多くの温泉が存在している。具体的には、温泉地が3000カ所以上で、温泉の源泉数は2万7000以上存在しており、さらなる温泉開発でその数は増加し続けている。では、温泉と言うとどんなイメージをもつだろうか。

温かくて効能成分たっぷり! そんな答えが多いかもしれない。

日本には温泉法という法律があり、温泉の定義がされている。それによると、次の3つの条件のうち1つでも満たしていれば、温泉となる。

①湧出時の温度が25℃以上である。
②1kg中にガスを除く物質が合計1g以上溶けている。
③指定された特定の成分(18種類)が一つでも規定量以上含まれている。

ここで重要なのは、これらの条件のうち一つでも満たしていれば温泉であるという点だ。つまり、温度が25℃以上あれば、ほとんど何も溶けていない水でも温泉である。物質が規定より多く溶けていると、どんなに冷たくとも温泉である。先ほどのイメージとは全く異なるものも温泉になり得るのだ。

露天風呂
写真=iStock.com/kuppa_rock
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kuppa_rock

■冷めた水を加熱しても“温泉”になる

このような条件を自然のままで満たしている温泉が天然温泉だ。

入浴に適した温度にするために、加熱したり、逆に加水したりしても、湧出時に温泉条件を満たしていれば、もちろん天然温泉となる。最近では、伝統的な温泉地に加えて新たに天然温泉をうたう施設が増えてきた。実はこれも温泉の定義が関係する。

近年、ボーリング技術が進歩し、地下深くまで掘り進めることができるようになった。一般的に、地熱の影響で100m掘ると地表温度より3℃地温が上昇する。つまり、1000m掘るとおよそ地表温度+30℃の地温となる。その地温と同じ温度の地下水をうまく汲み上げることができれば、それは温泉条件を満たした天然温泉となるのだ。

温泉に行った時に、温泉の成分表や効能(適応症)が書かれたものを見たことがあるだろうか。一般的に、温泉の効能は入浴による物理的作用や含有成分などによる化学的作用及びリラックス効果などの心理的作用によるものとされている。また、特定の泉質によっては、その成分による効能があるとされている。

しかし、これらは成分のせいというよりも、お湯で温まることでの神経系やホルモン分泌への刺激、免疫活性化や代謝の促進が主なようだ。「がんが治る温泉」と言われる温泉があるが、それは個人的な体験談として治った人がいるということで、科学的に裏付けられた効能とは言えないのである。

■科学的に効能が説明できる「炭酸泉」

そんななかで、比較的効能が科学的に説明できるものもある。それは二酸化炭素が溶けている炭酸泉だ。

お湯に溶けている二酸化炭素は、皮ふから体内に入り込み、血液中の二酸化炭素濃度を増加させる。すると体は二酸化炭素を体外に運ぶために酸素を細胞に送り込もうとする。そこで酸素を送り込む血液をたくさん循環させるために血管を広げる。結果、血行が良くなり、血液循環が活発になるのだ。

左巻健男編『科学オモテウラ大事典』(東洋館出版社)
左巻健男編『科学オモテウラ大事典』(東洋館出版社)

炭酸泉に入ると、お湯に浸かっている部分が特に赤くなるのはこのためだ。血液循環が良くなると、全身の新陳代謝が促進されるので、入浴後のポカポカが長く継続したり、疲労が取れやすくなったりする。二酸化炭素の入浴効果は、濃度が高いほど大きいことが知られている。

お湯1Lに二酸化炭素が1000mg以上溶けたものを「高濃度炭酸泉」と呼び、循環器病の治療にも利用されている。ヨーロッパでは、炭酸泉のことを「心臓の湯」と呼んでいる。日本では、沸かさずにそのまま入れる天然の炭酸泉は数少ないが、近年、人工的に二酸化炭素を溶かした人工炭酸温泉が増えてきている。

二酸化炭素は温度が高くなると溶けにくくなるので、炭酸泉の温度は少しぬるめだが、じっくりと入浴してその効果を実感してみてはどうだろうか。

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左巻 健男(さまき・たけお)
東京大学非常勤講師
東京大学教育学部附属中・高等学校、京都工芸繊維大学、同志社女子大学、法政大学生命科学部環境応用化学科教授、同教職課程センター教授などを経て現職。東京学芸大学大学院教育学研究科理科教育専攻物理化学講座を修了。『RikaTan(理科の探検)』誌編集長、中学校理科教科書(新しい科学)編集委員。法政大学を定年後、精力的に執筆活動や講演会の講師を務める。『面白くて眠れなくなる物理』『面白くて眠れなくなる化学』『面白くて眠れなくなる地学』『怖くて眠れなくなる化学』(PHP研究所)、『身近にあふれる「科学」が3時間でわかる本』『身近にあふれる「微生物」が3時間でわかる本』(明日香出版社)、『絶対に面白い化学入門 世界史は化学でできている』(ダイヤモンド社)など著書多数。

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(東京大学非常勤講師 左巻 健男、帝塚山中学校・高等学校教諭 仲島 浩紀)

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