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IT人材が必要なのに、GAFAより待遇が悪い…文系社員に頼ってきた銀行業界をこれから待ち受ける地獄

プレジデントオンライン / 2022年12月15日 13時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/y-studio

金融業界はこれからどうなるのか。ジャーナリストの河合雅司さんは「最大の課題はIT人材の確保だが、IT人材に対する日本企業の処遇は世界各国と比べて高くない。人材確保に失敗すれば、これまで築き上げてきた『信用力』という資産を失うことになるだろう」という――。

※本稿は、河合雅司『未来の年表 業界大変化』(講談社現代新書)の一部を再編集したものです。

■安くて便利なネット銀行の台頭

日銀のマイナス金利政策導入や人口減少に伴う国内マーケットの縮小で収益低下に苦しむ銀行業界だが、デジタル化の波によってネット銀行が登場し、既存の銀行のビジネススタイルが大きく変わってきている。

多くの説明を要しないだろうが、ネット銀行は利用者が所有するスマートフォンやパソコンが「銀行の窓口」である。いつでも、どこにいても振り込みや残高照会といった銀行手続きが可能なサービスだ。

こうした利便性に加えて、実店舗をほとんど持たないことにより手数料も既存銀行より割安である。キャッシュレス取引が社会に定着してきたこともあって、いまやデジタルネイティブ世代だけでなく、幅広い世代に普及している。

■メガバンクは急ピッチでコスト削減へ

ATM手数料の相次ぐ値上げを嫌ってネット銀行への乗り換えが進んだことに、既存銀行は危機感を強めている。とりわけ、人口減少によるマーケットの縮小ペースが速い地方銀行は深刻だ。各銀行ともインターネットバンキングサービスの拡充を図り、顧客の取り戻しに懸命である。ネット銀行の普及に背中を押される形で、金融業界全体が取り組み始めたということだ。

もちろん、既存のビジネススタイルのまま、インターネットバンキングを強化するのは非効率である。ということで、各銀行はコストの削減に取り組んでいる。メガバンクをはじめとする大手銀行を中心に店舗網やATM網の大胆な統廃合が急ピッチで進んでいるのもこうした要素が大きい。

■相次ぐ通信障害、失われる「信用」

既存のビジネススタイルからデジタルを活用したビジネススタイルに大転換中の金融業界だが、少子高齢化が「大きな壁」となって立ちはだかりそうである。

金融機関の最大の資産は「信用力」である。しかしながら、金融各社にはデジタル化に後れを取っているところが少なくない。メガバンクでさえ、いまだに通信障害が発生してATMが何時間も利用できないといったトラブルを頻繁に起こしている。

今後、「信用力」を勝ち取りながら多様なサービスをインターネットサービスとして展開していくならば、より強固で安定的なデジタル基盤の整備が必須となる。

それには、先端IT人材が必要となるためメガバンクのみならず、地方銀行や証券会社、生命保険会社、損害保険会社といった金融業界全体でこうした人材の争奪戦がすでに激化している。

■2030年にはIT人材は78万人不足する

だが、先端IT技術を扱える人材がそんなに簡単に育つはずがない。しかも少子化で若い世代は急速に減ってきているので、金融各社が求める人数を計画通りに確保できるとは考え難い。

経産省などの「IT人材需給に関する調査」(2019年)が厳しい将来像を示している。

IT人材は2018年の103万1538人から2030年には113万3049人にまで増えるものの、この年に想定される需要を満たすには44万8596人足りないと見積もっているのだ。もしIT需要が想定される中で最も大きくなれば、最大約78万7000人不足するとしている。

2030年にはIT人材が最大79万人不足
出所=『未来の年表 業界大変化』より

■現状は老朽化システムで手一杯

同調査は、IT技術者のニーズは大きいため、「情報処理・通信技術者」として就職する新規学卒者は少子化にかかわらず、緩やかな伸びではあるが増え続けるとも予想している。だが、若者の絶対数が減っていく中でIT分野に就職する新規学卒者が多少増えたぐらいでは、伸びる需要に追い付かないということである。

河合雅司『未来の年表 業界大変化』(講談社現代新書)
河合雅司『未来の年表 業界大変化』(講談社現代新書)

IT技術の進歩は速いため、次々と誕生してくる先端技術を扱える人材は常に不足しがちだ。しかも、日本企業には構築から20年以上が経過した老朽化システムを抱えているところが多く、そのメンテナンスや運用に追われている実情もある。既存のIT人材には先端技術を身に付けている余裕のある人が少ないのだ。「IT人材需給に関する調査」が2030年に供給できると見込むIT人材もすべてが「先端IT人材」とはいかない。

調査はいくつかの前提をおいてシミュレーションしているが、どのケースも「従来型IT人材」が相当数を占める結果となっている。金融各社が「先端IT人材」のみ採用したいと考えるのであれば、2030年の不足人数はさらに大きな数字となる。

■先端IT人材が銀行に就職する理由はない

もっとも金融業界が「先端IT人材」をどんなに求めようとも、各業種から引く手あまたのIT技術者にすれば、「なぜ銀行や証券会社に就職するのか」という疑問がついて回るだろう。優秀な人材であれば、GAFAなど外国の巨大企業に就職したり、起業したりと選択肢はいくつもある。IT人材に対する日本企業の処遇は世界各国と比べて高くない。日本の金融機関をあえて選ぶという人はそう多くないだろう。

既存技術者のリスキリングによる育成も求められるところだが、十分なIT人材の獲得に失敗し、これまで築き上げてきた「信用力」という資産を失うようなことにでもなれば、日本の金融機関は弱体化する。それは日本経済の衰退と同義である。

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河合 雅司(かわい・まさし)
作家・ジャーナリスト
1963年生まれ。中央大学卒業。産経新聞社入社後、同社論説委員などを経て、人口減少対策総合研究所理事長。高知大学客員教授、大正大学客員教授のほか、厚労省など政府の有識者会議委員も務める。2014年の「ファイザー医学記事賞」大賞をはじめ受賞多数。主な著書にベストセラーの『未来の年表』『未来の年表2』『未来の地図帳』(いずれも講談社現代新書)のほか、『日本の少子化 百年の迷走』(新潮選書)など。

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(作家・ジャーナリスト 河合 雅司)

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