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だから死亡者は増えているのに、市場は伸びていない…葬儀業界を直撃する「葬式は不要」という大変化

プレジデントオンライン / 2022年12月18日 9時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/bee32

日本は高齢化で死亡者は増えているが、葬儀業の市場規模は伸び悩んでいる。ジャーナリストの河合雅司さんは「葬儀費用の低価格志向が強まっている。宗教儀式を行わず火葬する『直葬』が主流になりつつあり、葬儀業界は大変化をむかえている」という――。

※本稿は、河合雅司『未来の年表 業界大変化』(講談社現代新書)の一部を再編集したものです。

■まさに花盛りのエンディングビジネス

「多死社会」の到来といえば、葬儀業こそ追い風が吹きそうである。

人口減少で国内マーケットが縮小する中、需要の高まりは確実だ。相続税対策などを含めた「終活」ブームは依然として続いている。

数少ない成長分野とばかりに異分野から葬儀業界へと参入する動きは活発化しており、コンビニエンスストアや飲食店の跡地を改装して小規模な斎場に生まれ変わらせるといったところまである。生前に少しでも遺品整理をしておこうと、60代以上のシニアによるインターネットの中古品市場への出品も増えている。

従来の葬儀社に顧客を紹介することで手数料を得るネット葬儀社も存在感を増している。エンディングビジネスはまさに花盛りである。

■死亡者は増えるのに、市場規模は伸びない?

矢野経済研究所の「葬祭ビジネス市場に関する調査」(2021年)によれば、記録のある2010年の1兆7057億円以降、市場規模はゆるやかに拡大してきており、コロナ禍前の2019年には1兆8132億円となった。その内訳は、葬儀費が1兆2766億円、通夜振る舞いや精進落としなどの飲食費が2703億円、返礼品費が2663億円だ。

2020年は新型コロナウイルス感染症の逆風を受けて1兆5060億円に縮小した。葬儀の場合にはイベントとは違って「感染症が収まるまで延期」というわけにはいかない。だが、政府の行動制限が出されたため、たくさんの参列者が集まる従来の葬儀が少なくなったのだ。代わりに、身内だけの葬儀が増えて市場規模が極端に縮んだということである。

同研究所は、2021年については1兆6179億円に回復すると予測している。

しかしながら、2030年になっても2021年と比べてわずか4.8%増の1兆6959億円にしかならないとの見通しを示している。死亡件数の増加によるマーケットの拡大が確実視されているというのに、コロナ禍前の2019年水準まで戻らないとの見込みにしているのはどうしてだろうか。

■「家族葬」が拡大する納得の理由

コロナ禍で進んだ葬儀の小規模化と単価下落が定着し、長期的になだらかな縮小傾向が続くと見ているのだ。寺院と同じく葬祭業界も「多死社会」を前にして順風満帆ではないようである。

誤解されることが少なくないが、小規模化も低価格志向もコロナ禍によって起きたわけではない。「家族葬」のようなコンパクトな葬儀は、コロナ禍前から利用が拡大していた。その背景には超高齢化と人口減少がある。

要因の一つは、職場の人間関係が変質し、企業が社員の親族の葬儀に関与しない傾向が強くなってきたことだ。

かつては、生前の故人と全く交流がないにもかかわらず勤務先の同僚の身内というだけで参列したり、部署ごとに香典を集めたりということが当然のように行われていた。受付や会場までの道案内も、大半は職場関係者が担っていた。

しかしながら、いまはどの企業も多くの従業員を葬儀のために動員する余力はない。仕事が高度化したことや、転職する人が増えたこともあって職場から家族的雰囲気が消えたこともある。このようにして会社からの参列がなくなると会葬者は少なくなる。

あえて大きな葬式をする必要がなくなったということだ。

地域の結びつきが強く残っている地方は別として、大都市などでは身内以外に葬儀を知らせない人が増えた。近所づきあいが希薄化したこともあるが、親族の死を「プライベート」ととらえる価値観が広がってきているのである。死亡した事実すらすぐに公表しない人も増えている。「香典返しが面倒」という理由で受け取りを辞退する人も多い。こうした価値観は定着していくだろう。

■火葬のみは「本音を言えばいや」だけど…

身内だけの「家族葬」どころか、宗教儀式を行わず火葬する「直葬」を選ぶ人も珍しくなくなってきている。

公益財団法人全日本仏教会と大和証券株式会社による「仏教に関する実態把握調査(2020年度 臨時調査)報告書」によれば、「直葬をしたことがある」との回答は7.4%だ。1割弱が選択しているのである。「本音を言えばいやだ」と否定的な人が47.8%いる一方で、「効率的だと思う」が56.6%、「今後もすると思う」が35.6%となっている。

今後の主流は「直葬」へ
出所=『未来の年表 業界大変化』より

■「直葬」費用は「家族葬」の3分の1

「小さなお葬式」のブランドで知られるユニクエストの調査(2022年2月~5月)によれば、過去1年以内に行われた葬儀の形式は「直葬」が13.3%で「一般葬」(19.5%)との差は小さい。葬儀費用の全国平均は「一般葬」の約191万円に対し、「家族葬」は約110万円、「直葬」は約36万円だ。

コロナ禍にあって多くの人の意識に変化が生じたという側面もあるが、今後「直葬」が普及していくと、葬儀業の市場規模は一層縮むこととなる。新規参入が活発なだけに、さらなる低価格化が進むことも予想される。こうなると、顧客が増えても思うように利益が上がらなくなる。

■このままでは地域格差がどんどん広がる

葬儀業が「多死社会」という大きなビジネスチャンスを十分に生かし切れないのは、業界特有の事情もある。

河合雅司『未来の年表 業界大変化』(講談社現代新書)
河合雅司『未来の年表 業界大変化』(講談社現代新書)

葬儀では、亡くなった人の居住地近くの葬儀社や斎場を利用することが一般的である。ご遺体を遠方まで運ぶことは困難であり、火葬場は大半が公営で周辺住民は割安な料金で利用できることが多いためだ。要するに、葬儀業とはローカルビジネスなのである。

営業で他地域を開拓するわけにもいかず、葬儀社が立地するエリアの人口が減れば市場も縮小する。日本全体の死亡数の増加に応じて、どの地区も平等にマーケットが拡大するとはいかないのである。これでは、全国展開していない葬儀会社は国内マーケットの縮小に悩む他業種の企業と何ら変わらない。

高齢者人口がすでに減少している地域に立地している葬儀社の場合、全国マーケットを対象にできる他業種の企業よりも早く経営が厳しくなりかねない。そうしたことが想定されるようになれば、高齢者が増えて成長が見込める大都市などへと拠点を動かすことになるだろう。

葬儀件数の地域差は大きい。大都市圏では火葬の日まで遺体を預かる「遺体ホテル」というニュービジネスが成り立つことでも分かるように、“火葬待ち”が起きるところもある。葬儀件数の地域差がさらに拡大したならば、将来、人口激減地区から葬儀社が相次いで撤退して葬式を執り行うだけでも一苦労というところが出てくるかもしれない。

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河合 雅司(かわい・まさし)
作家・ジャーナリスト
1963年生まれ。中央大学卒業。産経新聞社入社後、同社論説委員などを経て、人口減少対策総合研究所理事長。高知大学客員教授、大正大学客員教授のほか、厚労省など政府の有識者会議委員も務める。2014年の「ファイザー医学記事賞」大賞をはじめ受賞多数。主な著書にベストセラーの『未来の年表』『未来の年表2』『未来の地図帳』(いずれも講談社現代新書)のほか、『日本の少子化 百年の迷走』(新潮選書)など。

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(作家・ジャーナリスト 河合 雅司)

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