「毎日20キロ以上の通学」を強いられる小学生が増加…全国で小学校の統廃合が進む本当の理由
プレジデントオンライン / 2022年12月21日 9時15分
※本稿は、河合雅司『未来の年表 業界大変化』(講談社現代新書)の一部を再編集したものです。
■まもなく「公務員不足の時代」が訪れる
人口減少の影響は、地方公務員も無関係ではない。小規模の市役所や町村役場の場合、採用試験の応募者はそこの出身者であるとか、学生時代に下宿していたとかといった何らかの縁を持っている人が大半だ。
ところが、総務省の「住民基本台帳に基づく人口、人口動態及び世帯数」(2022年1月1日現在)を見てみると、2021年は128の自治体で出生数が10人未満だった。このうち2つの地方自治体は出生数ゼロだ。年間一桁しか子供が生まれない地方自治体では、20年もしないうちに公務員試験の受験者不足に陥る可能性が大きい。
そもそも、すべての若者が地方公務員志望ということではない。出生数の減少が続いていけば、多くの地方自治体で計画通りの採用ができなくなる。
日本は、人口あたりの公務員数が極端に少ない国とされるが、総務省の「地方公共団体の総職員数の推移」によれば、2021年の地方公務員の総数は280万661人(このうち一般行政は93万4521人)だ。
住民の高齢化が進み、きめ細やかな個別対応を求められる場面が増えてきているが、バブル経済崩壊以降の地方公務員数は減ったままだ。最多だった1994年の328万2492人と比べると2021年は14.7%も少なくなっている。
■過疎地ではむしろ、もっと職員数が必要に
一方で、住民数のほうも減っていくのだから地方公務員数が少なくなっても業務に差し支えないようにも思えるが、そう単純ではない。
人口が増加していた時代においてすでに過疎地だった地区はある。こうした地区の住民がただちにいなくなるわけではないので、これまでと同規模の自治体職員数を必要とするからだ。
むしろ、こうした過疎地域では今後、生活環境が厳しくなることが予想され、これまで以上に職員数を増やさなければならなくなる可能性もある。平成の大合併を経て、地方の小規模自治体には広大な過疎地域を抱えることとなったところが増えた。
総じて出生数が少なく、公務員のなり手も乏しい「地方」の小規模自治体ほど、住民が減っても地方公務員を減らしづらいのである。
■いまの行政サービスを維持できるのか
これについては、総務省が、2040年に必要となる地方公務員数(教員、警察職員は含まない)を推計し、2013年と比較する形で減少率を公表している。政令指定都市のこの間の人口減少率は9.2%だが、公務員数はほぼ同じ9.1%減らすことができる。一方、人口1万人未満の町村は人口が37.0%減るのに24.2%しか減らすことができないというのだ。
総務省の人口推計によれば、2021年10月1日現在の20~64歳の日本人人口は6669万5000人だが、社人研の将来推計によれば2045年には4分の1ほど少ない4905万4000人となる見込みだ。ここまで減ると、地方公務員の確保も相当難しくなる。
日本総合研究所の推計は、2045年に現行水準の行政サービスを維持するには地方公務員数が約83万9000人必要だが、約65万4000人しか確保できず、充足率は78.0%まで低下するとしている。自治体規模別では大都市(政令市、中核市、特例市)が83.0%、一般市が74.5%、町村が64.6%で、小規模自治体ほど人手不足が深刻になる。
![2045年に地方公務員は2割不足](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/3/f/1200wm/img_3f904f6c9445a254f02681f0d684a0fc249241.jpg)
■教員不足で小中学校の統合が加速
地方公務員が減ることに伴う弊害は、市役所や町村役場内だけで起きるわけではない。住民が不便さを感じるようになることも多い。その代表例が小中学校の統合だ。出生数が減っている地区を中心に、すでに進み始めている。
統合が進む背景には、地方財政が厳しい状況に置かれていることがある。小規模校のままでは教員の確保や校舎などの維持管理が非効率になりやすいためだ。若者の人口減少に伴って教員の採用も困難になっていく中で今後は教員不足も加速化していく。勤務地を分散させられなくなってきているのである。
学校教育法施行規則が小学校の標準的な学級数を12~18としていることもある。小規模校(11学級以下)ではクラス替えができずに人間関係が固定化したり、集団行事・部活動に制約がかかったりといったデメリットが生じるためだが、全体の約半分(9458校)は11学級以下(2021年)となっている実情もあり、各教育委員会は規模の拡大を迫られているのである。
文部科学省によれば、2009年度の3万2018校から、2019年度は2万8803校へと10年で1割ほど減っている。また、同省が市区町村の教育委員会などに実施した調査では、2019~2021年度の3年間だけで統合数は437件(1055校が454校へと再編)に上っている。
1752市区町村のうち統合事例があったのは17%だ。統合形態としては、小学校同士が273件、中学校同士が94件、義務教育学校の設置が51件、施設一体型の小中一貫校が16件、その他が3件である。
■8.4人に1人が「東京都生まれ」
小規模校が誕生するのは、出生数減少だけが理由ではない。地域偏在が拍車をかけている。総務省の「住民基本台帳人口移動報告」によれば、2021年に東京都へ転入した女性は19万7947人だが、このうち20~24歳が5万8355人(29.5%)、25~29歳が4万6152人(23.3%)、30~34歳が2万3803人(12.0%)を占めている。
出産適齢期の女性がこれだけ東京都に流出したならば、地方の出生数が少なくなるのは当然のことである。厚労省の人口動態統計(2020年)によれば、都道府県で出生数が最多だったのは東京都(9万9661人)だ。最も少ない鳥取県は3783人でしかない。
2020年の年間出生数は84万835人なので、いまや新生児の8.4人に1人は「東京都生まれ」なのである。
■毎日20キロ以上を通学する小学生たち
しかも、各県内においても地域偏在が進んでいる。多くは県庁所在地など人口の多い地方都市で生まれている。同じ地方圏にあっても県庁所在地などではない自治体を中心として小規模校が誕生しているのだ。
「大人の事情」によって進む統合だが、影響を受ける子供たちにとっての一番の課題は通学時間が長くなることだろう。
2019~2021年度では、統合によってスクールバス通学が156件から325件へと増加している。通学距離20キロ以上の人がいる学校は、小学校で8%、中学校では14%に及んでいる。自宅からここまで離れてしまうと、低学年の子供たちにとっては精神的負担の大きさが懸念される。
■住民が恐れているのは地域の“消滅”
ちなみに、小中学校の統合というのは簡単にはいかない。該当する学校があるにもかかわらず統合できなかった事例は199に上った。
「地理的要因や通学距離の関係で困難」(46%)、「域内の小中学校が1校ずつしかない」(39%)ことが主な理由だが、地元の理解の取り付けも大きなハードルだ。学校の規模の適正化に向けた課題や懸念として、89%の教育委員会が「保護者や地域住民との合意形成」を挙げている。
![河合雅司『未来の年表 業界大変化』(講談社現代新書)](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/c/8/1200wm/img_c818b212b5007ed7166f4b4736cd09d3245205.jpg)
学校がなくなる地域の住民の反対が根強いのは、地域そのものの“消滅”に直結する恐れがあるためだ。学校がなくなると、子育て世帯の流出が予想されるばかりか、ファミリー層の移住者の受け入れも難しくなる。子育て世帯が減れば、農業をはじめとする地域産業は担い手不足となり、公共交通機関や地元商店の廃業や撤退へとつながる。地域人口の減少を加速させる引き金になるとの懸念である。
反対論を理解しないわけではないが、少子化が深刻化する社会においてすべての学校を維持することは困難である。一方で、「規模の拡大」が最終的な解決策というわけではない。地域の人口が減り続けて地方自治体の存続すら危ぶまれるようになれば、再統合を迫られる。
地方公務員の採用難も、公務員不足による行政サービスの劣化も「消滅」へと歩みを始めた地方自治体が通る道である。
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作家・ジャーナリスト
1963年生まれ。中央大学卒業。産経新聞社入社後、同社論説委員などを経て、人口減少対策総合研究所理事長。高知大学客員教授、大正大学客員教授のほか、厚労省など政府の有識者会議委員も務める。2014年の「ファイザー医学記事賞」大賞をはじめ受賞多数。主な著書にベストセラーの『未来の年表』『未来の年表2』『未来の地図帳』(いずれも講談社現代新書)のほか、『日本の少子化 百年の迷走』(新潮選書)など。
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(作家・ジャーナリスト 河合 雅司)
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