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やはり日本人選手はコスパがいい…W杯で躍進した日本サッカーに欧州リーグが熱視線を注ぐワケ

プレジデントオンライン / 2022年12月11日 11時15分

W杯決勝トーナメント1回戦・日本-クロアチア。前半、先制ゴールを決め喜ぶ前田大然(中央)=2022年12月5日、カタール・アルワクラ - 写真=時事通信フォト

■「すばらしいですね!」と日本語で歓喜

カタールで行われているサッカー・ワールドカップ(W杯)で日本代表は、グループリーグで優勝経験を持つドイツとスペインを撃破。史上初のベスト8まであと少しというところで前回大会準優勝のクロアチアにPK戦の末、敗戦という残念な結果に終わった。ただ、今回の快進撃は、欧州のサッカー界に「サムライジャパンの功績」を強く印象づけた。英国に10年以上居住し、日々「サッカーと共に」暮らす筆者が現地の反応を拾った。

「SUBARASHIIDESUNE(すばらしいですね)!」

英国サッカー界で最も有名なテレビパーソナリティとして知られるゲーリー・リネカー氏が、クロアチア相手に日本が先制点を取った直後に思わず発した言葉だ。英国の公共放送BBCで、こうした格好で日本語が聞こえてくること自体、レア中のレアな事態だ。サッカー解説の第一人者が思わず日本語で褒めてしまうほど、今回のサムライジャパン(これも英国メディアがそのまま表記するようになった)の快進撃はお見事なものだったといえよう。

リネカー氏はJリーグ初年度の1992年、日本サッカーを盛り上げるために名古屋グランパスに移籍してそのまま日本で現役生活を終えており、日本との関係は深い。だが、けが続きで活躍するまでには及ばず、思い出したくない過去なのか、日本への言及は長らく封印していた。そのリネカー氏が、日本がゴールを決めたタイミングで思わず日本語を発したのは、筆者にとって衝撃的だった。

■吉田選手もドイツ所属ではなく「元プレミア選手」

サッカーにおいては英国が絶対、イングランドが絶対、という人々の間では、日本の存在などつい最近まで「極東の地味なチーム」くらいにしか思われていなかったきらいがある。

日韓共催で行われた2002年大会があったことから、英国では「あの大会がきっかけで、日本は選手強化やサッカー競技場のインフラ整備が進んだから今の快挙がある」と褒められはするものの、依然として新参者扱いされてきたといわざるを得ない。英国のサッカー専門紙は日本の戦績を紹介したうえで、「日本代表がどれだけ進歩したのか、いまだに明確な答えは出ていない」と厳しく評価する。

ロンドンでサッカーを見ていると、市民もメディアもとにかく「上から目線」でモノを語る。その根拠は、英国がサッカー発祥国だという理由もさることながら、イングランドのプロサッカー1部リーグである「プレミアリーグ」が世界最高峰だという自負があるからだろう。放送権料などによる収入は圧倒的で、「欧州5大リーグ」の中で最高の売上高を誇っている。

そんな英国では、国対抗でしのぎを削るW杯においても、「プレミアリーグにどれだけ貢献度があるか」で選手のレベルが測られる習慣がある。記事を読めば、各国選手名の頭には必ずプレミアのチーム名が付され、テレビやラジオの実況の際もくどいほどに所属チーム名が連呼されるほどだ。ちなみに、日本の主将・DF吉田麻也選手について、現在は独ブンデスリーガのシャルケに所属するにもかかわらず、「長年サウサンプトンでプレーしたベテラン」と評されることが一般的だ。

■「アンダードッグ」から一気に「優勝候補」へ

そんなサッカーに手厳しい英国で、日本の評価が一転したのは11月23日のドイツ戦だ。それまで日本は、W杯の本戦で優勝国のどこにも勝ったことがなく、1998年フランス大会の出場以来、「グループリーグで最下位」または「16強に手が届くもそこで敗戦」のどちらか、という実績しかなかった。

欧州では“死の組”E組に入った日本について「到底勝ち目のないチーム」を意味する「アンダードッグ」との評価しかなく、つまり決勝トーナメントに参加するまでの実力はない、というのが大方の予想だった。

ところが、手も足も出ないと考えられていたドイツに完勝。英国メディアがこぞって「アンダードッグ転じて優勝候補に名を連ねるジャパン」と、手の平返しで大喝采する騒ぎとなった。

日本代表チームの快進撃といえば、スポーツは違えど2015年のラグビーW杯で南アフリカをラストワンプレーで逆転して勝利した記憶が英国人には強く印象付けられている。ドイツに勝った直後、ロンドンの街に出てみたら、誰からともなく「おめでとう」「勝ったね」と声がかかり、自分がプレーしていたわけでもないのに誇らしくなる。南アに勝った時も多くの人々から褒められる経験をしたが、こうした「お声がけ」は何度でも歓迎だ。

■コスタリカを圧倒しなければ一流国になれない

鮮烈な勝利ののち、英国サッカー界の次の関心事は「日本は強豪国の仲間入りをすることができるか?」という期待だった。

11月27日に行われたコスタリカ戦の開始前、元イングランド代表MFジョー・コール氏はこう指摘していた。「ドイツに勝った日本が本格的な強豪国に名を連ねるなら、コスタリカを大量点で負かさねばならない」

つまり、日本はさっさと2勝し、16強に名乗りを上げ、次のスペイン戦を気楽に戦うというシナリオだ。これなら体力を温存し、決勝トーナメントにより集中できる。「あくまで本気を出すのは決勝トーナメントに行ってから」という、イングランド元代表らしい発言だ。

しかし結果は敗戦。ここで「強豪国入り」を期待した英国サッカー解説陣やメディアは、「ドイツ戦の勝利は奇跡だったか」とでもいうような明らかに失望する論調が目立った。日本サポーターのスタンドのゴミ拾いとロッカールームの清掃は英国でも広く知られているが、肝心のプレーで魅せることができないまま予選リーグ敗退という見立てが強まっていた。

その後、英国が再び大盛り上がりした瞬間は、12月1日に行われたスペイン戦のあるシーンだった。

■VAR判定を「因縁のドイツ戦」と重ねていた

日本がスペインと戦っている最中、E組のドイツとコスタリカも試合をしており、4チームが数分ごとに順位が入れ替わった状況は英国でも大きな話題になった。過去最大級の激戦に、W杯の公式アカウントも「グループEさん、君のことは永久に忘れない」と、運営側からみても異例のシーソーゲームだったことを物語っている。

中でも英国メディアが注目したのは、日本×スペイン戦の後半6分にMF田中碧選手が決めた決勝ゴールだ。

伏線となったのは直前、わずか2ミリほどだけ線上に残ったボールを、MF三笘薫選手が拾ってアシストする格好になったあのプレーだ。VAR判定でインを勝ち取り、世紀の大逆転となったわけだが、サッカーの元祖を自認するイングランドでは「デジタルの目で見た結果だからインはイン」「見た目ではボールが外に出ているのだから、あんなものが許されるならVARなど潰してしまえ」など両極端な意見が続出。自国の試合でもないのに国を二分するかのような大騒ぎとなった。

もう一つ、英国市民を大いに喜ばせたのは、この決勝点がドイツをグループ敗退へと送り込むとどめになったことだ。これはW杯でVARが導入される“直接原因”ともいえる出来事が2010年南アフリカ大会での、決勝トーナメント初戦のイングランド対ドイツ戦で起きた“事件”による。

選手たちに声援を送る観客たち
写真=iStock.com/ALFSnaiper
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/ALFSnaiper

■W杯後に「日本人選手の争奪戦」が始まるか

2010年大会で名MFフランク・ランパードが放ったボールは上部のバーに直撃し、誰が何度ビデオを見返してもゴールポスト内でボールが完全に弾んでいるのだが、当時の主審はこれを「ノーゴール」と判定、歴史に残る“幻のゴール”とされる。

この経緯を知るほとんどのイングランド人は、三笘選手が拾ったボールについて「VAR導入でドイツを打ち破る結果につながった。これはカルマ(因果応報)だ」として大いに溜飲を下げたというわけだ。タブロイド紙は日本勝利翌日の夕刊でも再び「三笘のアシスト」について伝えていた。

W杯の戦績でいえば、今回もまた日本は16強止まりとはいえ、「2つの優勝経験国を撃破」と内容がまったく異なる。しかも、全体を見回せば、ドイツはもとより前回大会の決勝トーナメントの相手・ベルギーよりも上位へと勝ち進んだ。

W杯終了後の期待は、欧州における日本人選手の争奪戦だ。今回のチームは登録メンバー26人中、19人が現在欧州でプレー、しかもドイツ在籍者が8人と過去に例をみない精鋭がそろった。こうした顔ぶれに欧州の専門紙は「日本がドイツに勝ったことは意外でもなんでもない」と、快進撃を予想していたかの論評もある。

■「日本の選手は飽きずに本気で練習する」

英プレミアリーグをはじめ、「日本の選手は安く獲得できる」というのが欧州クラブの見方だ。これは円安だからお得、という意味ではなく、世界的なレベルから見て日本のレベルはまだまだとされ、欧州クラブでの契約金が極めて低廉なのだ。

英国メディアは、VAR判定で一躍世界で有名になった三笘選手について「(現在所属するプレミアの)ブライトンはとても少ない契約金しか払っていない」としながらも、「現在の彼は2000万ポンド(30億円超)もらっている選手と何ら変わらない」と指摘。DF冨安健洋選手が初めてベルギーに渡った時も安い金額で契約したが、今やプレミアの名門・アーセナルの主力選手として看板を張っている――と、日本人選手の「コストパフォーマンスの良さ」を語る。

ロンドン北部、イズリントン区にあるアーセナルFCのホームスタジアム:エミレーツ・スタジアム
写真=iStock.com/Philip_Willcocks
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Philip_Willcocks

次に起きることは、欧州クラブから日本人選手へオファーがかかることだろう。W杯に出ている選手はすでに多くが欧州で戦っているものの、Jリーグからの「掘り出し」を狙っている雰囲気もある。

元イングランド代表のMFベッカム氏も子供の頃所属していたウェストハム・アカデミーの元監督で、現在Jリーグのテクニカルディレクターを務めるテリー・ウェストリー氏は、欧州クラブから日本人の才能についてよく質問を受けるという。「向上心のある選手を獲得できる。技術も高い。日本の若い選手は、ボールタッチの基本を鍛えろと指示されても飽きずに本気で練習する」と話すと、欧州クラブ関係者は目を見張るという。

■4年後の北米大会は「ベスト8」確実?

このように英国メディアは日本の躍進ぶりを大々的に報道してきたが、早くも4年後の北米大会で日本の行方を占う外電記事を見つけたので最後に紹介したい。

「W杯で善戦の日本、このあと何が起こる?」との見出しでAPニュースは、「日本はすでに世界のトップ各国と勝負になるレベルに到達した」と指摘しており、次回大会は「念願のベスト8」に到達する可能性は十分あると示唆している。

サッカー解説では冒頭のリネカー氏と同様に英国で広く知られる、元イングランド代表のレジェンド、DFリオ・ファーディナンド氏は「今回のサムライジャパンは、ニッポンの誇りだ。日本の人々はこのチームや彼らの戦いぶりをとても誇りに思っていいだろう。スペインとドイツ相手に途中負けていながら、2試合とも2-1で逆転勝利したのだから」と、クロアチア戦の敗戦の後、中継のエンディングでわざわざそう語った。

日本代表の戦いは終わった。しかし、今や欧州、いや全世界のサッカークラブが日本人選手の功績に注目している。サッカーにつけては何かと上から目線の英国で、日本が強豪国として評価される日は、そう遠くないかもしれない。

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さかい もとみ(さかい・もとみ)
ジャーナリスト
1965年名古屋生まれ。日大国際関係学部卒。香港で15年余り暮らしたのち、2008年8月からロンドン在住、日本人の妻と2人暮らし。在英ジャーナリストとして、日本国内の媒体向けに記事を執筆。旅行業にも従事し、英国訪問の日本人らのアテンド役も担う。■Facebook ■Twitter

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(ジャーナリスト さかい もとみ)

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