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「人は悪事に手を染める瞬間、同じ表情になる」万引きGメンが口を揃えて語る"ゾッとする話"

プレジデントオンライン / 2022年12月17日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/AndreyPopov

万引きGメンはどうやって一般客のなかから万引き犯を発見しているのか。施設警備会社として万引き対策を行っているNICCOの日南休実会長は「万引きGメンによってもさまざまなやり方があるが、カートの上に口を開けたままのエコバッグを置いている人や、値段を見ずに商品をカートにいる人はあやしい。また、ほとんどの万引きGメンが『万引きする瞬間に同じような表情になる』と話していた」という――。(第1回)

※本稿は、日南休実『万引きGメンの憂鬱』(ザメディアジョン)の一部を再編集したものです。

■万引きGメンはどんな気持ちで仕事をしているのか

万引きGメンは不思議な仕事です。

万引き犯を捕まえるのが仕事なので、多くの犯人を捕まえた日にはよく仕事をしたことになります。ただそれは世の中にたくさんの犯罪者がいることになり、あまり気分のいいものではありません。

それとは逆に、一日中いろんな店を回っても1人の万引き犯にも出会わない日があります。それは地域が平和ということで、喜ぶべきことですが、それだと万引き犯を捕まえる仕事はできていないことになり、これはこれで後味のいいものではありません。そういう時は「私はここにいる意味があるのだろうか?」と自分のアイデンティティまで危うくなるGメンもいると聞きます。

万引きGメンについては、どんな気持ちで仕事をしているのかよく尋ねられることがあります。頻繁に聞かれるのは、彼ら彼女たちは釣りや狩猟の感覚で、これぞと決めたターゲットを狙い通り捕獲することに快感を感じているのか? ――ということです。

Gメンには通常ノルマというものはありません(万引きGメンにノルマが課せられる世の中は相当怖いです)。確かに確保した件数を手帳に書いている人はいますが、それは「今日は何人捕まえたぞ!」という達成感というより、備忘録として付けている感じです。

万引きは、商品を自分の懐に入れても店外に出るまでは犯罪にならない、また一点のみの現認では声を掛けられないこともあるのですが、その際にGメンが感じるであろう悔しさ、はがゆさは、私には手に取るようにわかります。

しかしそれは釣れそうな魚を逃した悔しさではなく、あくまでも正義感に基づくものです。目の前で行われている悪事を見逃さざるをえない悔しさ、確かに事件は起こっているのにそれを摘発できないもどかしさ……。

私が見る限り、いい万引きGメンの根底には正義感があります。許せないものは許せない、悪事を働いている人がいると見て見ぬフリができない――そういう気持ちがGメンを突き動かし、犯人に立ち向かわせるのだと思います。

■「万引きGメン=女性」というイメージだが…

では実際の万引きGメンはどのように動いているのでしょう?

基本的にベテランGメンは職人気質で一匹狼の人が多いです。そのため、1人で任務に就くことを望みます。こういうタイプは店舗規模が大きいからといって2人体制にして、パートナーをあてがうと嫌がることがあります。

よくテレビなどで女性Gメンが取り上げられるので「万引きGメン=女性」というイメージがあるかもしれませんが、実際は男性Gメンもたくさん存在します。ちなみに本稿で紹介するエピソードは、すべて女性Gメンのものです。

■エコバックを開けたままの人は注意

では万引きGメンはどうやって容疑者を発見しているのでしょう?

いろんなGメンに話を聞いた結果、やり方は人によって異なるようです。とにかく店内をぐるぐる歩き回って怪しい人物を探す人、じっと一ヶ所に留まって店内を見守る人……方法は人それぞれですが、それでも彼女たちが口をそろえて言うのは、不審な人物は一般のお客さんに紛れていても浮き上がって見えるということです。行動に不自然なところがあったり、怪しい雰囲気が立ち昇っていたりすると言います。

たとえばあるGメンはエコバッグの位置をチェックしていました。エコバッグをカバンの中にしまっていたり、カートの下に入れている人は、まず心配する必要がありません。注意するのはカートの上にエコバッグの口を開けたまま置いている人です。

小売セクターの問題の増加
写真=iStock.com/MachineHeadz
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/MachineHeadz

こういう人はカートに商品を入れながら、お店の死角に入ったところで、その商品をこっそりエコバッグの中に隠そうとしている可能性があります。エコバッグに入れて支払いが済んだと思わせ、そのまま店を出ていこうという魂胆です。

エコバッグに関しては、商品を覆い隠すようにカート上にかぶせている人も要注意です。これも商品を見えないようにして、死角でエコバッグに入れようとしている場合があります。このようにエコバッグをどこに置いているか、口を開けて入れやすい状態にしていないかということをGメンは綿密にチェックしています。

■値段を見ずにカートに入れる人は疑わしい

これと同様に、カゴの中の商品の入れ方に注意しているGメンもいました。棚から取った商品をカートの手前に置こうとする人は、マイバッグに素早く入れやすい状態を作り出そうとしているとも考えられます。カートに入れた商品を通路でキレイに整理整頓して、いかにもレジで支払った後のように偽装する犯人もいます。

やはり多くの場合、万引き犯は一般客と違って挙動不審であるようです。先ほどから何度も出ている、人気のない通路を探してキョロキョロしている人、店員がどこにいるのか確認しようとキョロキョロしている人は、そのキョロキョロの時点であからさまに怪しい雰囲気を漂わせています。

また、値段を見ずに商品をどんどんカートに入れている人も容疑が疑われる人です。多くの人は一つ一つ値段をチェックしながら買い物をするのが通常です。しかし大量窃盗を目的にしている人は商品を吟味することなく、松坂牛やビールといった高額商品をかたっぱしからカートに入れていきます。しかも同じものを何個も何個も。彼らはやはり一般の買い物客とは異なる雰囲気を放っているものです。

女性手保持抽象ぼかしスーパー通路背景とショッピング カート
写真=iStock.com/Kwangmoozaa
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Kwangmoozaa

■子供も老人も万引きする瞬間は“同じ顔”になる

そういう意味では買い物用のメモを持って商品を選んでいる人は安全な存在に見えます。ですがこれも万引きの悪質化か、そのメモがカモフラージュという場合もゼロではありません。商品を見ているフリをして、店員の位置や店内の人通りをチェックしているのではないか? ――Gメンの中には買い物客の視線の動きで怪しい人物を特定している人もいます。

あまりGメンの手の内を明かしてしまうと、営業妨害として訴えられてしまうかもしれないのでこのあたりにしておきましょう(笑)。ただ、彼女たちが話した言葉で非常に印象的だったものがあります。これは互いに接点のない何人かのGメンが異口同音に言ったので、きっと真実なのだと思います。

それは子どもでも老人でも、万引きをする人は万引きをする瞬間、同じ顔になるということです。

ある人は、それは目が鋭くなって、すごく意地悪な表情なのだと言いました。猜疑心と罪悪感と欲望の狭間でいざ悪事に手を染めた瞬間、人は誰もが同じ“悪い顔”になるというのはなかなかゾッとする真実だと思いませんか?

万引きGメンはそうした人の負の側面を見つめ続けている存在なのです。

豆知識
日本一有名な天才万引きGメン
伊東ゆう氏の教え


現在、日本一有名な万引きGメンは、伊東ゆう氏である。私のことを「広島の同志」と呼んでくれる彼はまさに「天才」で、これまでに5000人以上を確保し、3冊の書籍を出版している。そして、万引き犯の特徴に「2個取り」(=同じ商品を2個重ねてつかみ取る)と、「バードハンド」(=商品を隠すように手の内につかむ、わしづかみ)などがあることを指摘。「万引き犯には顔がある。それを私は『マンズラー(万面)』と呼んでいる」と言っていたことも思い出されます。

■なぜスーパーは万引きGメンを雇うのか

ここまで万引きGメンの“生態”について説明してきましたが、もしかして基本的なことに疑問を持たれている方もいるかもしれません。

それは「どうして警察が万引き犯を取締まらず、Gメンがその役割を背負っているのか?」ということです。強盗や暴行、殺人などは、当然ですが警察が捜査から犯人逮捕までを担当します。民間の警備組織がそこに関わるというのは聞いたことがありません。ではどうして万引きだけは警察が関与してくれず、Gメンという存在が必要なのでしょう。

それは一言で言うと、警察には万引き犯が捕まえられないからです。この言葉にはいろんな意味が含まれます。

まず万引きは必ず現行犯で逮捕しなければならないという鉄則があります。強盗や暴行、殺人は事件が起こった後でも、現場の状況や物的証拠から犯人を割り出すことが可能です。しかし万引きは盗まれる商品も大量生産された無記名なモノであり、いつ、どこで、誰が、何を盗んだかということが特定しにくい犯罪です。

ただでさえ忙しい警察官が四六時中スーパーやディスカウントストアに張り付いて目を光らせているというのはありえないことです。万引きというのは比較的軽微な犯罪とみなされており、膨大な事件捜査や交通整理などの業務にも追われる日本の警察のリソースを考えた時、彼らに頼るというのは限界があります。簡単に言えば、警察には万引き犯まで手を回す余裕がないのです。

■警察官がお店にいれば抑止効果はあるが…

警察官は職務質問や取調べをすることができる特権を持ち合せています。それは犯罪が起こった後、捜査を行うには非常に有用な権限でしょう。

日南休実『万引きGメンの憂鬱』(ザメディアジョン)
日南休実『万引きGメンの憂鬱』(ザメディアジョン)

しかし息をひそめて犯罪が起きる瞬間を現認し、こっそり後を追尾することが必要な万引き捜査には、その特権は向いていないどころかむしろ邪魔になります。万引きGメンには存在感を消して一般のお客さんに溶け込む技術が必要ですが、一般の警察官にはそれができません。警察官がいると目立ちすぎるし、彼らがいるとすぐにバレてしまいます。彼らには万引き犯を捕まえるスキルが必要ないのです。

もちろん警察官がお店にいれば万引きの抑止効果にはなります。しかし彼らは開店から閉店までずっといてくれるわけではありません。逆に目立つ彼らがいなくなったスキに、万引き犯はここがチャンスと犯罪に走ることでしょう。

■警察が対応できるのは“犯罪が起きた後”

やはり警察官がもっとも機能するのは犯罪が起こった“事後”なのです。彼らはまだ起きてない犯罪を未然に防ぐことは得意ではありません。以前より少なくなってはいますがDVや幼児虐待、ストーカー犯罪など、何度も警察に相談に行きながらも結局は大きな事件が起こってしまっている事例からもわかることです。

なので万引きを事前に防ぐ、そして容疑者を現行犯で確保する役割は万引きGメンが受け持つことになります。Gメンが容疑者を見つけて、確保して、その後警察に引き渡し、警察はその容疑者を取調べて、処罰する――そうした連携の上で万引き犯の取締まりは成り立っているのです。

豆知識
警察の大きな力と昨今の対応


Gメンは現行犯でなければ容疑者を確保できませんが、警察官は特権を持っているため怪しいと思えば職務質問を掛け、バッグの中を確認することができます。それは任意とはいえ、大きな特権です。また証拠が固まれば、後日であっても容疑者を逮捕することが可能です。広島県だけでもストーカー・DV事案の相談件数は数千件に上ります。その観点からすると警察が事件を未然に防いでいないという言い方は誤りだといえるでしょう。

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日南休 実(ひなやすみ・みのる)
NICCO取締役会長
広島市に生まれる。1984年、NICCOの前身である日弘商事を設立。現在、NICCO社長は日南休悟。店舗清掃やビルメンテナンス事業を行っていたが、施設警備や保安業務に進出したことを機に万引き犯罪に対峙。そこから店舗の防犯対策やロス対策の研究を進め、独自の防犯システムである「セキュリティマーチャンダイジング(SMD」を完成させる。

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(NICCO取締役会長 日南休 実)

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