中国人が「パブロンゴールド」を買い占める…中国のコロナ政策の転換で、日本の風邪薬が売り切れるナゾ
プレジデントオンライン / 2022年12月12日 18時15分
■「君子豹変す」としか言いようがない中国のコロナ政策
「風邪薬、買いこんでおいたほうがいいですよ。すぐに買えなくなりますから」
数日前、ある在日中国人の友人からメッセージが送られてきた。背景にあるのは、中国のコロナ対策の転換だ。
中国のコロナ対策がなんで日本の風邪薬不足につながるの? と不思議に思われるかもしれない。ちょっと面倒だが、この「風が吹けば桶屋が儲かる」的な連鎖について説明させてほしい。
もともとのコロナ対策は、無症状の感染者も濃厚接触者もそれどころか濃厚接触者の濃厚接触者までもすべて隔離してしまう。ついでに、複数の感染者がでたハイリスク区画は封鎖してしまう。というものだった。感染者も感染疑いのある人もまるっとすべて“あちら側”に封鎖する。それによって一般社会はウイルスゼロの日常生活が送れるのです……というのが中国のコロナ対策だったわけだ。
ところがこの政策が12月に入ってがらりと転換した。中国の人々が怒りの声をあげた抗議活動「白紙革命」の影響が大きかったのか、それとも日々増え続ける感染者数に中国政府ももう無理だと音を上げたのか。政策転換の理由はわからないが、ともかく従前の政策からは180度の急展開である。
感染者を無理に見つけ出すことはやめます。濃厚接触者はもちろん、無症状感染者も治るまで家にいていただいて結構です。オミクロンなんて恐くないですから。一応、オススメのお薬リストを用意しておきましたので、それを飲んで寝ておいてください。あ、薬は自力で入手してくださいね……。
こんな具合である。今までは「ゼロコロナをやめれば100万人が死亡する、だから「人民至上! 生命至上!」(人民第一! 生命第一!)を旗印にきっつい行動制限をかけます。これも人民の皆様のためです、ご了承ください。苦しいかもしれませんが、これが一番科学的、効率的、経済的な対策なのです。この対策をやめたらアメリカや日本みたいにばんばん人が死にますよ!!!」という説明だったのだが、あれはいったいなんだったのか?
そういえば、「君子豹変す」は中国のことわざであった。改めてその意味を思い知った次第である。
■急速に需要が高まったパブロンゴールド
さて、ひたすらPCR検査をかける状況から検査数を抑える方向に転じたので、報告上の感染者数は減少に転じている。が、実際には感染者がどこにいるかわからない。北京市など一部地域では早くも発熱外来がパンクしているという。今まではコロナ対策を恐れていた中国人民だが、ついにコロナ感染を恐れなければならない状況になったわけだ。
![](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/b/3/1200wm/img_b3ab3ad0a423afdee63b04fdf737aab5325687.jpg)
というわけで、中国国内では早くも「解熱剤」の売り切れが始まっている。だったら日本で買い占めて中国に転売すれば一儲けできるじゃん! とめざとい人たちも動いているのだ。
![日本で品薄になっていると説明している](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/3/c/1200wm/img_3cb0d49b6b217823bc8b2e37f5cf6bd41634897.jpg)
■転売目的で億単位の風邪薬を購入した業者も
中国人の転売事情に詳しい、ある調査会社関係者は、「現在は削除されていますが、中国のソーシャルメディアで日本の風邪薬パブロンゴールドがコロナに効くとの投稿があったことで、買い占めの動きがあります。億単位で購入した業者が出たという話もあります」という。
もともとパブロンゴールドは、日本旅行買い物ガイドで「日本十大神薬」の一つに取りあげられており、大手ネットモールの海外商品輸入ショップでもよく売られている人気商品だ。中国メーカーの薬よりも日本製の薬を信頼するという中国人消費者も多い。
![メーカー直営店以外にも輸入品販売ショップがずらり](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/8/5/1200wm/img_85be21da42626a2f1028e685f2790e351312502.jpg)
実際のところ、買い占めがどの程度の規模で広がっているかは未知数だ。都内の大手販売店では「お一人様1点限り」といった購入制限をかけるところもある。今後、中国の感染拡大が広がれば、日本の解熱剤の需要は一気に高まるだろう。
さらにパルスオキシメーターや抗原検査キットも中国では品切れが続いているとのことで、こちらも日本で確保しようという動きが広がりそうだ。あるいはSARSや新型インフルエンザであったような、「お酢で殺菌」「ヤクルトに予防効果」「ニンニクを口に含んでおけば予防できる」といったトンデモなデマが引き起こす特定商品の品切れや価格高騰もありうる。
■最終的に全中国人の90%が感染する可能性も
それにしても、このゴタゴタ感には既視感を覚える。そう、2020年前半の新型コロナに伴う各種医療物資の不足である。マスクや防護服、消毒液の奪い合いが相次いだ。
海外に住む中国人の間には、そうした物資を買い占めて本国に寄付する愛国者もいれば、転売して一儲けした人もいた。そればかりか、転売屋から買い集めた物資を寄付するという転売・愛国一体化というパターンもあって、カオスが極まっていたのであった。その世界が戻ってきたようだ。
![](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/7/e/1200wm/img_7e10cb96fb2b5df63717ed2988b810401814679.jpg)
今後、中国のコロナはどのような展開を迎えるのか。中国の新型コロナ対策専門家グループのメンバーである、中国国家疾病予防管理センター元主任の馮子健氏は6日、北京市・清華大学で行った講演で「数理モデルによると、第一波のピークでは感染率は60%前後に達する。その後、安定期を迎えるが、最終的には全中国人の80~90%が感染するだろう」と発言している。
厚生労働省は、新型コロナウイルスの感染歴を調べる抗体検査を11月6~13日に全国の8260人に実施した結果、全国で26.5%が保有していたと発表している。日本が3年かけて26.5%、それを第一波だけで60%に達するというのは信じられない話である。
■ワクチン忌避が強く高齢者の接種率は低いまま
感染者急増の備えとしてネックとなるのがワクチンだ。世間から効果が疑問視されており、中国でも一部からは「あれってただの生理食塩水なのでは?」と揶揄されている中国製ワクチンだが、香港衛生署衛生防護センターによると重症予防効果は確かに認められている。
感染者の死亡率はワクチン未接種で2.45%。それが中国製ワクチンを2回接種すると、0.35%、3回で0.1%にまで下がるという。ファイザーのワクチンでは2回で0.06%、3回で0.02%とのことで差はあるものの、未接種と比べれば雲泥の差だ。
問題はリスクの高い高齢者の接種率が低いこと。80歳以上のワクチン3回接種率は40%程度と低い。高齢者のワクチン忌避が強く接種は遅々として進んでいない。これから強力に推進していくと言うが、感染者が大量にでて医療システムが混乱するなかで、本当に可能なのかは未知数である。
60%が一気に感染してもたいした被害はでないのか、そうした被害を乗り越えて緩和対策を続けるのか、それとも被害を受けて厳格な行動制限に戻るのか。
■「白紙革命」を受けてコロナ対策は落ち着くのか
「白紙革命」後のコロナ対策転換を受け、中国のネットでは「2019年12月に始まったコロナは2022年12月に終わった。劇終」といった文言が広がっている。コロナ対策を緩和すれば日常に戻れる。ワールドカップを見よ、世界ではマスクもつけずに、スタジアムでわいわい騒いでいるではないか。中国もそうなる、というわけだ。
もっとも、この期待は打ち砕かれることになるだろう。英紙エコノミストはコロナ対策を緩和すれば、最大で1日4500万人が感染するとの予測を示している。
これまで中国ではロックダウンなどコロナ対策に伴う混乱はあったが、コロナそのものによる混乱は、初期の武漢市をのぞいてなかったと言ってもいい。
コロナ対策転換後の今後は、これまで世界が経験してきたような問題を次々と経験することになるだろう。医療崩壊による死亡率の上昇、感染者の多発による工場や物流の操業停止とサプライチェーンの混乱などが考えられる。
経済的に深いつながりを持つ日本への波及も免れられない。
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ジャーナリスト/千葉大学客員准教授
1976年生まれ。千葉県出身。千葉大学人文社会科学研究科博士課程単位取得退学。中国経済、中国企業、在日中国人社会を中心に『週刊ダイヤモンド』『Wedge』『ニューズウィーク日本版』「NewsPicks」などのメディアに寄稿している。著書に『なぜ、習近平は激怒したのか』(祥伝社新書)、『現代中国経営者列伝』(星海社新書)、編著に『中国S級B級論』(さくら舎)、共著に『幸福な監視国家・中国』(NHK出版新書)『プロトタイプシティ 深圳と世界的イノベーション』(KADOKAWA)などがある。
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(ジャーナリスト/千葉大学客員准教授 高口 康太)
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