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5700人超が「入りたくても入れない」…月額5万5000円の「貸別荘サブスク」が人気を集めているワケ

プレジデントオンライン / 2022年12月19日 15時15分

福島弦CEO - 撮影=プレジデントオンライン編集部

2021年から始まった月額5万5000円の貸別荘サブスク「SANU 2nd Home」が人気だ。入会希望者が殺到しており、現在約5700人が登録待ちになっている。いまは7拠点50棟だが、2024年までに20拠点200棟に増やす予定という。事業の手応えについて、福島弦CEOに聞いた――。

■「繁忙期」「閑散期」をつくらない貸別荘サブスク

――「SANU 2nd Home」はどんなサービスなのでしょうか。

月額5万5000円でSANUの拠点の中から好きな滞在先を選んで泊まれる、いわば貸別荘のサブスクリプションサービスです。コンセプトは「自然の中にあるもう一つの家」で、現在、八ヶ岳や軽井沢など都心から1〜3時間ほどの自然豊かな場所に7拠点を展開しています。

サブスク型にしたのは、1年を通して安定的な利用者数を獲得するためです。利用する都度支払う形にすると、どうしても繁忙期と閑散期ができてしまって、結果的に繁忙期の価格を上げざるを得なくなる。サブスク型ならそうした問題も解決するのではと考えました。

5万5000円という価格にしたのは、僕と共同代表の本間貴裕が「よし入ろう」と思えるギリギリのラインだったからです。2人とも30代半ばで家庭があり、僕のところは子どものいない共働き夫婦、本間のところは子どもがいるいわゆるファミリー層で、いずれもメインターゲット層と同じです。そんな僕たちが「この内容でこの価格なら家族会議でOKが出るだろう」と思えるラインを狙いました。

■サービス開始前から反響があった

サービス発表後は予想以上の反響がありました。あらかじめ見込み利用者数を見える化してから資金調達に臨もうと思い、2021年4月にWebとSNSでコンセプトを発表し、「興味のある方は登録してみてください」と告知したところ、3日で約3000人の登録があったんです。

おかげで資金調達やキャビン(別荘)建築もスムーズに進み、3拠点19棟まで完成が見えた段階で、再度SNSで「オープンします」と発表しました。このときも24時間で約1600人と会員枠の上限を超える反響があり、最終的には抽選で会員を決定させていただきました。その後、2021年11月に宿泊サービスの提供を開始しました。

■「自然の中で働きたい」という実体験がベース

――起業の経緯や事業アイデアを思いついたきっかけを教えてください。

2015年に、友達の結婚式で本間と出会ったのが始まりです。当時、僕はマッキンゼー・アンド・カンパニーでコンサルタントとして働いていて、彼はホテルやキャンプ場を企画運営する会社「バックパッカーズジャパン」を経営していました。

互いに自然が好きだったこともあってすぐ仲良くなり、「2人で自然をキーワードにした事業をやりたいね」という話になって、2019年に一緒にSANUを設立しました。でも、最初の半年ぐらいは模索ばかりしていましたね。最初は自然を生かしたホテル事業を立ち上げようとしていたのですが、コロナ禍でストップしてしまって。その後しばらくはアイデアを練り直す日が続きました。

その中で出てきたアイデアのひとつが「SANU 2nd Home」でした。思いついたのは、ワーケーション先から本間とリモート会議をしていたときです。僕はエアビー(Airbnb、民泊サービス)を使って自然の中に滞在していたのですが、「こういう環境で働けるのっていいな」と、ふと幸せを感じてしまって(笑)。その瞬間、これを事業にしたいと思いました。

僕は、それまでもよくワーケーションやグランピングに出かけていたのですが、どのサービスも結構高いんですよ。もっと気軽に、定期的に自然の中で泊まれるプランはないかと探していたところだったので、だったら自分たちで始めたらどうかと考えました。

■週末よりも平日の方が稼働率が高い

――現在、約5700人が会員登録待ちだそうですね。

供給が追いつかなくて申し訳ないのですが、会員の方が「利用したいときに利用できない」となってはいけないので、今のところ会員数は数百人とさせてもらっています。そのうち75%ぐらいが30〜40代で、他にはシニアカップルも多いですね。

現在会員登録をお待ちいただいている方、これからご登録いただく方に対しては、新規拠点の開業が見込まれる2023年春から夏にかけて何かしらのご案内できるように準備を進めています。

【図表】Usage Trend

手応えはやはり大きいです。平日はDINKsやシニアカップル、週末は若い家族といいバランスで分散していて、稼働率は平日が77%、休日が64%と週末よりむしろ平日のほうが少し高い状況です(注)。これは、ひとつの家族でも、例えば今週は家族で山中湖、来週はパパだけ軽井沢でワーケーションなど、定額制でいろいろな場所に滞在できるという点が強みになっていると思います。

(編註)週末やお盆などのハイシーズンには月額の5万5000円に加え追加料金が加算される。

また、SANUは1回の利用が平均2.5泊と一般的な宿泊業よりも高いのが特徴です。コロナ禍でちょうど「自然の中で過ごしたい」というニーズやワーケーション人気、グランピング人気などが高まってきた時期でもあり、サービス開始のタイミングが良かったことも一役買っているのかもしれません。

■豊富な資金を必要としない受注生産型モデル

――ビジネスモデルの面ではどんな点が強みになっていますか。

僕たちのビジネスは、キャビンを建設する土地やキャビンそのものを不動産会社や所有者から借りて、それをサブスク利用者に又貸しする「サブリースモデル」です。一般的に不動産ビジネスでは重い資金と長い回収期間が必要ですが、そこを回避して、自分たちを身軽なサービスオペレーターという立場に置いているところが大きな特徴かなと思います。

この考え方は当初から変わらず、今も資金融資を受ける割合は全体の投資金額の30%以内に収めると決めています。融資は拠点を開発する地域の地方銀行にお願いするようにしています。

会員枠が埋まってから開発に着手している点も特徴で、不動産ファンドの方からは「受注生産型不動産開発だね、よく思いついたね」と言われました。ただ、これは最初からそうしたモデルをやろうと思っていたわけではなく、言われて初めていい手だったなと気づいたのですが(笑)。

このビジネスモデルだと地方銀行とつながりができるので、現地の土地情報も入りやすくなります。おかげで、日本にはまだまだ原野や山林がたくさんあり、活用したいと考えている所有者もたくさんいるのだなと実感できました。

■リゾートホテルのような「絶景」は必要ない

僕たちが探しているのは大規模開発ができるリゾート地ではありません。一定の自然的景観さえあれば、ごく小さな土地でもいい。対象の範囲が広いので、従来の貸別荘や大型リゾートホテルに比べると、非常に土地を見つけやすいんです。

河口湖 1st - SANU 2nd Home
写真提供=SANU

加えて、「SANU 2nd Home」は会員登録から予約、チェックイン、決済まですべてモバイルで完結する仕組みにしています。キャビンも無人で、すべてソフトウエアで管理することで人件コストを抑え、そのぶんSANUのメンバーがよりよい体験の提供に力を割けるようにしています。

宿泊施設では必須のリネン交換や清掃、メンテナンスなども、すべて地元の業者さんに業務委託しています。リゾートホテルと契約する業者さんは閑散期には仕事が減ってしまいがちですが、当社の施設は年間を通じて安定的に業務が発生するので、いい関係を継続できるという点も強みかなと思います。

■大型リゾートホテルを目指す気はない

――貸別荘や大型リゾートホテルとは運営の仕組みが根本的に違うと。

従来、そうした産業は資金面もコスト面も非常に重いことから新規プレーヤーの参入が難しく、イノベーションが起きにくい状況にありました。ところが、近年はデジタル技術が進化し、2021年には旅館業法が改正されて施設の無人管理がOKになりました。技術的な部分と法的な部分が進歩したおかげで、僕たちみたいな新参者も参入できるようになったんです。

ただ、この先、大型リゾートホテルを目指す気はありません。「自然と共に生きる」という企業理念に反しますし、何より大型ホテルは老朽化した際の再活用が難しい。当社のキャビンは、新しいライフスタイルを提案するという目的の下すべて新築にしていますが、せっかく新築するのに従来のホテルと同じミスを犯してはいけないと思っています。再活用も見据えて、いかに軽やかにつくっていくかを大事にしたいですね。

もうひとつ、僕たちはエアビーやシェアリングの魅力を知っている世代です。どこかに宿泊するときも、フルサービスではなくそこで「暮らし」をする楽しみを求めています。滞在する土地のスーパーで、地元の食材を買って料理するのも楽しみのひとつ。こうした考え方から、SANUでも従来のホテルが行ってきたフルサービスとは違う価値を提供していくつもりです。

テレワーク
写真提供=SANU

■「非日常」ではなく「日常の延長」を提供する

――利用者からはどのような声が上がっていますか。

サービス開始から今年11月までの1年間で累計8000泊超のご利用をいただいていますが、高い評価をいただいています。利用者からは定期的に聞き取りを行って改善すべき点も抽出しており、サービス向上に活かしています。

ご満足いただけなかった点で言えば、「せっかく自然を感じに来たのにキャビンの周辺に何があるのかわからない」といった声や、特に夏場に「連泊したくても予約が取れない」というご意見をいただきました。そのため、現在では各キャビンに周辺の飲食店やアクティビティを記したエリアマップを設置したり、会員が希望通り宿泊できるよう調整も行いました。

SANUは「非日常」を届けるのではなく、あくまで「日常の延長」です。キャビンの掃除やベッドメイキングなど、会員が快適に日常の延長を過ごしていただくための最低限のサービスは提供しますが、高級ホテルのような「特別なサービス」を求める形態ではないということは今後も発信していければと思います。

■2024年までに20拠点200棟を目指す

――今後の展開を教えてください。

これまでは山の中や湖畔に適したキャビンを開発してきましたが、2023年には海辺に適したタイプを発売し、新たな拠点もオープンさせる予定です。僕たちとしては、これでようやく第2ステージが始まるなと気持ちを新たにしています。さらに同年には、海タイプも含めた「100棟着工計画」を立てています。

今後は、2024年までに20拠点200棟を目指しています。事業の持続性を考えて土地の選定は慎重に行いつつ、東京に住む人以外もターゲットを広げ、国内の100万人都市周辺、例えば大阪や札幌周辺などでも拠点を増やしていきたいですね。

――スタートアップの段階でそんなに拡大して大丈夫なのでしょうか。

拡大しても、他の宿泊サービスとはハードとソフトの両面で差別化していけると思っています。まずハード面では、キャビンをプロダクト(製品)として捉え、オリジナルで開発したものをすべて規格化して使っています。これはコスト削減にも大きく役立っています。

北軽井沢
写真提供=SANU

■キャビンの部材はすべて規格化し取り替え可能

キャビンの特徴としては、新築、木造、ミニマルなデザインなどが挙げられますが、遮音性や断熱性にもこだわり、建築物として今後40年使い続けられるレベルを目指しました。使われているおよそ3万の部材もすべて規格化してあるので、何かあればすぐ取り替えが可能です。

ソフト面では、無人管理や体験のクオリティーを重視しています。真夜中にキャビンに到着したとしても、自宅に帰ったときと同じように、車を停めてカギを開けて室内でリラックスするまでをいかにストレスなく体験してもらえるか、ということですね。

僕たちは、こうしたソフトとハードのトータルパッケージで、「SANU 2nd Home」を他にはないサービスにしていくつもりです。事業を拡大しても皆さんにSANUらしさが伝わる水準を、大手デベロッパーが似たような事業を始めたとしても皆さんに選んでもらえる水準を目指していきます。

■値上げよりも裾野の拡大

――課題を感じている部分はありますか。サブスクビジネスでは、離脱率や値上げせざるを得ない状況に悩む経営者も多いようです。

今の最大の課題はコロナ禍の影響による木材価格の高騰、いわゆる「ウッドショック」の余波です。キャビンを規格化しておいてよかったなと思う一方、弱小スタートアップなので建築コストの上昇には苦労しています。

需要の裾野をどう広げていくかという点も課題です。会員登録待ちが解消できたら、法人との契約を検討するなど、裾野を広げられるメニューを考えていくつもりです。

離脱率については、僕はこれがいちばん重要な指標だと思っています。今のところ会員の定着性は高く、支持してもらえているという手応えを感じていますが、それでもやはり離脱される方はいます。いかにして離脱率を減らしていくかも今後の課題ですね。

価格改定は現時点では考えていません。価格を上げるのではなく、需要の裾野を広げることで事業を成長させていくつもりです。拠点が100以上になったら検討するかもしれませんが、それも自分たちや会員の方々が「その価格に見合うだけの正当な価値がある」と納得できればの話です。僕たちは高級ホテルを目指してはいないので、方向性としては値上げより裾野の拡大を狙っていきます。

福島弦CEO
撮影=プレジデントオンライン編集部
福島弦CEO - 撮影=プレジデントオンライン編集部

■コロナ前の「100%出社」には戻らない

――事業は現在は好調ですが、コロナ後も成長を続けられそうでしょうか。

大都市圏ほど、どこで子どもを自然に触れさせるか、どこで自分がリフレッシュするかと悩む人は多いと思います。僕は札幌出身ですが、両親はいつも僕たちをどこに連れて行こうかと悩んでいました。

都市に住む若者の間でも、休日を自然の中で過ごしたいというニーズが高まっています。これは日本に限ったことではなく、例えば今ジャカルタでは若者の間でグランピング人気が広がっています。家族連れや若者のこうしたニーズは、コロナ後もなくなることはないと思っています。

僕たちの事業は、コロナ禍によるリモートワークやワーケーションなども追い風になって成長してきました。でも僕は、コロナ後の世界が100%リモートワークになるとも、100%出社勤務が戻るとも思っていません。この2つの間を行き来するような、グラデーションのある働き方が増えるのではと考えています。

このグラデーションの部分に、「SANU 2nd Home」がうまくはまっていけたらいいなと思います。コロナ後のライフスタイルに欠かせないピースとして、スタンダードな存在になっていけるよう、今後も事業を成長させていきます。

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福島 弦(ふくしま・げん)
SANU CEO 代表取締役
マッキンゼー・アンド・カンパニーでコンサルタント業に従事したのち、ラグビー界に転身。プロラグビーチーム「Sunwolves」創業メンバーを経て、ラグビーW杯2019日本大会の運営に参画。2019年、本間貴裕氏とともにSANUを設立し、2021年より貸別荘のサブスクリプションサービス「SANU 2nd Home」を提供開始。

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(SANU CEO 代表取締役 福島 弦 構成=辻村洋子)

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