ネットより街に立つほうが安心で稼げる…25歳・実家暮らしの女性が歌舞伎町で売春を続けるワケ
プレジデントオンライン / 2022年12月20日 17時15分
※本稿は、中村淳彦『歌舞伎町と貧困女子』(宝島社)の一部を再編集したものです。
■試しに立ったら、5秒で声がかかった
マスクをとった星野恵梨香は美人だった。
口調や人当たりも明るく、どう眺めても普通の一般的な女の子である。神奈川県で実家暮らしの25歳、仕事は非正規の倉庫作業をしている。2022年7月末から大久保病院前で街娼をしているという。
「キッカケはTOHOシネマズの前に、そういう女のコを探しているオジサンたちがいるって知ったから」
違法行為をしている街娼との会話は苦戦を強いられるが、星野恵梨香は一瞬で事情を察してくれて普通に語ってくる。
「(TOHOシネマズに上る)エスカレーター前に雨宿りできるような所があるじゃないですか。そこに立った。お金が欲しかった。そのときオジサンに声をかけられて、条件いくら? って。今日は時間ないから行けないけど、他にオジサンが集まるスポットがあるって大久保病院前を教えてもらって、連れて行かれた。そしたらホントに女の子がたくさん立っていた。オジサンもいっぱいいた」
星野恵梨香はオジサンに言われたとおり、病院前に試しに立った。中年男性から5秒で声がかかった。2万円という条件を言うと、相手はうなずいたのですぐに近くのラブホテルに行った。それが初めての売春行為だった。
それから時間を見つけては、大久保病院前に行って街娼をするようになった。
■「月30万~50万円くらい欲しい」その理由は…
「お金が欲しい理由はホストに行きたいから。シンプルにお金を稼ぎたい。私はそんなにボンと使うタイプじゃなくて、飲むのが好きだから回数会いに行きたい。だから一度に使うのは5万円とか、それくらい。週2回は行きたい。だから月30万~50万円くらい欲しい。そのお金を稼ぐために立っている」
どうも、大久保病院前に立っている女の子たちのほとんどはホス狂いのようだ。
星野恵梨香は、担当に恋愛をして入れ上げるタイプではなく、ホストクラブで遊ぶのが楽しくて趣味になっているようだった。どうしてホストクラブに行くようになったのか。
「5月に女友だちと歌舞伎町に3人で行った。そのときキャッチから声をかけられて、ホストどう? って。最初は断った。でも楽しいよって言われて、お酒を飲めるし、安くいけるからって行った。それで、私だけハマっちゃった。お酒を飲むのがすごく好きで、それにカッコイイ人とお酒を飲めるのが楽しい。最高に楽しいと思ったので通っています」
イケメンとお酒が好きなので担当はコロコロ変わる。
「イケメンがいい。ついた担当と飲むのが楽しい。ホストってカッコイイし、話も上手で、ノリいいし話も聞いてくれる。それなら普通のバーに行けよって言われるけど、ホストってやっぱ違う。やっぱカッコイイ人と飲むお酒って特別おいしい。たぶん女の子にしかわからないけど、男の人がめちゃくちゃかわいい女のコと飲むお酒がおいしいのと一緒だよ」
■正社員で就職したが、残業が嫌になり…
高校卒業後、新卒で地元のスーパーマーケットに就職している。レジ担当になって日々レジ業務をしていた。収入は手取りで月15万円、ボーナスは6万円だった。
低賃金は若い正社員なので仕方ないと思っていたが、残業も多かった。20歳のとき、残業が嫌になって派遣の倉庫作業に転職した。倉庫は残業がなく、黙々とピッキングする作業だった。
ラクで性に合っていて5年間続けた。
そんなときに、友だちと歌舞伎町のホストクラブの初回に行った。
ホストはライブとチェキ代だけで済むビジュアルバンドや、メンズ地下アイドルとは桁違いのお金がかかった。お金がかかる趣味を持ってしまったので、倉庫以外にメンズエステでも働くことにした。
そして、歌舞伎町の街娼の存在を知って病院前に立つようになった。街娼で手っ取り早く稼ぎたいので、倉庫は辞めた。いまはメンズエステと街娼が収入源となっている。同居する親には「歌舞伎町のコンカフェで働いている」と伝えている。
■20代前半で美人でも「1万5000円で渋られる」
星野恵梨香は街娼歴2カ月、歌舞伎町の街娼とは、いったいどのような仕事なのか詳しく聞いていくことにする。
「人が増えてくるのは19時過ぎ。19時くらいに立つと、すぐに声がかかる。『お姉さんは遊べる人?』って言われて、『遊べますよ』って。『いくら?』って聞かれるから、交渉して成立したら遊ぶ。ゴムありで1万5000円。私、ずっと2万円って言ってきたけど、9月になって一気に値段が下がった。いまは1万5000円でやるしかないです」
あまりに安い金額に驚く。20代前半の日本人、スレンダーで美人といういくつもの好条件を持っていてもその金額だという。
「未成年の女の子が安く売っちゃうせいで、それが広まって相場がどんどん下がった。いまはもっと、めちゃ下がっている。ちょっと前までだったらゴム1万5000円は即決なのに、いまはゴムありで1万円でヤッちゃう女の子もいる。最近は1万5000円って言っても、ごめん1万円でいける子を探しているからって断れることが増えた。7月は2万円でポンポンいけたのに、いま2万円でいけたらラッキーなくらい」
売春価格は需要と供給で決まる。ホス狂いの女の子たちがこぞって大久保病院前に立ったことで供給過剰になってデフレ状態になっていた。
40代、50代の中年男性たちが何も知らない未成年の女の子を買い叩いて、その価格が街娼全体に波及してしまっているようだ。
「おじさんが調子に乗って値下げしてくる。1万5000円でめちゃ渋られる。あそこは貧乏なおじさんしかいない」
■ネット経由はドタキャンの嵐
立ち話で交渉、1万5000円で合意したとする。どこのラブホテルに行くかは男性が決める。高級ラブホテルに行く人はほとんどいない。大久保病院に隣接する安価なラブホテルを選ぶ。
「部屋に入ってまず雑談。そこからシャワーを浴びる前に前払いでお金をもらって、一緒にシャワーを浴びる。セックスが終わったら、また一緒にシャワーを浴びる。それでちょっとしゃべって一緒にホテルを出て、バイバイみたいな」
取りっぱぐれがないように前金でお金をもらうのは、売春の基本だ。それぞれでシャワーに入るとお金や物を盗まれるリスクがある。だから、一緒に風呂に入る。風俗のように時間が決まっているわけでない。女の子からすれば早く終わるに越したことはない。
「時間は人による。早い人は10分とかで終わる。長い人でも30分とか。でも、私はそんなに長くかかる人に当たったことないかな。早くイカせるためにアソコを絞めつけるとかやっている子もいるけど、私は何もしてない。すぐ終わる人は、シンプルにイクのが早いだけ」
■メインは40代、みんなお金がない
割り切ったセックスだと、ガツガツして体力がある若者より、オヤジのほうがいいという女性もいる。彼女はどうなのだろうか。
「相手の年齢とかあんまり関係ないかな。たしかに若い人って体力があるから時間がかかる。だから回転したい人はおじさん相手でもそれなりに早く終わる人のほうがありがたい。それと若い人のほうが意外と長い時間一緒にいたい、みたいなのが多い。その見極めが難しい。若い人でも早く終わる人もいるし、やってみないとわからない」
客のメインは40代、みんなお金がないらしい。
「スーツ姿のサラリーマンでもお金がない。30代のちょっとスラッとした感じのサラリーマンもいるけど、そういう人たちでも1万円って人が多い。風俗より安いから立ちんぼってことだと思う」
売春価格1万5000円は風俗やパパ活と比較しても、立ちんぼの過去相場を振り返っても、圧倒的に安い。それでも街娼をするのは、短い時間で数をこなすことで売り上げを伸ばすという考え方のようだ。
男性の属性が中小企業経営者が中心のパパ活の場合、彼女だったら5万円以上は取れる。しかし、食事→ホテルというデートの形になるので時間がかかる。
長期的な人間関係を築くパパ活のほうが男性の質はいいし安全だが、大久保病院前に立っている彼女たちは、“不特定多数で手っ取り早く安価”という立ちんぼを選択している。
■ここの相場はあまりに安い
「ムカつくのが『ここで立っているコのなかでいちばんかわいい』って声かけして、2って言ったら、2かあ……って渋る奴。そんなのばかり。みんなお金ないし、ケチ。あと、パパ活はワクワクメールでやってたけど、ドタキャンが多すぎ。待ち合わせ場所まで行って洋服まで教えたのにドタキャン。そんなのばかり。だからサイトは使いたくない。
あとは顔がわからないのは怖い。立ちんぼだと顔がわかるのはメリットで、この人とは行きたくないと思ったら断れる。ただ相場が安すぎる、それが一番の不満です」
星野恵梨香の話は終わった。今日は立つつもりで歌舞伎町に来ているので、大久保病院前に戻るという。お礼を言って5000円を渡すと、彼女は病院前に戻って行った。
お会計をして筆者たちも病院前に戻ってみると、彼女はすでにオヤジと立ち話をしていた。オヤジは星野恵梨香と必死に何か交渉するが、すぐに諦めて隣の女の子に移った。おそらく1万円と食い下がったのだろう、と思った。
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ノンフィクションライター
1972年生まれ。著書に『名前のない女たち』シリーズ(宝島社)、『東京貧困女子。』(東洋経済新報社)、『崩壊する介護現場』(ベストセラーズ)、『日本の風俗嬢』(新潮新書)『歌舞伎町と貧困女子』(宝島社)など。現実を可視化するために、貧困、虐待、精神疾患、借金、自傷、人身売買、介護、AV女優、風俗などさまざまな社会問題を取材し、執筆を行う。
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(ノンフィクションライター 中村 淳彦)
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