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気性が荒く、牙も鋭いのに、殺処分には特別な許可が必要…固有種を食べ尽くす「野生化アライグマ」という大問題

プレジデントオンライン / 2023年1月7日 15時15分

【写真1】アライグマ(出所=『絶滅危惧種はそこにいる』)

日本は世界有数のサンショウウオ王国である。82種以上もあるサンショウウオ科のうち、少なくとも44種は日本の固有種だ。ところがその一部は絶滅危惧種となっている。人気テレビ番組「池の水ぜんぶ抜く大作戦」(テレビ東京)の解説をつとめる久保田潤一さんは「野生化したアライグマが最凶の天敵となっている。許可のない捕獲や殺処分は違法で、対策は難しい」という――。(第2回)

※本稿は、久保田潤一『絶滅危惧種はそこにいる』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。

■『あらいぐまラスカル』の影響で飼育ブーム

アライグマは、1970年代後半にアニメ『あらいぐまラスカル』の影響で飼育ブームとなった。

愛嬌(あいきょう)のある顔にしましま模様のしっぽ。食べ物を洗うような行動もかわいらしい。

ペットとして人気が出るのもよくわかる。

だが、ペットに向いている動物と向いていない動物というのはある。

ペットに向いているのは、人間が長い期間かけて品種改良し、飼育できるようにしてきた動物だ。

犬や猫、豚や鶏などの家畜・家禽(かきん)がこれにあたる。

■飼いきれなくなり野外に捨てられた

ペットに向いていないのは、野生動物だ。

一見かわいくて、赤ちゃんのころは懐(なつ)いたとしても、成長すれば手に負えなくなるのが常だ。

そしてアライグマは、アメリカ大陸の大自然の中で暮らしている、れっきとした野生動物だ。

日本にペット用に持ち込まれたものの、気性が荒くなって飼いきれなくなり、アライグマたちは野外に捨てられた。

■手が器用で賢く学習能力が高い

このアライグマ、手がすごく器用だ。タヌキとやや似た風貌(ふうぼう)をしているが、手の構造はまったく違う。

タヌキはイヌ科なので、肉球がある犬そっくりの手だが、アライグマの手はまるで人間のような形をしていて、物を掴(つか)むことができる(写真2)。

アライグマの手(前肢)
【写真2】アライグマの手(前肢)。しっかりとした指がある(出所=『絶滅危惧種はそこにいる』)

しかも賢くて学習能力が高い。そのため、飼育ケージを開けての脱走が相次いだ。

こうして日本の自然の中に放たれたアライグマたちは野生化して繁殖し、日本中に広がっていった。

その結果、さまざまな問題が起こった。

アライグマは雑食なので、農作物や養魚場の魚などを食べる。お寺や神社など歴史的、文化的に重要な建物に入り込んで傷める。

狂犬病やアライグマ回虫などの危険な病原体を保有している可能性もある。

性質が荒く、牙(きば)が鋭いため、噛(か)み付かれれば大怪我を負う危険性がある。

そして、日本の野生動物に悪影響を及ぼす。その被害を受けた生き物の一つが、トウキョウサンショウウオだ。

■日本はサンショウウオ王国

「サンショウウオ」と聞いて、あなたの脳裏には何が浮かぶだろうか。

もっとも多いのは「あの大きいやつね」という反応。オオサンショウウオだ。日本では、「サンショウウオって、オオサンショウウオのことよね」という認識が多数派のようだ。

オオサンショウウオは日本の固有種。しかも世界最大の両生類という肩書きを持っていて、最大150cmほどにもなる。

オオサンショウウオは日本の固有種
写真=iStock.com/Martin Voeller
オオサンショウウオは日本の固有種(※写真はイメージです) - 写真=iStock.com/Martin Voeller

その姿形や存在感は素晴らしく、僕もその生息地に引っ越したいと思うぐらい好きだ。日本を代表する野生動物の一つだと言えるだろう。

実は日本には、サンショウウオと名のつく生物が46種類もいる(2021年現在)。

オオサンショウウオはその一つ。残りの45種類は、大きさ7〜19cmの小型サンショウウオだ。せっかくなので、少し説明しておきたい。

両生類というのは、皮膚がヌメヌメしていて背骨がある生物で、大きく3つのグループに分けられる。

①しっぽがないグループ(カエル類)
②しっぽがあるグループ(サンショウウオ、イモリ類)
③脚がないグループ(アシナシイモリ類)

サンショウウオは②のしっぽがある仲間で「有尾類」と呼ばれている。

この有尾類、2021年現在、世界中に757種いる。その中のグループの一つ「サンショウウオ科」には少なくとも82種が知られているが、そのうちの45種が日本産で、うち44種が日本の固有種だ(2022年2月時点)。

日本は、サンショウウオ王国だ。

■実は人間のすぐ近くに棲んでいるサンショウウオ

日本にサンショウウオが何種類もいると言っても、実際に野外で出会った経験を持つ人は少ない。

ただそれは、サンショウウオが人の近づけない深山幽谷(しんざんゆうこく)に棲んでいるからではない(そういう種類もいるが)。

夜行性だったり、森の落ち葉の下に隠れたりしていて、見つけることができないだけだ。

実は人間のすぐ近くに棲んでいる。その代表格がトウキョウサンショウウオだ(写真3)。

トウキョウサンショウウオ(おとな)
【写真3】トウキョウサンショウウオ(おとな)(出所=『絶滅危惧種はそこにいる』)

現在の東京都あきる野市で採集されたので、「東京」の名がついたトウキョウサンショウウオ。世界中でも日本の関東地方周辺だけ(群馬県、茨城県を除く関東1都4県)にしか生息していない。

両生類はその名のとおり、陸と水辺の両方を利用して生きる動物だ。

トウキョウサンショウウオは、普段は森の落ち葉の下で小さな虫などを食べて暮らしているが、3月ごろになると繁殖のために水辺に集まってくる。

湧き水でできた水たまりや沢のよどみなど、流れのない水の中で産卵する。

卵、そして孵化(ふか)したオタマジャクシのような幼生の期間は水の中で過ごし、成長すると陸に上がる。

愛嬌のある顔を眺めたり、ぷるぷるの卵のうの感触を確かめたりするのは、僕にとって早春の楽しみの一つであり、風物詩だ(写真4)。

トウキョウサンショウウオの卵のう。バナナ状の膜の袋の中に何十粒もの卵が入っている
【写真4】トウキョウサンショウウオの卵のう。バナナ状の膜の袋の中に何十粒もの卵が入っている(出所=『絶滅危惧種はそこにいる』)

■トウキョウサンショウウオが絶滅危惧種となった3つの理由

そんな身近なトウキョウサンショウウオだが、近年は数が急激に減り、レッドデータブックに掲載される絶滅危惧(きぐ)種となってしまった。

原因は3つあるが、いずれも解決が難しいものばかりだ。

第1に、宅地開発や道路建設などによってトウキョウサンショウウオの生息地そのものがなくなってしまったこと。

高度経済成長期以降、サンショウウオたちの棲む場所は急激に減ってきた。そして現在、破壊のスピードはゆるくなっているものの、終わってはいない。

第2に、里山の手入れがされなくなったため、成体(おとなのサンショウウオ)の生活場となる雑木林や産卵場所となる水場が荒れてしまったこと。

さらに最近ではゲリラ豪雨によって斜面の土砂が流され、水場が埋まってしまうことが頻発している。

これだと、サンショウウオは卵を産むことができなくなってしまう。

第3に、外来種によって食べられてしまうこと。その外来種というのは、北米〜中米原産のアライグマだ。

これがまた、サンショウウオたちにとっては最凶とも言える天敵なのだ。

牙をむくアライグマ
写真=iStock.com/tomrejzek
アライグマの被害を受けた生き物の一つがトウキョウサンショウウオ(※写真はイメージです) - 写真=iStock.com/tomrejzek

■アライグマは死神とも言える存在

アライグマは水辺が大好き。水の中に前脚を突っ込んで獲物を探し、何でも食べてしまう。

トウキョウサンショウウオは爪も牙も持たず、毒もない。動きもゆっくりで、狙われたら何の抵抗もできない。

一つ不思議なのは、食べ残すことだ。

アライグマはサンショウウオやカエルの一部だけをかじって、残りをポイッと捨ててしまうことがある。

なぜそんなことをするのかわからないが、殺しておいて全部食べないというのは、もったいない感じがしてちょっと腹が立つ。

また、最近の観察では、アライグマがトウキョウサンショウウオの卵を食べることもわかってきた。

開発で棲み場所を追われ、人間社会の変化や気候変動で産卵場所が減る中、そこに追い打ちをかけるアライグマは、トウキョウサンショウウオにとって死神とも言える存在ではないだろうか。

水辺のアライグマ
写真=iStock.com/Gerald Corsi
アライグマは死神とも言える存在(※写真はイメージです) - 写真=iStock.com/Gerald Corsi

ただし、そのアライグマも人間にもてあそばれた被害者であることは忘れてはならない。

アライグマは、生じる悪影響の大きさから、環境省によって「特定外来生物」に指定されている。

■捕獲や殺処分は簡単ではない

アライグマ対策としてやることは二つ。

まず簡単にできることは、アライグマが捕食しづらい状況を作り出すこと。

各地で行われている事例を見ていると、産卵場の水面に板を浮かべるのが効果的なようだ。シェルターとなって、その下にいるサンショウウオや卵のうが守られる、シンプルな対策だ。

もっと根本的な解決策としては、アライグマを捕獲することだ。

ただ、これがなかなか難しい。特別な許可が必要だし、捕獲も簡単ではない。

大きめのカゴ罠(わな)を設置し、餌を入れて捕まえるのだが、これを毎日見回る必要がある。

タヌキなどの在来種が間違ってかかってしまった場合、なるべく早く放してやる必要があるからである。

久保田潤一『絶滅危惧種はそこにいる』(KADOKAWA)
久保田潤一『絶滅危惧種はそこにいる』(KADOKAWA)

うまくアライグマが捕獲できたとしても、最大の難関が待っている。

それは殺処分だ。

外来種とはいえ、苦痛を与える方法での殺処分はやってはいけない。動物愛護管理法という法律で決められている。

現在、私たち公園管理者としては、行政が試験的に行う捕獲・駆除に少し協力する、というぐらいのことしかできていない。

今後、捕獲・駆除を行う体制をしっかりと確立して、トウキョウサンショウウオが安心して暮らせる場所を増やしていくつもりである。

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久保田 潤一(くぼた・じゅんいち)
NPO birth自然環境マネジメント部部長
1978年、福島県生まれ。特定非営利活動法人NPO birth自然環境マネジメント部部長。技術士。98年東京農業大学短期大学部に入学し、その後、茨城大学に3年次編入。卒業後、環境コンサルティング会社などを経て、2012年NPO birthへ。絶滅危惧種の保護・増殖や緑地の保全計画作成など、生物多様性向上に関する施策を広く行っている。テレビ「緊急SOS!池の水ぜんぶ抜く大作戦」(テレビ東京系)にも専門家として出演。

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(NPO birth自然環境マネジメント部部長 久保田 潤一)

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