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損害額は推定1000万円…定年退職の最終出勤日まで"内引き"を続けた古株パートが最後に捕まったワケ

プレジデントオンライン / 2022年12月19日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/vchal

スーパーなどの小売店では顧客による万引きだけではなく、“内引き”と呼ばれる内部犯による万引きも存在している。施設警備会社として万引き対策を行っているNICCOの日南休実会長は「店舗の事情に詳しい従業員による犯行のため、通常の万引き以上に捕まえるのが難しい。なかには30年以上働いたスーパーで内引きを繰り返し、被害推定額が1000万円を超えたケースもある」という――。(第3回)

※本稿は、日南休実『万引きGメンの憂鬱』(ザメディアジョン)の一部を再編集したものです。

■捕まえるのが非常に難しい“内引き”

万引き犯にもさまざまなカタチがありますが、万引きの中でも犯人を捕まえるのがひときわ難しいものに(同時に、犯行を発見するのも難しいものに)“内引き”という種類があります。

内引きというのは簡単に言うと“内部犯による万引き”のことです。お店で働いている従業員が自分の店に並んでいる商品を盗むことをいいます。

なぜ内引きを捕まえるのが難しいかというと、スーパーやディスカウントストアなど小売店の多くにはそこで働く従業員のために“社割”と呼ばれる制度も一つの要因です。社員割引を利用して商品を安く買うというのなら制度に沿ったもので何の問題もないのですが、従業員の中にはその特典を利用し、タダで商品を持って帰ろうとする不埒な輩も存在します。

たとえ社割がなくても、たとえばスーパーでパートとして働いた後、そのまま店で夕食の食材を買って帰るというのはザラにある話です。しかもその店で働いているスタッフならレジの扱い方もわかっているし、商品を持って外に出ても不自然だとは思われない……こうした状況の中で悪意を芽生えさせた従業員が、ついつい盗みに手を染めてしまうのです。

これはいわば「味方の中に敵がいる」状態だといえます。犯人を見つけるまでには通常以上の困難がありますし、さらに同僚を疑わなければならないという点で非常に気分の良くないものです。さらに相手はこちらの手の内を知り尽くしている店舗スタッフ。どこに店の死角があるか、どうやったらバレないかも知っているし、さらに万引きGメンがいつシフトに入っているか、どの人物がGメンなのかも把握しているのでタチが悪いのです。

今回はそんな内引き犯との戦いを2例ほど紹介しましょう。

■「定年を迎えるまでに検挙してほしい」

【事件17:古参パート、退職日の確保】(GメンBの場合)

とあるスーパーの話です。ここで疑われたのは、もう30年以上同店で働く古株のパートでした。彼女は仕事が終わった後、私服に着替えて買い物をして帰るのですが、いつもレジでは少量の商品しか通していないのに帰る時には異様に大きな袋を抱えていることから多くのスタッフに怪しまれていました。

ただ、そこはベテランのしたたかさ。どんなに不審に思われても決して尻尾は出さず、Gメンが入る日には絶対やらないということを徹底していたため、店側は証拠を押さえることができず、ずっと歯がゆい思いをしてきました。

そんな彼女に定年退職の日が近づいてきました。この店ではパートにも退職金を出す慣例があるので、このままでは彼女に退職金を払わなければなりません。何年も内引きで商品を盗まれた上、退職金まで払うのはどうしても許せない……そう考えた店側から「彼女が定年で店を辞めるまでの間に、なんとか検挙してほしい」という依頼が届きました。

これまでも同店にはGメンが派遣されていましたが、今度ばかりは総力を挙げて彼女の検挙に力を貸してほしい、とオーダーが来たのです。

■出勤最終日に捕まり懲戒免職に

そこで私は改めて店長と計画を練りました。従業員に知られないよう入店日を決め、その日は普段より人数を増やして3人体制で臨むことにしました。

そして向かった出勤最終日。今日で退職ということもあって彼女も油断していたのでしょう。彼女は食料品をメインに、野菜、魚、1点数万円もする高級牛肉を次々と自分の袋に放り込み、それを駐車場まで持って行ったところでついに御用となりました。

ショッピング カート スーパー
写真=iStock.com/Asawin_Klabma
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Asawin_Klabma

彼女は声を掛けた時、神妙な顔をしていました。店長は「これまでずっとこういうことをやってきたのか?」「いつからやっているのか?」と問い質しましたが何も答えません。結局彼女は懲戒免職となり、退職金を払うことはありませんでした。彼女の万引き損害は通算で1千万円近くにのぼると見られますが、それについては証明できないため前科は問わないということで落ち着きました。

興味深いのは、彼女が逮捕された直後、店が従業員に今回の事件のことを口外してはならないと緘口令を敷いたことです。30年近く勤めたパートが内引きをしていたというのは結局のところ自社の恥でしかなく、店はその噂を黙殺することにしたのです。前科は問わないとしたのも、これ以上話を大きくしても店にとってはマイナスばかりと判断したのでしょう。

その一方で店長は「捕まえてもらってありがたい」と安堵した表情を浮かべていたようです。それ以降は内引き犯がいなくなったことで店の売上もずいぶん増えたといいますから、彼女による被害は相当なものだったのでしょう。

■恋人の家族と行っていた“レジ抜き”

もうひとつは別のスーパーで起こった内引きです。

【事件18:“レジ引き”という手口】(GメンBの場合)

この事件の容疑者は30歳前の男性アルバイト。彼がやっていた手口は“レジ引き”と呼ばれるもので、レジをすり抜けるのではなく、レジを通しはするのですが、その際に何点かチェックを飛ばすことでお金を払わず商品を持ち去るというやり方です。

日南休実『万引きGメンの憂鬱』(ザメディアジョン)
日南休実『万引きGメンの憂鬱』(ザメディアジョン)

レジ引きはたとえば一度レジを通しておいて、あとから商品を返品したフリをして戻さなかったりと業務に精通した人でないとできない複雑な手口です。

彼が疑われるようになったのは、彼の恋人が家族を連れて買い物に来るようになってからでした。その時のレシートを見ると、どうしてもレジに持ってきた商品点数に比べてレシートに打たれている商品数が少ないのです。店長も何度かレシートの数字がおかしいと指摘したのですが、「これは前の担当者が打った商品が残っていたのだ」などと言い訳を繰り返し、決定的な証拠がつかめずにいました。

彼に関しても店長から直接相談を受け、彼がアルバイトに入る最終日に秘密の包囲網を敷きました。その日も恋人の家族は店に来て、彼はこれまで同様にレジ引きを行いました。その現場を押さえたことで、ここでも彼のアルバイト最終日に内引きを確保することができました。

■店長自らが内引きをしているケースも

レジ引きについては、本人はまわりに気付かれずうまくやっているつもりでも、周囲の従業員は案外気付いているものです。特に同じレジを打っている者同士なら、不自然な行動はすぐにわかります。

ただ、その一方でレジ引きはレジを打つべき商品をさっとスルーさせたり、横に置けばいいだけなので、なかなかなくなりません。出来心で簡単にできるし、それがピッと音が出るレジならば、一度レジを通した上で返品処理すればいいだけの話です。

私が話を聞いた中では、店長自らが内引きをしていた店もあるといいます。すぐそこに商品があって、手軽にできるからこそ、ちょっとしたキッカケがあれば誰もが手を染めてしまう……内引きには万引きという犯罪の持つ危うさのようなものが表れているように感じます。

《日南休実の“本音”解説》

内引きは裏切り行為です。自分の職場で給料をもらいながら、会社や同僚をだまして犯罪を行うのですから。日本は仲間意識が強く、和を乱すことを嫌い、指摘しない連帯が大半です。また、古い言いまわしですが、「身内から縄付きを出す」を嫌う恥の文化は、会社の恥、店の恥を長くタブー視してきました。しかしながら、犯罪は必ずバレます。身内の暗部にも向き合うことが必要でしょう。

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日南休 実(ひなやすみ・みのる)
NICCO取締役会長
広島市に生まれる。1984年、NICCOの前身である日弘商事を設立。現在、NICCO社長は日南休悟。店舗清掃やビルメンテナンス事業を行っていたが、施設警備や保安業務に進出したことを機に万引き犯罪に対峙。そこから店舗の防犯対策やロス対策の研究を進め、独自の防犯システムである「セキュリティマーチャンダイジング(SMD」を完成させる。

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(NICCO取締役会長 日南休 実)

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