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景気を冷え込ませる「1兆円の大増税」は許せない…高市大臣の公開反論に自民党内が動揺しているワケ

プレジデントオンライン / 2022年12月14日 15時15分

閣議後、記者会見する高市早苗経済安全保障担当相=2022年12月13日午前、東京・永田町 - 写真=時事通信フォト

岸田文雄首相の表明した「1兆円の防衛増税」について、高市早苗経済安保担当相は「総理の真意が理解できません」などと自身のツイッターで公然と反論した。政治ジャーナリストの鮫島浩さんは「ついに『岸田おろし』が始まった。これから自民党は戦国時代に突入することになる」という――。

■岸田おろしを仕掛けた高市氏の狙い

岸田文雄首相が打ち出した「1兆円の防衛増税」に対して、高市早苗・経済安全保障相(無派閥)が公然と反旗を翻した。自民党内からは最大派閥・清和会(安倍派)を中心に「防衛財源は増税ではなく国債で」と反発が広がり、岸田首相は増税方針を貫けるか正念場を迎えている。

高市氏は自民党内の「増税反対」の動きに乗じて閣内から「岸田おろし」を仕掛けた格好だ。足元から勃発した「謀反」を鎮圧できるのか、岸田政権は大揺れである。

岸田首相が敵基地攻撃能力(反撃能力)の保有など防衛力を強化する財源を確保するための増税方針を発表したのは12月8日だった。

高市氏は2日後にツイッターで、普段は出席している政府与党連絡会議にこの日は呼ばれなかったことを暴露したうえで「その席で、総理から突然の増税発言。反論の場も無いのかと、驚きました」と狼煙を上げた。さらに「賃上げマインドを冷やす発言を、このタイミングで発信された総理の真意が理解できません」とたたみ掛けたのである。

高市早苗氏のツイッター。「反論の場も無いのかと、驚きました」と岸田首相の増税方針に異論を唱えた。

■総裁選では「安倍氏の後継者」をアピール

マスコミ報道によると、首相周辺は「首相も相当なリスクをとって臨んでいる」と妥協しない構えをみせている。

自民党幹部は「高市氏の発言は辞表を出してもおかしくないくらいの話。『問題なし』とすれば、みんなせきを切ったように反対を言い出す」と述べ、高市氏の更迭を含め強い姿勢で「鎮圧」しなければ政権が崩壊しかねないとの見方を示した。

それでも高市氏は一歩も引かない様相だ。記者団から「閣内でこのような発言をするのは異例」と問われたのに対し「一定の覚悟を持って申し上げております」と語気を強めた。13日の記者会見では「間違ったことは言っていない。罷免されるのであれば仕方がない」と踏み込んだ。もはや更迭覚悟で倒閣運動を仕掛けたといってもよいだろう。

高市氏は昨年秋の自民党総裁選に、右寄りな政治信条をともにする安倍晋三元首相に担がれて出馬した。4候補のうち、第1回投票で岸田氏、河野太郎氏に続く3位にとどまったが、右派言論界をはじめ安倍氏の岩盤支持層から熱狂的に支持され「安倍氏の継承者」の立場を強烈にアピールした。

岸田首相は高市氏の背景にいる安倍氏と安倍支持層の存在を無視できず、高市氏を政調会長として厚遇した。一方で、清和会からは「なぜ無派閥の高市氏なのか」という不満が広がっていた。

■唯一の後ろ盾を失う

今年7月の参院選最中に安倍氏が銃撃されて急逝し、高市氏は自民党内で唯一の後ろ盾を失った。

政界引退後も清和会に強い影響力を残す森喜朗元首相は清和会の次期会長候補として、萩生田光一政調会長、西村康稔経済産業相、松野博一官房長官、高木毅国会対策委員長、世耕弘成参院幹事長の5人の名を挙げた。高市氏を推す勢力は自民党内から消え失せてしまったのである。

けれども高市氏はくじけなかった。安倍支持層の熱狂的支持を武器に巻き返しの機会をうかがっていたのだろう。

高市氏は8月の内閣改造で政調会長から経済安保相へ横滑りしたが、この時もツイッターで「組閣前夜に岸田総理から入閣要請のお電話を頂いた時には、優秀な小林鷹之大臣の留任をお願いするとともに、21年前の(旧統一教会関連の)掲載誌についても報告を致しました」と投稿し、一度は入閣を固辞したことを暴露。

大臣就任後も小林前大臣からの引き継ぎ式を中止し、内閣府職員へのあいさつ式も欠席したうえ、「入閣の変更が無かったことに戸惑い、今も辛い気持ちで一杯です」とも投稿し、岸田首相と距離を置く姿勢を鮮明にしていた。

岸田首相が「防衛増税」を打ち出し、防衛費増強を声高に訴える清和会からも増税反対論が噴出したこの年末は、自民党内に支持基盤のない高市氏の目には「絶好の勝負どころ」と映ったに違いない。

新聞の見出しには「防衛力」の文字
写真=iStock.com/y-studio
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/y-studio

■狙いは「倒閣運動」の旗頭

岸田首相が増税方針を声明した12月8日の政府与党連絡協議会には、高市氏だけでなく清和会の西村経産相も呼ばれなかった。

西村氏が翌9日の記者会見で「このタイミングで増税については慎重にあるべきだと考える」と不満を表明したことも高市氏の背中を押しただろう。

同じ9日に開かれた自民党の政調全体会議は2時間以上に及び、参加した50人超から批判が噴出して紛糾。高市氏の10日のツイートはこの流れに満を持して乗ったものだ。

高市早苗氏のツイート。「総理の真意が理解出来ません」と岸田首相を批判した。

高市氏が清和会を中心とした増税反対派による「倒閣運動」の旗頭として担ぎ上げられることを虎視眈々(たんたん)と狙っているのは間違いない。そのためには岸田首相から更迭されたほうがむしろ好都合なのだ。首相側から更迭をほのめかされて牽制されるほど「増税反対」の姿勢をむしろエスカレートさせていくだろう。

だが、清和会が高市氏を迎え入れて「ポスト岸田」に担ぐ道のりは険しい。安倍最側近だった萩生田氏は12月11日、自民党3役として19年ぶりに台湾を訪問し「台湾有事は日本有事であり、日米同盟の有事である」という安倍氏の言葉を引用して中国を牽制した。

■本命不在の安倍派が頼みの綱

さらに防衛力の抜本的な強化を進める姿勢を強調する一方、増税には慎重な立場を示し「国債償還の60年ルールを見直し、償還費をまわすことも検討に値する」とも踏み込んだ。「防衛力増強・増税反対」の安倍氏の立場を継承し、安倍支持層を引きつける戦略は高市氏と競合する。

清和会の次期会長の座を萩生田氏や西村氏らと競う世耕参院幹事長も「財源確保は責任ある姿勢として必要だが、イコール増税では絶対にない」としており、清和会が「増税反対」「ポスト岸田」の神輿として高市氏を担ぐ気配は今のところ見られない。

高市氏にとって頼みの綱は、清和会の後継争いが混迷し、ただちにポスト岸田として担ぐ「大本命」が見当たらないことだ。

萩生田氏は自らと親密な菅義偉前首相を担いで幹事長ポストを狙っているとささやかれているが、このもくろみが実現すれば萩生田氏は清和会の次期会長に頭ひとつ抜け出すことになり、西村氏や世耕氏らがすぐに乗るとは限らない。

一方、松野官房長官は「内閣の要」として岸田政権が続くほうが清和会内での主導権を握ることができる。松野氏は「防衛費の財源については総理も述べられているとおりであり、その考えは閣内でも共有されている」と強調し、増税反対の動きとは一線を画す。

西村氏も閣内から「防衛増税」に慎重論を唱えたが、経産相として法人税増税に反対する財界の意向を代弁したものだと言い逃れできる。西村氏は閣僚として岸田官邸と清和会の双方をバランスを取って好位置をキープし、清和会後継レースの主導権を握る狙いだろう。

■もう一人の「安倍チルドレン」

清和会は決して一枚岩ではなく、それぞれが自らの存在感アップを狙って、てんでんばらばらに動き始めている。もうひとり「ポスト岸田」に躍り出ることを虎視眈々とうかがう政治家がいる。稲田朋美元防衛相だ。

稲田氏は12日、防衛財源について「安定財源である必要がある。1兆円について国民に薄く広く、税の負担のお願いを検討する首相の方針は正しいと思う」と首相官邸で記者団に語った。清和会の大勢に反して「増税支持」「岸田支持」と姿勢を鮮明にした。高市氏と反目するポジションを取ったのだ。

稲田氏は同日、自らが会長を務める自民党「脱炭素社会実現と国力維持・向上のための最新型原子力リプレース推進議員連盟」の仲間を引き連れて官邸を訪れ、岸田首相に最新型原子炉の新増設などを求める決議文を手渡した。

この一行のなかには安倍氏の後押しで衆院比例中国ブロックで当選を重ねたものの、差別発言などを繰り返して国会で追及された杉田水脈・総務政務官の姿もあった。

曇天の国会議事堂
写真=iStock.com/kanzilyou
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kanzilyou

■岸田首相に接近する稲田氏

稲田氏は官邸で「私が(2016年~17年に)防衛相をやっているときに比べ、自衛隊員は数段厳しい状況の中で命をかけて国を守ろうとしている。(防衛費増額の)意義を国民全体で考えていくことは重要だ」と強調した。

防衛相経験者として防衛財源を確保する増税を支持し、原発のある福井県選出議員として原発推進の旗を振る。稲田氏は「防衛」と「原発」という政治基盤を固めつつ、窮地に立った岸田首相にあえて接近して存在感アップを狙っているとみていい。

稲田氏を政調会長や防衛相に抜擢し、野田聖子氏や高市氏に続く次世代の女性政治家として引き立てたのは、安倍氏である。右派言論界の安倍支持層からも強く支持され、一時は「安倍氏の秘蔵っ子」ともてはやされた。

ところが稲田氏がジェンダー平等の問題に取り組み始めると、安倍氏は冷淡に接するようになり、稲田氏に代わって高市氏を重用しはじめたのである。

稲田氏は総裁選出馬に意欲をにじませたこともあったが、安倍氏の後ろ盾を失い、存在感を失っていた。高市氏が21年秋の総裁選に安倍氏の全面支持を受けて出馬し、安倍支持層の熱狂的支持を集めたのは、稲田氏の凋落があったからにほかならない。

自民党関係者は「高市氏の政治キャリアは稲田氏よりはるかに長い。高市氏は旧新進党から自民党に転じて以来、安倍氏の政治信条にあわせ、安倍氏に付き従ってきた。清和会を離れたのも、安倍氏が2011年総裁選で当時の清和会会長だった町村信孝元官房長官に従わずに出馬した際、安倍氏を支持するためだった。それでも安倍氏は格下の稲田氏を重用してきたが、じっと我慢し、安倍氏の庇護が自分に向く機会を待った。稲田氏がジェンダー平等で安倍氏ににらまれて突き放され、ついに出番が回ってきた」と解説する。

■自民党は群雄割拠の混迷期に突入した

高市氏が「安倍後継」として脚光を浴びる裏側で、稲田氏も巻き返しの機会をうかがっていたのだろう。

高市氏が閣内から「増税反対」ののろしを上げて岸田首相に反旗を翻したことは、絶好の機会となった。萩生田氏や西村氏らがしのぎを削る清和会に大人しく身を置いていても「ポスト岸田」の声はかからない。

ここで真逆の立場を鮮明にして「防衛強化、増税賛成」で岸田首相に歩調をあわせ、年末年始にも行われるかもしれない内閣改造・党役員人事で一本釣りされて「ポスト岸田」に躍り出ることを狙う戦略である。

日本政界に10年にわたって君臨した安倍氏が急逝し、自民党は群雄割拠の混迷期に突入した。安倍氏に総裁選に担がれて安倍支持層の熱狂的支持を集めた高市氏は岸田首相に閣内から反旗を翻し、高市氏に「安倍継承」の座を奪われて埋没していた稲田氏が入れ替わるように岸田首相に近づく。

安倍氏が引き立てた二人の女性政治家が交錯しながら権力闘争を仕掛ける様子は、自民党の混迷ぶりを映し出している。

最大派閥・清和会で激化する後継争い、それに乗じて清和会の支持を引き寄せ再登板の機会をうかがう菅義偉前首相、菅氏と連携して倒閣を画策する二階俊博元幹事長、さらには岸田首相の後見人として政敵の菅氏や二階氏の封じ込めを狙う麻生太郎副総裁、麻生氏を後ろ盾にポスト岸田に意欲を燃やす茂木敏充幹事長らの思惑が入り乱れ、岸田政権は視界不良の権力闘争に突入した。

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鮫島 浩(さめじま・ひろし)
ジャーナリスト
1994年京都大学を卒業し朝日新聞に入社。政治記者として菅直人、竹中平蔵、古賀誠、与謝野馨、町村信孝らを担当。政治部や特別報道部でデスクを歴任。数多くの調査報道を指揮し、福島原発の「手抜き除染」報道で新聞協会賞受賞。2021年5月に49歳で新聞社を退社し、ウェブメディア『SAMEJIMA TIMES』創刊。2022年5月、福島原発事故「吉田調書報道」取り消し事件で巨大新聞社中枢が崩壊する過程を克明に描いた『朝日新聞政治部』(講談社)を上梓。YouTubeで政治解説も配信している。

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(ジャーナリスト 鮫島 浩)

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