このレベルなら移住は見送りたい…中国人富裕層を幻滅させた「日本のサービス業」のすさまじい劣化ぶり
プレジデントオンライン / 2022年12月16日 10時15分
■ひさしぶりの来日を楽しみにしていたのに…
今秋、私は約2年半ぶりに来日したという中国人男性と都内で会った。以前日本に住んでいたことがあるというその人は、来日前「久々の日本。おいしい日本料理や日本式のすばらしいおもてなしを体験できると思ってワクワクしている」と話していた。しかし、実際に各地で出くわした日本のサービスはその人の期待を裏切るものばかりだったという。いったい何があったのか。
日本語も堪能なその中国人は、私に向かって開口一番、「日本のサービスの低下に幻滅した」と明かした。特定を避けるため詳細を明かすことはできないが、日本人の私でも驚くようなエピソードがたくさんあった。
その中国人は再び東京に住むことを検討しており、ある日、某高級家具店を訪れたという。
「下見のつもりで訪れました。日本人担当者が1人つき、一緒に50万円以上のテーブルやソファなどの家具を見て歩きましたが、私は今日(購入を)決める予定ではない、ということを、あらかじめ伝えておきました。しばらく見て歩いたあと、気に入った家具がありましたが、部屋のサイズなどを正確に測ってこなかったし、やはり、今日はこのまま帰ると伝えました。すると、担当者は商品の10%の予約金を支払えば、一定期間、家具をキープできますよといい、予約を勧めました」
■中国人を驚かせた店員の一言
そこまでであれば、よくあることだろう。だが、その中国人が改めて丁寧に断ると、それまでにこやかだった担当者の表情は一変、自分が接客した時間を無駄にされたと思ったのか、ノルマが果たせなかったことを残念に思ったのか、今後、お得意さまになるかもしれないその中国人顧客に向かって、開き直ったような態度で、こう言ったという。
「私、あなたのボランティアじゃないから」
その言葉を聞いた瞬間、中国人はショックのあまり、わが耳を疑い、二の句が継げなくなった。「これは本当に私が知っている、あのすばらしい日本のサービス、日本のおもてなしなのだろうか?」と思い、しばらくの間呆然としてしまったという。
自分が何か悪いことでもしたのだろうか、と意気消沈したが、別の日、外資系の家具店にも行った。その際も同じように「下見」であることを最初に伝えてから店内を見て回ったが、その家具店の日本人担当者の対応はまったく異なるものだった。買わないで帰ろうとする中国人に対して、最後まで笑顔できちんと接客してくれたという。しかも、翌日すぐに、渡した名刺のメールアドレスに来店のお礼メールが届き、フォローも忘れなかった。
その中国人は言う。
■どこに行っても高水準で安心できたのに…
「これはあくまでも私の個人的体験に過ぎませんが、他にも今回、都内のさまざまなお店に行ってみて感じたことは、以前よりも日本のサービスの質が落ちている、対応する店員の個人差が大きくなっている、ということでした。これまで、私が知っている日本式サービスは、マニュアル教育が徹底されていて、どこに行っても均一で、どの人が対応しても同じくらい高水準で安心できる、すばらしいものでした。
それが日本の強みであり、日本おもてなしのクオリティー、質の高さだと思っていたのですが、それが少しずつ変わってきているのでは……と感じました。自分がたまたまいい店員に出会えば、いいサービスを受けられるけれど、運悪く、そうではない店員に会ってしまったら、嫌な気分にさせられます。
ホテルでも疑問に思うことがありました。私は都内のあるホテルに1カ月以上泊まっていたのですが、そのホテルにはフィリピン人、ロシア人、中国人などの外国人スタッフもいました。日によって担当は交替しますが、私が感じたところでは、日本人スタッフより外国人スタッフのほうが、総じて愛想がよかったのです。これは1カ月住んでみての率直な感想です……」
■日替わりランチやおすすめメニューがわからない
この中国人の体験は高級家具店やホテルでの話だが、私や私の日本人の友人も実際に経験したことのあるような日常的な出来事に、その中国人も遭遇したという。どこにでもある普通のレストランでの「日替わりランチ」をめぐる対応だ。
「あるレストランに1人で入ったときのこと。日替わりランチがあったので、店員に『今日の日替わりは何ですか?』と聞いたところ、『少々お待ちください』といって奥のほうに引っ込んでしまい、なかなか戻ってこない……。開店直後ならまだ覚えていなかったのかなと、少しだけ理解することもできますが、開店後、しばらくたってからなのに、今日の日替わりメニューすら覚えていないなんて、と驚きました。
夜にちょっと高級なレストランに行ったときにも『こちらのお店のおススメのワインは何ですか?』と聞いたけれど、店員は答えられない。たまたまその日、接客に当たった人は、お店のことを熟知していないアルバイトだったのかな。1カ月以上、都内で数多くの飲食店に足を運びましたが、このように疑問に思うことが何度もありました。これは私の思い過ごしだったのでしょうか。治安とサービスがいい日本だから移住する気でいましたが、今は悩んでいます」
■飲食業従事者は2年で19%減っている
私自身、ここ数年、この中国人とまったく同じように感じていた。先日も都内のあるパソコンショップに行き、エクセルの操作でわからないことがあったので、5分間のオプション料金を支払って教えてもらおうとしたが、「忙しいんだから、そんなことまで教えられない」と強い口調で怒られた。そういうことがあったので、その人の感想にうなずくところが多かった。
むろん、この中国人と私に、偶然同じようなことが起きたのかもしれないし、私たちの寛容さが足りなかったり、会話の仕方が悪かったりしたのかもしれない。たったそれだけで「日本のサービス低下だ」というのは大げさだ、と読者に怒られるかもしれない。
だが、コロナ禍により、日本のサービス産業を取り巻く環境が大きく変化していることは確かだろう。総務省の労働力調査によると、宿泊・飲食の就業者数は2019年10月には約454万人だったが、2年後の2021年10月には約368万人と19%も減少。今年10月、水際対策が緩和されたことなどによって、同11月末に発表された10月分では、宿泊・飲食ともに約390万人まで戻っているが、相変わらず人手不足であることは変わらない。
![夕方、人でにぎわうアメ横](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/2/a/1200wm/img_2a45ecd588706cf27bc870a47047c9b9464188.jpg)
■だんだん余裕がなくなっていく日本
興味深いデータもある。帝国データバンクが今年7月に行った「人手不足に対する企業の動向調査」で、正社員が足りないと答えた企業は47.7%と半数に迫った。パート・アルバイトなど非正社員についても28.5%が「足りていない」と答えた。社員不足が最も顕著なのは「旅館・ホテル」で66.7%と全体の3分の2に上る。パート・アルバイトなど非正社員が「足りない」と最も多く答えた業種は飲食業で、全体の73%だった。
![](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/5/d/1200wm/img_5dd7d6fa8810106508352e18f2486d18172298.jpg)
人手不足が引き起こす問題として考えられるのは、サービスの低下だ。日本にずっと暮らしていると、緩やかな変化には気づきにくいし、もちろん、あるサービスに対する評価や、その受け止め方は千差万別であることは当たり前で、数値化できるものではない。
だが、コロナ禍前、私は中国出張から日本に帰国するたびに、日本の接客のすばらしさを改めて痛感したものだった。中国の接客サービスも日進月歩の勢いでよくなっているが、やはり、日本のサービスは高いと、当時は感じていた。前述の中国人男性も長く日本で暮らした経験があるからこそ、以前との比較でそのように感じたのかもしれない。
■人材を育てる人材が枯渇しているのではないか
今年10月、日本では水際対策が緩和され、訪日観光客の3割を占める中国人を除き、徐々に外国人観光客が戻ってきている。日本の有名観光地や旅館などに泊まり、日本式サービスを楽しみにしている外国人も多いだろう。
![](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/2/0/1200wm/img_2099b74dfc7beea14a925af6f2e19c31239684.png)
コロナ禍で3年近く来日できなかったことから、彼らの期待値は以前よりも大きく膨らんでいると思うが、観光地では大量の人員をカットした結果、いい人材が現場に残らない、とにかく人手が足りない、という深刻な問題があちこちで発生している。現場に残っているのは、その場しのぎの対応でやり過ごすアルバイト人員ばかりだ。
むろん、アルバイトでも、きちんと教育をすれば問題ないし、プロ意識を持つアルバイトもいるが、その教育を担当する人材が、日本では枯渇してきているのではないかという危惧を覚える。中国人観光客が日本に戻ってくるまでにはまだ時間がかかると思うが、この日本通の中国人の個人的な体験談を聞きながら、私は、コロナ後の日本経済を支える屋台骨の一つである観光業の先行きは大丈夫だろうか、という不安にかられた。
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フリージャーナリスト
山梨県生まれ。主に中国、東アジアの社会事情、経済事情などを雑誌・ネット等に執筆。著書は『なぜ中国人は財布を持たないのか』(日経プレミアシリーズ)、『爆買い後、彼らはどこに向かうのか』(プレジデント社)、『なぜ中国人は日本のトイレの虜になるのか』(中央公論新社)、『中国人は見ている。』『日本の「中国人」社会』(ともに、日経プレミアシリーズ)など多数。新著に『中国人のお金の使い道 彼らはどれほどお金持ちになったのか』(PHP新書)、『いま中国人は中国をこう見る』(日経プレミアシリーズ)などがある。
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(フリージャーナリスト 中島 恵)
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