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むしろ日本人はもっと肉を食べたほうがいい…「欧米で流行の食生活」を真似してはいけないワケ

プレジデントオンライン / 2022年12月20日 10時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Vladimir Mironov

健康のためにはどんな食生活を送るべきか。老年医学の専門家である和田秀樹さんは「日本人はもっと肉を食べたほうがいい。やせ型の人よりも太り気味の人のほうが、平均余命は長い」という――。

※本稿は、和田秀樹『[新版]「がまん」するから老化する』(PHP文庫)の一部を再編集したものです。

■「メタボ」という言葉がひとり歩きしている

「メタボだからやせなくてはいけない」
「これを食べるとメタボになってしまう」

など、メタボは「避けなくてはならないこと」として広く知られている。中高年でメタボという言葉を知らない人はまずいない。

ご存じの方も多いと思うが、メタボとは「メタボリック・シンドローム」のこと。内臓脂肪の蓄積により肥満症、高血圧、高血糖、脂質異常などが引き起こされることを言う。

さまざまな生活習慣病をもたらす危険因子として、盛んにテレビの健康番組などで取り上げられてブームの様相を呈していた。いまや「太っていること=メタボ」のように、言葉が一人歩きしているようだ。

■いちばん長生きなのはBMI25を超えた「太り気味」の人

2008年4月から厚生労働省は、メタボかどうかをチェックする特定健康診査や特定保健指導を国民に義務付けている。一見、生活習慣病を未然に防ぐために必要な施策に思えるかもしれないが、メタボを恐れるあまり、根拠のない「やせ願望」が中高年に広まっていることに、私は違和感を持っている。以下のような問題があるからだ。

「メタボ」が中高年の健康情報を席巻するとともに、BMIという数値が広く知られるようになった。これは体重(kg)を身長(m)の2乗で割った数値で、医者はWHO(世界保健機関)の基準で「普通」となる18.5〜25未満に収まるようにと指導する。しかし、世界中でどんな統計を取っても、BMI25を少し超えたあたりがいちばん長生きなのだ。

2006年、アメリカで29年間にわたって追跡した国民健康・栄養調査の結果が発表されている。これによると、いちばん長生きなのは「太り気味」とされるBMI25〜29.9で、18.5未満の「やせ型」の死亡率はその2.5倍も高かったのだ。

■「健康のためにダイエットしないと」はナンセンス

日本でも2009年、厚生労働省の補助金を受けたある研究結果が発表された。40歳の時点での平均余命を見ると、もっとも平均余命が長かったのは、男女ともにBMI25〜30である。平均余命は男性で41.6年、女性は48.1年だった。逆にもっとも短かったのはBMI18.5未満で、平均余命は男性で34.5年、女性で41.8年と、7年ほどの差がついたのだ。

BMI25〜30は、身長が170cmの男性なら体重72〜87kgに当たる。昨今なら完全にメタボと言われてしまう体型だ。日本では「太りすぎ」という分類にされているが、実はもっとも長寿だったのだ。また「普通」「肥満」とも平均余命にほとんど差はつかなかったのに、「やせ」だけは目立って平均余命が短いのだ。

中高年の場合、多少太っていてもむしろ長生きできる。これは統計的に明らかになっているのだから、過激なダイエットに走る必要などまったくない。「太り気味だから、健康のためにダイエットしないと」と不安に思うのはナンセンスだということだ。

メタボブームでやせ願望が非常に強くなってしまったが、やせているのは栄養状態が悪いことを意味している。日本人が短命だったのは栄養状態が悪かったころだと思い起こしてみると、単純にやせればいいというわけではないとわかるだろう。

「やせると長生きできる」となると、もうまったくの嘘だ。低栄養のほうがずっと危険で、やせていることはリスクになるのである。

■「メタボは長生きできない」は超肥満が多い欧米の理屈

「太りすぎはむしろ長生きできる」とは言うものの、やはり程度の問題だ。体に悪い肥満はもちろんあって、肥満の度合いと心筋梗塞になる確率は明らかに相関している。BMI35以上の超肥満は寿命が短くなるのは事実だから、そんな人はたしかにやせたほうがいい。

心筋梗塞による死亡率が高い国や、糖尿病が多い国では、肥満はやはり大敵になる。欧米に関して言えば、日本人にはありえないような超肥満が珍しくない。身長170cmで体重100kgを超えるような日本人はめったにいないが、アメリカならニューヨークでもハワイでも、通りを歩けばいくらでもすれ違う。だからこそ国を挙げて「太りすぎはよくない」と啓蒙(けいもう)しているのである。

男性の脂肪
写真=iStock.com/kuppa_rock
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kuppa_rock

「メタボは長生きできない。やせたほうがいい」というのは、欧米の背景と理論を日本に持ち込んだだけのようだ。統計によると、肥満(BMI30以上)の占める割合は、アメリカ人は2014年時点で男性35.5%、女性41%、日本人は2015年時点で男性4.4%、女性3.1%(アメリカ国立衛生統計センターやOECDのデータによる)。やせる必然性について、日本人も同じかと改めて問い直すと、案外当てはまらないことが多いように思う。

■現代の日本人は終戦直後と同程度の栄養しか摂っていない

つけ加えるならば、老化の研究をしている人たちが実験対象としているのはラットやミジンコである。カロリー制限をしてラットの寿命が1.4倍に延びた、ミジンコは1.7倍になったと言っているのだ。

老化のメカニズムを探る実験としては意味のあることだし、学者も納得している研究結果だとしても、メタボを恐れてBMIを下げることに「カロリー制限すれば長生きできる」と援用するには無理がある。

日本人どころか人間に当てはまるかどうかも定かでないデータが援用されるのは、メタボブームのブームたるゆえんだが、「やせることで健康になる、長生きできる」と信じてしまうと、かえって健康を害する場合がある。

戦後の日本人の栄養摂取量の変遷を見ると、終戦翌年の1946年から高度経済成長の間はほぼ一貫して摂取エネルギー(カロリー)は増え続けている。これが少しずつ減って、2005年には終戦翌年とほとんど同じカロリーになり、以降も微減傾向が続く。

「食べすぎ」で「飽食」しているかのように信じている日本人だが、いまや戦後間もないころと同じくらいしか食べていない小食の国民なのである。

■欧米に比べて心疾患で死ぬ人が圧倒的に少ない日本

最近少し減ってきたがフランス、イタリアといった例外を除くと欧米諸国の多くの国では、心臓の動脈硬化で起こる心筋梗塞などを含む心疾患が死因のトップである。心筋梗塞などの心疾患が、ガンよりも4〜5割も多いのだ。

欧米の人たちが禁煙や食生活の改善を極端なまでに推進したり、糖尿病治療に必死に取り組んだりするのは、心筋梗塞を減らせば平均寿命が一気に延びるという事情がある。「メタボ」が広く知られるようになったのは1998年にWHOが「メタボリック・シンドローム」の名称で診断基準を発表してからだが、その概念は欧米の研究者によって1980年代から盛んに提唱されていたものだ。つまり、動脈硬化を遅らせて心筋梗塞を減らしたいという究極の目的がある。

一方、日本人の三大死因と言われるガン・心疾患・脳血管疾患で、死亡総数に対するガンの割合は約27%、心疾患は約15%、一時期死因のトップだった脳血管疾患が約7%で老衰に抜かれて4位になっている。心疾患はガンの半分程度である。つまり日本は「心疾患で死ぬ国」ではないのである。

それなのに、欧米型の健康キャンペーンを移入することに誰も異を唱えない。

「肉を食べすぎるのは体に悪い。減らそう」というのも健康常識と捉えられているけれども、もともとは心筋梗塞が国民病とも言えるアメリカ由来の健康キャンペーンだったのだ。

日本人の食生活がいくら欧米化したといっても、実際の欧米人の食生活は大きく異なっている。たとえば肉を食べる量ひとつとってみても、極端に違う。

■日本人はもっとたくさん肉を食べたほうがいい

日本人の肉類の摂取量を見ると、国全体が貧しかった時代はもちろん、飽食と言われる時代になっても、実はそれほど肉を摂っていない様子が読み取れる。終戦直後の飢えている時期は、肉類を1日にわずか5.7gしか食べられなかった。魚が45.3gほどで乳製品は3.1g、米が241.1gといった状態で、ここから日本人は再出発したのだ。

和田秀樹『[新版]「がまん」するから老化する』(PHP文庫)
和田秀樹『[新版]「がまん」するから老化する』(PHP文庫)

「経済白書」に「もはや戦後ではない」と明記されたのは1956(昭和31)年。飢えは脱していたが、私の生まれた1960年でも、肉は20gも摂っていない。高度経済成長を経て、ジャパン・アズ・ナンバーワンと言われるようになった1980年ごろから、肉を減らすように言われ始めるのだが、この時点でも肉の摂取量は67.9gにすぎない。

近年、日本人の肉の摂取量は1日あたり100g前後である。一方、アメリカ人は約300g、ヨーロッパ人なら約220gも食べている。その前提があって、ヨーロッパでは目標値を150gにしたのだ。

そもそも前提となっている肉の摂取量が極端に違うのだから、減らせばいいというものではないことは誰にでもわかる。

少なくとも日本人の場合、肉の摂取量を減らす必要はないのである。むしろ増やしたほうがいいと考えられる。

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和田 秀樹(わだ・ひでき)
精神科医
1960年、大阪市生まれ。精神科医。東京大学医学部卒。ルネクリニック東京院院長、一橋大学経済学部・東京医科歯科大学非常勤講師。2022年3月発売の『80歳の壁』が2022年トーハン・日販年間総合ベストセラー1位に。メルマガ 和田秀樹の「テレビでもラジオでも言えないわたしの本音」

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(精神科医 和田 秀樹)

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