老後のためにケチケチしていると、むしろ早死にしてしまう…高齢者こそ浪費に励んだほうがいいワケ
プレジデントオンライン / 2022年12月24日 15時15分
※本稿は、和田秀樹『[新版]「がまん」するから老化する』(PHP文庫)の一部を再編集したものです。
■70歳以上就業率全国トップ県は医療費も国内最小だった
歳を取ってからも、働いているほうが長寿だし健康だ。
2000年の話だが、70歳以上も4人に1人が働いていて就業率が全国1位の長野県は、男性の平均寿命が全国1位、女性が3位とトップクラスである。しかも1人あたりの老人医療費が全国でも最小の約60万2000円だ。もっとも高かった北海道の約93万円に対して、およそ65%にすぎない。北海道の高齢者就業率は、全国で4番目に低い。すなわち長野県は、日本でもっとも老人医療費をかけずに、日本一の長寿を達成していることになる。
2017年の「就業構造基本調査」(総務省統計局)、「後期高齢者医療事業状況報告」(厚生労働省)でも、長野県の高齢者就業率は1位、老人医療費は全国で8番目に少ない。老人医療費がもっとも高かったのは福岡県になったが、福岡県の高齢者就業率は男性38位、女性36位と全国でも低いほうだ。
■高齢化率が県内トップの山村で医療費が安く済んでいる理由
2012年の「平成24年労働経済の分析」(厚生労働省)には「高齢者の就業率が高い都道府県ほど1人当たり老人医療費が低くなる傾向にある」といったことが示されている。
徳島県上勝町という町名をご存じだろうか。お年寄りが山で採ってきた葉っぱを、都会の料亭に売るビジネスで一躍有名になった。70代、80代のお年寄りが、毎日パソコンを見ては「いまは楓の葉っぱが人気で、値段も高い」などと頭を働かせて、山に採りに行く。年収1000万円を超えて、葉っぱ御殿を建てた人もいるというから、たいへんなやりがいになっていることは想像に難くない。
この町は県内で高齢化率が1位という山村だ。後期高齢者の1人あたりの医療費は96万円と、徳島県内平均の104万円を大きく下回っている。
同じようなDNAを持ち、いまや日本中で同じようなものを食べていながらこうした差がつくのは、働いているか否かの違いが大きい。
少し前までほとんどの企業で60歳が定年だったが、2013年に政府が改定した「高年齢者雇用安定法」によって、65歳までの雇用確保が義務づけられることとなった。現在は経過措置期間となっているが、2025年4月から65歳までの雇用確保が義務となる。これを「国は財政が厳しくて年金を払いたくないのだろう」と憤慨する人もいるかもしれない。
しかし「働いているほうが感情の老化予防にもなるし、若々しくいられる」と肯定的に捉えることもできるのだ。
■高齢者は健康のためにもっと遊ぶべきだ
高齢になると「健康のために働く」だけでなく、「健康のために遊ぶ」「健康のためにお金を使う」ことも大きな意味を持つ。
高齢者は地味にするのが当然だと思われているから、ややもすると「年金でカラオケに行くのはいかがなものか」「年金生活者がパチンコに行くとはけしからん」といった非難になりがちだ。しかし年金生活者はしっかり遊んでくれたほうが消費につながるし、それ以上に前頭葉を刺激することになって免疫機能も上がる。
つまり高齢者がお金を使って遊ぶことは、病気のリスクを減らすことにもつながるから、「お年寄りはもっと遊べ」と言いたいのである。
感情の老化を予防するには、歳を取るほど強い刺激が必要だ。
脳の老化によって弱い刺激には反応しにくくなることに加えて、積み重ねた人生経験から多少のことでは心に響かなくなるからだ。仕事で経験を積んでくると、先が読めるからそつなくこなせる。失敗することもなくなるけれども、面白さは薄れてくる。「先が読めてしまう」と刺激が失せるだけでなく、興味や関心までも色褪せる。
■歳を取ってからのギャンブルは脳にいい
その対極にあって強力な刺激を与えてくれるのは、たとえばギャンブルだ。予想どおりになって歓喜したかと思えば、手ひどく裏切られて悲嘆にくれる。
日本でも外国人観光客を集めるために、特区を作ってカジノを開けばいいというアイデアが続いているし、IR整備法も成立した。私は、65歳以上に限るというアイデアもあっていいと思う。若いうちにあまりギャンブルにはまるのは問題でも、歳を取ってからは脳にもいい。
勝った人の金目当てに、美女が集まるというのが世界中のカジノの通例だから、これも高齢者の若返りにつながる。人生を長く生きてきたごほうびを与えながら、ちゃんとお金を使ってもらえて、しかも、若い人たちから羨ましがられるような仕組みを作ることがポイントだ。ただし前述のように前頭葉が老化すると、ギャンブル依存症にもなりやすいから、そのチェックも必要になるが。
■積極的にお金を使うことで超高齢社会がうまくいく
資本主義社会とは「お客さまは神さまです」の社会である。お金を使うことによって自己愛も満たされるし、よりよいサービスが受けられる。
お年寄りがケチだとお年寄りを粗末にする社会になるし、派手にお金を使ってくれると、急に接客態度がよくなる。「あさましい」とか「不道徳的だ」とか顔をしかめる人もいるかもしれないが、それが現実であることを直視したほうがいい。
新型コロナでそれが止まっているが、中国人が豊かになってお金を使うようになって以来、日本では旅行会社から老舗旅館、百貨店、家電量販店のほか、あらゆる業種が手のひらを返したように中国人向けのサービスを用意するようになった。資本主義の国で生きる以上、それが当たり前なのだ。
日本はまだまだ高齢者がお金を使わない社会である。ここが、超高齢社会を考えるうえでの大きな問題点だ。
■生涯現役の消費者であり続けることの大事さ
お年寄りがお金を使って遊ぶと、高齢者向けのビジネスも盛んになる。生涯現役とは、現役として一生働くという意味だけでなく、生涯現役の消費者であるという意味でもあるのだ。
消費者として、お年寄りが大事にされるようになると日本は変わる。
たとえば「お年寄りはお金を使う」というコンセンサスができてくると、必ずテレビ番組の質も変わってくる。つまりはこういうことだ。
お年寄りはテレビを見ている時間が多くなるものだが、いま作られている番組は若者向けのものが圧倒的に多い。とくに民放で顕著なのは、スポンサーの製品やサービスを宣伝して、消費者に買ってもらうビジネスモデルが前提にあって、お金を出して買うのは若者だと思い込まれているからである。
![テレビを見ているシニアカップル](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/d/4/1200wm/img_d47062a90fc41b31140db9ca2028a12f401476.jpg)
たしかに、お菓子とかラーメンやゲームなどは若者しか買わないかもしれない。しかし自動車のテレビCMに若者に人気のタレントを使ったからといって、その自動車を買うかどうかは別の話だ。若者のテレビ離れが激しいと言われるのに、いまだに若い世代が消費の中心にいるかのようだ。
■お金を使う消費者だと認識されると何が変わるか
自動車会社がスポンサーのドラマでは交通事故が起きないことはよく知られているが、過剰なまでのスポンサーへの配慮から、番組自体もどんどん浅薄なものになっていることも否めない。高齢者になるとテレビを視聴している時間がどんどん増えていくのだが、「時代劇の再放送しか見たい番組がない」ということになってしまう。
日本人のテレビ視聴時間は10代が最も短く、次いで20代、30代の順で短い。年齢が上がるほど増えている。アメリカでは2008年にテレビ視聴者の平均年齢が50代に到達したという。
お年寄りのほうがテレビに対する親和性も高いのだから、お金を使う消費者であると認識されれば、テレビ番組の質が向上することは、まず間違いない。
■タンス預金で株を買えば前頭葉が若返る
少し横道にそれるが、高齢者が塩漬けにしているお金を動かすことで、停滞している日本経済も蘇る。というのも、2000兆円を超したと言われる個人金融資産の約6割を、60歳以上の世代が持っている。このお金が動かないことには、景気回復はありえないからだ。
![和田秀樹『[新版]「がまん」するから老化する』(PHP文庫)](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/d/5/1200wm/img_d5dc49fe5035f4516e1d0cd2520a077c299429.jpg)
ところが高齢者ほど1円も減らしたがらないから、いまの時期、株も買わないという人が多い。
「こんなときだから、面白い」と株を買ってみることで前頭葉が若返るのだから、それだけで投資分は取り返せるかもしれない。
高齢者が積極的にお金を使うために、私は固定資産税だけでなく金融資産税を設けるべきだと考えている。銀行預金にしておけばお金が減らないことに慣れているからだ。
先祖代々の土地に住んでいても、固定資産税はかかる。大金の場合、使わないでじっとお金を寝かせているのに、まったく減らない。利息には税金がかかるものの元金は減らないから、1円も減らしたくない高齢者は、資産を銀行で塩漬けにしているのである。
もし金融資産税を年に1%取ったとすると、20年長生きしたら20%目減りすることになる。こうなるとお金を使わざるをえなくなる。しかも銀行預金には金融資産税はかかるけれども、国債は金融資産税を免除にすると、無利子国債も出せることになる。
だから無利子になれば、いま膨大な額になっている国債費の一部が浮くわけだ。大反対を覚悟で金融資産税を導入したほうがいいと思う。
個人金融資産2000兆円なので、金融資産税が1%なら20兆円である。これは消費税の9%分に当たる。
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精神科医
1960年、大阪市生まれ。精神科医。東京大学医学部卒。ルネクリニック東京院院長、一橋大学経済学部・東京医科歯科大学非常勤講師。2022年3月発売の『80歳の壁』が2022年トーハン・日販年間総合ベストセラー1位に。メルマガ 和田秀樹の「テレビでもラジオでも言えないわたしの本音」
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(精神科医 和田 秀樹)
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