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「結局、子供より高齢者優先の日本社会」"公園閉鎖"だけじゃない…日本人の運動能力ガタ落ち必至の自業自得

プレジデントオンライン / 2022年12月14日 16時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Far700

広さおよそ1400平方メートルの青木島遊園地を2023年3月末で閉鎖すると長野市が決定したことが波紋を広げている。スポーツライターの酒井政人さんは「施設を管理する側がクレームを受け、画一的に禁止・閉鎖という判断をしてしまう事例が全国にある。危惧するのは、自由に遊びやスポーツができない子供の運動能力が今以上に落ちてしまうことです」という――。

■「公園閉鎖」問題に見る、もうひとつの重大な懸念

長野市にある青木島遊園地の閉鎖をめぐり、テレビのワイドショー番組やネット上でさまざまな意見が飛び交っている。

きっかけは「子供の声がうるさい」という苦情だった。しかも、たった住民1軒からの声で子供たちの遊び場が失われたことになる。「週刊ポスト」によれば、苦情を訴えたのは公園付近に住む大学名誉教授の男性で、市は男性に忖度(そんたく)したのではないかと報じている。

子供の声の大きさをどう受け止めるかは個人差もあり、苦情を訴えた側にも事情があるようなので、一筋縄ではいかない問題だが、今回は公園=スポーツ施設という観点から考えてみたい。

青木島遊園地は2004年、住民の要望で設置された。住宅街にあり、スプリング遊具と鉄棒、ベンチがあり、広場がメインの小さな公園だ。児童センター、保育園、小学校が近隣にあり、子供たちにとっては絶好の遊び場所だったようだ。毎日、40~50人の子供が来ていたという。

今回、一部住民の意向に沿う形をとった長野市に対して当然、苦情が殺到した(※児童センターが決まった時間に外に出て拡声器を使っていたことに対するクレームだという報道もある)。地元メディアによると、「なぜ閉鎖するのか」「残してほしい」「1人の意見で決めていいのか」という声が多かったものの、市が閉鎖への経緯について説明すると納得したのだという。やけに物分かりがいい。そう感じる読者は多いのではないか。

■公園は何をする場所なのか?

筆者は、都内の小さな公園の前にあるマンションに住んでいる。公園には、朝は犬の散歩をする人、日中は近隣の幼稚園児、昼にはランチをとるサラリーマン、夕方には小学生という具合に、大勢が訪れている。特に土日は幼児と小学生で大混雑。子供たちの遊ぶ様子を見守る親の姿も少なくない。

筆者はフリーランスのため、自宅で仕事をすることが多い。子供特有の嬌声や大声など正直に言えば「うるさい」と感じることもあるが、そもそも公園は、市民が思い思いの時間を過ごすことができるように設置された空間だ。どうしても気になるなら、耳栓をすればいいと考えている。

念のため、長男が持っている小学国語辞典で「公園」を調べると、「だれでも自由に遊んだり休んだりできる、広い庭」と書いてあった。

もちろん近隣の迷惑になるような行為は慎まなくてはいけない。夜中に酔っ払いが叫んでいるならともかく、日中に子供たちがはしゃぐ声は、むしろ平和を感じさせるものではないだろうか。

■都内に自由にスポーツできる公園はほとんどない

青木島遊園地は閉鎖というかたちになったが、近年、運動ができる公園・施設の“自由度”はどんどん失われている。先日、朝9時ごろに都内の某スタジアム下にあるランニングコースを仲間4人でゆっくり走っていたら、「他の方に迷惑になりますので集団走はお控えください」とスタッフから注意を受けた。イベント時には数万人が集まる場所だが、前後を見渡しても、他の利用者は数人しかいない。通行の邪魔をしないように配慮もしていたのに……ずいぶんと世知辛い世の中になったものだと感じた。

これは臆測だが、集団でのランニングにクレームをつけた人がいたのではないだろうか。そして、スタッフはガラガラの状況でも忠実にマニュアル通りの指示を出した。このような重箱の隅をつつくような言動が増え、自由にスポーツできる公共の場所はどんどん少なくなっている。さほど大きくない公園では多くの遊びが禁止されているからだ。

筆者はこうした公園事情を非常に危惧している。

墨田区の業平(なりひら)公園には王貞治の記念碑が立っている。「王貞治の野球はここから始まりました」などと書かれており、王さんが小学生時代に野球をしていたことで有名な公園だ。道を挟んだ隣には小学校があり、王少年は竹バットで3階建ての校舎を越えるデッカイ飛球を放ったという伝説もある。今だったら近隣住民からクレームがたくさんあったかもしれない(※なお現在の業平公園にはボール遊びエリアが設置されている)

サッカーボールを追いかけて遊ぶ子供たち
写真=iStock.com/Sushiman
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Sushiman

公園の利用価値を発信するWebサイト「公園のチカラLAB」は2018年に306カ所の人気公園を調査しところ、驚くべき事実が判明した。野球・サッカーができない公園は中京圏近郊(108カ所)で22%だったが、関⻄圏(93カ所)は62%、⾸都圏(105カ所)ではなんと100%に達していたのだ。同サイトでは、公園の禁⽌事項は近隣からのクレームによって⽣まれやすく、特に公園と住宅が隣接する都市部で起こっていると分析している。

なぜ、地方はプレー可能で都心ではNGなのか。都心の公園が狭く危険だから、というのは理解できるが、それだけではない。同サイトは次のような趣旨の解説をしている。

〈野球・サッカーの禁⽌が22%に留まった地⽅都市では、禁⽌であっても個別の公園毎に「ゲーム形式の野球・サッカーは禁止」「ボールを強く投げることは禁⽌」「キャッチボールは南北⽅向ですること、東⻄は禁⽌(またはその逆)」などの⼦どもの遊びに配慮した⾔葉になっています。このようなローカルルールは⾃治会と⾃治体が連名で掲げている場合が多く、コミュニティがちゃんと機能して、⼦どものことを考えている。一方、⾸都圏や関⻄圏では⾃治体のみの表記がほとんどで、公園周辺の住⺠から苦情があった場合でも相談できるコミュニティがないので、苦情対応のみに終始せざるを得ない状況が考察できる〉

いいコミュニティがあれば、画一的に「100%禁止」とはならないということではないだろうか。

■自由にスポーツできる空間を確保しろ!

現在行われているサッカーのワールドカップで、王国・ブラジルはベスト8を前に敗れ去った。この敗北はブラジル国内の環境が変化したことに影響があるとの指摘がある。

かつてのブラジルは、整備されていないデコボコな空き地で、布をぐるぐる巻きにした球を蹴る少年たちであふれていた。特殊な環境で独自のテクニックを養い、まずは地元のクラブと契約して、徐々にビッグクラブへ移っていく。それが典型的なサクセスストーリーだった。

しかし、30年ほど前から建築ラッシュが始まり、空き地が激減。子供たちが自由にボールを蹴る場所が減った。ネイマール以降、絶対的なスター選手が出ていないのは、そんな理由もあるかもしれない。

東京など多くの地域では小学校の部活動がなく(※愛知県など一部の地域では小学生の部活動があったが、現在は民間委託による活動に移行しつつある)、公園でスポーツできる場所も少ない。こんな環境では、子供たちの体力低下が避けられないのは明らかだ。

スポーツ庁の「体力・運動能力調査」によると、30年前と比べて、体格(身長・体重など)は大きくなっているが、体力・運動能力はほとんどの数値が下まわっている。特に現在の子供は、「走る」「ジャンプする」「投げる」といった運動が苦手なようだ。

スポーツには「ゴールデンエイジ」と呼ばれる時期がある。5~12歳の頃にさまざまな動作を経験することで、脳が刺激され、運動神経が発達していく。従来なら、公園で遊ぶことで、自然と身に付いた“能力”が、特別なものになりつつある。

公園の鉄棒にひとりで座っている少女
写真=iStock.com/Hakase_
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Hakase_

一方でサッカー、野球、スイミング、ダンスなどスポーツ教室に通っている子供は少なくない。ブラジルのサッカーではないが、かつては誰もが経験できたスポーツが身近なものではなくなってきている。お金を払わないとスポーツができない時代になり、今後はスポーツ格差が顕著になるだろう。

子供の頃、公園でした野球やサッカーは楽しくて仕方なかった。同級生の多くがスポーツ選手になる夢を抱いていた。だから、公園でポータブルゲーム機で遊んでいる子供たちを見ると、少し悲しい気持ちになる。仲間内で楽しんでいるのだろうが、せっかくだからもっと体を動かして、と言いたくなる。ひょっとすると、野球やサッカーが禁止だから、ゲームのほうがいいや。そんな意識があるのかもしれない。

10年、20年後に日本人の運動能力が今以上に低下し、五輪などでスポーツ弱小国のレッテルを貼られる悲劇を生まないためにも、今、行政機関を含む大人たちが、コミュニティ内でしっかり話し合い、子供たちが遠慮なく自由に遊べる空間を作らないといけないのではないだろうか。

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酒井 政人(さかい・まさと)
スポーツライター
1977年、愛知県生まれ。箱根駅伝に出場した経験を生かして、陸上競技・ランニングを中心に取材。現在は、『月刊陸上競技』をはじめ様々なメディアに執筆中。著書に『新・箱根駅伝 5区短縮で変わる勢力図』『東京五輪マラソンで日本がメダルを取るために必要なこと』など。最新刊に『箱根駅伝ノート』(ベストセラーズ)

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(スポーツライター 酒井 政人)

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