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あんなに愛してあげたのに…「コロナ沼」の女性が年収1200万円の夫、12歳の娘、10歳の息子を失った理由

プレジデントオンライン / 2022年12月22日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/SvetaZi

コロナ対策はどこまで厳重に行うべきなのか。コロナ前まで4人家族だった45歳の女性は、家族に行き過ぎたコロナ対策を求めた結果、一家離散を招くことになった。一体なにがあったのか。ライターで編集者の沢木文さんが書いた『沼にはまる人々』(ポプラ新書)より紹介しよう――。(第3回)

※本稿は、沢木文『沼にはまる人々』(ポプラ新書)の一部を再編集したものです。

■正義を振りかざす「コロナ警察」

人々の生活様式が一変したコロナ禍では、さまざまな沼が生まれた。マスクなしでは生きられない、素顔を見せられない例もそのひとつだ。そして、「コロナ警察」。ステイホームを声高に叫び、そうしていない人をSNS上で悪者扱いする。

古くは第2次世界大戦中や、2011年東日本大震災直後に広がったデマなどで、「これが絶対に正しい」と言うことの多くは、時間の経過とともにそうではないことがわかってくる。それにもかかわらず、ある種の人は、正義を振りかざして、それに合致していない人を戒めてしまう。その行為には、ヒーローになったかのような快感があることが想像できる。

コロナ禍はSNSが発達していたこともあり、この正義を振りかざす人が多かった。「この人、後で何を思うんだろうな」と考えて、コロナの危機を煽る知人の名前を簡単な内容とともに、手帳にメモしていた。感染が落ち着くと、そのほぼ全員がいち早く、海外旅行に行ったり、外食をしたりしていた。SNS上ならいいが、実際に事件も起こった。

2020年、最初の緊急事態宣言解除直後、60代の男性が、20代の男に「マスクを着けろ」と注意した。これに腹を立てた男は、60代の男性に暴行。首の骨を折るなどの重傷を負わせた。男性は頸椎を損傷し、下半身不随になってしまったという。傷害罪に問われた男は、神戸地裁で懲役3年・執行猶予5年の有罪判決を受ける。お互いに未来に影を落としてしまったという痛ましい事件だ。コロナ禍では正義感や義俠心(ぎきょうしん)から、さまざまな沼が発生した。

3人の子供をもつ里美さん(45歳)は、コロナを恐れるあまり、過剰に行動をしてしまい、一家離散の状態になってしまった。

■帰宅したら外で服を脱ぎ、即シャワーを浴びる

里美さんとは2022年4月に話をしたのだが、そのときに、自分がコロナ警察だったことをすっかり忘れていた。そこで、過去のSNSの投稿をさかのぼり、その画面を見ながら話を聞いた。

2020年4月7日、安倍晋三首相は東京をはじめとする7都府県に、新型コロナウイルス感染症対策本部の特別措置法に基づく緊急事態宣言を発令。政府は「外出自粛」「学校の休校」「テレワークの推進」を要請した。

「コロナ前までは、3歳年上の夫、12歳の娘、10歳の息子という4人家族でした。夫は大手企業に勤務しており、年収は1200万円くらいだったかな。2020年の1月の終わりくらいに、武漢の医師が警鐘を鳴らしたユーチューブ動画を見て、『これはヤバい』と思ったんです。周囲は『変な風邪が流行っているみたいだね』という感じでしたが、私は違いました」

その後、2月3日に横浜に大型客船が来た。日本政府の対応などを見て、義憤にかられたという。里美さんは結婚前まで看護師をしていた。感染対策の基礎知識があったから、なおさらだ。

「マスク不足を想定し、初期に子供用も含めて10万円分以上のマスクを購入しました」

大量の不織布マスク
写真=iStock.com/Andrey Zhuravlev
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Andrey Zhuravlev

感染症の知識がある里美さんは、2月の段階で帰宅したら外で服を脱ぎ、即シャワーを浴びることを徹底していた。公立の小中学校に通う子供たちの休校が決まったのが、3月頭。それ以降も夫は出勤し続けた。

■「この人は家族を愛していないんだ」と思いました

「子供たちには帰宅したら玄関の外で下着になってもらいました。娘は家の外で服を脱ぐことを恥ずかしがりましたが、命のほうが大切です。すぐにシャワーを浴びさせて、家に入れていました」

着た服は即座に洗濯をする。そこまで頑張っても、夫は何もしない。玄関にアルコールスプレーを置いても使わず、手も洗わない。

「強く言ったら、パチーン(平手打ち)でしょ? 夫の言い分としては、『誰のおかげで食わせてもらっていると思っているんだ、俺をバイキン扱いするな』ということなんでしょうけどね。この夫の行動で『この人は家族を愛していないんだ』と思いました。愛していれば、家族の安全のために感染対策をするはずですから」

■「お前は本当にバカだったんだな」

子供からは慕われていたと思っていた。しかし、娘から「ママはもう、死ねばいい」と言われたことがあった。それは、娘を小学校の卒業式に出席させなかったこと。

「忘れもしない3月18日。娘が通う公立小学校で卒業式が行われたのです。卒業式なんてクラスターの発生源。こんな非常時に卒業式をするなんて、非常識だと思いました。学校に抗議をしたのですが、『大切な節目ですから』と言うだけで、決行した。でも怖いので、ウチは欠席させることにしたのです。娘は大暴れしました。『どうしても出たい』と言ったのですが、私は娘の命を守るために、心を鬼にして、家から出さないようにしたのです」

娘は父親に母親の行状を訴えた。

「殴られると覚悟の上で、荒れ狂う娘を出席させないために頑張りました。そしたら、夫は『お前は本当にバカだったんだな』と呆れたような顔をしている。娘には『荷物をまとめろ』と言うと、娘はトランクケースを部屋から出してきた。その足で娘は夫の実家に行きました」

娘は埼玉にある夫の実家で春休みを過ごす。そのうちに息子も「僕も行きたい」と行ってしまった。

「あんなに愛してあげたのに、裏切られた気分です。夫がその後、話し合いの場を設け、『冷静になろう』と。『コロナになったからといって死なない』などと言ってきたんですが、もはやそういう問題ではなく、家族の信頼が損なわれたということです」

結局、離婚してマンションも売却。子供たちは「ママはイヤだ」と言い、祖父母の家で暮らすことになった。

■「ここにいる人を殴るボランティアをしたい」

里美さんの投稿を振り返ると、なかなかの徹底ぶりがうかがえる。買い物は2週間に1回。買ってきたものは次亜塩素酸ナトリウムかアルコールで消毒する。それができないものは、5日間ベランダの外に放置する。投稿には夫への不満が吐き出されている。

沢木文『沼にはまる人々』(ポプラ新書)
沢木文『沼にはまる人々』(ポプラ新書)

「決死の覚悟で調達した食材を、夫が豚のように意地汚く食べている」などという投稿もあった。また、都内の商店街に人が密集しているという報道写真について、「日本人はホントにバカになってしまった。ここにいる人を殴るボランティアをしたい」と書いてあった。

里美さんは「こんなこと、書いていたんですか……」と絶句していた。熱に浮かされていると、周りが見えなくなる。この取材が終わった後、全ての投稿を削除した。コロナ禍は正気を失ってしまった人が多い。

「どうせ死ぬから」と、セルフネグレクトをしはじめて、風呂にも入らず汚部屋になってしまった人、デリバリーの食べ物を過度に頼んでは食べ続けて30キロほど太ってしまった人、飲食店への義侠心に駆られて、借金をしてまで飲食を続けてしまった人など多々ある。緊急事態に発動する沼。それにどう反応するかが、今後の人生を左右する。

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沢木 文(さわき・あや)
ライター/編集者
1976年東京都足立区生まれ。大学在学中よりファッション雑誌の編集に携わる。恋愛、結婚、出産などをテーマとした記事を担当。さまざまな取材対象をもとに考察を重ね、これまでの著書に『貧困女子のリアル』『不倫女子のリアル』(ともに小学館新書)、『沼にはまる人々』(ポプラ新書)がある。

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(ライター/編集者 沢木 文)

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