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大事なのは視聴者より広告主の意向…ネトフリの「広告付きプラン」に振り回されるテレビ局の本音

プレジデントオンライン / 2022年12月16日 15時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/hocus-focus

■ネットフリックスに翻弄されるNHK・民放

「広告抜き」だから番組を提供したはずなのに、いつのまにか「広告付き」で視聴者に番組が配信されていたら、話が違うじゃないか……。

動画配信サービス最大手の米ネットフリックス(ネトフリ)が11月から世界中で一斉にスタートした「広告付きプラン」に、番組を提供している日本の放送界が翻弄(ほんろう)されている。広告付きのネット配信を禁じられているNHKは狼狽(ろうばい)し、番組のスポンサーとネトフリの広告が競合しかねない民放は悲鳴を上げた。

だが、世界をまたにかけるネトフリにとって、日本特有の放送界の事情はささいなことのようで、いちいちかまってくれそうにない。

独善的な世界戦略を展開する巨大プラットフォームとどう付き合うか。国内でのコップの中の競争に明け暮れる放送界が、新たな難問に直面している。

■NHK番組にCMが付く異常事態に

番組の冒頭にCMが流れるネトフリの「広告付きプラン」は、従来の「広告なしプラン」(月額990~1980円)より安い月額790円。「低価格で映画やドラマをお楽しみいただけます」と、日本でも11月4日にスタートした。

ネトフリの新プランは10月半ばに概要を発表していたが、NHKや民放各局に詳細を伝えたのは、サービス開始直前の11月に入ってからという。放送局にしてみれば、唐突感は否めなかった。

あわてたのがNHK。ネトフリに提供した連続テレビ小説「半分、青い。」などの番組を見ようとすると、冒頭に現れる大手企業のCMを見ないと視聴できなくなっていたのだ。

NHKは「インターネット活用業務実施基準」で、ネットの有料配信事業者に対し、「利用者に、特定の商品やサービスを推奨したり、NHKがCMを付けていると誤認させる恐れがあるとき」は、番組を提供しないと定めている。

ネトフリの「広告付きプラン」は、この禁止規定に抵触する。

このため、前田晃伸会長が「大変遺憾な状態」と強調、ネトフリに抗議し、すべてのプランでNHKの番組の配信を停止するよう求めた。

ネトフリは当初、「CMの表示はNHKと合意済み」としていたが、NHKが「事前の合意はなかった」と反論。両者の主張が食い違ったまま、しばらくしてNHKの番組はCMを外して配信されるようになった。

だが、そもそも公共放送が、ネットの有料配信事業者に番組を提供する必然性があるのかという指摘もあり、NHKのネット戦略に疑問が投げかけられた。

写真=Netflix「半分、青い。」より
写真=Netflix「半分、青い。」より

■番組スポンサーとの競合を恐れる民放

一方、民放界も、驚きを隠せず、困惑と反発が広がった。

広告を収益の柱とする民放は、NHKと違って広告そのものに対するアレルギーはないが、ネット配信における広告のあり方はいまだ模索中だ。

日本民間放送連盟(民放連)の遠藤龍之介会長(フジテレビ副会長)は、「事前に十分な説明がなく、大変唐突で、進め方が非常に強引だった。放送するCMは、最終的に放送局がチェックすべきだという理念があり、CMも考査している」と。不快感をあらわにした。

民放キー局のトップも、番組の提供時点では想定していなかった事態に、口々に苦言を呈した。

石澤顕・日本テレビ社長「事前の説明が十分ではなかった。非常に遺憾で残念」
佐々木卓・TBS社長「説明を求め、広告を導入しないように強く主張していく」
篠塚浩・テレビ朝日社長:「そもそも広告がつくというプランでの配信を想定していなかった。広告付与を停止してほしい旨を申し入れた」
石川一郎・テレビ東京社長「コンテンツの扱いなどについて、きちんと調整せずに始めてしまった」
等々。

民放各局がもっとも危惧するのは、提供した番組のスポンサーとネトフリが独自に付けるCMの広告主が競合する恐れだ。出演者が専属契約を結んでいる企業とバッティングしかねない懸念もある。

■ネトフリには通じない日本特有の商慣習

日本では、番組のスポンサーの広告料を制作費の一部に充てるケースも少なくないため、民放各局は、番組の中でのCMはもちろん、前後に流れるCMも含めて、ライバル企業と競合しないよう気を配っている。

ネット配信も同様で、民放共同配信ポータルサイト「Tver(ティーバー)」などに番組を提供する場合も、番組スポンサーと競合しないように一定のルールを定めて、放送局がCMを調整してきた。

それだけに、「ネトフリが付けるCMの基準がわからないので困った」と、意図しないCMが付きかねないことへの戸惑いは隠せない。

ところが、ネトフリには、こうした日本特有の放送界の商慣習は通じなかったようだ。

もともと、米国では、放送局と番組の制作会社が独立した存在であるため、日本のように番組スポンサーに配慮する必要はないという。

しかも、ネトフリの日本法人は、当事者能力が乏しく、放送界がこぞって抗議しても、のれんに腕押しで、「広告付きプラン」の世界展開は米国の本社で決定済みと説明するばかり。NHKや民放各局が強く求めた「広告停止」に対しても、本社の指示を仰ぐしかなく、「引き続き協議する」と応じるのがやっとだった。

ただ、さすがに放送界と全面対立するのはまずいと判断したのか、あくまで「緊急避難的措置」としてNHKや一部の民放の番組でCMを停止し、配信を続けるという窮余の策をとった。

■「テレビ離れ」で安易に番組配信を止められない…

放送界が口をそろえて「遺憾」と言うのなら、直ちにネトフリから番組を引き上げればよさそうなものだが、そうは簡単にいかない事情がある。

「テレビ離れ」が広がる中、ネット配信の巨大プラットフォームは、NHKにとっても民放各局にとっても、魅力的な情報空間だからだ。

デジタルメディアのイメージ
写真=iStock.com/Vertigo3d
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Vertigo3d

まず、ネトフリの利用者は、地上放送ではなかなかリーチできない若年層が中心になっていることが上げられる。テレビは見なくても、ネットで見てもらえれば、番組の認知度はあがる。視聴率が命運を握る民放なら、広告収入にもつながるだろう。

日本の放送局が不得手な海外展開も、世界に展開するネトフリなら、容易に配信することが可能だ。各国の放送事情を踏まえて個別に番組を売り込むような手間と煩わしさは、一気に解消してしまう。

ネトフリの潤沢な資金も、ポイントだろう。高額といわれるネトフリ向けの番組の提供料や制作費は、一定の収入源になっているようだ。

放送界とネトフリとの蜜月は深まる一方だったのである。

もっとも、民放は、局によってネトフリとの付き合いの深さに濃淡がある。

フジテレビは、2015年にネトフリが日本に上陸した当初から協業し、ネトフリ向けにリアリティー番組「テラスハウス」や連続ドラマ「アンダーウェア」を制作、配信してきた経緯がある。こうしたこともあって、「広告付きプラン」に抗議したとたん、暫定的に広告が消えた。

これに対し、ネトフリのライバルである「Hulu(フール―)」と組んでいる日本テレビの番組は、CMがついたままだ。

このため、民放界が一枚岩となって、ネトフリと対峙(たいじ)するのは難しそうだ。

■基本戦略を大転換するネトフリに日本のテレビは抗えない…

ネトフリは、コロナ禍の巣ごもり需要もあって世界中で大幅に加入者を増やし、有料会員数が2億2000万人以上に膨れ上がった。日本上陸時は6200万人と言われていたから、7年余で3.5倍以上になった計算だ。

ところが、コロナ禍が一段落した2022年に入り、一転して会員数が減少に転じ、成長神話に陰りが見え始めた。

危機感をもったネトフリが、新たに打ち出したのが「広告付きプラン」なのである。大幅値下げで新たな顧客の獲得を図るとともに、広告収入に道を開く一石二鳥の「秘策」だった。

収益構造を「サブスクリプション(定額課金)」から「定額課金+広告収入」に移行する、つまり利用者からも広告主からもカネを取る最強のビジネスモデルを導入するという基本戦略の大転換である。

「2022年版情報通信白書」によると、21年の世界の広告市場は、コロナ禍の影響でネット広告費が3557億ドル(前年比32.7%増、掲載時の換算レートで39兆396億円)と急増、マスコミ4媒体(新聞、雑誌、テレビ、ラジオ)の広告費2787億ドルをはるかに上回った。

日本の市場に限っても、テレビの1兆8393億円に対し、ネットは2兆7052億円。18年に逆転して以来、その差は広がる一方だ。

テレビのリモコン
写真=iStock.com/TOLGA DOGAN
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/TOLGA DOGAN

ネトフリが、すでに大きな市場となり、さらに伸びが期待されるネット広告に狙いをつけたのは必然とも言える。

さらに留意しなければならないのは、「広告付きプラン」が単なるCMの配信にとどまらないことだ。その先に見据えているのは、会員ごとに異なるCMを見せるターゲット広告だろう。

個々の会員の好みや、性別、生年月日などの属性を把握しているだけに、番組に関連するCMの効果は飛躍的に高まるとみられる。それは、広告主に対し、強力なアピールとなることは間違いない。

そうなると、ネトフリが付けるCMはきわめて多岐にわたり、いちいちチェックすることは事実上不可能になる。番組スポンサーと競合するCMが大量に出回りかねず、民放界がもっとも懸念する事態が起きかねない。

■もはやコップの中の争いをしている状況ではない

放送とネットの垣根がどんどん低くなる中で打ち出されたネトフリの新戦略は、世界を席巻しようとしている。

こうした中、放送行政を統べる総務省は、NHKのネット配信の本来業務化とか、ネット時代の公民二元体制のあり方とか、以前から問われているテーマを延々と議論しているばかりで、世界の潮流の大きな変化に、目を向けているようには見えない。

総務省の監督下にある放送界も同様で、目先の損得勘定にばかり捉われているように映る。

だが、もはやコップの中で争っている状況ではなくなってしまった。

今回の一件で、放送界は、巨大プラットフォームが頼もしい味方になる一方で、自らのコントロールが利かない事態を引き起こすことを思い知らされたに違いない。イーブンの立ち位置で対抗するすべはなさそうにみえる。

これからは、巨大プラットフォームとの付き合い方を真剣に考えてゆかねばならないだろう。気がついた時には、ネトフリの世界戦略に絡み取られ、身動きができなくなっているかもしれないのだから。

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水野 泰志(みずの・やすし)
メディア激動研究所 代表
1955年生まれ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒。中日新聞社に入社し、東京新聞(中日新聞社東京本社)で、政治部、経済部、編集委員を通じ、主に政治、メディア、情報通信を担当。2005年愛知万博で万博協会情報通信部門総編集長。現在、一般社団法人メディア激動研究所代表。日本大学大学院新聞学研究科でウェブジャーナリズム論の講師。著書に『「ニュース」は生き残るか』(早稲田大学メディア文化研究所編、共著)など。

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(メディア激動研究所 代表 水野 泰志)

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