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「許せない相手」を許すにはどうすればいいのか…怒りに支配されている人が勘違いしていること

プレジデントオンライン / 2022年12月19日 14時15分

ジョージ・ワシントンの肖像(写真=CC-PD-Mark/Wikimedia Commons)

「許せない相手」を許すにはどうすればいいのか。カウンセラーの藤本梨恵子さんは「相手を負かせてやろうと躍起にならないことだ。繰り返し思い出すことで嫌な記憶が強化され、精神が消耗してしまう。これでは自分自身を幸せにすることができない」という――。

※本稿は、藤本梨恵子『いつもよりラクに生きられる50の習慣』(かんき出版)の一部を再編集したものです。

■「負けるものか」躍起になると嫌な記憶は強化される

他人を押さえつけている限り、自分もそこから動くことはできない
(ジョージ・ワシントン 初代アメリカ大統領)

嫌な上司や同僚と仕事をしたり、苦手なお客様を接客することがありますよね。そんな人たちのことをふと思い出して、気分が滅入ることはありませんか? 嫌な思いをした相手のことは、忘れたくてもなかなか忘れられません。

Aさんは、過去に職場でパワハラ上司の部下になりました。

Aさんは、「やられっぱなしにはなるな!」と祖父に厳しく育てられたので、上司に高圧的に何か言われても、負けずに自分の意見を伝えていました。「あんなことを言われた。許せない……」と腹を立て、毎日のように上司と戦っていたのです。

Aさんはかなりのストレスを溜めていましたが、「ここで負けたら、今までの自分の努力が水の泡だ」「一矢報いるまでは、負けるものか」と頑張っていました。しかし、とうとうストレスがたたり、体調を崩して会社を退職しました。

相手を負かせてやろうと躍起になっていては、ストレスの元凶である相手と接点を持ち続け、嫌な記憶もさらに強化されてしまうのです。

英国の植民地だったアメリカの独立革命を勝利に導き、初代大統領となったジョージ・ワシントン。元軍人でもあった彼は、「他人を押さえつけている限り、自分もそこから動くことはできない」と言っています。

■「怪物と戦うものは自らも怪物にならないように心せよ」

嫌な感情と記憶が結びついてしまう原因は、脳で隣り合う海馬と扁桃体が関係しています。

海馬は記憶を司り、扁桃体は不安や恐怖などを感じます。ストレスを受けると、海馬は働きが鈍くなり、現在と過去というタイムラインが曖昧になります。一方、扁桃体は活性化し、強い感情体験を今現在経験しているように感じます。だから、嫌な思いをした記憶は、過去のものであっても、今、ありありと経験しているかのように感じやすいのです。

また、ドイツの哲学者ニーチェは「怪物と戦うものは自らも怪物にならないように心せよ。君が久しく深淵を見入るとき、深淵もまた君を見入るのである」と言っています。

相手が意地悪をしてくる場合、「次はこのように攻撃してくるだろう。だから自分はこう防衛しなくては」と考えます。これを繰り返しているうちに、自分も嫌なその相手に似てきてしまいます。

映画「ジョーカー」の主人公は心優しい青年でしたが、貧困、差別、失業、などの不幸が重なり不器用でうまく立ち回れず、孤立を深め、やがてそれが社会への恨みとなり、発狂し、巨悪な存在に変化を遂げてしまいます(作品によっても描かれ方は変わります)。

この映画に影響された一部の人が、ジョーカーの真似をし、アメリカでは銃の乱射事件、日本では放火事件を起こしています。

■嫌な記憶が浮かんだら「ありがとう」を10回唱える

このように映画を見て、実際に犯罪者になる人は少数です。しかし、自分の嫌いな相手の、人と目を合わせない、嫌みを言う、高圧的な態度をとるなどといった嫌な部分を繰り返し見ているうちに、自分も同じような態度をとってしまうことがあります。相手をコントロールしたり、復讐しようと囚われているうちに、自分が相手に似てしまうのです。

自分が怪物にならないためには、嫌な相手とは距離をとることです。憎い相手に対する一番の復讐は、その相手のことを忘れて幸せになることだからです。

ケンブリッジ大学の認知神経科学のマイケル・アンダーソン教授は動機性忘却を実践することで、望ましくない記憶のネガティブな影響を制限できると言っています。その動機性忘却の一つに「思考置換」という方法があります。

例えば、嫌な相手や出来事を思い出しそうになったら、好きな人の顔とかかわいいペットのことなど、何かいい感情が蘇るような出来事を思い出す方法です。「ありがとう」と10回唱えて、自分に感謝の感覚を思い起こさせる方法なども有効です。とにかく嫌な記憶と嫌な感情を繰り返し思い出さないことが、ポイントです。

■「許せない」のではなく「許さないことを決めている」

過(あやま)つは人の性、許すは神の業
(アレキサンダー・ポープ 詩人)

交流分析の先生がこんなお話をしてくれたことがあります。

「よく人は、『あの人が許せない!』と言ったりしますが、【許せない】はありません。【許す】か【許さないか】は自分で決められることです。だから『あの人が許せない』ではなく、『私はあの人を許さないと決めている』というのが正しい表現です」と。

「許せない」と表現すると、何か外部からの強い圧力で自分で決めることができない、という受動的なものに聞こえます。でも実際は、許すも許さないも自分の心次第です。

他人から傷つけられた場合、多くの人は相手を回避するか復讐するかに分かれます。

復讐の方法には、殴ったら殴り返すというようなわかりやすいものから、自分でも気づかないうちに行われるものまであります。

例えば、「自分がこんなに不幸なのは親のせいだ」と思って被害者ポジションに入った場合、無意識に不幸な自分を維持して、親に復讐します。「あなたの教育が悪かったから私は不幸なのだ」と証明するのです。

仕事で成功したり、結婚したり、誰かに大切にされたりすると、自分が幸福になるので復讐が果たせません。だから、無意識に自分で物事がうまくいかないように壊してしまうのです。でも、これは誰も得をしない愚かな行動です。

ある研究では、他人を許しやすい人は、他人に謝れる人であることがわかっています。この人たちは、「きっと、相手にも何か事情があったのだろう」と共感的に考え、他人に協調的であろうとするため、情緒が安定して幸福感が高いというデータが出ています。

人はストレスフルな状態のとき、心の柔軟性に欠け、起きた出来事に対する適応力が低下し、怒りを抑えられなくなる傾向にあります。だから人を許そうと思ったとき、自分の状態を良くすることが不可欠なのです。

■「許す」のは自分自身の幸せのため

TED(Technology Entertainment Design)という各分野のエキスパートたちによるプレゼンテーションを、無料で視聴できる動画配信サービスがあります。その中に、『許し―悲劇の後にくるもの』というタイトルで、アジム・カミサとプレス・フェリックスの二人のスピーチがあります。

TED ステージ(写真=CC-BY-2.0/Wikimedia Commons)
TEDのステージ(写真=CC-BY-2.0/Wikimedia Commons)

1995年、アジム・カミサの息子がプレス・フェリックスの孫により殺害されました。ギャングの仲間入りの儀式のためです。その後、この殺人事件の加害者の祖父と被害者の父親は出会い、許すため、許されるために、深い瞑想の道を辿りました。そして、二人は今、若者が同じような悲劇に遭遇しないように共に活動をしています。

これは、とても困難な道のりであったはずです。しかし、許しがたい出来事を許した人たちは、心の平穏を感じたと言います。許すのはその行為が許しに値するからではありません。相手をいつも心の中で見張り、思い出すたびに苦しむのは、精神が消耗する行為で、自分自身を幸せにできないからです。

藤本梨恵子『いつもよりラクに生きられる50の習慣』(かんき出版)
藤本梨恵子『いつもよりラクに生きられる50の習慣』(かんき出版)

最後に、心理学で相手を許すために行うセラピーを一つ紹介します。

まず、「自分だって、すべての人の期待に応え、すべての人の心の地雷を踏まない発言だけをしているわけではない。だから、相手を許したらどうか?」と考えます。次に「この嫌な出来事から学んだことは? この出来事が自分を成長させるとしたらどんなこと?」と、自分にとってプラスの面にフォーカスするのです。

「過つは人の性、許すは神の業」とアレキサンダー・ポープが言っているとおり、「許す」ことは難しいですが、許したほうが自分の心の安定につながります。私たちは子供の頃、誰でも努力することなく自然に人を許していました。「許さない」という行為は、大人になってからマスターした習慣にすぎません。私たちには本来、生まれながらに許す能力が備わっているのです。

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藤本 梨恵子(ふじもと・りえこ)
ファイン・メンタルカラー研究所代表
NLP心理学を中心にコーチング、カウンセリング、マインドフル瞑想などの手法を習得し統合。その手法を生かし、キャリアカウンセラー・講師として独立。各企業・大学・公共機関の講演の登壇数は2000回を超え、婚活から就活まで相談者数は1万人を超えている。コーチング、パーソナルカラー、カラーセラピスト、骨格診断ファッションアナリスト等のプロ養成講座の卒業生は500人を超え、個人診断においては1000人を超える。著書に『いつもよりラクに生きられる50の習慣』(かんき出版)などがある。

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(ファイン・メンタルカラー研究所代表 藤本 梨恵子)

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