1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. 経済
  4. ビジネス

共同名義の持ち分をこっそり売って離婚したい…「ワケあり物件」に強い不動産会社の驚きの助言

プレジデントオンライン / 2022年12月21日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/skynesher

ワケあり物件に商機ありと3年前から取り扱い始めた不動産会社がある。ワケありと言っても、いわゆる瑕疵物件ではない。マンション価格が高騰する中、共働き夫婦が共有名義で購入したが、その後に離婚。自分の持ち分を売る・売らないで揉めて泥仕合になるケースが多発。そこに登場するのが不動産会社だ。フリーランスライターの東野りかさんがトラブルの具体例や注意点を取材した――。

■夫婦や親族による共有名義が“不幸の始まり”

地価と住宅の原材料価格が上昇する中、不動産物件価格も上がり続けている。リクルートの「2021年首都圏新築マンション契約者動向調査」によれば、平均購入価格は5709万円となっている。これだけ高額になると共働きの夫婦でペアローンを組むことも多く、夫婦の5組に1組がそうしたケースだという。

この場合、家は夫婦の共有名義となるが、これがあとでトラブルのもとになることがある。例えば、離婚した場合、幸せの象徴だったマイホームが共同所有ゆえの争奪戦となり、“ワケあり物件”と化す可能性もあるのだ。

ひと口にワケあり物件といっても種類がある。

業者が手抜き工事をして床が斜めになっている、シロアリだらけで柱が腐っている、殺人事件があったせいか心霊現象が起こる“事故物件”……。これらは民法でいうところの「瑕疵(かし)物件」(キズを持つ物件)であり、以下の4つに分類される。

・物理的瑕疵物件 土地や建物に重大なトラブルがある、いわゆる欠陥住宅など。
・心理的瑕疵物件 建物内で事故死や自殺があった、自然死でも発見が遅れて遺体が腐敗し、特殊清掃をせざるを得なかったなど。
・法律的瑕疵物件 建築基準法に違反している、防災設備が不十分で消防法に違反しているなど。
・環境的瑕疵物件 電車や工事現場の騒音に悩まされる、日照障害や電波障害がある。近隣に刑務所、墓、暴力団事務所などがあるなど。

不動産の契約売買締結時に発見できなかった瑕疵が、一定期間内に発覚した場合、借主は貸主に「契約不適合責任」を問い、損害賠償等を請求することができる。

■キズモノではないのに“瑕疵物件”になるのはなぜ?

しかし、こうした“キズモノ”ではないのに、ワケあり物件に認定されることもある。前述のように夫婦で共同所有だったためにトラブルになった家や土地もそうだ。これらはいわば「第5の瑕疵物件」といってもいい。

このワケあり物件=第5の瑕疵物件を国内全域で扱う不動産会社、ネクスウィル(東京都港区)の社長・丸岡智幸氏はこう話す。

「夫婦共働きでローンを返済する以外に、妻や妻の親が住宅購入のための頭金を出したなど、夫婦や親族間で共有名義にするケースが増加しています。そして離婚となったとき、一方は売りたいのに、もう一方は売りたくないと決裂した場合にトラブルは起こります。なぜなら、自分の共有部分だけ売ることは可能ですが、それを買い取る不動産会社は少ないからです。ならばどうしたらいいか、という相談が最近多いと顧問弁護士から聞きました。これはビジネスチャンスであり、社会貢献にもなると考えて、ワケあり物件の売買を2019年からスタートしました。私どものような規模の不動産会社は大手と同じことをやっていても勝ち目はありません。ワケあり物件は取り扱いが煩雑なので大手はやらないですが、必ずニーズはありますから。といっても、最初は本当にそんなに相談があるのかと半信半疑でしたが、思ったより件数が多くて驚いています」

■2組の夫婦のドロドロの実話トラブル

具体的にはどういった相談があるのか。ネクスウィルに相談があったA男さん(50代)の場合を見ていこう(個人情報を一部加工している)。

A男さんは妻のB子さんと離婚。家は夫婦共有名義だったが、離婚後も子供が成人するまでB子さんが住み続けることを認めた。数年後、子供が成人し、B子さんは再婚してその夫も同居するように。それを知ったA男さんは「自分が所有する部分をB子に売って清算したい」と希望。しかしB子さんは支払い能力がないと買い取りを拒否し、その後、音信不通に……。

丸岡氏が次のように解説する。

「B子さんは『お金がない』とおっしゃっていますが、再婚相手が同居しており、買い取りのためにローンを組むこともできます。要するに、長年住んだ家なのに、自分が買い取らないといけないのが口惜しくなったのでしょう。

こうしたケースの場合、たいてい2人だけでは感情的になり、建設的な話し合いが難しい。もし裁判に持ち込んだとしても、離婚した時の状況によっては話がなかなか進まず、元妻を家から追い出すような心象を裁判官に与えると、A男さんは不利になります。やっと話し合いがついて家を売ろうにも、競売物件になって二束三文で買い叩かれる可能性も少なくありません」

この件の場合、ネクスウィルはA男さんからの打診を受け、まずは彼の共有名義の持ち分を買い取った。さらに同社はB子さんに対して、A男さんの持ち分だったものを購入するか、逆にB子さんが自分自身の持ち分を同社に売却するか、どちらかを選んでいただきたい、と依頼した。

「元夫であるA男さんとの話し合いは拒否しても、私どものような第三者が介入することでB子さんもようやく交渉の席につきました。裁判に持ち込めば、たとえ自分が不利ではなくても、時間もお金もかかって心身ともに疲弊することが多いのをB子さんはご存じだったようです。家を手放したくないB子さんは、弊社が買い取ったA男さんの持ち分を購入されました」

【図表1】A男さんとB子さんの場合
取材を基に筆者が作成

■DV夫と別れるため「共有名義の持ち分を売りたい」

もうひとつの例は、同社に相談したC子さん(60代・女性)の場合。最近増加中の熟年離婚をしており、かなりドラマティックだ。

C子さんは、夫・D男さんからのDVに長い間苦しめられていた。そこで共有名義の家の自分の持ち分を売り払い、夫と別れ、違う場所で一人暮らしをしたいと思うようになる。しかし、そんなことを夫に言い出そうものなら、どんな仕打ちを受けるかわからない。困り果てたC子さんは、秘密裡に行動を起こせないかとネクスウィルに相談した。

同社のスタッフは、顧問弁護士と相談しながら一計を案じる。

まずC子さんは夫と同居を続けながら、夫に内緒で自分の住民票だけ別の住所に移し、その住所を使って自分の持ち分の売却をした。そして「買い物に行ってきます」と言って出て行き、それっきり家に戻らなくなった。

後日、D男さんの元には離婚届が送られ、追い打ちをかけるように、ネクスウィルから「共有名義のあなたの持ち分を弊社に売却されますか、それともC子さんの分を購入されますか?」という連絡を受けた。驚愕(きょうがく)したD男さんだが、C子さんに連絡を取ろうにも行方知れず。彼女は自分の持ち分を売却後に、また違う場所に引っ越した。だから、D男さんはC子さんの居場所を突き止められない。しかも彼女の携帯電話は解約されていた。

D男さんはわけもわからないままに家を売ることになり、同時に結婚生活も破綻してしまった……。D男さんからすれば寝耳に水の展開だが、DVをしてきた自業自得と言えるかもしれない。

■きょうだい間で揉め、“とりあえず”棚上げにしたことが災いに

共有名義で揉めるのは、夫婦間だけではない。

両親が亡くなった後、きょうだい全員で相続して揉めることがある。土地や家以外に、相続できる預金、有価証券などがあれば、話し合いでそれぞれの財産をきょうだいで分配すれば平和的に解決することができる。しかし土地と家しかないときは、それが火種となる場合がある。

それはどんな場合か。丸岡氏は語る。

「たとえば、相続した家と土地が都心部にあるのならば、不動産の価値が高い。それを見越して、両親の面倒を見ていた3人きょうだいの長男が家を相続したいと主張し、他のきょうだいがそれに反対したとします。話が膠着(こうちゃく)状態になって解決できないので、“とりあえず”3分の1ずつの共有名義にします。しかしその後、上の2人は売りたくないが、弟1人が売りたいと言いだし、きょうだい間に齟齬(そご)が生じ、泥仕合になることがあります」

【図表2】きょうだいで共有名義の場合資料提供=ネクスウィル

一方、きょうだい間で争わなくても問題になることがある。亡くなった両親が家と土地を遺したが、子供たちは皆地元から離れており家に住む者はいない。しかし親が苦労して建て、思い出深いわが家を手放すのは忍びないと子供たちは思う。だから、この場合も“とりあえず”きょうだいの共有物件にしておき、なし崩し的に固定資産税を払い続ける。年月が経つうちに家と土地の価値が下がり、買い手がつきにくくなる。しかし税金は払わなければいけないという負のループだ。

この件も“とりあえず”の判断を後悔するパターンだ。

「問題を解決せずに“とりあえず”放置しておくと、そのうち相続者が亡くなることがあります。そうなると次の世代の子供が相続するので、さらに名義が細分化されます。世代が下るに連れて相続人数が増えて、極端なケースでは100人単位の共有名義人が出現する場合があります。弊社のような不動産会社が介入して、名義人を追跡して、各々の持ち分を売買すればいつか解決しますが、うまくいかないこともあります」(丸岡氏)

■共有物件が再建築不可の場合は、最悪のケースに

それはどんなケースかというと「共有名義」かつ、前述の「4つの瑕疵物件」である土地と家だ。

なかでも厄介なのが法律的瑕疵物件だ。現行の建築基準法の接道義務(原則として幅4m以上の道路に2m以上接していないといけない)を満たしていないと、住宅は取り壊したとしても、その敷地内では新しい家は再建築不可となる。それゆえ、どんなに低い価格設定をしても転売は難しくなる。

ネクスウィル社長・丸岡智幸氏(写真提供=同社)
ネクスウィル社長・丸岡智幸氏(写真提供=同社)

丸岡氏は続ける。

「日本にある家の3分の1は、接道義務を満たしていない再建築不可の住宅と言われています。その家を引き継いだ子供たちは、売却できなければ固定資産税だけを払い続けることになります。しかし、その下の世代になると引き継ぎもされず、所有者不明の空き家となってしまうこともあります。そんなふうに空き家になってしまった家の面積を合わせると2016年の段階で九州本島を上回る規模に達し、2040年には北海道ぐらいの大きさになるだろうとの試算があります(※)。空き家といえども、所有者の許諾なしに処分することができないので、道路の整備などの公共事業にも影響を与えます。これを防ぐ意味もあって、2024年には相続登記が義務化されることになります。今後、空き家問題がさらに顕在化するでしょう」

※出典:日経電子版 2019年8月2日付「所有者不明地 国土の2割に?」

「繰り返しになりますが、揉め事になりそうな共有物件は、離婚した時、あるいは親から相続した時に時間をおかずにスパッと清算するのが一番いいと思います。解決すべき問題を棚上げにして放置すればするほど、事情が深刻化し、売買がしにくくなる。病気と一緒で、早いうちに手を施すべきだと思います」

しかも、ワケあり物件を仲介する不動産会社の中には、所有者が困っていることをいいことに、上から目線で買い叩く業者もいるとか。高すぎず、安すぎず適正価格で売買する不動産会社を選ぶべきだと、丸岡氏は断言する。

■ワケあり物件マッチングサイト、自治体と空き家を繋ぐサービスもあり

しかし、よく知らない不動産会社にアプローチするのは不安だという人もいるだろう。その場合は、売買だけでなく、貸し借りや物件の管理運営の依頼と希望者をつなぐマッチングサイトに登録する方法もある。購入するのは無理でも、古い空き家をリノベーションして住みたいという若者が増えているからだ。

ネクスウィルでも「URI・KAI」というサイトを運営。当事者同士が直に繋がることで、仲介手数料を省くメリットをユーザーは享受できる。

また、自治体、地域、事業者、空き家所有者を繋ぐクラウドサービスを展開している空き家活用(東京都港区)に登録すると、所有する空き家に対してあらゆる相談が可能だ(基本相談は全て無料)。

さらに2022年11月には大手保険会社と提携して「空き家いったんあんしん保険サービス」を付帯するサービスもスタート。1年間保険料は無料で、不動産会社の情報に掲載される前の物件と、所有者自身にも賠償責任保険が適用される。

ワケあり物件や空き家に関するトラブルに、誰もが巻き込まれる可能性がある。これは決して対岸の火事ではない。

しかし「自分が損するのが悔しい」「親が苦労して建てた家を見捨てるわけにはいかない」という感情に押し流されてしまってはかえって損になることがある。無用な争いに時間やお金を費やし、不幸な結果に終わってしまうのは避けたいものだ。

----------

東野 りか フリーランスライター・エディター
ファッション系出版社、教育系出版事業会社の編集者を経て、フリーに。以降、国内外の旅、地方活性と起業などを中心に雑誌やウェブで執筆。生涯をかけて追いたいテーマは「あらゆる宗教の建築物」「エリザベス女王」。編集・ライターの傍ら、気まぐれ営業のスナックも開催し、人々の声に耳を傾けている。

----------

(フリーランスライター・エディター 東野 りか)

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

デイリー: 参加する
ウィークリー: 参加する
マンスリー: 参加する
10秒滞在

記事にリアクションする

次の記事を探す

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください