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EVシフト全盛の時代に直6ディーゼル車で勝負する…ついに始まってしまったマツダの超逆張り戦略

プレジデントオンライン / 2022年12月24日 9時15分

MAZDA CX-60 - 写真=筆者提供

マツダが今年9月に発売した新型SUV「CX-60」が好調だ。自動車評論家の小沢コージさんは「世界の自動車メーカーが電気自動車にシフトする中、あえて個性的なディーゼル車を作る逆張り戦略がついに始まってしまった」という――。

■新ラージ商品群第1弾「CX-60」は初速好調

いよいよ始まってしまいましたね。日本が生んだ俺流自動車メーカー、マツダによる一世一代の賭けが!

まずは9月15日、予定通り新ラージ商品群第1弾たるミディアムSUV、新型CX-60が国内発売されました。3月の技術フォーラムに始まり、6月のプロトタイプ撮影会、9月の公道試乗会とすべてを追ってきた小沢としても感慨深いものがあります。

当初は4種類あるパワートレインのうち、国内ではメインユニットたる3.3リッター直6ディーゼルマイルドハイブリッドのみ、欧州では半電動のプラグインハイブリッド(PHEV)のみの発売。

販売データを見ると9月時点の国内受注は8726台で、10月末時点はなんと1万4000台! 同時期の欧州受注も1万9000台となんとも素晴らしい結果に。

発売2カ月前の6月時点での国内受注は約6400台。同時期の日産エクストレイルに比べてほぼ半分であり、「少なめ」という声も出ましたが、コロナの影響とマツダの企業規模を考えると上出来と言っていいと考えます。

そもそも過去の最高年間販売台数は161万台(2018年)のマツダ。スタートプライスこそ安いものの、マイルドハイブリッドが500万円を越えるプレミアムSUVにもかかわらず初期受注1万台突破は素晴らし過ぎます。想定外にブラボー! なスタートダッシュでしょう。

■「一世一代の賭け」と評する明確な理由

なにより今回小沢が一世一代の賭けと言うのには明確な理由があります。

ご存じここ10年の自動車界はCASE「Connected=コネクテッド、Autonomous=自動運転、Sharing=シェアリング、Electrification=電動化)革命真っただ中で特に電動化は進化が速い。

例えば意欲的な欧州プレミアムは「市場の環境が整えば」などの前置きはあるもののメルセデス・ベンツが2030年の完全EV化を宣言し、アウディやボルボも同様の計画を立てています。あとわずか7年後です。

日本でもレクサスが2035年、ホンダが2040年の100%電動化を宣言しましたし、なにより欧州委員会は2035年までの全新車のゼロエミッション化を決定。

今後改革案が緩められる可能性も無くはないですが政府レベルの判断はとんでもなく重い。

そんな中、今から新作6気筒エンジンを作り、ハンドリングや重量配分こそ向上しますが、エンジンがスペースを食うある意味非効率なFRレイアウト車を完全新規開発するなんて普通に考えるとナンセンス。時代に逆行しています。

皆がサッカーで騒いでいる時代に、日本古来の蹴鞠(けまり)に熱中し、ラーメン全盛時代に前衛的日本ソバ屋に賭けるようなもので、これぞ21世紀自動車界のドン・キホーテかつ逆張りなサムライメーカーと言えるでしょう。

■299万円と505万円に価格帯を二分する戦略

ボヤキはさておき、実車CX-60の出来がこれまた賛否両論です。

デザインは誤解を恐れずに言うならば同じFRレイアウトのBMW X3やメルセデス・ベンツGLCのマツダ版。

フロントの威風堂々感やロングノーズっぷりでは競合を上回っており、イマドキと言うより「21世紀の新古典」とも言うべきプレミアム風味。好きな人は好きですが人によっては時代遅れに見えるかも? という。

かたやインテリアは最初に出たディーゼルのXDハイブリッドは繊細かつリッチでイタリア車顔負けのタン色のスウェード内装(下左画像)か、日本の高級和装生地を応用したような淡いホワイト内装(下右画像)が選べて、まさにネオプレミアム! 特に後者は「欧米人がイメージする和の上質感」に満ち溢れています。

高級感あふれるインテリア
写真=筆者提供
高級感あふれるインテリア - 写真=筆者提供

同時にユニークなのがコストパフォーマンス戦略でこれまた小沢の予想を超える二刀流。価格表を見た時はあっと驚きの299万円スタートで一見激安戦略。ただしよく見ると極端に安いのは素の2.5リッター直4ガソリンモデルで内装もショボく、前述CX-60らしさが盛り込まれたXDハイブリッドはスタート価格505万円。

グレード展開を見ると500万円を境に、リーズナブルなお買い得ラインとハイブランドより安いもののリッチなプレミアムラインに二分されており、両者を内外装装飾でキッチリ作り分けているのです。

■ネットでは「CX-60」といえば「硬め」に

肝心の走りですがこれまた予想外。3.3リッターディーゼルターボは6気筒エンジンならではのネットリ回転フィールに加え、最大出力254ps&最大トルク550Nmの余裕のパワー。

かたや車内音や乗り心地はあえてディーゼルサウンドを聞かせ、しなやかかつ硬めの足回りで勝負しており、これまた賛否両論。ネットで「CX-60」「硬め」で検索するといくらでも意見が出てくるのでわかるはずです。

個人的には疲れにくく酔いにくい走り味は好みですが、初期は硬すぎる嫌いがあり、これは4000kmも走るとかなり熟れてくるというのでそちらに期待している次第です。

■逆張り戦略を行った必然

さて、商品のデザインや味付けの方向はともかく、なぜここまでマツダは振り切った、時代の流れに逆行するような戦略が採れたのでしょうか。それだけマツダの経営体質には余裕があるのでしょうか? いいえ。そんなことはありません。

そもそもマツダは2015年までフォードグループ傘下にいたメーカーであり、偶然リーマンショックにより解放された奇跡の独立系メーカーです。

今ではトヨタと技術提携し、株を持ち合っている関係とはいえ今後来るCASE革命に対し、遊んでいる余裕などないはずです。

というか逆に余裕がないからこそ、このような逆張り戦略に出たのだと思われます。

ご存じの通り、CASEの流れは止められません。世界的にCO2削減が叫ばれ、自動車の電動化、自動化を進めるにはお金と技術が必要です。それを見越してトヨタとの関係も結んだはずです。

しかしCASEの時代が来るということは、ある意味クルマのコモディティ化が進み、どれも似通ったテイストのクルマになる可能性があり、そうなると最終的には規模が大きいメーカーが生き残ります。

どれも似たようなクルマならば、安心感がある、大きな自動車ブランドの方がいい。具体的にはトヨタやフォルクスワーゲン、ルノー日産三菱アライアンス、もしくはステランティスグループのような存在でしょう。

また、安くて良いクルマ=コモディティ商品としての製品勝負となると、労働力の安いアジアが有利に決まっています。

つまり、日本といういわゆる先進国に属する100万〜200万台規模メーカーはどこかで必ず個性化勝負をしなければならない。具体的にはどこかの傘下に入り、別ブランドとして生き永らえるか、あるいは本当に独立したプレミアムブランドになるのか。いずれにせよ他にない味付けやデザインで勝負するしか生きるすべはない。

具体的には年間販売200万~300万台レベルで勝負できるメルセデス・ベンツやBMW、アウディのようなブランドビジネスにいかに近づけるかです。

この時代に直6ディーゼル車で勝負して販売好調なのは、まさに「ブラボー!」
写真=筆者提供
この時代に直6ディーゼル車で勝負して販売好調なのは、まさに「ブラボー!」 - 写真=筆者提供

■“マツダ風味”という強い個性

事実、今マツダはそちらの方向に向かっています。デザインはサイズの大小にかかわらずどのモデルを見ても似通っている一方、他にない美しさや質感、色合いで勝負しており、走り味やサウンドも個性的。

もちろん電動化する中で個性的な走り味を追究する方法もあるとは思いますが、素人的に考えてもかなり難しい。電動モーターの制御や電動サウンドで違いを生み出すこともできるとは思いますが調整幅は狭いでしょう。

しかし後10年チョイは残されていると目されるガソリンエンジンでありディーゼルエンジン。この消えゆく技術が消えぬ間に“マツダ風味”という強い個性を作り上げ、世間に認知させることはできるかもしれない。

いや、そうするしかない。そこで今回のCX-60であり、今後世界展開するCXー70、80、90の新ラージ商品群は生まれたと思うのです。

■世界シェア2%だからできた

そもそも小沢は2013年、今のスカイアクティブ戦略が始まった頃、当時の肝っ玉トップ、山内孝社長兼CEOを直撃しました。マツダはなぜこれほど思い切った戦略が採れたのかと。

そしたら当時の社長は言いました。

「グローバル2%だからこそ思い切ったことができるし、2%だからこそ他社と同じことはできないという面もあるんです」と。

2013年上海ショーの会場で遭遇した、マツダの山内孝(右、代表取締役会長 社長兼CEO=当時)と、「アテンザ」の開発などを担当した商品本部の梶山浩(左、主査=当時)
写真=筆者提供
2013年上海ショーの会場で遭遇した、マツダの山内孝(右、代表取締役会長 社長兼CEO=当時)と、「アテンザ」の開発などを担当した商品本部の梶山浩(左、主査=当時) - 写真=筆者提供

具体的には世界で160万~200万台しか狙わない。いたずらに数を追わずに質を追う、かつてない“マツダ流世界2%戦略”です。

80~90年代、マツダは漠然とトヨタになろうとしていたフシがあります。しかし今やその拡大路線は完全に消え、個性の戦略を愚直に進めてきています。今回のラージ商品群は単純にその結果であり、集大成なのです。

もちろん電動化は予想以上のペースで進んでおり、いろいろ心配は付きまとうと思います。しかしマツダの個性化&先鋭化もまた避けて通れない道であり、万が一、2040年以降もエンジン+α車マーケットが10〜20%ぐらい残っていたら、めっけもんじゃないですか?

そんな気もする今日この頃なのです。

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小沢 コージ(おざわ・こーじ)
バラエティ自動車評論家
1966(昭和41)年神奈川県生まれ。青山学院大学卒業後、本田技研工業に就職。退社後「NAVI」編集部を経て、フリーに。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。主な著書に『クルマ界のすごい12人』(新潮新書)、『車の運転が怖い人のためのドライブ上達読本』(宝島社)など。愛車はホンダN-BOX、キャンピングカーナッツRVなど。現在YouTube「KozziTV」も週3~4本配信中。

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(バラエティ自動車評論家 小沢 コージ)

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