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「このままでは世界に通用するアーティストは出てこない」Kポップに席巻される日本の音楽業界の"暗い未来"

プレジデントオンライン / 2022年12月30日 14時15分

2019年5月1日、ラスベガスのMGMグランドガーデンアリーナで開催された2019年ビルボード・ミュージック・アワードで、賞状を持ってプレスルームでポーズをとる韓国のアイドルグループBTS - 写真=AFP/時事通信フォト

韓国発の音楽「Kポップ」はなぜ人気なのか。批評家の佐々木敦さんは「海外で成功しようというモチベーションが高く、歌唱やダンス、ビジュアルのレベルが高い。日本と違って、パフォーマンス中の動画をファンがネットで拡散できることも、世界的な人気につながっている」という――。

※本稿は、佐々木敦『増補・決定版 ニッポンの音楽』(扶桑社)の一部を再編集したものです。

■2022年は「Kポップの当たり年」

今のニッポンの音楽というものを考える時に、どうしても比較対象として登場させざるを得ないのが、Kポップの存在です。実際、近年日本でのKポップ人気はものすごく、一大産業となって久しい(筆者自身が近年、急速にKポップにハマってしまった人間の一人です)。

彼ら・彼女らが「なぜこんなにも人気を博しているか」を検証することは、ニッポンの音楽の未来を考えた時に、非常に有益なことだと思います。

今年2022年は、「Kポップの当たり年」と言われていて、優れた新人アイドルがいくつもいくつも出てきています。そんな中の一つに、Kep1er(ケプラー)というグループがいます。

Kep1er は、「Girls Planet 999(ガールズプラネット999)」という、韓国のサバイバルオーディション番組をきっかけに2022年にデビューした9人のメンバーで構成されるグループです(なお、韓国には、こうした形式の番組が非常に多いです)。

先日、彼女たちが一発撮りのパフォーマンスを収録するネット番組「The First Take」に出たことで、「ただ可愛いだけじゃなくて、歌も超絶上手い」ということが大きな話題になりました。「The First Take」はSony Musicが制作しているので、基本的にはSonyの所属アーティストの出演がメインになります。Kep1erの日本でのリリース元もSony Musicです。

■もっとも勝利を収めたIVEもSony

あるいは、彼女たちよりももっと売れているIVE(アイヴ)というグループもいます。彼女たちは、2021年末にデビューしました。2022年もっとも勝利を収めた韓国ガールズグループはどのグループか? と問われれば、今のところIVEということになるだろう、というレベルで人気もクオリティも随一ですが、彼女たちの日本デビュー元も、やはりSony Musicでした。

このように、現在の日本の音楽業界は、Sony Musicの存在感が非常に強い状態になっていて、海外のアーティストが日本デビューしようと思ったら、ファーストチョイスはSony、という判断になることが多くなっています。

■「国内向け」の日本とはまったく真逆

Kポップは、グローバル展開を志向しているので、そもそも韓国国内だけで勝負しようとは思っていません。韓国には「4大事務所」と呼ばれる大手音楽事務所があり(SMエンターテインメント、YGエンターテインメント、JYPエンターテインメント、HYBE)、それぞれに大人気のアーティストやグループがいて、なおかつそれ以外の事務所でも、数多くのスターが登場してくる。つまり、韓国の音楽業界には健全な競争がある、ということです。

一方、日本の音楽業界では、すでにそうした競争は失われて久しい。そして、似たようなことが、音楽だけではなく、他の分野にも言えるのではないかと思います。

日本のコンテンツ・ビジネスの必勝法は、要は「国内向け」に特化する、ということだと思います。国内でとにかく勝つことだけを考える、外には出ていかない、という方式です。つまり、韓国とは考え方がまったく真逆なのです。

映画やドラマもそうですが、韓国は国内需要だけでは成立しないから、世界に出て行くしかない。そして実際の成功例もある。音楽ではBTSという圧倒的な成功モデルがあるので、グローバルグループに可能性があることは、実感を持ってわかっている。

一方、日本の場合は、なまじ国内での売り上げがそれなりに維持されてきたことから、海外デビューするというモチベーションがない。そのことが、おそらくこの後、真綿のようにして日本の音楽業界の首を締めていくことになるのではないか、と筆者は危惧しています。

■エイベックスの新たな挑戦「XG」

そんな中、Kポップ的なるものへの応接として、かつて小室哲哉や浜崎あゆみとともに一世を風靡(ふうび)したエイベックスの動きには注目しています。

エイベックスが「XG」という非常に斬新な女性アイドルグループを作り、注目を集めています。XGのメンバーは全員日本人ですが、彼女たちは英語でしか歌わず、かつ韓国でデビューしました。

エイベックスは日本全国各地にアーティスト養成学校のようなものを持っているので、そこでめぼしい子を集めて、選抜をする。まだ10代前半の子たちです。そして何人かに絞った後、韓国のプロデューサーに預けます。そして、韓国でKポップ流の訓練をする。そしてデビューを果たしました。曲は、現在まだ2曲しか出していませんが、どちらも完全に英詞の曲です。

■日本人でも世界的なグループを創造できる

つまり彼女たちは、フォーマットとしてはKポップなのですが、韓国語で歌うわけでも日本語で歌うわけでもなく英語で歌い、全員が日本人で、しかし韓国でデビューし、しかも現地のリスナーにも受け入れられたのです。それはやはり、メンバーの歌唱やダンス、そしてビジュアルのレベルが、Kポップとじゅうぶん張り合えるほど高いからです。

そもそも現在のKポップのグローバルグループには日本人メンバーも結構いるのですが、彼ら彼女らのレベルは非常に高い。だからこんな言い方も変かもしれませんが、日本人にだってKポップはやれるのです。

XGはひとつの実験としても、考え方としてもものすごく面白い。つまり、日本人でもKポップ的な、世界を見据えたグループを創造し得る、ということのひとつの証明になったからです。要は日本に、Kポップのような世界照準のコンテンツを育てたり、世に送り出したりするシステムがなかったのが問題だったのだ、ということを明らかにしたのがXGだったのです。

■日本のアイドルとKポップの決定的違い

Kポップに拮抗(きっこう)し得るかもしれない存在を日本で見出そうとすると、一番可能性を持っているのは「ハロー! プロジェクト」だと思います。ハロプロのモーニング娘。やアンジュルムなどのグループは、ポテンシャルとしては世界商品になり得るし、実際に海外ツアーもしていました。しかし、新型コロナウイルスの流行でそれらの活動ができなくなったことで、「外」に向けての模索は失速してしまいました。

日本のアイドルによく指摘される問題が、いわゆる「接触」です。つまり、握手会とチェキをやらないと商売が回らない。コロナでそうした営業活動ができなくなったことで、一時は危機的な状況になった。

もちろん、Kポップにもファンサービスの側面はあり、ファンミーティングなどは頻繁に行われています。ただ、日本との大きな違いがあります。握手会やチェキのような、あからさまな接触商売みたいなことはほとんどない。これは、韓国がそうしたことに対して倫理的に厳しい文化があるからです。

■「写真撮影OK」が人気を広げていく

また、これは筆者自身がKポップにハマって初めて知ったことですが、日本ではふつう、ライブやイヴェントで演者を勝手に撮ってはいけないというルールがあります。

しかし、Kポップでは、基本的にOKということになっている。そして、撮影したものをインターネットにアップすることも容認されている。それらは、いわゆる「ファンカム」と呼ばれ、事務所が上げる公式の動画より先に、ネットにどんどんアップされていきます。

コンサート中にステージをスマホで撮影する観客たち
写真=iStock.com/Drazen Zigic
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Drazen Zigic

これによって何が起きるのか。あるアイドルの同じステージのファンカムがネット上に溢れ、世界中の人がそれを見て、結果的にさらに人気が広がっていくという現象が起こる。これはジャニーズを筆頭に、肖像権で商売をしている日本とは、大きな違いです。日本でそんなことをすれば、即削除されて終わりです。

韓国は、そこをゆるめることで、接触商売のようなものに手を出さずして、ファンの取り込みに成功しているわけです。

■「僕だけの」ではなく「みんなで盛り上げる」

韓国のこうしたカルチャーを目にするにつけ感じるのは、ビジネスとして開放的でいいな、ということです。

日本的な囲い込み型の、いわば「僕だけの」を錯覚させるような形で、並んで個別に握手をする機会を設けるのではなく、全部見えている状態で、アイドルと交流する機会を作る。オープンでフェアだから、ファンもものすごく盛り上がるし、このグループのために何でもやってあげよう! みたいな気持ちにもなる。

その結果、ニューヨークのBTSファンたちが協力し合って、他に何の助力もなしにNYのタイムズ・スクエアに彼らの巨大なポスターを貼る、というサプライズを成し遂げた有名なエピソードなどが生まれるわけです。

日本は、内閉型、内部独占型のビジネスモードなのです。シェアをベースにした考え方はまだない。BiSHを擁するWACKのように、ステージの撮影をOKにしている一部の例外はありますが、まだまだ少数派です。

では、そこで考え得るのは、日本の音楽ビジネスも韓国的なやり方に振っていったほうが、延命、あるいは復活の可能性があるのか? という問いです。

■Kポップから学ぶ、日本の音楽の可能性

少なくとも、先ほどの話のように、「対ファン」というところでは、まだまだやれることが残されているように思うのです。例えば今、SNSや動画サイト──InstagramやTikTok、Youtubeといったツールが世界的に機能している現在、Kポップのアイドルたちは、いわゆる自撮りコンテンツに力を入れています。

内容としては、ライヴが終わった後にホテルに帰ってきて、自分で自分を撮ってファンに話しかける、といった内容ですが、これを楽しみにしているファンも多い。いわば、オフショット的なコンテンツとして機能しているわけです。

佐々木敦『増補・決定版 ニッポンの音楽』(扶桑社)
佐々木敦『増補・決定版 ニッポンの音楽』(扶桑社)

つまり、単純に音楽をやるだけではなくて、それと同時に、リアリティ番組みたいなことも自らできてしまう。もちろん、それで疲弊して、やめたり離脱したりということが一方で起こっているため、一概に全肯定はできません。

BTSも活動休止する時に、「Kポップのアイドルは人を成長させないシステムだ」という発言をしていて、光があるところにはやはり闇があるのか、と思うのと同時に、それをアジア発でこれだけ成功しているBTSに言われてしまったら、日本はどうしたらいいんだろう……と思ったりもするのですが。

いずれにせよ、SNSやYouTubeの使い方というのは、日本のエンタメ界隈の人たちももっと考えていけるはずだし、そこに少なからず可能性があることは間違いないと思うのです。つまり、「対ファン」というところで、まだまだやれることが残されているのではないか。

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佐々木 敦(ささき・あつし)
批評家
1964年、愛知県生まれ。広範な範囲で批評活動を行う。著書に、『ニッポンの思想』『ニッポンの音楽』『ニッポンの文学』(講談社現代新書)、『あなたは今、この文章を読んでいる。』(慶應義塾大学出版会)、『シチュエーションズ』(文藝春秋)、『未知との遭遇』(筑摩書房)、『これは小説ではない』(新潮社)、『批評王――終わりなき思考のレッスン』(工作舎)、『絶体絶命文芸時評』(書肆侃侃房)、『反=恋愛映画論──『花束みたいな恋をした』からホン・サンスまで』(Pヴァイン)、『映画よさようなら』(フィルムアート社)など多数。2020年、「批評家卒業」を宣言。同年3月、初の小説『半睡』を発表した。

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(批評家 佐々木 敦)

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