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「BEV化が進むほど中国の一人勝ちになる」EVかガソリン車か、2023年に起こる不都合な大問題

プレジデントオンライン / 2022年12月27日 10時15分

2022年10月17日、フランス・パリで開催されたパリモーターショー「モンディアル・ド・ロトモビル」で展示された中国の自動車ブランド「BYDオート」の「BYD SEAL」。 - 写真=EPA/時事通信フォト

世界的に自動車の急速なBEV(バッテリー電気自動車)化が進んでいる。一方で、資源高騰やエネルギー問題により、BEVの課題も見えてきた。自動車業界に詳しいマーケティング/ブランディングコンサルタントの山崎明さんは「潮目が変わった。来年以降の中国以外の地域でのBEV普及の伸びは鈍化するだろう」という──。

■上昇を続けるBEV価格

日産サクラとリーフの値上げが発表された。サクラはベースモデルで16万600円、最上位モデルで10万100円の値上げ。リーフは40kWhバッテリー搭載車で37万1800円、60kWhモデルではなんと102万8500円の値上げである。バッテリー搭載量が多いモデルのほうが値上げ幅が大きくなっている(サクラは20kWhバッテリー搭載)。

この2車に限らず、BEV(バッテリー電気自動車)の価格は軒並み上昇している。

テスラも、モデル3を中国生産に切り替えた2021年初頭には429万円で買えたのだが、その後小刻みな値上げを繰り返し、2022年12月現在では596万4000円にまでなっている。なんと2年弱で167万円の上昇である。

アメリカでも同様で、2019年に3万4990ドルから買えたモデル3が、現在では4万8190ドルである。約180万円の値上げだ。

フォードが2022年4月に約4万ドルで発売したBEVトラック「F-150ライトニング・プロ」はわずか半年後の10月に5万6000ドルに値上げになっている。約40%、220万円の値上げである。

「50万円EV」で話題となった中国で最も売れているBEV、宏光(ホンガン)ミニEVも発売当初の2万8800元から3万2800元(約64万円)と値上げになっている。

充電ステーションで充電中のEV2台
写真=iStock.com/Дмитрий Ларичев
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Дмитрий Ларичев

■リチウム需要が急騰

これらの値上げの主たる要因は、バッテリーのコストの大幅上昇である。

自動車メーカー各社がEVの大増産に取り組んでいるため、大量生産により製造コストは大きく下がっているはずなのだが、リチウムイオンバッテリーの製造に不可欠なリチウムの価格が今年に入って一気に高騰しているのだ。

2020年は1トンあたり4万元(中国元)を下回っていた価格が2021年前半には9万元に上がり、2022年5月には50万元、11月には60万元にまで上昇しているのだ。2年で15倍である。

リチウムは200年近い埋蔵量があり、枯渇(こかつ)の心配はないといわれていたが、今までのリチウムイオンバッテリーの需要はスマートフォンやPCなどが主体であり、EVが一気に普及するとなると話はまったく変わってくる。

■日産サクラ1台でスマホ約1800台分のバッテリー

スマートフォンのバッテリー容量は3000mAhx3.7V=11.1Whくらいであるが、軽自動車の日産サクラでも20kWhのバッテリーを搭載しているので、1台でスマホ約1800台分のバッテリーを搭載していることになる。

テスラ・モデルSならば100kWhのバッテリーを搭載しているので、スマホ約9000台分だ。

編集部註:初出時、スマートフォンのバッテリー容量の計算に誤りがあったため訂正しました。(12月28日10時28分追記)

2022年上半期のプラグイン車(BEVとPHEV)の販売台数は、前年比62%増の430万台に達している。これだけのリチウムイオンバッテリーの需要がここ数年で爆発的に増加したのだ。

■埋蔵は南米、生産は中国に偏重している

需要が増えたからといって生産はそう簡単には増やせない。リチウムが採れる場所は限られている。世界の推定埋蔵量はボリビア、アルゼンチン、チリといった南米諸国に偏在しているのだ。

しかし、南米のリチウムの多くは塩湖から潅水(かんすい)を汲み上げて水分を蒸発させる方式で生産しており、生産量を短期間で大幅に増やすことは物理的に難しい。塩湖周辺の環境破壊という問題も増産を難しくしている。

オーストラリアや中国では、リチウム鉱石からリチウムを取り出す方式で生産しているが、なんとその精製プロセスはほとんど中国で行われている。精製の過程で有害な廃棄物がたくさん出るため、環境規制が緩い中国に集中する結果になっている。

■ガソリン車とEVの価格差は広がる一方…

またどちらの方式でも生産に多くのエネルギーを要し、現状ではその燃料に化石燃料が使われている。EV化の目的はCO2の削減であるわけだから、その要であるバッテリーの製造に多くの化石燃料が使われるのでは本末転倒だ。

本来は製造のためのエネルギーもカーボンフリーないしカーボンニュートラルのエネルギーに置き換えなければならないが、そのためにかかるコストと時間はかなりのものになるはずだ。

このように、EVが増え続ける限りリチウムイオンバッテリーの価格は上昇基調を続けることになり、結果としてBEVの価格も上昇トレンドを続けることとなるだろう。

現状でもBEVの価格はガソリン車やハイブリッド車と比べてかなり高いので、その価格差はさらに拡大することとなる。

■補助金に支えられてきた販売台数の伸び

世界のBEV販売台数は現状伸びているが、その多くは中国で、BEV化を推進していた欧州ではその伸びは鈍化している。2022年1~10月のデータでは、中国のプラグイン車の販売は113%増なのに対し、ヨーロッパでは9%増にとどまっている。

2021年まで1台あたり9000ユーロ(約130万円)という巨額のBEV補助金を出していたドイツでは、2022年に補助金が6000ユーロに減額されたことも影響があるだろう。

ガソリンスタンドで給油中の車とユーロ紙幣
写真=iStock.com/deepblue4you
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/deepblue4you

補助金は2023年に4500ユーロ、2024年には3000ユーロに減額される予定だ。販売台数が増えてくると1台あたりの補助金の額も下げざるを得ないのだろう。

前述したとおり車両価格も上昇しているので、ユーザーのBEV購入へのハードルは高くなるばかりだ。そうなるとBEVの販売台数の伸びは大きく期待できないと考えられる。

■BEVの普及は「裕福な国」の夢物語

BEV化の目的はグローバルでのCO2削減のはずだ。裕福なヨーロッパでもその普及が遅れるのであれば、それ以外の地域、たとえばアジアやアフリカで高コストのBEVが普及する見込みはほとんどないと考えるのが自然ではないか。

さらに、BEV化は、単にBEVを売ればいいというわけではなく、充電インフラの整備、発電量の増大(しかも、カーボンフリー/カーボンニュートラル発電である必要がある)といった非常にコストのかかる社会インフラの整備も必要になってくる。

リッチで環境意識も高い一部ヨーロッパ諸国や、中央集権国家である中国では達成できるかもしれないが、それはグローバルで見れば一部であって、当面の間は多くの国で化石燃料に頼らざるを得ない状況が続く、と見るほうが自然ではないか。

■バッテリーは中国の独壇場

もう1つBEVには大きな問題がある。

ここ数年の中国におけるBEVの普及スピードはすさまじいが、これは国策として行っているからだ。中国はリチウムの産出国であり、世界の埋蔵量の10%弱を占めている。リチウム鉱山の開発も、中央集権国家である中国はほかの国より圧倒的に有利に進められるだろう。また前述したとおり、リチウム鉱石の精製は中国の独壇場である。

国策としてBEVに取り組んだ結果、今や世界のEV用リチウムイオンバッテリーのシェアの34%を中国・CATL社が占めるようになり、断トツのナンバー1メーカーとなっている。中国2位のBYDも12%で、10%のパナソニックを抜いている。中国メーカーを合計するとそのシェアは56%に達する。

CATLは中国メーカーだけでなく、世界の主要自動車メーカーにバッテリーを供給している。現在日本で売られているテスラのモデル3とモデルYのバッテリーはすべてCATL製で、日産アリアのバッテリーもCATL製だ。その価格競争力は圧倒的で、日欧米のメーカーは今から努力しても追いつくのは非常に困難な状態となってしまっている。

■世界最大のプラグイン車メーカーは中国・BYD

バッテリーだけでなく、中国におけるBEVの生産も勢いが増している。

2022年上半期、BYDのプラグイン車の生産台数は、前年比320%増というすさまじい伸びを見せている(データは前述のCleanTechnicaなどのサイトを参照)。テスラも46%増やしているが、BYDに一気に逆転され、今や世界最大のプラグイン車メーカーはBYDとなっている。

2022年10月の数字を見ると、BYDのプラグイン車の販売台数は21万7219台で、そのうち10万3157がBEVとなっており、BEVに限定してもテスラの8万221台を大きく超えている。

BYD製品の品質も短期間で見違えるほど向上しており、中国内ではテスラの商品力が相対的に低下して販売不調となり、バッテリー価格が上昇しているにもかかわらず、中国では10月に9%の値下げに踏み切らざるを得なくなっているほどだ。

BYDは日本をはじめ世界市場に進出を始めており、BEVとしての競争力はすでに非常に高いレベルにあると言っていい。

■BEV化を進めるほど中国が有利に…

このように、BEVの世界では中国がすでに圧倒的なポジションを築き上げている。日欧米メーカーは安くBEVを作ることが難しくなっており、高級BEV以外の普及価格帯のBEVは中国製に席巻されてもおかしくない状況である。

トヨタもBEVに関してはBYDと提携しており(せざるを得なくなっている)、先日中国で発売されたモデル(bZ3)はBYDとの共同開発車だ。BEV化を進めようとすればするほど中国に利することとなるのだ。

前述したとおり、BEVは当面の間価格が高くなることはあっても安くなることは期待薄である。安いBEVを買おうとすれば選択肢は中国車しかない、という状況も見え始めている。

このような状況の中、本当にBEVを普及させるのが正解なのか。

BEVを普及させる意味はCO2の削減である。しかし高価で使い勝手も悪いBEVを20%まで普及させたところでCO2の削減率は20%だ(生産の際に排出されるCO2を無視したとしても)。

グリーンでつくられた、持続可能な自動車のイメージ
写真=iStock.com/Petmal
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Petmal

■BEV1台分のバッテリーでハイブリッド車を80台作れる

一方、日本のメーカーが得意とするハイブリッド車はどうか。

プリウスに搭載されているリチウムイオンバッテリーの容量は0.75kWh程度とみられ、最近主流の60kWh級バッテリーを搭載するBEVの80分の1である。

つまり、BEV1台分のバッテリーでハイブリッド車を80台作れるのだ。コストも通常のガソリン車より若干増えるだけで済む。航続距離はガソリン車より長くなって使い勝手が向上し、インフラは今までのままでいいのだ。世界中どこであれ、BEVに比べて圧倒的に普及させやすい。

ハイブリッドにすることで燃費が半分になるとすれば、ハイブリッド車を100%普及させればCO2削減率は50%となる。トヨタがずっと主張しているのはこの点で、先日の新型プリウス発表会でもしっかり強調していた。

BEVが普及させられるところは普及させればいい。しかし、世界中の車をBEVにするのは当面の間不可能である。ではどうすればよいか。CO2を削減する方法論を多数用意するほうが、結局のところCO2の総量削減には貢献するのだ。

■目的と手段を取り違えるな

トヨタはインドネシアやインドなどで生産される新興国市場向けのモデル、イノーバにもハイブリッドモデルを追加するなど、グローバルなハイブリッド化にも取り組み始めている。

長期的な理想は全車BEV化であったとしても、現状では生産プロセスでガソリン車より多量のCO2を排出してしまうし、火力発電がメインの国(現状は多くの国がそうである)ではそもそもCO2削減効果が少ない。

中国という政治的要素も絡(から)む話なので、来年以降の中国以外の地域でのBEV普及の伸びは鈍化するだろう。

■日本が進むべき「道」とは

日本でも火力発電がメインな現状では中国に利することになってしまうBEVに補助金を出すのではなく、もっと多くの人がハイブリッドを選ぶようにするような施策をとるべきだと思う。

そのほうが当面のCO2削減に圧倒的に効果的だと思うからだ。

繰り返すが、目的はCO2排出量の削減であって、拙速なBEVの普及ではないのだ。

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山崎 明(やまざき・あきら)
マーケティング/ブランディングコンサルタント
1960年、東京・新橋生まれ。1984年慶應義塾大学経済学部卒業、同年電通入社。戦略プランナーとして30年以上にわたってトヨタ、レクサス、ソニー、BMW、MINIのマーケティング戦略やコミュニケーション戦略などに深く関わる。1988~89年、スイスのIMI(現IMD)のMBAコースに留学。フロンテッジ(ソニーと電通の合弁会社)出向を経て2017年独立。プライベートでは生粋の自動車マニアであり、保有した車は30台以上で、ドイツ車とフランス車が大半を占める。40代から子供の頃から憧れだったポルシェオーナーになり、911カレラ3.2からボクスターGTSまで保有した。しかしながら最近は、マツダのパワーに頼らずに運転の楽しさを追求する車作りに共感し、マツダオーナーに転じる。現在は最新のマツダ・ロードスターと旧型BMW 118dを愛用中。著書には『マツダがBMWを超える日』(講談社+α新書)がある。日本自動車ジャーナリスト協会会員。

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(マーケティング/ブランディングコンサルタント 山崎 明)

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