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夫婦、上司、部下……無意味な人間関係から「半分」降りる方法

プレジデントオンライン / 2022年12月22日 9時15分

鶴見 済氏(撮影=藤中一平)

「無意味な人間関係」ほど、自分の時間を奪うものはない。それでも、周囲との関係に疲れてしまう現代人は決して少なくない。『人間関係を半分降りる』著者の鶴見済さんに、苦手な人との付き合い方を聞いた。

■無意味な人間関係から遠ざかっていくこと

鶴見さんは1993年に刊行されたミリオンセラー『完全自殺マニュアル』の著者としても知られ、「生きづらさ」をテーマにした執筆活動を続けている。自身も20代の時期に大手メーカーや出版社などで勤務した経験から、人間関係の煩わしさには苦労してきたという。そうした経験から導かれたのは、「人間関係を半分降りる」という選択肢だった。

「人間には必ずどこか醜い部分があるものです。家族や友人、知人との関係も、世の中で言われているほど素晴らしいものとは限りません。だからこそ、無意味な人間関係からは心の距離だけでも遠ざけて、『人間関係から半分降りる』必要がある。そうすればもっと楽に生きられます」(鶴見さん、以下同)

毎日顔を合わせる会社の上司や先輩、家族との関係が自分にとって前向きなものではない場合、完全に逃れることはできないが、精神的に離れることは可能だという。

「大切なのは『心の距離』を置くということです。たとえ物理的な距離が近くても、互いが相手のことを心に思い浮かべる回数を極力減らしていけばいいのです。そうして気づいたら疎遠になっていたという状態を目指しましょう」

■正面から不満や不平を伝えるのは得策ではない

苦手な相手であっても、正面から不満や不平を伝えるのは得策ではないという。

「完全自殺マニュアル」と「人間関係を半分降りる」

「相手を『嫌う』という状態は、実は心の距離が非常に近いのです。嫌っている感情を表に出せば、相手もこちらを意識して強く反応する。そうなれば、心の距離はさらに近くなってしまいます。突然無視したり不満を言ったりするのではなく、挨拶や世間話程度は返しておくほうがいいでしょう。たとえ相手との関係が改善しなくても、心が離れてしまえば、問題は解決したのも同然なのです」

集団の中で孤立しないことも重要だ。

「仲間を増やせば、他者から攻撃される機会は格段に減ります。SNSにアップされている誰かの仲間との集合写真を見て、何となく『羨ましいな』と感じてしまう人は少なくないでしょう。仲間が多いということは、言い換えれば力が強いということなんです。なだらかに味方を増やすことは、人間関係を半分降りることと必ずしも矛盾しません」

日本社会では頑張ることが美徳とされがちだが、それは必ずしも正解とは限らない。

「『辞めてはいけない』と思い込んでしまうと、逃げ場所がなくなって余計に辛くなります。どうしても辛いときは辞めてもいいんだと開き直ることで、ぱっと心が解放されることもあるでしょう」

人間関係を半分降りることで、はたから見れば他者とのつながりは希薄になっているかもしれない。だが、そんなことはまったく気にする必要はないと説く。

「一般的には『孤独』というのは悪いもので、『友達がたくさんいるほうがいい』と思われがちですが、そんなこともありません。たとえ知り合いや友達が多くても、彼らから否定される関係であれば、それは決して幸福な状態ではありませんよね。自分を肯定してくれる人間関係を大事にすべきであり、否定も肯定もされない孤独な状態は、いわば無風の状態。必ずしも悪いものではないのです」

人間関係に悩んだり、人付き合いに振り回されている状態を脱すれば、自分時間は飛躍的に増える。

「私が勤務していたメーカーでは当時、新入社員は宴会で芸をすることが暗黙の了解として半ば義務付けられていました。社内行事の運動会をみんなで応援するなど、公私の枠を超えた一体感が求められていた。集団に合わせてばかりでは、時間もお金も持っていかれてしまいます。どこかで線を引く必要があるでしょう」

近年は、こうした全人格的な没入を求める働き方は減ってきている。

「基本的には良い流れだと思います。1990年代あたりから終身雇用を前提とした枠組みが崩れつつあるなか、プライベートの時間を区切らずに働く熱血主義的な会社文化の多くが消失しました。経営家族主義とも呼ばれますが、そのデメリットも見るべきです」

■現代の世にあふれている多くの美徳は幻想である

友達は多いほうがいい、適齢期になったら結婚すべき、結婚したら子どもを持つべき、家族は常に仲良くすべきといった旧来の社会常識に縛られている限り、苦悩から解放されることはなく、自分時間を増やすこともできない。

「日本の殺人事件の約半数は家族間で起きていて、なかでも多いのが夫婦間での殺人です。家族同士の仲が悪い状態であれば、みんなで食事をする必要もありません。私自身、高校生の頃からは家族であまり食卓を囲まなくなっていたので、トレーに食事を載せて自室で食べていました。クリスマスケーキも各自が切って部屋で食べました。それでいいのです」

互いに顔を合わせることで心の距離が近づき口論やもめごとが起きるぐらいなら、距離を取って平穏に暮らしたほうが賢明だろう。

「歴史を振り返れば、誰もが結婚する『皆婚社会』になったのは、高度成長が続いた戦後の一時期にすぎません。この時期の社会は、結婚しすぎだったのでしょう。江戸時代まで遡れば、結婚と離婚を繰り返したり、子供が産まれず養子を迎えて跡取りにするなど、『家族』の形態は今よりはるかに柔軟でした。今、我々が持っているような家族観は明治以降になってできた新しいものです。当事者同士で合意できているなら、男女一対一の関係にこだわる必要もないと思います」

愛情や愛着を抱く相手を異性に限定する必要はないし、さらに言えば、人間に限ることもないという。

「二次元空間のアニメキャラを愛したり、育てている植物に名前をつけて可愛がったり、ぬいぐるみを部屋に置いてリラックスするなんていうことも、広い意味で言えば家族同然の役割になる。恋愛もセックスも結婚も、したい人はすればいいし、したくない人はしなくていいのです」

無理して周囲に合わせる必要など、まったくない。人間関係に消耗することなく、自分の時間を大切にしたいものだ。

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鶴見 済
鶴見 済(つるみ・わたる)
1964年生まれ。東京大学文学部社会学科卒。93年『完全自殺マニュアル』が社会現象となり、累計で100万部超に。見知らぬ人同士のつながりの場「不適応者の居場所」を主宰している。

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西谷 格(にしたに・ただす)
フリーライター
1981年、神奈川県生まれ。早稲田大学社会科学部卒。地方新聞の記者を経て、フリーランスとして活動。2009年に上海に移住、2015年まで現地から中国の現状をレポートした。主な著書に『この手紙、とどけ! 106歳の日本人教師が88歳の台湾人生徒と再会するまで』『中国人は雑巾と布巾の区別ができない』『上海裏の歩き方』、訳書に『台湾レトロ建築案内』など。

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(フリーライター 西谷 格 撮影=藤中一平)

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