やる気は"スイッチ"ではなく"エンジン"だった…世界最先端の研究が導き出した「最初の5秒」の重要性
プレジデントオンライン / 2022年12月21日 9時15分
※本稿は、堀田秀吾『世界最先端の研究が導き出した、「すぐやる」超習慣』(クロスメディア・パブリッシング)の一部を再編集したものです。
■やる気が起こらないものすごくシンプルな理由
みなさんは、「やる気」と聞くと、どんなイメージを持ちますか?
“やる気スイッチ”といった言葉があるように、
●行動するモードになれば、動ける
そんなイメージを持つ方が、多いのではないでしょうか。
実際、「やる気」は、自分から動き出さなければ芽生えません。
ですが、自ら動き出す。これが厄介です。先ほど、“やる気スイッチ”と表現しましたが、ボタンを押せば動き出すように、簡単にやる気というのは起こるものでしょうか?
おそらくほとんどの人が、「違う」と異口同音に言うのではないでしょうか。
「そんな簡単なアクションでやる気が発動するなら、とっくに動き出している」と。
私もそう思います。やる気というのは、そんなに簡単なものではありません。
やる気が起こらない理由は、とてもシンプル。「やらないから動けない」んです。
そんなの当たり前じゃない? と思われるかもしれませんが、やらない限り脳のやる気を生み出す部位は働き出さないんですね。
電動自転車の電源ボタンを押しても、自転車は前に進みません。ペダルを踏み込んで初めて車体は動き出します。
電動自転車ですら一つのアクションで動き出すことができないように、スイッチ一つで勝手に進むような便利なものは、人間には備わっていません。
■最初の「5秒」やるだけで、すべてが変わる
簡単に脳のやる気モードをオンにしてくれる“スイッチ”なんてないのです。やる気は“スイッチ”ではなく“エンジン”。そう考えてください。
自動車のエンジンも最初は電気で無理矢理動かして始動させます。
昔の飛行機は、人力でプロペラをぐるぐる回して始動させていました。人間も同じ。
スイッチを入れるようにパッと始動するのではなく、無理矢理体を動かして、ようやくやる気が発動します。
こまだって、回さないと回りません。しかし、一度回れば、遠心力によって回り続けます。大事なのは、まず動き出すことです。
私は「最初の5秒、動くだけでいい」と言っています。
ソファーで寝っ転がっていたら、「よし!」と奮い立たせて「5秒」だけ行動してみる。
この動き出しが、やる気エンジンを始動させるポイントです。
しかし、たった「5秒」ですら体が言うことを聞かない、面倒くさいという人もいるはずです。やる気というのは、私たちが考えている以上に、とても厄介なのです。
この「5秒」を我慢して、やることに向き合い、行動を起こすと、脳のやる気のエンジンが動き出します。
勉強や仕事をしなければならないなら、机に座って参考書やパソコンを開く。掃除をしなければいけないなら、掃除機を持ち出し電源をONにする。
この行動をするために、なんとか「5秒」だけがんばりましょう。
■「自分は本能に打ち勝つ!」と思えるか
「やりたくない」という本能的な感情の脳(大脳辺縁系)の活動を抑えこんでくれる理性の脳(前頭葉)が働き出すまで5、6秒かかるといわれています。
「がんばりましょう」と精神論で訴えるのは気が引けるのですが、人間の本能に打ち勝つための「5秒」――。
そう考えると、何かとてつもなくすごいことだと感じますので、「この5秒で、自分は本能に打ち勝つ!」と考えるといいかもしれません。
想像してほしいのが、部屋の片づけやお風呂掃除です。とりあえず始めてみると、あれよあれよと「こんなに掃除するつもりなかったのに!」と感じてしまうくらいはかどったりしませんか?
脳には一度その行動を始めると、のめり込んでしまうという性質があります。この正体こそ「淡蒼球」という脳の部位です。
「淡蒼球」を刺激するには、体を動かして行動することが重要です。
そう、自らプロペラを回すしかないのです。
■意識より先に、体が動き始めている
しかし、一度回してしまえばこっちのもの。あとは、「淡蒼球」が“やる気エンジン”を活発化させてくれます。
自ら「回す」のが重要――。その理由は、まだあります。
みなさんは、思考と動作、どちらが先だと思いますか?
私たちの感覚では、「こうしよう!」と脳が考え、そして体に命令を出して動作が実現されると思いがちです。
そういう気持ちにならないから動き出すことができない。そう考えるかもしれません。しかし、そうではありません。
脳科学者や心理学者の間では、体の動きを感じて意識が働き出すという考えが、今では常識になっています。
たとえばジョギングを始めるとき、「走り出そうという意識」より先に、「体が動き始めている」のです。
脳は、頭がい骨という真っ暗な密室に閉じ込められていて、体の器官から送られてくる情報を頼りに自分の状況を判断します。
つまり、体が先、思考が後ということです。
にわかには信じにくいことかもしれませんが、カリフォルニア大学のリベットらが行った実験で、動作を行う準備のために脳に送られる信号が、動作を行う意識の信号よりも350ミリ秒も早いことが示されているように、数々の実証実験によって証明されている事実なんです。
![ノートパソコンで動画を見ながらプランクをしている男性](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/9/5/1200wm/img_956233ab6fab2b61e4a3e0e663082a46455651.jpg)
■行動を先に起こして脳をだます
体から「元気に動いている」という信号が脳に送られてくると、脳は「自分は今、元気なんだ」と判断し、だったら一層そうなるようにと、神経伝達物質(ドーパミンやアドレナリンなど)を送ろうとします。
スポーツの世界では、「ランナーズハイ」、「ゾーンに入る」といった言葉がありますが、そういった状態が生じるのは、体の動きに合わせて脳が考え、神経伝達物質を送り込んでいるからです。
脳は体から送られてくる情報をもとに自分の状態を判断する。
動作と意思の関係性は、次のように整理できます。
○ 身体が動いた→その意味は?→「ああ、そうか」と脳が意識する
ということは、無理にでも笑顔をつくると「私は今、楽しいんだな」と脳は判断して楽しくなってくるし、やる気がないときも無理にでも体を動かすと「お、エンジンがかかってるな、ガソリン(やる気)をどんどん送らなきゃ」となってくるわけです。
スマホをついつい見続けてしまうのは、スマホを見ていると脳が“スマホを見るモード”になっているからなんですね。
言葉を換えれば、行動を先に起こして脳をだますことによって、やる気というのはどんどん生まれてくるとも言えます。
そういう気持ちにならないから動けないのではなく、動いていないから「やろう!」という気持ちにならないのです。
やる気のエンジンである淡蒼球について、もう少し詳しく説明しておきましょう。脳の中には大脳基底核という場所があります。
「淡蒼球」はその中にあり、意思決定などに関わると考えられています。
■図書館やカフェに移動して勉強することの効果
先ほど、無理にでも体を動かすと「エンジンがかかってるな、ガソリン(やる気)をどんどん送らなきゃ」と書きました。
まさにやる気は、この淡蒼球から「モチベーション上がれ〜」という信号が送られることで促進されます。
興味深いことに、この淡蒼球が自分の意思で「信号出ろ〜!」「出てください〜!」と命令やお願いをしても、信号が出ることはありません。
脳科学の研究で著名な東京大学の池谷裕二教授によれば、淡蒼球を動かすには、
②いつもと違うことをする
③ご褒美を与える
④なりきる
この4つのアクションが重要だそうです。
たとえば、勉強の例で考えてみましょう。
①「体を動かす」は教科書を開いたり、ノートに書いたりしてみることです。本能に打ち勝つために「5秒」だけがんばって、とにかく向き合う状態をつくってみる。
②「いつもと違うことをする」は、自宅ではなく図書館やカフェに移動してみたり、音楽を聴きながら勉強してみたり、いつもとは違う順番で勉強してみたりする。
③「ご褒美を与える」は、「勉強が終わったら、動画コンテンツを見る」「テストが終わったら友人と買い物に出かける」とご褒美や特典を設定してみること。
④「なりきる」は、「自分はガリ勉!」と思い込む、という具合です。
まとめると、「やる気」を起こさせるには「体から情報を脳に送り、動力を生むエネルギーを送り出す淡蒼球を反応させる」。これに尽きます。
この2つの働きによって、電動自転車のアシストよろしく、どんどん「やる気」の推進力は生まれます。
■「自分を変える」と意気込まず、「周辺」を変えるだけでいい
他にも世界中の論文や研究を調べると、すぐやる! に変わる超習慣がわかってきました。
特に重要なのが、次の3つです。
①環境をつくる
②マイルールをつくる
③ルーティン化する
この3つが「やらなきゃいけない!」と頭ではわかっているのになかなかできない、「すぐやる」ための特効薬です。
「やる気」の問題を考えたとき、多くの人が「自分」を変えなきゃいけないと思い込むのですが、意思だけでどうにかなるものではありません。
自分ではなく、「環境」「ルール」「ルーティン」をテコ入れすれば、おのずと自分自身にも変化が訪れます。
![カフェでノートパソコンを使い仕事をしている男性](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/0/5/1200wm/img_053e6a55174b69fffbf722630ecc4b6c320986.jpg)
「自分を変える」と意気込まなくても大丈夫です!
むしろ、意気込むと負荷になりかねないので、プレッシャーにならない程度に、自分の「周辺」を変えていけばいいのです。
「割れ窓理論」という言葉があります。
ラトガース大学のケリングとハーバード大学のウィルソンが提唱した、「窓ガラスを割れたままにしておくと、その建物は管理されていないと思われ、ごみが捨てられ、次第に周辺地域の環境が悪化し、凶悪な犯罪が起こるようになる」という犯罪理論です。
![堀田秀吾『世界最先端の研究が導き出した、「すぐやる」超習慣』(クロスメディア・パブリッシング)](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/2/1/1200wm/img_21475c2f63a3e97344eedfb6cbf5762a181769.jpg)
軽犯罪を取り締まることが重要であると説いているわけですが、「割れ窓理論」のように、小さなことを一つ変えると、それに関連することも変わり、結果的に大きな変化をもたらすことは珍しいことではありません。
人の行動も似たところがあります。たとえば、話し方をゆっくりにすると所作もゆっくりになります。(ゆっくり話しながら所作を速くするのは難しいので試しにやってみてください!)
自分を変えて「やる気」を起こさせるのではなく、「5秒やる」ための小さな変化を起こすことが、あなたの「やる気」を生み、あなた自身を変えるのです。
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明治大学法学部教授
1968年、熊本県生まれ。シカゴ大学博士課程、ヨーク大学ロースクール修士課程修了、同博士課程単位取得満期退学。言語学博士。立命館大学准教授、明治大学准教授などを経て、2010年より現職。専門は司法におけるコミュニケーション分析。脳科学、言語学、法学、社会心理学などのさまざまな分野を横断した研究を展開している。『科学的に元気が出る方法集めました』(文響社)など著書多数。コメンテーターとしても活躍中で、メディア出演も多い。
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(明治大学法学部教授 堀田 秀吾)
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