1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. 社会
  4. 社会

「44回の露天風呂混浴」も「業務の一環」と主張…77歳の元中小企業庁長官を豪遊社長に変えた3つの理由

プレジデントオンライン / 2022年12月20日 15時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/tomophotography

■「業務の一環」でコンパニオンと混浴

「接待」の名のもとで会社の保養施設では女性コンパニオンと混浴三昧、業務と関連が疑わしい会食や宿泊はなんと6年半で253回、さらに「社長のたしなみ」として自分の親族と歌舞伎や相撲も経費で観戦して、「流行の情報収集」という名目で『黄昏流星群』や『浮浪雲』などの電子コミックまで爆買いする――。

東証プライムに上場もしている有名企業の77歳の経営者が、今時そんな“昭和的な豪遊”をしているのか、と驚いた方も多いのではないか。

2022年12月15日、エネルギー事業を中心に手がけるTOKAIホールディングス(本社・静岡市)が、同年9月に解任された鴇田勝彦前社長(現取締役)について、6年半の間で、少なくとも1100万円の不適切な経費使用があったとする調査報告書を公表した件だ。

TOKAIホールディングスの公式サイト
TOKAIホールディングスの公式サイト

報告書によると、2016年4月からの約6年間に、業務との関連に疑いがある会食や宿泊などで、少なくとも253件、計約1110万5000円の支出があった。このうち長野県内の社有施設では、44回にわたり女性出張コンパニオンを手配。報告書は鴇田氏らが「おおむね毎回、露天風呂で混浴を実施していた」と指摘している。しかも混浴は、取引先から「不適切ではないか」という指摘を受けてもなお、継続されていた。

鴇田氏はこうした指摘に対し、社長として適切な支出だと反論している。「女性出張コンパニオンとの混浴」に関しても、大切な取引先を接待するなど「業務の一環」だったと主張するなど、社長解任にも納得がいってないようだ。

調査報告書は「会社の保養施設における女性出張コンパニオンとの混浴」など、全体で105カ所に「混浴」という言葉が出てくる異例の内容となっている。

■「使い込み」にしか見えない豪遊・散財

ただ、一般庶民の常識に照らし合わせれば、これらの豪遊・散財は「経営者による会社の私物化」だと感じてしまう。このように、経営者本人的には「人脈づくり」や「社長のたしなみ」で使った多額の費用が、周囲の人間からは「使い込み」にしか見えない、というケースは実は企業では珍しくない

筆者も報道対策アドバイザーとして、経営陣の不適切な経費使用があった企業の取材対応などを手伝った経験があり、そこで実際に鴇田氏のような指摘を受けた人たちから直にお話を伺わせていただいた機会もある。

そこで気づいたのは、会社を「私物化」してしまいがちな経営者には、以下のような共通点があるということだ。

1.ワンマン経営者の「後継者」
2.周囲を萎縮させるような「権威」がある
3.トップになってから「好業績」を叩き出している

■昭和の経営者の凄まじい「公私混同」ぶり

まず、1の《ワンマン経営者の「後継者」》だとなぜ会社を私物化しがちなのかというと、「以前のあの酷いワンマン経営者よりもオレなんか全然マシなほうだろ」という感じで、どうしても前任者を基準として物事を考えてしまうので、経営者としての倫理観が低くなってしまうからだ。

年配の方ならばわかっていただけるだろうか、昭和のワンマン経営者の「公私混同」ぶりは今と比べものにならないほど凄まじかった。運転手付きの社用車を休日も乗り回すのは当たり前で、会社で購入した豪華な別荘やクルーザーに銀座のホステスや芸者を呼んで乱痴気騒ぎなんてことが日常茶飯事だった。

さて、そこで想像していただきたい。そういう昭和のワンマン経営者の豪快な遊び方を、30~40代の若手の時に近くで見てその「おこぼれ」をいただいたような人が、そのワンマン経営者の「後継者」になったらどうなるか。

■「これっぽっちの金」と悪びれない

「ああゆう古い体質は私の世代で完全に断ち切る」と決意するような立派な経営者もいるだろう。しかし、中には「昔みたいなことはできなくても、せっかく社長になったんだから少しくらいは……」と、前任者の振る舞いをスケールダウンさせて、個人的な飲食や遊興費を会社につけておくような“プチ豪遊”や、漫画や経費で購入するような“プチ使い込み”へ流れてしまう人もいるのではないか。

実際、筆者が会ったことがある「使いこみ社長」は、不適切な経費使用がバレた後も、取締役らが自分を追い出すための「策略」だと主張して、悪びれることもなくこんなことを言ってのけた。

「これっぽっちの金で大騒ぎをするような会社が成長できますか? 社長ってのは裏でいろいろな人間と付き合ったりしないといけないんです。昔の経営者はもっと山ほど金を使っていましたよ」

日本円札を保持している実業家
写真=iStock.com/bee32
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/bee32

人間は「教育」に左右される生き物だ。部活動で殴られながら一流選手になった人が、スポーツ指導者になればどうしても何かのきっかけで鉄拳制裁が出てしまう。頭では「今はもうそんな時代じゃない」と思いながらも、自分を強く鍛えてくれた「暴力」への誘惑が断ち切れないのだ。

それと同じで、ワンマン経営者の“私物化”ぶりを近くで見て育ったビジネスマンも、自分が経営者になった時に会社の私物化をしてしまう。「自分は前任者とは違う」と思いながらも、あのような傍若無人な振る舞いこそが、経営者には必要なのだ、という考えに囚われてしまうのだ。

■追い出した前任者と「同じ穴のムジナ」

この「ワンマン経営者の後継者」が陥りがちな“罠”に鴇田氏もハマっていた恐れがある。調査報告書によれば、鴇田氏の前任者は代表取締役社長として約30年にわたって君臨していたことから、「多くの役職員から、いわゆるワンマン社長として絶対的な存在と認識されていた」(調査報告書)という。2009年にそのワンマン社長に解任を要求した取締役の中に鴇田氏がおり、そのまま社長の座に就いたのである。

もちろん、鴇田氏はワンマン経営者に引導を渡した側なので、前任者を「反面教師」的に見ていた部分もあるだろう。ワンマンにならないように自制をしていたかもしれない。しかし、「前ほどひどいことをしなければ、多少の公私混同も許されるのでは」という「慢心」があった可能性もゼロではないだろう。

なぜかというと、残念ながら周囲の人々の目には、鴇田氏のことを前任者とそれほど変わらない「ワンマン経営者」と映っていたからだ。

■日産も「モノが言えない企業風土」だった

調査報告書によれば、多くの役職者が、鴇田氏のことを前任者の跡を継ぐ「絶対的な存在」だと認識していたという。つまり、この40年以上に及ぶワンマン体制が「モノが言えない企業風土」を形成したことで、多くの役職たちが、鴇田氏の不適切な経費使用を見て見ぬふりをしたというのだ。

カルロス・ゴーン氏
カルロス・ゴーン氏(写真=CC-BY-SA-2.0/Wikimedia Commons)

実はこれ、「ワンマン体制に慣れた会社あるある」だ。例えば、日産の元会長のカルロス・ゴーン氏は絶対的な独裁者として君臨し、会社を好き放題に私物化したと言われているが、なぜ逮捕されるまで、社内の側近たちがそれを諌めなかったのかというと、日産にもともと「トップにモノが言えない企業風土」があったからだ。

ゴーン氏がルノーから送り込まれる前から、石原俊氏などワンマン社長が君臨して、会長という立場になってからも絶大な影響力を誇っていた。こういう企業カルチャーが根付いていている会社で、トップの不正は告発できるわけがない。

そして、この「モノが言えない企業風土」をさらに悪化させるのが、2の《周囲を萎縮させるような「権威」がある》である。ただでさえワンマン社長の後継者としてモノが言いづらいところに、その経営者に「権威」が加われば、もはや誰も口出しができないアンタッチャブルな存在になってしまう。

■社内の人間は「上級国民様」の言いなりに

これに関しては、鴇田氏は非常にわかりやすい。東大法学部卒の通産官僚で、中小企業庁長官まで務めた。その後、石油公団の理事から2002年にTOKAIの「顧問」となり、そこから取締役となるという、「天下り」の見本のようなキャリアを歩んでいる。

TOKAIグループでは主に、ガス・電気というエネルギー事業や情報通信サービスを提供している。そんな経産省が所管する企業の人々が、新しく経営者の席に座った「上級国民様」に対して何かモノを言えることができるだろうか。

できるわけがない。鴇田氏が社長に就任した09年当時は、経産省幹部には鴇田氏の後輩や部下がゴロゴロいた。もし鴇田新社長の機嫌を損ねてしまうような「粗相」があれば、TOKAIグループ全体に不利益があるのではないかと考えた役職者も多くいたはずだ。

ちなみに、この「権威」というのは、「監督官庁からの天下り」に限った話ではない。例えば、ゴーン氏の「権威」というのは、「ルノーが経営再建のために送り込んだ」というものなので、やはりこちらも社内の人間は逆らえない。

土下座イラスト
写真=iStock.com/erhui1979
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/erhui1979

■エリートに「気後れ」してしまう高卒社員

また、中小企業の場合は「高学歴エリート」もこれに該当をする。以前相談を受けたある中小企業では、創業者一族の3代目社長が「視察」と称して海外旅行三昧で、カジノまでのめりこむことが問題になっていた。

この社長を増長させたのが、社内で誰もその振る舞いを注意しなかったからだ。もちろん、それは創業者一族ということもあるが、そこに加えてこの社長、海外の某有名大学を卒業後、誰もが認める世界的大企業に入社したという「エリート」だったことが大きい。

一度、この企業の経営幹部やプロパー社員たちに「いくら創業者一族とはいえ、あまりに目にあまる使い込みは注意すべきでは?」と提案したところ、「こちらのことをバカだと見下して話を聞いてくれないので、もう諦めた」というような返答が返ってきた。また、経営幹部やプロパー社員たちの中には高校卒業後、ここに就職をしたという人もいるので、エリート風を吹かせる社長に「気後れ」してしまうというのだ。

このように誰も諌める者がいなくて、「使い込み」に走る経営者をさらにエスカレートさせてしまうのが、3の《経営の舵取りをしてから「結果」を出している》である。

■「社長が稼いだカネを社長が使って何が悪い」

なんとも皮肉な話だが、経費を私的なことに使い込んだり、時代錯誤的な豪遊をする経営者というのは、業績的には「結果」を出しているケースが少なくない。

例えば、ゴーン氏もいろいろな批判はあるが、約2兆円の有利子負債を抱えて破綻寸前の状態に陥った日産をV字回復させたのは動かし難い事実だ。そして、今年9月に解任された鴇田氏もその8カ月前には、自身の経営手腕をこのように誇らしげに語っている。

「業績はこの10年間で売上高12%増、営業利益42%増となった。ここ3年間はいずれも過去最高を更新し、今期も同様の状況にある」(静岡新聞22年1月18日)

先ほど紹介した中小企業の3代目社長も、社員が「私物化」に対して不満を抱えていることを伝えたら、吐き捨てるようなこう言っていた。

「親父の代に比べて、会社をここまで大きくしたのは誰だと思っているんだよ、あいつら。何もしないで文句ばっかり言いやがって。社長が稼いだカネを社長が使って何が悪いんですかね。会社が成長するには必要なものでしょ」

■「結果も出すが、金遣いも荒い」経営者の末路

このように「結果も出すが、金遣いも荒い」という経営者は、株主がいないオーナー社長の中小企業などではかなり多いが、「昭和ノリ」が残る古い体質の大企業などでもたまに見かける。

そして、こういうトップはライバルが引きずり下ろそうとしても、業績不振などを理由に解任できないのでどうしても、「スキャンダル」を見つけて追い出すしかない。女性問題、ハラスメント、反社会勢力との関係、そして経費の使い込みなどの証拠を掴んで、取締役らがクーデターを仕掛けていくのだ。TOKAIの社長解任劇も同じような構図だった可能性もある。

今回ご紹介した3つの条件を満たしていても、「使い込み」などと無縁な清廉潔白な経営者も多いだろう。ただ、これまで問題になった人たちを見ると、こういう「傾向」があるのも事実だ。

皆さんがお勤めの会社の社長はどうか、ちょっとチェックしてみてはいかがだろうか。

----------

窪田 順生(くぼた・まさき)
ノンフィクションライター
1974年生。テレビ情報番組制作、週刊誌記者、新聞記者等を経て現職。報道対策アドバイザーとしても活動。数多くの広報コンサルティングや取材対応トレーニングを行っている。著書に『スピンドクター“モミ消しのプロ”が駆使する「情報操作」の技術』(講談社α文庫)、『14階段――検証 新潟少女9年2カ月監禁事件』(小学館)など。

----------

(ノンフィクションライター 窪田 順生)

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

デイリー: 参加する
ウィークリー: 参加する
マンスリー: 参加する
10秒滞在

記事にリアクションする

次の記事を探す

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください