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29歳の『silent』脚本家が「世界トレンド1位の涙腺崩壊ドラマ」でこだわったセオリー破りの手法

プレジデントオンライン / 2022年12月22日 10時15分

写真提供=フジテレビ

Twitterでたびたび世界トレンド1位を獲得するなど若者から圧倒的支持を集めているテレビドラマ『silent』(フジテレビ系)。TVerの再生回数が歴代記録を更新するなどすでに社会現象となっている。本作が連続ドラマデビュー作だという脚本家・生方美久氏に、巧みなストーリーテリングの秘訣や作劇のこだわりについて話を聞いた――(前編)。

■ヒットは意識せず、自分が見たいものを書いた

主人公の青羽紬(川口春奈)は、かつて高校時代に本気で愛した恋人・佐倉想(目黒蓮)に突然別れを告げられてしまう。8年後、現在の恋人・戸川湊斗(鈴鹿央士)と前向きに人生を歩もうとしていた彼女は、中途失聴者となり音のない世界でひっそりと生きていた想と再会を果たす……そんな切なくも温かいラブストーリーが話題となっているドラマ『silent』。

その人気の理由のひとつが、登場人物たちの細やかな心情を丁寧に描いた脚本の妙。脚本家は、なんと本作が連続ドラマデビュー作だという生方美久氏。回を追うごとにSNSで伏線の考察が盛り上がるその巧みなストーリーテリングの秘訣(ひけつ)や、作劇のこだわりについて話を聞いた。

――本作『silent』が連続ドラマデビュー作だという生方さん。まさに異例の大抜擢と大ヒットですが、今の率直な感想はいかがですか?

【生方美久(以下、生方)】日ごとに反響の大きさを感じていて、本当にありがたい限りです。ただ、連ドラは1話から最終話まで通してひとつの作品だと思っているので、まだ途中で評価されている気がして落ち着かないです。最終話のオンエアまでは終わった感じがしないので、今は視聴者のみなさんが最後まで見た感想を知るのが楽しみです。

――ご自身では、本作の大ヒット・大反響の理由をどう分析されていますか。

【生方】おそらくプロデューサーの村瀬健さん(以下、村瀬P)はヒットするための要素をいろいろ考えて、私を誘導してくれたんだと思いますが、私自身はそこまでヒットや話題性を意識していなくて。他のドラマのトレンドを取り入れようとかも考えていませんでしたし、いい意味で視聴率も気にしないようにしていました。

たくさんの人に見てもらうよりも、見てくれた人の満足度が高いものにしたいと思っていたので、シンプルに自分が見たいもの、書きたいものを書かせてもらった感じです。

■全体の構成は事前に決め込まない理由

――SNSでは伏線の考察が大変盛り上がるなど、緻密な脚本への称賛が集まっています。脚本家によって、登場人物の履歴書や人物相関図を作ったり、綿密なプロットを立てたりと書き方は人それぞれだと思いますが、生方さんはどのように脚本を書かれているのですか?

【生方】1話を書き始める前に、主な登場人物のプロフィールは全員分作りましたが、履歴書というほどちゃんとしたものでもなくて。そのキャラクターの性格を形成したであろう過去の出来事とかをざっくばらんに書いています。

相関図とかプロットは作っていません。いざ物語の中で登場人物が絡み出すと、当初考えていた設定から少し変わったり、プロフィールに書いていた要素を結局使わなかったりということが結構あって。実際に脚本に書くことで決まっていく感じですね。

――何話でこのエピソードを初めて明かそうとか、何話でこの回想シーンを入れようといった全体の構成を事前に立てたりはしていないんですか?

【生方】最初はざっくりと構成を立てていたんですが、書いていくうちにどんどん変わっていっちゃうんですよね。

全体の構成を考えても結局書いていくうちに変わるし、そこに無理に当てはめようとすると気持ちよく書けなくて。さすがに次の回の展開ぐらいは決めていましたが、3回先で何をやるとかは考えずに書いていましたね。

『silent』で連続ドラマデビューを果たした脚本家の生方美久氏。
撮影=齋藤葵
『silent』で連続ドラマデビューを果たした脚本家の生方美久氏。 - 撮影=齋藤葵

■説明ゼリフは極力入れたくない

――セリフに重層的な意味を持たせたり、情報を提示する順番、回想の入れ方なども緻密に計算されているように見えますが、生方さん自身は「そんなに伏線を作ろうとは考えてない」と発言されていますよね。

【生方】あまり伏線というつもりで書いていなくて。ここで起きた出来事を後で使えるなと思って取っておく、みたいな感覚はあります。あらかじめ回収するために伏線を張っておくというよりは、後から「これは伏線になるな」と拾うような感じです。

――あと4話では、ロッカールームでの想と湊斗のやりとりのシーンと、その後に起きる湊斗が紬に別れを告げるシーンの時系列が入れ替わっていました。そこで「何時間前」みたいなテロップを入れていちいち説明しないところにもセンスを感じました。

【生方】脚本上では、キャストの皆さんがわかりやすいように、すべての回想シーンに何年何月の話だというのは書いてあるんです。ただ1話の時点から、映像ではテロップとか入れなくても伝わるよね、という方針で一貫していました。

ロッカールームのシーンについても、回想だとわかるように同じ描写を少し前から繰り返した方がいいかな、という話もあったみたいなんです。でも、それまでのSNSなどでの反応から、視聴者のみなさんがじっくり見て理解してくださっていることがわかったので、説明的な描写はしないでスルッと回想に入るという編集になっていましたね。

――伏線の張り方にしても、回想の入れ方にしても、セリフに頼りすぎない映像的な演出が多いですよね。例えば6話で、桃野奈々(夏帆)がショーウィンドウのハンドバッグに憧れているシーンも、セリフでの説明はないのにほとんどの視聴者がその意味をちゃんと読み取っていました。

【生方】あまりにも伝わりにくいところは、村瀬Pや風間太樹監督をはじめとする演出の方が、本打ち(脚本家が、プロデューサーや監督と打ち合わせて脚本を直していく作業)で指摘してくれるので、そこは説明的になりすぎず、でも意味が伝わるような絶妙なラインを探りながら書いています。

それに風間監督は、このシーンはどういう心情で撮るのか、どういう意味で撮るのかをちゃんと相談してくださるんです。それが伝わるように演出をつけてくれる信頼があるので、いい意味で丸投げして書いているときがありますね(笑)。

ドラマ「silent」に出演の夏帆
写真提供=フジテレビ

――得てしてテレビドラマは、ながら見している人でも展開が伝わるように“わかりやすさ”が求められがちですが、本作は視聴者のこともきちんと信頼している印象を受けます。生方さんの脚本は、リアリティーのある自然な会話に定評がありますが、やはりそこは意識的にこだわっているのでしょうか?

【生方】私自身が、他のドラマを見ていて説明的なセリフがあると引っかかってしまうタイプなので、「わざわざ知っている情報をこんな言い方はしない」みたいなのは極力入れたくないと思っています。

ドラマでしか聞いたことのない言葉遣いや、世代に合わない言い回しを避けるようにはしていますが、何か具体的なこだわりがあるわけではありません。シンプルに、自分が耳で聞きたい、目で追いたいと思えるセリフを書いているだけです。

■言葉はコミュニケーションにおける“公式”にすぎない

――想が高校時代に書いた作文のテーマが「言葉はなんのためにあるのか?」だったことが象徴的ですが、説明的なセリフに頼らないことを含め、生方さんは言葉の不確かさや伝わらなさにとても自覚的な気がします。本作で「言葉」をどのようなものとして描こうとされたのでしょうか?

【生方】言葉そのものはコミュニケーションのツールでしかないと思っていて。例えば、数式を解くためには公式を知っていると解きやすいけど、知らなくても解ける場合があります。人と人とがわかりあうことを“数式を解く”ことにたとえるなら、言葉は公式でしかないと思うんです。

必ず必要なわけじゃないけど、覚えておくと便利。でも使い方を間違えると、答えにたどり着けなくて余計にやっかい。覚えて使うことよりも、証明するほうが面白いところも数学の公式に似ている気がします。『silent』は、登場人物たちが徐々にそのことに気づいていく話にしています。

■セオリーが嫌いで反骨精神が強い

――本作で脚本家としての才能を世に知らしめたと思いますが、ご自身の脚本家としての強みやオリジナリティーはどこにあると思いますか。

【生方】脚本家としてというよりも、私のただの性格なのですが、セオリーとされるものが嫌いで、反骨精神が強いところがあります。連ドラというのはこうするもの、ラブストーリーはこれが定石と言われると、そうしたくなくなります(笑)。

たとえそれが一般的に受け入れられないものでも、そこはプロデューサーや監督が本打ちでちゃんと軌道修正してくれるので、脚本を書く段階では、自分の「これはやりたくない」という感覚を極力大事にするようにしています。

――デビュー作がここまで話題になってしまうと、次回作や今後にプレッシャーを感じたりはしませんか?

【生方】いつまでも“『silent』の脚本家”って言われるんだろうな、みたいな怖さはありますけど、現時点では『silent』を書き始める前のプレッシャーのほうがハンパじゃなかったかもしれません。1本書き切れたことで、次からはもう少し気負いせずに自分がやりたいことを突き詰めていけるかな、というのが楽しみですね。(後編に続く)

『silent』の脚本家・生方美久氏
撮影=齋藤葵
『silent』の脚本家・生方美久氏 - 撮影=齋藤葵

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生方 美久(うぶかた・みく)
脚本家
1993年生まれ。群馬県出身。群馬大医学部保健学科卒業後、助産師に。独学で脚本を学び、2021年に『踊り場にて』で第33回「フジテレビヤングシナリオ大賞」受賞。2022年10月、『silent』で連続ドラマデビュー。主なコンクール作品に『グレー』(第47回城戸賞準入賞)、『ベランダから』(第46回城戸賞佳作)など。

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(脚本家 生方 美久 聞き手・構成=福田フクスケ)

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