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海外ドラマに興味なし…話題沸騰の『silent』の29歳脚本家が「地上波ドラマは面白い」と断言するワケ

プレジデントオンライン / 2022年12月22日 10時30分

最終話で紬(川口春奈)はどんな道を選ぶのか。 - 写真提供=フジテレビ

今年最大のヒットドラマとなった『silent』。本作が連続ドラマデビュー作だという脚本家・生方美久氏は、意外にも海外ドラマにはそれほど興味がなく、脚本を書く上でもとくに意識していないという。次代のテレビドラマを担う新鋭脚本家が日本の地上波ドラマにこだわる理由とは――(後編)。

■個々の背景をきちんと掘り下げる

――本作『silent』では、聴覚障害や手話が物語の大切な要素となっています。桃野奈々(夏帆)や佐倉想(目黒蓮)の姿を通して、ろう者と中途失聴者の抱える問題の違いや、それぞれのリアルな心情が描かれていましたが、どんなリサーチや勉強をされたんですか?

【生方美久(以下、生方)】もちろん自分で本を読んだり、ろう者の先生から学べる手話教室で手話を勉強したりはしたのですが、実際に脚本を書く上で参考になったのが、ろう者や中途失聴者の方が発信しているSNSやYouTubeでした。耳が聞こえないことで経験する生活の「あるある」みたいなものを投稿している方が結構いらっしゃって、それはすごく参考にさせていただきました。

――6話・7話では奈々と想の関係にスポットを当て、さらに8話では手話教室講師の春尾正輝(風間俊介)と奈々の過去を回想することで、聴覚障害者が直面する差別や不利益、健聴者の無自覚な優越意識や特権まで踏み込んで描いていました。障害をラブストーリーを盛り上げるための安易なツールにしないようにという意識はされていましたか?

【生方】そうですね。想が中途失聴者であることや、奈々がろう者であることは、決して青羽紬(川口春奈)の恋を盛り上げたり、誰かとの関係性を描いたりするための要素ではないので。個々のキャラクターが持っている背景をきちんと掘り下げるために必要なことを書いただけ、という感覚です。

■「#silent」でエゴサするのを途中でやめた

――オンエアで役者の演技を見てキャラクターが変わったり、視聴者からの反響を見て展開を変えたりしたところはありますか?

【生方】クランクインした最初の数日は撮影現場に行って、セットの雰囲気や、役者さんが演技しているのを実際に見せてもらってイメージを膨らませました。ただ、それによって具体的に何かキャラクターや関係性が変わったというわけではないですね。

視聴者のみなさんの反響はもちろん気になりますし、最初は「#silent」で検索をしていたんですが、自分が書きたいと決めたものを最後までブレずに書き切りたかったので、途中から「脱稿するまでエゴサはしない」と決めて、影響を受けないようにしていました。

――役者の演技や、映像の演出で、自分が意図していた以上のシーンになったなと感動したところはありますか?

【生方】ベタなところですが、やはり1話のラストシーン(想が久しぶりに再会した紬に手話で思いをまくし立てる場面)ですね。脚本上では想の母・律子(篠原涼子)や、戸川湊斗(鈴鹿央士)をカットバック(複数のシーンを交互に入れ込むこと)させていました。そうしないと長くて間伸びしてしまうかなと思っていたんです。

ところが、実際に編集してみたらここの2人の流れは一気に見せたほうがいいということになったようで。お芝居を見ると確かに納得で、映像的には緊張が途切れないように続けたほうがいいんだな、と勉強になりましたね。

■悪役が登場しないワケ

――他にも『silent』を書く上で、生方さんが密かにこだわっていたポイントがあれば教えてください。

【生方】根が悪いやつは登場させない、ということですね。悪役がいると物語を動かしやすくて便利なのですが、このドラマでは“いい人たちが集まっていても歪みは生じる”というリアルを描きたかったんです。

メインキャラはみんな優しくて他人思いで、自分の言動を悔やんで省みる人たちですが、そんないい人でも人間関係のことになるとちょっと間違えてしまうのが人間味です。見ていてその“間違い”にモヤモヤした方もいると思いますが、そのモヤモヤこそが人間関係のリアルだと思っていただきたいです。

『silent』で連続ドラマデビューを果たした脚本家の生方美久氏。
撮影=齋藤葵
『silent』で連続ドラマデビューを果たした脚本家の生方美久氏。 - 撮影=齋藤葵

■日本語ならではの言葉の美しさやあやうさに惹かれる

――『silent』は久々に社会現象となるほどのドラマになりましたが、近年はNetflixやAmazon Prime Videoなどのサブスクサービスを通じて、世界的にヒットしている海外ドラマとも競合しなくてはなりません。こうした配信コンテンツの存在を意識することはありますか?

【生方】実はあんまり意識していなくて……。配信コンテンツに勝とうとか、海外ドラマに劣らないものを作らなきゃ、みたいなことを考えたことがないんですよね。というのも、私自身が海外ドラマにそれほど興味がなくて、視聴者として普通に日本の地上波のテレビドラマが大好きなんですよ。

もちろん作り手としては、海外にも通用するコンテンツ作りとかを考えなきゃいけないんでしょうけど。私としては「日本のドラマ面白いじゃん」という感覚なんです。

――なるほど。では、海外ドラマに引けを取らない日本のドラマの良さや面白さはどんなところだと思いますか?

【生方】私の場合、演出や映像に関して日本のものが好きというよりも、日本語が好きということに尽きます。ドラマや映画の中に、日本語ならではの言葉の美しさやあやうさ、言葉遊びのできる面白さが盛り込まれていると、とても惹かれますね。だから、言語や文化が異なる時点で、海外の作品と比較したり優劣をつけたりするのは難しいです。

■地上波ドラマのアナログな楽しみ方

――日本のエンタメがかつてより力を失ったと言われることもありますが。

【生方】単純に、YouTubeもネトフリもインスタもなかった時代と比べると、エンタメが多様化したぶんみんながドラマや映画に割く時間が減っただけ、とも言えると思います。もちろんその多様化したなかでドラマや映画の存在感を回復させなくてはならないのだと思いますが……。

――テレビドラマの脚本家として、配信コンテンツなどに危機意識を感じることはありませんか?

【生方】テレビドラマの面白さって、配信で全話一気に見るのではなく、毎週同じ時間にみんなでチャンネルを合わせ、SNSや学校・職場で感想を言い合いながら次回まで一週間待たなきゃいけないところにあると思うんです。

今となってはアナログに感じるその特殊性こそが、地上波の連続ドラマの楽しみ方なので、この形式を続ける限りは「一週間が待ち遠しい」と思ってもらえるような内容にするしかないんじゃないかと思っています。

■最終回で紬と想はどうなる?

――最後になりますが、紬と想の関係だけでなく、登場人物全員の行く末を視聴者が固唾(かたず)をのんで見守っていると思います。果たして最終回はどうなるのか、見どころを教えていただけますか?

【生方】「登場人物みんなに幸せになってほしい」という感想をたくさんいただいて、とてもうれしく思っています。ただ、ドラマでも現実でもそうですが、幸せかどうかは本人が決めることです。みんなが幸せになったかどうかを判断するのではなく、それぞれの幸せがどんな形だったのかを見届ける気持ちで見ていただけたら幸いです。

『silent』脚本家の生方美久氏。
撮影=齋藤葵
『silent』脚本家の生方美久氏。 - 撮影=齋藤葵

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生方 美久(うぶかた・みく)
脚本家
1993年生まれ。群馬県出身。群馬大医学部保健学科卒業後、助産師に。独学で脚本を学び、2021年に『踊り場にて』で第33回「フジテレビヤングシナリオ大賞」受賞。2022年10月、『silent』で連続ドラマデビュー。主なコンクール作品に『グレー』(第47回城戸賞準入賞)、『ベランダから』(第46回城戸賞佳作)など。

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(脚本家 生方 美久 聞き手・構成=福田フクスケ)

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