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だから習近平への批判が収まらない…ゼロコロナを転換した中国が「社会崩壊」に突き進んでいる

プレジデントオンライン / 2022年12月21日 18時15分

トルコ・イスタンブールで行われたウイグル人に対する中国の人権侵害をめぐる抗議デモで、バラバラに引き裂かれた習近平国家主席の写真=2022年12月4日 - 写真=EPA/時事通信フォト

ゼロコロナ政策を転換した中国で、感染が拡大している。北京市を中心に新変異株「BF.7」に置き換わっているとの報道もある。現地の状況について、中国在住の日本人研究者が匿名を条件にインタビューに応じた。ジャーナリストの高口康太さんがリポートする――。

■「ゼロコロナ政策」を急転換したが…

中国に“異変”が起きている。新型コロナに対する徹底した検査と隔離を柱とする厳しい対策、いわゆる「ゼロコロナ政策」を続けてきたが、11月末にゼロコロナ政策に対する抗議活動「白紙革命」が起きた後、突如対策を大きく転換。事実上、コロナ封じ込めを放棄しているのだ。

その結果、北京市など一部地域では爆発的に感染が拡大。PCR検査を縮小したこともあって公式統計での感染者数は減っているが、実際には信じられないペースで感染が拡大しているとみられる。

中国で起きている「本当の現実」を探るため、筆者は中国の有名大学に勤務する日本人研究者のX氏に問い合わせた。理系研究者であるX氏は、中国の新型コロナウイルスの状況に詳しく、これまで筆者は何度もレクチャーを受けてきた。今回、初めてインタビュー形式で記事化することになった。

ただし、X氏の氏名を明かすことはできない。中国では専門家がコロナについて発言することは政治的なリスクがある。湖北省武漢市の医師・李文亮は2019年末、未知のコロナウイルスが確認された問題について、知人の医師とチャットで意見交換したところ、「虚偽の情報をインターネットに掲載した」として訓戒処分を受けたことはよく知られている。

その後も、ゼロコロナ対策から転換の必要性があると示唆した上海の張文宏医師が、ネット世論からの猛烈なバッシングにさらされた騒ぎもあった。

実名で取材に答えることはリスクがあまりにも高いとのことで、今回は匿名インタビューとなったことをご了承いただきたい。

■「コロナぐらいで仕事を休むな! 仕事しろ」という風潮

――毎日PCR検査をしなきゃいけないとか中国コロナ対策に関する愚痴はうかがってきましたが、コロナ対策の緩和後は一転して、どこでコロナに感染するかわからなくて恐いという話に変わりましたね。

私の家族も感染しました。私が感染するのも時間の問題でしょう。大学もそうですし、街中にも「コロナぐらいで仕事を休むな! 仕事しろ」と言う風潮が蔓延していまして。感染者がいたるところを歩き回っている状況です。コロナは風邪、弱毒化したからインフルエンザよりも恐くないという話になっているのですが、「いや、インフルエンザでも家で寝るのがマナー」と思うのが普通でしょう。

――コロナの可能性が1%でもあるやつは全部隔離施設に放り込むという対策から、すさまじい方向転換ですね。中国政府はなぜいきなりの政策転換に踏み切ったのでしょう?

「経済への打撃」「市民の不満の高まり」、「ウイルスの変異」という複数の要因が重なった結果とみています。なにかが一つが決め手ではなく、複数の要因が複合した結果です。麻雀でいう数え役満といいますか。

■いままでの緩和政策とは“本気度”が違う

――経済への打撃については、米紙ウォールストリートジャーナルは大手EMS(電子機器受託製造)企業フォックスコンの創業者テリー・ゴウが、iPhone組み立てを担う河南省鄭州市工場での感染拡大を受けて「このままではやばい」と中国共産党指導部に書簡を送ったことが対策緩和の要因になったと報じています。一方で「白紙革命」に象徴される市民の不満が政策転換の要因になったとの見方も。

トゥチェンにあるフォックスコン・テクノロジー・グループ本社
写真=iStock.com/Images_By_Kenny
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Images_By_Kenny

フォックスコン工場の混乱が報じられた後、11月11日に20カ条の緩和策が発表されました。ただ、笛吹けども踊らずというか、実態はほとんど変わらなかったのです。むしろ緩和策を受けてPCR検査場を削減した結果、残った場所に人が殺到して大混乱、仕方なく検査場の数を再拡大といったチグハグな結果で終わりました。

白紙革命後の転換はまったく異なります。発表された緩和策がちゃんと実行されているからです。その意味では抗議活動の影響が大きかったのではないか、と。

社会の雰囲気が緩かった胡錦濤政権時代と比べると、今の学生たちは政治的な発言に消極的と言われます。私の学生たちを見ていても確かに「おとなしい」。そうした学生たちが声を上げたことには驚きましたし、ゼロコロナ転換という結果をもたらした意義は大きいと感じています。今後の中国社会に少なからぬ影響を残すのではないでしょうか。

■新たな変異株「BF.7」の影響も大きい

――人々が声をあげたことが大きかった、と。もう一つ、「ウイルスの変異」も要因にあげていましたが? これまで聞かなかったトピックです。

今、中国でもっとも感染が拡大しているのは北京市でしょう。対策緩和が感染者増加の要因になっていることは確かでしょうが、厳格なゼロコロナ対策を実施している段階でも感染者増加が続いていました。

コロナウイルスCovid-19新しい変異変異。居心地の良いパンデミック、3Dイラスト
写真=iStock.com/NiseriN
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/NiseriN

さきほど話した20カ条の緩和策を受けて、北京はPCR検査の回数を減らしていたので、統計以上に感染者は増えていた可能性も指摘されています。なぜ、ここまで一気に感染が増えたのか。実は北京市で流行している新型コロナは、オミクロン株の中でも新たに変異したBF.7であることが判明しています。

――北京日報は11月28日、北京佑安医院感染総合科主任医師の李侗(リー・トン)のコメントを報じています。BF.7はオミクロンからの派生ではもっとも伝染性が高く、また潜伏期間が短い。封じ込めはきわめて困難とコメントしています。

その後、北京CDC(疾病予防管理センター)もBF.7が主流であることを認めています。もっとも11月20日に北京市朝陽区に外出制限がしかれましたが、この時点でBF.7による感染爆発との噂が取り沙汰されていました。当局がこれを事実と認めるまでにはタイムラグがあり、大きく取りあげず隠蔽(いんぺい)しようとしていたふしがあります。

BF.7は、従来のBA.5よりも感染力が強いのが特徴です。今春の上海ロックダウンはBA.5の流行を受けてのものですが、封じ込めには2カ月以上もの時間がかかり、経済的社会的に大きなダメージをもたらしました。北京をロックダウンしてBF.7の流行を食い止めるにはさらに長期のロックダウンが必要になると思われます。

新たなウイルスも、これ以上のゼロコロナ継続は無理と判断した背景にあると考えられます。

■当初は「ゼロコロナ政策」も大成功していたが…

――BF.7は日本にも入ってきたばかりのようですが、それほど感染力が高いとなると不安になりますね。もっとも上海ロックダウン以後の中国の状況を見るに、BA.5の時点でゼロコロナは無理だったのでは?

中国は2020年1月からゼロコロナ対策を始めましたが、当初は大成功しました。2020年4月から1年あまりの期間はまさに「ゼロコロナ」であり、多くの人にとって検査も隔離も無縁でウケが良かったのです。コロナで疲弊する世界を尻目に、中国政府は「西側諸国に対する中国の体制の優越性」とアピールしていました。

この成功体験が足かせになった側面は否めません。ウイルスが変異し感染力が高まり、今までと同じやり方では通用しなくなったのに、やり方を変えられなかった。台湾や香港のように、オミクロン株が流行した今年の頭の時点でゼロコロナから脱却するのが正解だったのでしょうが。

■専門家の間でも「ゼロコロナ批判」はご法度だった

しかし、政府はゼロコロナに固執し、専門家も「脱ゼロコロナ」を言ってはならないとの空気感が広がっていました。中国ゼロコロナ対策を主導した「英雄」として知られる、専門家の鍾南山ですら、ゼロコロナ解除の条件について言及すると、おまえはゼロコロナ批判かと叩かれて弁明に追われる始末です。いまの対策を続けることはできないとの発進を続けた専門家は、上海市のコロナ対策ブレーンである張文宏医師などごく少数に限られていました。

上海医療専門家チームのリーダーであり、復旦大学附属華山医院感染症科の部長である張文宏氏(写真=CC-BY-3.0/Wikimedia Commons)
上海医療専門家チームのリーダーであり、復旦大学附属華山医院感染症科の部長である張文宏氏(写真=CC-BY-3.0/Wikimedia Commons)

――日本でも専門家批判はありましたが、中国はまた別の形で専門家が追い詰められていた、と。さて、中国式ゼロコロナというと、信じられない数のPCR検査を連発して感染者を一人残らずあぶりだすという手法、感染者も濃厚接触者もさらには濃厚接触者の濃厚接触者まですべて隔離施設に放り込むという荒技で知られていますが、他にも特徴はあるのでしょうか?

中医薬(伝統中国医学の薬品)の重視が挙げられます。コロナ対策緩和を受け、中国政府は感染者向けの推奨医薬品リストを発表しています。最新版には108種類の薬品が掲載されていますが、うち67種類は中医薬です。

特に有名なのが蓮花清瘟という薬です。上海ロックダウンでは全世帯に配布されるなど、膨大な数が無料でばらまかれてきました。

私も以前大学から支給されました。我が家にも大量のストックがあります。

■中医薬が重視されたが「重症防止の効果なし」

――SARS対策として2004年に作られた薬ですよね。なんかそれ以後、新型インフルエンザなど感染病が起きるたびにひっぱりだされてくるという……。SARSにも新型インフルエンザにも、新型コロナウイルスにも効くっていうのは不思議ですが。

中国国内でも意味があるのか、税金のムダ遣いではとの批判する声があがりました。そこでようやく臨床試験が行われましたが、重症化防止の効果は確認できないことが明らかになっています。熱やせき、倦怠感からの回復が少し早まるという効果はあったそうですが。

とても信用できないので、無料で配られても使うつもりはありません。

■中国国内でもmRNAワクチンを開発しているが…

――2600万人の上海市民に無料配布した薬が効果なしというのはなかなかショッキングですね……。

もう一つ、mRNAワクチンの認可に消極的だったことも大きな問題でした。中国国産ワクチンは早期に開発が完了し接種されてきましたが、世界的に主流になっているmRNAワクチンと比較すると効果は落ちます。

メッセンジャー リボ核酸
写真=iStock.com/niphon
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/niphon

――なぜ消極的だったのでしょうか? 英紙フィナンシャルタイムズは、中国政府はモデルナのワクチン輸入の条件として技術移転を求めたため交渉が決裂したと報じています。外国に依存するのを避けたかったということでしょうか?

実は中国にもmRNAワクチンを開発している企業は複数あり、海外で認可されたワクチンも存在します。ところが中国国内では一向に認可されないままです。「海外のmRNAワクチンは高熱などの副反応が出る。中国の国産不活性化ワクチンならその心配はない」と、むしろmRNAワクチンよりも良いのだと宣伝してきたほどです。

「mRNAワクチンは不要、今の不活化ワクチンでいいんだ!」という宣伝に、中国政府自身ががんじがらめになって、自分で自分のクビを絞める結果になったのだと推測しています。

■政策の急転換で感染者が爆発する恐れも

――感染者数が激増しているとみられる中国ですが、今後どうなるのでしょう?

BF.7が広がっていること、またこれまで感染者がほとんどいなかったため自然免疫を獲得している比率がほぼゼロであることから、急激な感染拡大は防げないでしょう。

また、「オミクロンはほとんどが無症状、怖くない」と、政府や専門家が積極的に情報発信するようになった影響もあります。パニックを避けるためなのでしょうが、これまではコロナは恐い、対策を緩和するとバタバタ人が死ぬと言っていたのにいきなりの手のひら返しです。

こうしたメッセージは地方ごとに濃淡があり、中央政府のお膝元である北京市では特に「どれだけ感染者が増えても日常生活を続けましょう」という強いメッセージが出ているように思われます。

その結果、コロナに感染しているのに出勤する人が続出していると聞いています。他国と比べても極端な状況で、これでは感染が急拡大しても不思議ではありません。今まで「コロナ恐い、コロナ恐い」を連呼していた御用医師たちが「コロナは風邪、心配なし」と言う一方で、「いつまでもゼロコロナは続けられない」と発言していた張文宏医師が「とはいっても正しく恐れないとダメですよ」と釘を刺すという逆転現象が起きています。忖度(そんたく)しないで発言している張医師はさすがです。

■依然として低いワクチン接種率

――私の知人も「コロナにかかったけど、仕事たまってるから出勤してくるわー」と言っていてあぜんとしました。ネットに出回ってる情報だと感染しても出勤している人が多いと聞きます。大流行待ったなしの状況ですが、少しでも被害を抑えるためにはどうすればいいのでしょう?

ワクチンの接種推進がもっとも重要です。mRNAワクチンに比べると、中国国産不活化ワクチンの効果は限定的ですが、それでも打たないよりは断然いい。香港の医療統計によると、ワクチン未接種の場合の死亡率が2.45%に対し、中国不活化ワクチンを3回接種した場合には0.1%にまで減少しています。mRNAワクチンの3回接種では死亡率0.02%と差はありますが、未接種と比べると雲泥の差です。

COVID-19ワクチンボトルと中国国旗の背景
写真=iStock.com/simon2579
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/simon2579

上海ロックダウン時の死者も、95%がワクチン未接種だったことがわかっています。問題は高齢者のワクチン接種率は低いことにあります。80歳以上の高齢者で3回接種完了はわずか40%程度で、日本の90%超と比べるときわめて低水準です。

中国政府は来年1月末までに高齢者のワクチン3回接種率を90%以上にまで引き上げるとの目標を打ち出しました。今まではワクチンは恐いと接種を嫌がっていた高齢者も感染爆発を受けて考えを変えた人が多いようです。とはいえ、感染爆発で外出するのも恐ろしい、医療リソースも感染者の治療に割かれるという状況下で、目標達成は難しいと予想していますが。

来年1月22日が旧正月です。ゼロコロナ対策転換を受けて、今年は自由に帰省していいという方針になっています。2020年、2021年はコロナのために帰省をあきらめた人が多かったのですが、今年は民族大移動が復活する可能性が高い。となると、感染者の増加にもつながります。ですから旧正月までに少しでもワクチン接種率を引き上げておくことは必要でしょう。

■「オミクロンは怖くない」と喧伝していたが…

――旧正月帰省のすし詰めの列車とか、感染超爆発間違いなしですね。本当に今年は帰省ラッシュが起きるのでしょうか。それまでに再度、感染対策強化に方針転換もありそうな気がします。

もう一つ、「感染の波をコントロールする」というバランス感覚も必要ですよね。最終的に人口の大部分が感染するにせよ1回あたりのピークはなるべく低くすることで、医療崩壊を防ぐというものです。

――日本でもおなじみの話ですね。

日本をはじめ、各国がこの3年間に何度も何度も経験してきたことなのですが、ここまでゼロコロナでやってきた中国にはその経験がまったくないという……。中国政府や専門家は「オミクロンは怖くない」と盛んに喧伝し、急速な感染爆発やむなしという姿勢です。

■日本企業の経営にも影響が出るおそれがある

となると、感染の波がコントロールされることなく、ごく短期間に人口のほとんどが一気に感染することになるんでしょうね。医療崩壊が起きますし、高齢者のワクチン接種を進めるための時間稼ぎもできない。あまり楽観視できません。

――行動制限とかロックダウンとかって医療崩壊しないための時間稼ぎだって日本では散々説明されてきたじゃないですか。で、3年間もゼロコロナを続けて時間を稼ぎまくってきた中国が、ここにきて時間が足りない、一気に感染して医療崩壊やむなしってなっているのはなんとも不思議と言うか、残念というか。

「中国のコロナ禍は2022年12月にようやく始まった」ということなのでしょうね。感染者の増加によって工場や物流が止まり日本企業の経営にも影響が出る……という展開になると予想しています。

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高口 康太(たかぐち・こうた)
ジャーナリスト/千葉大学客員准教授
1976年生まれ。千葉県出身。千葉大学人文社会科学研究科博士課程単位取得退学。中国経済、中国企業、在日中国人社会を中心に『週刊ダイヤモンド』『Wedge』『ニューズウィーク日本版』「NewsPicks」などのメディアに寄稿している。著書に『なぜ、習近平は激怒したのか』(祥伝社新書)、『現代中国経営者列伝』(星海社新書)、編著に『中国S級B級論』(さくら舎)、共著に『幸福な監視国家・中国』(NHK出版新書)『プロトタイプシティ 深圳と世界的イノベーション』(KADOKAWA)などがある。

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(ジャーナリスト/千葉大学客員准教授 高口 康太)

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