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マスク生活で口周りの筋肉が衰える人が増加…「顔のたるみ」という美容面だけではない意外なリスク

プレジデントオンライン / 2022年12月26日 14時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/FotoDuets

コロナ禍でマスク生活が当たり前になったことで、口を開けて口だけで呼吸する「口呼吸」の人が増えているという。産業医の池井佑丞さんは「口呼吸だと顔の筋肉が衰えてたるみにつながりやすいほか、感染症にかかりやすくなったり、免疫異常や免疫低下を引き起こして潰瘍性大腸炎などにつながる可能性もある」という――。

■マスク生活で口呼吸が増えている

最近、口呼吸の人が増えていると言われています。その要因として、ここ数年ですっかりマスク生活が当たり前となったことが影響している可能性が指摘されています。

人の呼吸は鼻呼吸が基本です。通常は鼻から呼吸しますが、運動中など短時間に大量の酸素を必要とする場合には、鼻と口両方から酸素を取り入れるようになります。一方、常に口から息を吸ったり吐いたりすることを口呼吸と言います。

1日のほとんどをマスク着用で過ごすようになり、口元の緊張感が緩みがちになったり、人に表情を見られることが減って、以前に比べて表情筋を動かさなくなったりしている方が増えています。さらに、ご自身や周りの人の口もとが目に入ることもあまりないため、口呼吸を自覚したり、人から指摘されたりする機会も減っていると考えられます。

口呼吸になる原因としては、鼻詰まりで鼻呼吸がしづらいケースや、歯並びや骨格に問題があり口を閉じていられないケース、口周りの筋肉が衰えて口が開いてしまうケースなどが挙げられます。昨今のマスク生活により特に注意が必要なのは、口周りの筋肉の衰えのケースです。

口呼吸になりやすい状況についてもう少しご説明します。表情筋を動かさなくなっていると言いましたが、全身の筋肉同様、顔の筋肉も意識的に動かさないと衰えてしまいます。口周りの筋肉も例外ではありません。

対面のコミュニケーションが減ったことや、マスクで顔を隠していることの影響で、表情筋を動かす機会が減っていることに加え、ポカンと口を開けていても自覚しにくくなっています。また、マスクをしていると呼吸する時に気道の抵抗が増えるので、息苦しさを感じやすくなることも指摘されています。これらの要素が重なることで、口呼吸になりやすいと考えられています。

口呼吸では、口を閉じるのに使われる口輪筋をはじめとした口周りの表情筋が緩んだ状態になり、慢性化すれば表情筋の衰えは助長されます。こうして顔のたるみなどにつながる悪循環に陥りますが、口呼吸がもたらす影響は審美的観点だけにはとどまりません。口呼吸が、全身の健康を損なう可能性もあるのです。

■ウイルスや細菌をそのまま取り込んでしまう

鼻呼吸と口呼吸との違いは、単に息が出入りする場所が違うだけではありません。鼻から取り込まれた外気と口から取り込まれた外気とでは、大きな違いがあります。

鼻の粘膜にはフィルターのような作用があり、鼻を通過することで外気中の埃やウイルスなどがある程度除去されます。また、乾燥した外気が鼻を通過することで適度に加湿されるという作用もあります。

対して口呼吸はこれらのフィルターを通らないため、ウイルスや細菌を含む外気を直接体内に取り込むことになります。これが直接的には呼吸器系の症状や、あるいは間接的にさまざまな全身症状の原因となるのです。以下にその例をいくつか挙げてみます。

・感染症にかかりやすくなる

喉の周囲には扁桃などのリンパ組織が集まっています。口呼吸では、それらが乾燥した外気に直接さらされることとなり、喉が痛くなったり、ウイルスや細菌による炎症を起こしたりするリスクが高まります。そのため風邪やインフルエンザなどにかかりやすくなります。

・虫歯や歯周病、口臭の原因に

口を開けていると、口腔内が乾燥するので、唾液が減り、口腔環境にも影響が出ます。唾液には食べかすやプラークを洗い流したり、歯の再石灰化(表面修復)を行ったりと、虫歯や歯周病を防ぐ作用があります。唾液が減ると、こうした作用が十分に働かなくなるため、虫歯や歯周病にかかりやすくなりますし、口臭の原因となってしまいます。

・アレルギーとの関係も

先ほど、喉の奥にある扁桃が炎症を起こして感染症にかかりやすくなると説明しましたが、一方で扁桃は本来、ウイルスなどの異物が体に侵入するのを防ぐ免疫の役割を担っています。

しかし、口呼吸によって扁桃が外気に直接さらされ続けると、免疫異常を引き起こすことがあります。体に侵入した異物に対して免疫が過剰に反応してしまう状態がアレルギーです。喘息にはさまざまな要因がありますが、アレルギーもその一つとされており、口呼吸だと、鼻呼吸の人よりも約2倍、喘息になりやすいという報告があります。アレルギー性鼻炎の人は、口呼吸だと約4倍喘息になりやすくなることも示されています(※)。ほかにも、口呼吸はアレルギー性鼻炎やアトピー性の皮膚炎発症の一因であるという研究があります。

・過敏性腸症候群や潰瘍性大腸炎を引き起こす可能性も

口呼吸によって、扁桃が慢性的に異物にさらされ続けることが全身の免疫低下につながり、下痢や腹痛を起こすこともあります。過敏性腸症候群や、指定難病である潰瘍性大腸炎などの原因になる可能性も示唆されています。これらの疾患は、原因ははっきりしていませんが、免疫の過剰反応が関与しているとも考えられており、口呼吸を減らすことで症状が改善したケースもあるそうです。

(※)Izuhara et al. “Mouth breathing, another risk factor for asthma: the Nagahama Study” Allergy. 2016 Jul;71(7):1031-6.

医師の机にある鼻腔および口腔の解剖モデル
写真=iStock.com/peakSTOCK
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/peakSTOCK

口呼吸との関連が指摘されている症状は多岐にわたっており、ご紹介した症状はそのうちの一部です。特にアレルギーなどの免疫異常に関連する症状は、口呼吸が関係するとは思いもよらなかったのでないでしょうか。

口呼吸そのものは病気ではありませんが、口とは離れた臓器で起きる病気の原因となることは、ぜひ知っておいていただきたいと思います。こうした病気は「病巣疾患」などと呼ばれており、口呼吸と関連するさまざまな疾患は、この病巣疾患に該当するものが多いのです。

■子供の骨格にも影響

子供の口呼吸は、骨格に与える影響も大きくなります。顎の成長は12歳くらいまで続きますが、その大部分は6歳くらいまでに成長が完了してしまいます。顎の成長途中の幼少期に口呼吸になることで、次のような影響が生じます。

・歯並びが悪くなる
・開咬(上下前歯の間に隙間が空いてしまい、噛み合わない)
・前歯が突出してしまう
・下顎が後退してしまう
・面長な顔になる

口を閉じている時の理想的な舌の位置は、上顎にぴたっと密着している状態とされています。対して口呼吸で口が開いていると舌の位置が下がり、歯並びに影響を与えます。

■歯科医に相談し、舌の位置や呼吸の改善を

例えば、舌で歯を押している状態だと出っ歯になったり、上下前歯の間に舌があると歯と歯の間に隙間が生じてしまったりします。口を閉じている場合は上顎、下顎で舌を押さえる力がかかるはずなのですが、口が開いていると力がかからないので、顎の筋肉が発達せず顎が小さくなる可能性があります。また、舌が下がると、下顎に力がかかり続け、面長になるなど顔面の骨格にも影響が出てきます。

骨格・歯並びは見た目だけの問題ではありません。歯並びが悪いと、虫歯や歯周病のリスクが上がりますし、発音がしづらくなる可能性もあります。噛み合わせや骨格の悪さは全身の筋肉バランスにも影響するため、頭痛や腰痛をはじめとしたさまざまな不調の原因となることもあります。

顎が成長途中の子供は、口腔筋機能療法(MFT)で舌の位置や口呼吸を改善させることができます。MFTは口周りの筋肉をトレーニングする療法で、子供の場合は歯並びや骨格を正す効果も見込めます。子供の口呼吸が気になる場合には、歯科矯正を行っている歯科医院に相談することをおすすめします。

■舌の位置を意識する

口が開いてしまう原因が鼻詰まりや歯並びなどにある場合は、耳鼻科や歯科での治療が必要です。成長段階の子供とは異なり、大人の場合は、歯並びや骨格を自力で治すことはできませんので、歯科矯正が有効です。鼻詰まりや歯並び、骨格などが原因で鼻呼吸がしにくいなどの問題がない場合は、鼻呼吸を意識することが大切です。

とはいっても、無意識に口呼吸をしている人が急に鼻呼吸に切り替えるのは簡単なことではありません。鼻呼吸を習慣化するために、まずは舌の位置を意識することから始めてみてください。

口呼吸では、舌の位置が下がっているので、これを意識的に正しい位置におさめるようにし、舌を上顎に密着させましょう。舌先は上顎の前方(口蓋ヒダ)につけ、舌は上下の前歯には触れないようにします。これが正しい舌の位置で、「スポットポジション」とも呼ばれます。

慣れないうちは、数秒維持するだけでも舌や口周りの筋肉が疲れるかもしれません。気づいた時にスポットポジションにするところから始めて、徐々に慣れていくようにしましょう。

就寝中は、意識して口を閉じることができないので、医療用テープを貼って唇を閉じるようにするのもよいでしょう。就寝中の口呼吸は睡眠時無呼吸症候群につながる可能性があります。最近は口呼吸防止のグッズも手に入りやすくなっていますので、自分に合ったものを使ってみてください。

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池井 佑丞(いけい・ゆうすけ)
産業医
プロキックボクサー。リバランス代表。2008年、医師免許取得。内科、訪問診療に従事する傍らプロ格闘家として活動し、医師・プロキックボクサー・トレーナーの3つの立場から「健康」を見つめる。自己の目指すべきものは「病気を治す医療」ではなく、「病気にさせない医療」であると悟り、産業医の道へ進む。労働者の健康管理・企業の健康経営の経験を積み、大手企業の統括産業医のほか数社の産業医を歴任し、現在約1万名の健康を守る。2017年、「日本の不健康者をゼロにしたい」という思いの下、これまで蓄積したノウハウをサービス化し、「全ての企業に健康を提供する」ためリバランスを設立。

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(産業医 池井 佑丞)

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