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これで金利は上昇しやすくなった…ついに日銀が決断した「事実上の利上げ」でこれから起きること

プレジデントオンライン / 2022年12月22日 8時15分

金融政策決定会合後に記者会見する日銀の黒田東彦総裁=2022年12月20日午後、東京都中央区の同本店 - 写真=時事通信フォト

■±0.25%→±0.5%へ“事実上の利上げ”

12月19日、20日に開催された金融政策決定会合で、日本銀行は金融政策の一部を修正した。10年国債の流通利回り=長期金利を0.25%以下に抑える“イールドカーブ・コントロール(YCC)”を柔軟化した。具体的には、長期金利の変動幅は±0.25%程度から、±0.5%程度に拡大される。0%程度という長期金利の目標は維持される。日銀は+0.5%を上回る長期金利の上昇は抑制する。

異次元緩和は限界を迎えた。金融政策修正の背景にはいくつかの要因がある。特に大きいのは、物価上昇がさらに進む可能性への対応だ。2%の目標を超えて消費者物価の上昇が続く状況は来年も続くだろう。その状況下でドルなどに対する円安傾向が続けば、わが国の個人消費にはより大きなしわ寄せが及ぶ。それを避けるために金融政策は修正された。

また、日銀の国債買い入れなどによって市場機能低下の深刻さは増している。それも政策修正の要因のひとつだ。今後、日銀は慎重に異次元緩和のさらなる修正を進めると予想される。

■急激な物価上昇と円安に歯止めをかけるため

日銀が異次元緩和策を修正した一つの要因は、わが国の物価上昇と過度な円安の進行に歯止めをかけるためだ。世界的な異常気象やウクライナ危機などによって、天然ガスなどのエネルギー資源や穀物などの供給は世界全体で不安定化している。資源などを輸入に頼るわが国の輸入物価は上昇し、川上の企業物価が急騰した。それを追いかけるように消費者物価も上昇した。一方、政府の要請もあり、国内企業は賃上げを進める考えを徐々に強めている。

ただ、1990年以降のわが国では景気が長期にわたって停滞した。経済全体で新しい最終商品の創出に向けた取り組みは高まりづらかった。持続的に賃金が上昇する展開は期待しづらい。国内企業は増加したコストを販売価格に転嫁している。短期のうちに世界全体でインフレが鎮静化する可能性も低い。家計の生活の苦しさが追加的に増す恐れは高まってきた。

■利上げを行った米国、動かなかった日本

その状況下、日銀は企業の賃上げなどを支えるために異次元緩和を継続した。特に、2022年8月のジャクソンホール会合において、日米の金融政策の方向性の違いは一段と鮮明化した。連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長は、インフレ鎮静化のために金融を引き締めなければならないというスタンスを一段と明確に示した。

日銀の黒田総裁は、国内で持続的な賃金の上昇が実現するまではYCCなど異次元緩和を継続する必要があると慎重な立場をとった。それ以降、主要投資家は日米の金利差はさらに拡大するとの見方を強めた。

その結果、外国為替市場ではドル買い・円売り(円キャリートレード)が急速に増加した。9月の連邦公開市場委員会(FOMC)でFRBは0.75ポイントの追加利上げを年内にもう一回実施する方針を示した。一方、同月の決定会合で日銀は異次元緩和を続けるスタンスを維持した。ドル買い・円売りのオペレーションを行う投資家は一段と増加した。こうして10月21日、一時1ドル=151円90銭台まで円安が急速に進んだ。

その結果、資源などの価格上昇と円安の掛け算によって、わが国の輸入物価は上昇し、家計の生活負担は追加的に高まった。状況の悪化に歯止めをかけるために、12月の日銀決定会合にて異次元緩和策は修正された。

■国債市場の機能低下が深刻に

国債市場の流動性も低下している。国債市場の価格形成機能の回復を目指すことも、今回の金融政策修正の狙いの一つだ。1999年2月に日銀はゼロ金利政策を開始した。以降、一時的なゼロ金利の解除期間はあったが、わが国では超低金利の環境が続いた。2012年11月の衆議院解散を経て“アベノミクス”が本格始動した。2013年4月に日銀は“量的・質的金融緩和”を導入し、金融緩和は強化された。それは株価上昇や一時的な賃上げを支えた。

日銀は長期金利の上限を0.25%に維持するために国債買い入れを継続した。それによって国債の取引は減少した。過去に発行された10年国債に関しては、取引の成立が難しいケースも増えた。市場機能の低下だ。それは経済全体にマイナスの影響を与える。

■成長期待の高い分野に資源が行き届かない

例えば、物価が上昇する場合、金利は上昇する。それによって株式や不動産などの価格も変化し、経済全体でのヒト、モノ、カネの再配分が促される。それが自然な経済と金融市場の姿だ。しかし、日銀が流通市場から国債を買い入れ続けた結果、10年の新発国債の流通利回り=長期金利は日銀が上限とした0.25%に張り付いた。物価上昇を抑えるために中央銀行が利上げを実施し、株価や労働市場に変化が表れた米国とは実に対照的だ。

異次元緩和が長期化した結果、市場の厚みが失われたといってもよい。国債入札に参加する“プライマリーディーラー”の資格を返上する内外の大手機関も出始めた。時間の経過とともに国債の流動性は枯渇し、2022年9月末時点で44.9%の国債を日銀が保有するというかなりいびつな状況も出現した。YCCによって長短の金利差は縮小し金融機関の収益力も低下した。その状況に、日銀だけでなく、財務省からも懸念が表明されてきた。

東京駅丸の内北口の交差点を渡る人々
写真=iStock.com/ooyoo
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/ooyoo

その一つとして、2022年6月に財務省は“国の債務管理に関する研究会”を開催すると発表した。目的は、中長期的な視点から国の債務管理政策を検討することだ。低金利環境が長引けば、国債市場の機能はさらに低下する。成長期待の高い分野に生産要素がよりダイナミックに配分されることも難しくなるだろう。そうした懸念の高まりも政策修正につながった。

■今後、日銀はどうするのか

今後、日銀は慎重かつ時間をかけながら、異次元緩和のさらなる修正に取り組むだろう。日銀の本音としては、総裁が代わる2023年4月以降、経済状況を注視しつつ、徐々に金融政策の正常化を図りたいはずだ。

いくつかの要因がある中、最も重要なのは追加的な物価上昇の可能性だ。2022年11月の企業物価指数は前年同月比9.3%上昇した。川上のインフレ圧力は強い。一方、10月、川下の消費者物価の上昇率は総合指数で同3.7%、生鮮食品を除く総合指数で同3.6%だった。米国などに比べて消費者物価の上昇ペースは弱い。その分だけ国内企業は自助努力としてコストを吸収しなければならない状況が続いている。

世界経済の後退懸念は高まっている。収益を守るため、国内企業の価格転嫁は増え、来年の春ごろまで消費者物価は追加的に上昇しそうだ。そうした展開が予想される中、過度な円安圧力に歯止めをかけることの重要性は増す。具体的な取り組みとしては、長期金利の変動幅上限のさらなる引き上げ、オーバーシュート型コミットメントの修正、マイナス金利からの脱却などが考えられる。そうした取り組みに関する検証や見解を、日銀はより多く公表していくだろう。

■金融市場はしばらく波乱が続くか

そうした展開が予想される中、実体経済面では、ウィズコロナの経済運営によって海外からの来訪客が増えている。設備投資の先行指標である機械受注に関しては足踏み感も出ているが、急減する展開は想定しづらい。個人消費が徐々に持ち直すにつれて景気は相応にしっかりした展開が続くだろう。

一方、金融市場にはより大きな影響が出そうだ。長期金利を中心に金利は上昇しやすくなるだろう。それによって国内の株価やドル/円の為替レートの調整圧力も高まりやすい。

特に、海外投資家の多くは異次元緩和が続く展開を予想し、相対的に日本株を強気に見てきた。そうした見方が修正されるにつれて、株価の下押し圧力が強まる恐れは増す。いずれにせよ、わが国の経済が異次元緩和に依存して回復を目指すことは難しくなっている。時間をかけつつ慎重に、日銀は金融政策の正常化を目指すと予想される。

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真壁 昭夫(まかべ・あきお)
多摩大学特別招聘教授
1953年神奈川県生まれ。一橋大学商学部卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。ロンドン大学経営学部大学院卒業後、メリル・リンチ社ニューヨーク本社出向。みずほ総研主席研究員、信州大学経済学部教授、法政大学院教授などを経て、2022年から現職。

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(多摩大学特別招聘教授 真壁 昭夫)

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