なぜ「Jリーグといえば明治安田生命」となったのか…スポンサー企業とプロスポーツの「理想的な関係」とは
プレジデントオンライン / 2022年12月23日 9時15分
■「ちょっと心が折れそうになっていました」
<世界初の「年間1000試合のネット配信」を実現…JリーグがDAZNと「2100億円の巨額契約」を結んだワケ>からつづく
――前回はサッカーの楽しみ方とJリーグの収益構造を大きく変えたDAZNとの契約秘話についてお聞きしました。もう一つJリーグの収益を押し上げたのが、J1、J2、J3すべてのタイトルパートナーになっている明治安田生命保険の存在です。
【村井】私にとって2014年は、まだチェアマンとしてしっかりした方向性が見つけられず、激動が続いて、ちょっと心が折れそうになっていました。そこで8月12日から14日まで初めての休みを取って妻と旅行に出かけるんですが、「サッカーの話題が出てこないところに行こう」と考えました。
――「サッカーが追いかけてこないところ」ですか?
【村井】今思うと、ちょっとメンタルが弱っていたのかもしれません。
■そこには「明治安田生命根室営業所」の看板が
【村井】前回、ミャンマーに着いた時、現地でディーン・サドラー氏が待ち伏せしていたことに感激したとお話ししましたが、自分には味方がいないような気持ちになっていました。北海道でも札幌にはコンサドーレがあるからサッカーが思い浮かんでしまいます。それで根室まで行きました。「ここなら追いかけてこないだろう」と。
![【連載】「Jの金言」はこちら](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/d/a/1200wm/img_da1cd476c47c2df664614e8843db3f3e199505.jpg)
旅館について、妻はマッサージに行き、私は床屋に行きました。その帰路、「明治安田生命根室営業所」という看板を見つけたのです。「Jリーグは地域密着と言っているけれど、Jリーグもない根室にもこの会社は根を張っている。本当に地域密着で頑張っているんだなあ」と、とても感心しました。
明治安田生命は私のチェアマン就任と同じ2014年からJ3のタイトルパートナーになってくれていました。「日本を代表するような大きな会社がなぜJ1、J2ではなくJ3なんだろう」とも思っていました。
休暇を終えてから、当時社長だった根岸秋男さんとお会いする機会を得てから私のチェアマンとしての視座が定まっていくように感じています。
■J1、J2でもなくなぜ「J3」を選んだのか
――どんな方でしたか。
【村井】こちらが緊張して名刺を出すと「秋に生まれたんで秋男。適当な親なんですよ」と和ませてくれる、気さくな方でした。
埼玉県坂戸市のお生まれで、県立川越高校出身。私は川越市出身でまさに隣町です。根岸さんは早稲田大学の理工学部で私は法学部。これだけ共通項があると、こちらとしては勝手に親近感を持ってしまうわけです。
根岸さんは保険の商品設計を担当するアクチュアリー(保険数理人)として明治生命に入社したにもかかわらず、自ら志願して営業の最前線に飛び込み、会社の合併(明治生命と安田生命)を経験された上で、私がチェアマンになる1年前の2013年に明治安田生命の社長になられました。
――J3は2014年度に12チームで発足しています。その時、タイトルパートナーになったのが明治安田生命でしたね。「明治安田生命J3リーグ」という具合に。
【村井】そうです。同じ年に明治安田生命さんはJ1、J2のトップパートナーになってくれたのですが、タイトルパートナーはJ3だけでした。なぜJ3なのですか、とお聞きしたところ、根岸さんからは
「明治安田生命は地域で生かされている会社ですから、J3を立ち上げるというお話を聞いた時、ぜひとも応援したいと思ったのです」というお答えをいただきました。
■「私にとっては経営の師匠のような存在」
【村井】根岸さんは根っからのスポーツ好きで、発足から20年以上がたち、設立当時ほど熱気がなくなりつつあったJリーグを「なんとかしたい」という思いがあったようです。
しかしJ1、J2には発足時から応援してくれているパートナー企業がいたので、J3という新しいカテゴリーができるタイミングでタイトルサポーター(特別協賛企業)になる決断をされた、というお話でした。
――根岸さんは生命保険協会の会長も務められた生保業界を代表する経営者ですが、2005年の保険金不払い問題で会社がピンチになった時、企画部長として改革の最前線に立った方としても知られています。業界では「武闘派」とも言われています。
【村井】まさに一本筋の通った経営者で、「正々堂々の経営」「自由と責任は一対」というようなことを常々おっしゃっています。私がJリーグで掲げた「天日干し経営」も、少なからず根岸さんから影響を受けたところがあります。私にとっては経営の師匠のような存在です。
■「経営は○か×で、△はない」に惚れ込んだ
【村井】根岸さんの経営哲学で、私が一番感銘を受けたのは「経営は○か×で、△はない」という考え方です。組織の中で○か×で意見がぶつかることはよくあります。時には妥協も必要でしょう。でも○か×かを互いが主張して妥協点を見いだすのと、最初から△というのは意味が違う。正論のない人が△を選ぶのだ、というのが根岸さんの信念です。○でも×でもいいから自由にのびのびやれ。
その上で、やったことの責任は持つというのが根岸さんの社員への視線なのでしょう。そんな根岸さんに私は惚れ込んでしまいました。
![チェアマンを4期8年務めた村井満さん](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/4/f/1200wm/img_4fd0a9b55e6ba90a4136d807616d810e437043.jpg)
――2015年からは明治安田生命がJ1、J2、J3すべてのタイトルパートナーになっています。それがもう8年も続いていて、われわれ、サッカーファンも「Jリーグといえば明治安田生命」と認識しています。
■理念を共有する会社とは50年一緒にやっていける
【村井】J3のタイトルパートナーとしてのシーズンも終盤を迎える秋口に、明治安田生命のオフィスにお招きいただく機会がありました。東京・丸の内にある明治安田生命本社の社員食堂が会場でした。そこには全国の支社長ら幹部の人たちが100人近く集まってくださっていて、壁にはJ1、J2、J3の全チームのユニフォームが張ってあるのです。その場で私は大きな拍手で迎えられ、「村井さん、頑張ろう」と励ましてくれたのです。
それはもううれしくて、思わず涙が浮かんでしまいました。
多分、この頃、明治安田生命さんはJ1、J2のタイトルパートナーになることを検討されていたのかもしれません。明治安田生命さんとJリーグは「地域を元気にしたい」という共通の理念を持っています。理念を共有する人の集合が会社であり、そういう会社とは10年、50年と一緒にやっていけるものです。100万人の味方を得た気持ちでした。
■「それぞれのやり方で応援」が自主性につながっている
――根岸さんはJリーグのタイトルパートナーになったことで「知名度が上がっただけでなく、会社の一体感が高まり、従業員に自主性が出てきた」と言っていますね。
【村井】明治安田生命さんはJリーグのタイトルパートナーになってくれただけでなく、J1、J2、J3の全チームと個別にスポンサー契約を結んでくれています。
全国にある支社が自分の街にあるクラブを1対1の関係で応援してくれていて、サッカー好きなお客さまのところにランキング・ボードを持ち込んで一緒に盛り上がってくれる従業員さんもいると聞きます。それぞれの支社、一人ひとりの従業員さんが、それぞれのやり方でJリーグを応援してくれているので、それが自主性につながっているのかもしれません。
2015年から2021年12月末までの期間に、Jリーグの試合に足を運んでくださった明治安田生命の従業員の皆さま、その家族、そして多くの関係者の皆さまが誘ってくださったお客さまの累計は153万人に達しました。まさに地域密着の力です。
![2021年7月9日の色紙](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/f/3/1200wm/img_f3ff04a53e5bea36e4f3306f70a7b3f5503473.jpg)
■村井チェアマンが思わず涙した贈りものとは
――コロナ禍でも明治安田生命はJリーグを支えましたね。
【村井】はい。コロナの影響で4カ月間、試合が開催できなかった2020年。Jリーグとしてはスポンサー企業の皆さんに何のメリットももたらせず、非常に心苦しい状況でした。
しかし「国民の心身の健全な発達への寄与」を理念に掲げているJリーグが、観客を危険に晒(さら)すわけにはいきません。試合ができなければチケット収入も入ってこないので、各クラブの経営も苦しくなりました。そんな時、明治安田生命さんは想像さえできないような協賛金の上積みをしてくれたのです。「Jリーグ、頑張れ!」という、とてつもなく心強いメッセージです。
ありがたくて涙が出ましたし、「ああ自分はなんて運がいいんだろう」と心の底から思いました。
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ジャーナリスト
1965年生まれ。愛知県出身。88年早稲田大学法学部卒業、日本経済新聞社入社。98年欧州総局、編集委員、日経ビジネス編集委員などを経て2016年独立。著書に『東芝 原子力敗戦』ほか。
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(ジャーナリスト 大西 康之)
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